2024年5月3日~5月8日にかけて『
第4回匿式図形問題エスパー杯
(T-GUESS Cup 4: Tock's Geometry "Using Extra-Sensory Solutions" Cup The 4th)』を開催しました。ご参加くださった皆様、ありがとうございました。
本記事では、当該コンテストで出題した問題A・問題B・問題C・問題D・問題Eの紹介および解説を行います。最終問題である問題Fは話せば長くなるので別記事に……。
問題紹介
(問題A、writer: 天真 様)
において、辺の中点をとし、辺上にとなる点をとると、が成立していた。このとき、線分の長さを求めなさい。

の外側に2つの正方形を描き、線分の中点をそれぞれとしたところ、となった。このとき、四角形の面積を求めなさい。

(問題C)
3点はこの順に同一直線上にあり、をみたしている。2点でこれらの直線に接する円を、2点でこれらの直線に接する円をとし、との共通内接線(のひとつ)はとそれぞれで接しているとする。半直線との交点のうち、点から遠いほうをと名づけ、線分上にとなる点をとる。
線分の中点がをみたし、かつであるとき、線分の長さを求めなさい。

(問題D)
扇形の弧上に点をとり、扇形を描くと、はそれぞれを通っており、扇形の中心角はであった。線分との交点をそれぞれとすると、はただ1点に定まり、図形の面積はそれぞれであった。
の外接円が線分の交点を通るとき、図形の面積はいくらか。

(問題E)
円上に4点が存在し、は1辺の長さがの正三角形である。をに関して対称移動させた点について、2点を焦点にもつレムニスケートはとでない2点で交わっており、である。
このとき、を中心とし2点を通るレムニスケートと、を中心とし2点を通るレムニスケートの面積比はいくらか。

解答発表
問題A
問題B
問題C
問題D
問題E
軽い解説
問題A

線分の中点をとすると、円周角の定理の逆からはの外心になっています。つまりですから、直線は線分の垂直二等分線ということになりますね。よりが得られ、したがってです。ここにを代入すればが確定します。
問題B

点、点に関してを対称移動させた点をそれぞれとしましょう。対角線が各々の中点で交わるため、四角形はともに平行四辺形です。
とにおいて、であり、
も確かめられます。ゆえにとは合同です。同様にしてが判り、結局四角形は正方形と示せます。
中点連結定理からなので、求める面積はです。なお、
フィンスラー・ハドヴィッガーの定理
を知っていれば10秒もかからずに解答できます。
問題C

に関する相似拡大を考えれば、におけるの接線はと平行であるといえます。つまり線分はの直径となり、です。また、線分の中点をとすれば、が簡単に分かります。これは直線がの外角の二等分線になることを示しているので、
という関係が成り立ちます。整理すれば、についての2次方程式が出てきて、ここからが判明するのです()。すなわちと求められます。この辺りから少し難易度が上がりましたね。
問題D

まずは丁寧に円周角を追っていきましょう。と追跡できるので、が判ります。いま、線分の長さはどちらも線分の長さと等しいので、四角形は平行四辺形です。すなわち、この平行四辺形の中心(線分と線分の交点ですね)について、図形と図形が合同になります。
求める面積(図形の面積)をとおくと、上記の合同より、扇形の面積はです。この扇形の中心角がであることは明らかなので、を解いてを得ます。平行に気づけるかどうかがカギでした。
さて、コンテスト主催者の身ながら申し上げますが、ここまでは良かったのですよ。ここまでは。
参加者の大半を寄せつけなかった問題E・問題F。問題Eの時点で、主催者の想定難易度はT-GUESS Cup 2の
ラスボス
と同等でした。まさに非人道的といえますね(
出典
)。
取り敢えず大問題児の問題Fは放置し、問題Eだけでも解きましょう。
問題E
レムニスケート。よく知られた4次曲線です。はじめは手も足も出ないと思われるので、メタ的視点で攻めます。主催者かつ本問のwriterである
匿(Tock)
が、過去に何かレムニスケートへの言及をしていないか、色々と探してみましょう。

圧倒的ですね。言及しまくっています。中でも、レムニスケートに関する
最新のMathlog記事
を開けば、以下のオリジナル定理が掲載されています。
である平行四辺形の中心をとし、2点が焦点となるレムニスケートを、2点が焦点となるレムニスケートをと定める。
いま、上にでない点をとると、を通りでに接する円が、とでない2点で交わった。このとき、を中心とし2点を通るレムニスケートについて、の面積はである。

この定理が問題Eに効くことは自明でしょう。要するに本問は、コンテストという大義名分を得たただのオリジナル定理の宣伝ですね(おい)。私の定理にはこんな使い方があるよ、という。悪問では?
気を取り直し、問題を考えます。定理1を使いたいので、以下のように補助レムニスケートを描いてみます(しばらく使わないのでは省略します)。

「は?????」
画面の向こうからそんな声が聞こえてきた気がするものの、無視して続けます。は、中心がであり、点でに接するレムニスケートです。このの焦点をとおくと、定理1よりの面積はと判ります。よって、ここからはレムニスケートの焦点たちがどのように位置するかだけを考えればよいです。
ここで、の座標が、の座標がとなるような複素数平面(以下、-平面と呼びます)を考えます。このとき、簡単な議論からの中心の座標はと分かるので、とおきましょう(ただし)。いま、レムニスケートの方程式を求めたいです。そのため、以下の補題を示しておきます。
でない任意の整数と複素数を用意する。グラフが点を通るとき、のにおける接線の傾きはによらない。
と極形式表示すると、のグラフを表す式はと書ける。これがを通るので、を代入してが必要である。
の式の両辺を2乗し、整理していく。
すなわち、とおくと、を表す極方程式はとなる。
であるから、となり、のグラフにおける付近のの変化率はによらない一定値であると判明する。のときであるから、これは示すべきことと同値である。
補題を示せたところで、以下の事実を確認しておきます(証明は各自で調べてください)。
・数式が-平面上に描くグラフは、点を中心とし、原点を通る円である。
・数式が-平面上に描くグラフは、2点を焦点とするレムニスケートである。
・焦点間の距離がであるレムニスケートの面積はで与えられる。
この事実から、を表す方程式はです。補題2の結果より、方程式で表されるグラフは、の値によらずと点で接しています。のときにこの式はレムニスケートを表すので、を中心とし点でと接するレムニスケート、すなわちの方程式はと導かれます。ゆえにの座標はのいずれかであり、一旦の座標がであると見なして問題ありません。
加えて、の座標をとおけば、です。この-平面上におけるの座標を求められれば、定理1から直ちにの面積を求められるのです。
このまま突っ走ってもよいですが、敢えてさらなる工夫をしましょう。今度は辺がと点で接するような正三角形を描いてみます。ただし、点の名前は反時計回りにつけました。

解ります。解りますよ。所謂「天下り」でしかなく、心の内で憤怒を滾らせる読者が現れるのも当然です。本当にすみません。落ち着いてください。
円周角や接弦定理を用いるとが判り、ここからの座標はです。したがって、線分の長さはであるといえます。定理1で得た結果と併せると、の面積はである、ということになります。ここに至り、やっとを思い出します。すると、に関して紡いできた議論が同様に使えて、の面積はです。結局、求める面積比はと書き換えられます。
さて、とおきます。トレミーの定理からが判るので、に余弦定理を用いると、
を確かめられます。相似比よりですから、となります。ゆえに、以下の図において、を求めればよいですね(点は青い円の中心)。この値がそのまま答えになります。

この図で、点はある放物線に乗っています。それは、焦点が、準線がの放物線です( 放物線は焦点からと準線からの距離が等しい点の軌跡)。よって、線分の中点をとし、直線が軸、直線が軸となるような-直交座標平面を考えると良さそうです(ただし点が第1象限に含まれるように定めます)。
この座標平面において、件の放物線の式は対称性からと表せます。また、この放物線は明らかに2点を通るので、
と求められるわけです。いま、計算するまでもなくの座標はですから、放物線の式に代入することで座標がと判ります。したがって、
を導出できて、これが問題Eの答えです。どうしてこれがラスボスでないのでしょうか。
おまけ・定理1の新証明
の実部を、虚部をと表記します。以下の補題を考えてみましょう。
あまりにも唐突な内容でしたが、そういうものと思ってください。あとで補題3の有用性が判ります。
レムニスケートおよびを考え、が点を通るようにを定めます。また、原点を通りと点で接する円をとすると、とは原点でない2点で交わるものとします。中心がであり先述の2交点を通るレムニスケートを描き、の面積を求めたいです。もしもこの場合に定理1の関係が成立していれば、すなわちの面積がであれば、適切な相似拡大および回転移動により、すべての場合で定理1の成立を示せますね(各自で確かめましょう)。
まず、補題2よりの方程式をと求められます。これは問題Eを解くときにも利用した考察ですね。それから、仮定よりはを通るので、となります(行間がやや広いかも……)。いま、との交点のひとつをとすれば、の式に代入して、の式に代入しても明らかです。
実部の等しい3つの数が得られたので、早速補題3を使いましょう。補題3でとして、
と計算します。……ここでIQを30ほど上げると、「もしかして、の方程式ってなのかな?」という恐ろしすぎるエスパーを発揮できるのです(注:本記事では無根拠の仮定や勘を「エスパー」と呼称します)。できるか。
このエスパーを確かめます。のグラフ(これをとします)はレムニスケートになり、その中心はです。また、先程の結果を利用した
という式変形から、はに乗っています。さらに、原点でもでもないとの交点も、と同様にに乗るといえます。すなわちは「中心がでありとの原点以外の2交点を通るレムニスケート」と判明し、とが一致するのです。
そうなると、の焦点間距離はですね()。途中にアルティメットエスパーを挟みましたが、これでの面積がと示され、定理1の証明が完了しました。エスパー万歳。
次回予告
さあ、既に初級者どころか一部の幾何上級者までお断りしてしまいそうなT-GUESS Cup 4。難易度調整の失敗は誰の目にも明らかであり、一体誰に向けたコンテストなのか疑念が絶えませんね。
しかしながら、こんなものでは終わりません。まだ1問残っているのです。それこそが問題F(
こちら
から)。主催者の幾何力のすべてを詰め込んだ……だけでなく、少々ブーストをかけてただただただただただただ難しく仕上げた問題です。内心・外心・傍心がフルで登場しており、手をつける前から既に結構威圧されます。初手としてどう動くのが正解なのでしょうか。
上記の5問をすべて足したバイト数よりもさらに長い解説+α、どうかご期待くださいませ。
ご感想・ご指摘・巧妙な解法・マスタリング時の音圧の上げ方などがございましたら、是非ともコメントに残していってください。ここまでお読みいただき、ありがとうございました。