実4次元座標から複素数のペアの比(同次座標)を構成し、立体射影を経由してホップファイブレーションを導出します。
シリーズ: ホップファイブレーション
3次元球面$S^3$から2次元球面$S^2$への非自明な写像であるホップファイブレーションは、Hopfの1931年の原論文において、同次座標(比として表した座標)と立体射影を用いて初めて構成されました。原論文の初等的な構成法を追うことで、複素2次元ベクトルがどのように2次元球面の点へ結びつくのか、その幾何学的な道筋が直接見通せます。hopf1931
本記事では、3次元球面$S^3 \subset \mathbb R^4$の点$(x_1, x_2, x_3, x_4)$を出発点とします。全体の流れは$S^3\subset\mathbb C^2\to\mathbb{CP}^1\cong\mathbb C\cup\{\infty\}\to S^2$で、最初の矢印は同次座標への射影、最後の矢印は逆立体射影です。まず実4次元の座標を複素数のペア$(x_1+ix_2, x_3+ix_4)$とみなし、同次座標を定義して、それを表す比$z \in \mathbb C$を求めます。次に、複素平面$\mathbb C$を実3次元空間の$xy$平面に埋め込み、北極からの逆立体射影によって2次元球面$S^2 \subset \mathbb R^3$上の点$(ξ_1, ξ_2, ξ_3)$を具体的に計算します。さらに、複素数のペア$(α, β)$を用いた代数的表現に整理し、各点の逆像が全体位相の円周であることを確かめた上で、四元数による定式化と比べて、符号の関係を確かめます。
高校数学レベルの複素数と初等幾何(直線の媒介変数表示と球面の交点計算)を前提とします。本記事では同次座標を用いたファイブレーションの初等的な座標計算に集中し、ファイバー(大円$S^1$)の幾何学的性質や結び目理論への発展は扱いません。
単位球面$S^3\subset\mathbb R^4$上の点を取り、実4次元空間を複素2次元空間と同一視します。
$$ \mathbb{R}^4\ni(x_1, x_2, x_3, x_4)\mapsto(α,β)=(x_1+ix_2,x_3+ix_4)\in\mathbb{C}^2 $$
$S^3$上の点なので、$|α|^2+|β|^2=x_1^2+x_2^2+x_3^2+x_4^2=1$です。
これを同次座標(比として表した座標)に射影します。同次座標は、2つの成分の比だけを残し、共通の倍率を忘れた座標です。7shi-mobius
$(α,β)\in\mathbb C^2\setminus\{(0,0)\}$について、0でない複素数$λ$による共通の倍$(α,β)\sim(λα,λβ)$を同一視したものを$[α:β]$と書く。これら全体を複素射影直線と呼び、$\mathbb{CP}^1$と書く。
$β\ne0$なら$[α:β]=[α/β:1]$なので、比$z=α/β$を座標として使えます。$β=0$なら$α\ne0$であり、$[α:0]=[1:0]$は$z=\infty$に対応します。このように$z$は同次座標そのものではなく、同次座標を表す座標で、$\mathbb{CP}^1$は$\mathbb C\cup\{\infty\}$と同一視されます。
$S^3$上の点は$(0,0)$にならないので、同次座標への射影が定義できます。
$$ (x_1+ix_2,x_3+ix_4)\mapsto[x_1+ix_2:x_3+ix_4] $$
$x_3+ix_4\ne0$の場合、比$z$は次のように表せます。
$$ z=\frac{x_1+ix_2}{x_3+ix_4} $$
$z$の分母を実数化して、実部と虚部に分離します。
$$ \begin{aligned} z &= \frac{(x_1 + i x_2)(x_3 - i x_4)}{(x_3 + i x_4)(x_3 - i x_4)} \\ &= \frac{(x_1 x_3 + x_2 x_4) + i (x_2 x_3 - x_1 x_4)}{x_3^2 + x_4^2} \\ &= \frac{x_1 x_3 + x_2 x_4}{x_3^2 + x_4^2} + i\cdot\frac{x_2 x_3 - x_1 x_4}{x_3^2 + x_4^2} \\ \end{aligned} $$
実部と虚部をそれぞれ$u,v \in \mathbb{R}$とおきます。
$$
u = \frac{x_1 x_3 + x_2 x_4}{x_3^2 + x_4^2}, \quad v = \frac{x_2 x_3 - x_1 x_4}{x_3^2 + x_4^2}
$$
$$
z = u + i v
$$
$z$を実3次元空間の$xy$平面に埋め込みます。
$$ \mathbb{C} \ni z=u+iv \hookrightarrow (u,v,0) \in \mathbb{R}^3 $$
$(u,v,0)$を2次元球面$S^2$上に写すため、$S^2$の北極$(0,0,1)$と$(u,v,0)$を結ぶ直線を媒介変数$t$で表します。複素数の$z$と区別するため、空間の座標を$(X,Y,Z)$と書きます。
$$
(X,Y,Z)=(ut,vt,1-t)
\qquad\left\{
\begin{aligned}
&(0,0,1)&(t&=0) \\
&(u,v,0)&(t&=1) \\
\end{aligned}
\right.
$$
これを単位球面$X^2 + Y^2 + Z^2 = 1$の式に代入して交点を求めます。
$$
\begin{aligned}
(u t)^2 + (v t)^2 + (1 - t)^2 &= 1 \\
(u^2 + v^2 + 1) t^2 - 2 t &= 0 \\
t\{(u^2 + v^2 + 1)t-2\} &= 0
\end{aligned}
$$
$$
t = 0,\ \frac{2}{u^2 + v^2 + 1}
$$
$t=\dfrac{2}{u^2 + v^2 + 1}$のときの座標を$(ξ_1, ξ_2, ξ_3)\in\mathbb{R}^3$とします。平面の点をこのように球面へ写す操作は、北極からの立体射影の逆写像なので、逆立体射影と呼びます。
$$ (ξ_1, ξ_2, ξ_3) =\left( \frac{2 u}{u^2 + v^2 + 1}, \frac{2 v}{u^2 + v^2 + 1}, 1 - \frac{2}{u^2 + v^2 + 1} \right) $$
分母に現れる$u^2+v^2+1$を計算します。$z$の複素共役を$z^*$とします。
$$ \begin{aligned} u^2+v^2+1 &=(u+iv)(u-iv)+1 \\ &=zz^*+1 \\ &=\left(\frac{x_1+ix_2}{x_3+ix_4}\right)\left(\frac{x_1-ix_2}{x_3-ix_4}\right)+1 \\ &=\frac{x_1^2 + x_2^2}{x_3^2 + x_4^2}+1 \\ &=\frac{x_1^2 + x_2^2 + x_3^2 + x_4^2}{x_3^2 + x_4^2} \\ &=\frac{1}{x_3^2 + x_4^2} \end{aligned} $$
$ξ_1, ξ_2, ξ_3$を$x_1, x_2, x_3, x_4$で表現します。
$$ \begin{aligned} ξ_1 &= \frac{2 u}{u^2 + v^2 + 1} = 2 \left( \frac{x_1 x_3 + x_2 x_4}{x_3^2 + x_4^2} \right) (x_3^2 + x_4^2) = 2 (x_1 x_3 + x_2 x_4) \\ ξ_2 &= \frac{2 v}{u^2 + v^2 + 1} = 2 \left( \frac{x_2 x_3 - x_1 x_4}{x_3^2 + x_4^2} \right) (x_3^2 + x_4^2) = 2 (x_2 x_3 - x_1 x_4) \\ ξ_3 &= 1 - \frac{2}{u^2 + v^2 + 1} = 1 - 2(x_3^2 + x_4^2) = x_1^2 + x_2^2 - x_3^2 - x_4^2 \end{aligned} $$
この結果はHopfの原論文§5.(1)と一致します。hopf1931
$x_3+ix_4=0$の場合も、同次座標は$[1:0]$として定義され、比では$z=\infty$に当たります。上で得た実座標の式は分母を含まないのでこの場合にもそのまま使え、値は北極$(0,0,1)$になります。逆立体射影は、無限遠点$z=\infty$を北極に写すことで連続に拡張されます。
最初に置いた複素数のペア$α=x_1+ix_2,\ β=x_3+ix_4$を使って計算します。
$$
z=\frac{α}{β}=\frac{αβ^*}{ββ^*},\quad
u=\mathrm{Re}(z),\quad
v=\mathrm{Im}(z)
$$
$$
\begin{pmatrix}ξ_1 \\ ξ_2 \\ ξ_3\end{pmatrix}
=\begin{pmatrix}
2 \mathrm{Re}(α β^*) \\
2 \mathrm{Im}(α β^*) \\
α α^* - β β^*
\end{pmatrix}
=\begin{pmatrix}\begin{aligned}
α β^* &+ β α^* \\
-i(α β^* &- β α^*) \\
α α^* &- β β^*
\end{aligned}\end{pmatrix}
$$
像の最初の2つの実座標を1つの複素数にまとめると、実部と虚部に分離せずに次のように表せます。
$$ \begin{pmatrix}α \\ β\end{pmatrix} \mapsto \begin{pmatrix}ξ_1 + iξ_2 \\ ξ_3\end{pmatrix} =\begin{pmatrix} 2 α β^* \\ |α|^2 - |β|^2 \end{pmatrix} $$
$αβ^*$の形は、分母を実数化した$z=\dfrac{αβ^*}{ββ^*}$の分子に現れています。
この写像は同次座標$[α:β]$を経由するため、全体に共通の倍率を掛けても像は変わりません。$S^3$上では、その倍率は絶対値1の複素数、すなわち全体位相に限られます。
$S^3$上の2点$(α,β),\ (α',β')$が同じ点に写るのは、ある実数$θ$によって$(α',β')=e^{iθ}(α,β)$となるときであり、そのときに限る。したがって、$S^2$の各点の逆像は円周$\{e^{iθ}(α,β)\mid θ\in\mathbb R\}$である。
写像は同次座標$[α:β]\in\mathbb{CP}^1\cong\mathbb C\cup\{\infty\}$を経由し、無限遠点を含めた逆立体射影$\mathbb C\cup\{\infty\}\to S^2$は1対1である。よって2点が同じ点に写ることは$[α':β']=[α:β]$、すなわち0でない複素数$λ$によって$(α',β')=λ(α,β)$となることと同値である。2点はともに$S^3$上にあるので、$1=|α'|^2+|β'|^2=|λ|^2(|α|^2+|β|^2)=|λ|^2$より$|λ|=1$であり、$λ=e^{iθ}$と書ける。逆に$λ=e^{iθ}$なら同次座標は変わらないので、2点は同じ点に写る。
四元数やパウリ行列による表式では、実3次元座標の第2成分$ξ_2$の符号が逆になり、複素成分は$2αβ^*$の共役である$2α^*β$になります。7shi-h
これは、$α\ne0$のとき比を逆向きの$w=β/α$に取り、南極$(0,0,-1)$からの逆立体射影で球面に写したものに当たります。
$$ w=\frac{β}{α}=\frac{α^*β}{α^*α} $$
南極と$(\mathrm{Re}(w),\mathrm{Im}(w),0)$を結ぶ直線と単位球面の交点を上と同様に求め、$1+|w|^2=1/|α|^2$を用いると、次のようになります。
$$ \frac{1}{1+|w|^2} \begin{pmatrix}2w \\ 1-|w|^2\end{pmatrix} =\begin{pmatrix} 2 α^* β \\ |α|^2 - |β|^2 \end{pmatrix} $$
$α=0$の場合は$w=\infty$に当たり、南極に写ります。右辺の式はこの場合にも定義されています。
$z=α/β$を北極からの逆立体射影で写した場合とは、$ξ_2$の符号だけが異なります。同じ点を南極からの立体射影で表した座標は$1/z^*$であり、$w=1/z$とは一致しません。つまりこれは、同じ点の座標を取り替えるのではなく、球面への対応を$ξ_2$の符号反転だけ変えるものです。
本記事では、3次元球面$S^3$上の点から複素数の比(同次座標)を取り出し、逆立体射影を組み合わせることで、Hopfの原論文の手法に基づきホップファイブレーションを計算しました。各点の逆像は、全体位相$e^{iθ}$による円周になります。
実4次元座標による写像と、複素数のペアによる写像は次のようにまとめられます。
$$ \mathbb{R}^4 \supset S^3 \ni \begin{pmatrix}x_1 \\ x_2 \\ x_3 \\ x_4\end{pmatrix} \mapsto \begin{pmatrix}ξ_1 \\ ξ_2 \\ ξ_3\end{pmatrix} =\begin{pmatrix} 2 (x_1 x_3 + x_2 x_4) \\ 2 (x_2 x_3 - x_1 x_4) \\ x_1^2 + x_2^2 - x_3^2 - x_4^2 \end{pmatrix} \in S^2 \subset \mathbb{R}^3 $$
$α = x_1+ix_2,\ β = x_3+ix_4$($|α|^2+|β|^2=1$)とすると、次のようになる。
$$
\begin{pmatrix}α \\ β\end{pmatrix}
\mapsto
\begin{pmatrix}ξ_1 + iξ_2 \\ ξ_3\end{pmatrix}
=\begin{pmatrix}
2 α β^* \\
|α|^2 - |β|^2
\end{pmatrix}
$$