可読性を上げるために、途中計算がかなりの割合で省かれています。まずは「へぇ、そうなるのか」程度の気持ちで読み進めてください。一通り議論の流れを浚ってから、順番に検算していくことを強く推奨します(推奨グレードA、レベルⅤ)。
レムニスケート版『余弦定理』の提案 - Suggestion of "law of cosines" in lemniscate geometry -
の投稿から早3ヶ月、当時の記事を読み返して気づいたことがあります。
すなわち、
「なにこれ読みづらっ……」
ということです。
重要な補題の証明を別記事に載せたり、不要な反転を定義して煩雑化させたり、誰にも伝わらないパロディを込めたり、まだまだエトセトラ。最早読ませる気がないといってよいでしょう。アレを解読できた人はむしろ何らかの団体から表彰されて然るべきです。
と、いうことで。今回はレムニスケート版『余弦定理』01の証明を清書します。天下り的な発想を可能な限り避けて、ストレートに示していきます。
残念ながら新発見は出てきません。ついでに過去のレムニスケート研究のまとめも載せますので、どうかご容赦ください。一応研究はしているのです……ただ元が4次曲線なので適当に座標計算しようとすると14万文字の方程式を解かなければいけなくなり見事に心を折られまして……。
いま、▲白い点はレムニスケートの焦点です
平行四辺形の内角も接点の位置も関係なく、
さて、本定理を証明するべく、まずはいくつか補題を用意しましょう。
で与えられる。
※
補題1から、以下の式で定義される曲線
と表せる。さらに、
「原点を通り
なる円
すなわち
いま
補題の後半を示そう。任意の
補題2で定義した
で定める。
このとき、
補題2・補題3で定義した
で定めると、
※ 直線
直線
線分
と表せる。いま、これを
はい、ここまで補題補題補題補題と続いたため、多くの読者は疲労困憊に陥っているはずです。一休みして雑談でもしましょう。
さて、私がレムニスケートに注目した経緯を。2018年頃まで、私は幾何が大の苦手でした。折角補助線を引けても使い道が分からず、「図形問題は観賞用」という歪んだ認知のもとで育ってきました。
しかしながら、丁度その頃、『図形問題を解けるようにならなければいけない状況』が発生しました。他の大問を選択すると計算ミスで壊滅するからです。いきなり何の話だ、と思われた方は聞き流してください。
かくして、日夜図形と格闘し、不足していた演習量を取り戻すことに。元々「観賞用」と語るだけあって、幾何自体は非常に好みでした。件の『状況』が解消した後も幾何に嵌り続けて、気がつけば2020年の秋を迎えていたものです。その間、算数オリンピックの過去問から幾何を抽出して一般化を試みたり、無謀にもIMO(国際数学オリンピック)の3番級幾何に特攻して砕け散ったり、聞き齧っただけの『外心3つ法』を実践してみたり、と色々精進してまいりました。
わざわざ2020年の秋を強調した辺りで、賢明な皆様は「ああ、何か転機が有ったのかな」と察したことでしょう。概ね正解で、2020年の秋は私が2次曲線を研究しはじめた時期になります。三角形の傍心がある楕円の準線に乗ることを知って、初等幾何と2次曲線の融合を図りました。先行研究04も読み耽り、この頃から2問/月のペースで2次曲線に基づいた幾何作問を続けている次第です。
そして、2022年の初夏。Wikipediaで様々な記事を読んでいるうちに、ふと気になる一節がありました05。
The lemniscate is the circle inversion of a hyperbola and vice versa.
和訳すると「レムニスケートは双曲線を円で反転した曲線であり、逆もまた然り」です。厳密にいえば直角な双曲線の反転でしかレムニスケートは得られないのですが、それはそれとして、私はこう考えました。
「今までの研究、使えるのでは……?」
そう。双曲線は2次曲線なのです。2年近く続けてきた研究の中で、私は双曲線に関する知見を多く得ていました。それらをそのまま反転すれば、レムニスケートの世界に踏み込めるのです。さながら異世界に転生して無双する主人公のような気持ちで、知る限りの構図をひたすら反転していきました。その多くはただ煩雑になるだけでしたが、時折「なんだこれは」と呟きたくなる性質もあり、この方針の正しさを裏づけてくれました。
今回のテーマであるレムニスケート版『余弦定理』は、そういった試行錯誤のもとに生まれたものです。双曲線に関する構図(過去の記事で楕円バージョンを扱っています)のひとつが、偶然にもレムニスケートに効き、原石と呼ぶべき性質を発見できました。その「原石」を1年余りかけて切って磋いて琢いて磨いて、定理を仕上げました。したがって、本定理に対する私の愛着は凄まじいです。もしも既出の性質であったならば、先駆者へ最大限の賛辞と尊敬を送るとともにひっそりと枕を濡らすことでしょう。
以上、別に数学専攻でもない一般人のお気持ちエッセイでした。閑話休題して、そろそろ定理の証明に戻りますね。
「補題の準備」のセクションで用意した
その他、補題2で定義した
いま、補題2から
ここで補題4を用いると、
したがって、3辺が等しいので
ところで、直前のセクションを思い出してください。
レムニスケートの焦点や面積に関する情報を得るため、Wikipediaを参照します05。
The equations can be stated in terms of the focal distanceor the half-width of a lemniscate. These parameters are related as .
Its Cartesian equation is (up to translation and rotation):
The area enclosed by the lemniscate is.
長いので和訳を割愛しますが、要は
さて、
お疲れ様でした。長い証明が済んで、疲労困憊という語が過去のものとなるくらいにお疲れのことと拝察します。
ですが、本記事のタイトルには『過去の研究のまとめ』という文字列がありましたね。要するにまだ続くのです。なんという無遠慮。
せめてもの慈悲として、ここからは頭を使わなくてもよいように、証明を省き過去に発見した事実のみを羅列していきます(既出であったものは記しません)。
焦点を共有するレムニスケート
このとき、
いま、
このとき、
最後に述べたのが、今回証明したレムニスケート版『余弦定理』ですね。
こうして列挙してみると、我ながら、かなりハイペースで研究が進んでいるように感じます。半ダース/日のペースで定理を見つけたインド出身の某数学者には劣るものの、特に3つ目などは非自明さの極致に近いと自負しています。
楕円積分さえまともに修めていない身で、どうしてこうも多くの性質と巡り会えたのか。それは偏に、レムニスケートという領域が莫大な宝を秘めた鉱脈であったためでしょう。まあ、つまりは……全国の研究者さん、成果を先取りするならば今ですよ。
レムニスケートさんへ。次回の記事までに新発見を生みたいので、何卒ご了承くださいますよう。何も出なければカージオイドに靡いてしまいますよ。丁度レムニスケートとカージオイドが両方登場する構図に辿り着きそうですし。空気を読んでください。