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Grapharyに収録されているグラフを解説する(ID31~41)

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前回の記事 の続きです。今回はID31~41を解説します。

最後の2つの解説が極めて難しいので、記事の分量が多くなっています。

元サイト(Graphary): https://teth-main.github.io/Graphary/

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一覧

ID31: 2x2に並んだ半径1の円

式: (|x|1)2+(|y|1)2=1
難易度: ★★☆☆☆

式の中のxyに絶対値記号がついているので、第1象限だけ考えてx軸とy軸で反転させればよいことがわかります。
x>0,y>0を仮定して絶対値記号を外すと(x1)2+(y1)2=12となり、これはx軸とy軸に接する円になります。
これがx軸とy軸でそれぞれ反転することで、4つの隣接した円ができます。

ID32: 角丸四角形

式: max(|x|a+r,0)2+max(|y|b+r,0)2=r2
難易度: ★★★☆☆

a,b,rは定数です。a,brの大小関係によって形が異なりますが、Grapharyにある画像ではa>r,b>rなのでこの解説でもそれを仮定します。それ以外の場合の考察は読者への演習問題とします。
X=max(|x|a+r,0),Y=max(|y|b+r,0)とおくと、この式はX2+Y2=r2となります。

ここで、さらにar=a,br=bとおくと、X=max(|x|a,0),Y=max(|y|b,0)となります。

X=max(|x|a,0)={|x|a(xa)0(axa)xa(ax)

Y=max(|y|b,0)={|y|b(yb)0(byb)yb(by)

なので、このグラフはx2+y2=r2x=0y=0に相当する箇所をまっすぐ引き伸ばしたものになります。
また、a,bは外側の長方形のそれぞれの一辺の半分、rは角にある円弧(引き伸ばす前の円)の半径になります。

(参考)!FORMULA[28][983697303][0]のグラフ (参考)y=max(|x|2,0)のグラフ

ID33: 欠番

ID33は欠番です。

ID34: ジグザグな線

式: |mod(x,2)1|
難易度: ★☆☆☆☆

mod(x,2)0から2までを繰り返すので、mod(x,2)11から1までを繰り返します。これの絶対値を取ると、1から0に下がって再び1に上がる動きを繰り返すグラフができます。

!FORMULA[39][-1621244315][0] y=mod(x,2)

!FORMULA[40][1057742537][0] y=mod(x,2)1

!FORMULA[41][1337090690][0] y=|mod(x,2)1|

ID35: 1辺が1の正方形2

式: max(|x|,|y|)=1
難易度: ☆☆☆☆☆

明らかに1x1,1y1であり、xyの少なくとも一方が±1でなければならないので正方形ができます。

ID36: x<0で正負を繰り返す領域

式: x!<0
難易度: ★★☆☆☆

xが自然数でないときのx!はガンマ関数を用いてx!=Γ(x+1)と定義されています。しかし、ここではガンマ関数の厳密な定義は不要で、以下のように考えることができます。

  • 0<xのとき、x!>0である。
  • 1<x<0のとき、x!=(x+1)!x+1>0である。x=1のときは分母が0になるので定義されない。
  • 2<x<1のとき、x!=(x+1)!x+1<0である。x=2のときは定義されない。
  • 3<x<2のとき、x!=(x+1)!x+1>0である。x=3のときは定義されない。
  • 4<x<3のとき、x!=(x+1)!x+1<0である。x=4のときは定義されない。

このように考えると、「xが整数でない負の実数で、かつ[x]が負の偶数であるときにx!<0になる」ことがわかります。xが負の整数であるときはx!は計算の途中で分母に0が出てくるため定義されませんが、Grapharyの画像では確かに境界線が描かれていません。これはID14と同じ現象ですね。

ID37: 描画されない領域

式: x<
難易度: ☆☆☆☆☆

という記号が出てきましたが、要するに「xが実数の範囲に存在する」ということです。x0ではxが実数の範囲に存在するので色が塗られ、x<0では存在しないので色が塗られません。

直線x=0は領域に含まれるので実線で描かれるべきですが、なぜかDesmosでは境界線が表示されていません。

ID38: 陽関数の円

式: |y|=sin(arccos(x))
難易度: ★☆☆☆☆

1a1であるような実数aに対し、arccosax座標がaであるような単位円上の点のx軸の正の方向とのなす角を表します(詳しくはID11の図をご覧ください)。a1,1の場合はそのような点は2個ありますが、どちらでも角度は同じです。角度の単位にはラジアンを使用し、0<arccosa<πとなるように角度を取ります。

これにsinをつけるともちろん単位円上の点のy座標(のうち負でない方)が得られますね。あとはy<0の部分も表すために、yに絶対値記号を付ければ完成です。

ID39: 3D三葉結び目

式: (cost+2cos2t,sint2sin2t,sin3t)
難易度: ★★★★★

ID23の発展版です。z=sin3tなのでやはり3回対称です。zt0から2πまで行く間に3回上下します。
複素数を使った簡単な計算によりtπ3の整数倍のときは(x,y)の偏角が2tとなり、かつxy平面と交わることがわかるので、このことを使うとどこでどう線が上下するかわかりやすくなります。

ID40: 痛風のもとみたいな東京駅の前にあるトゲトゲオブジェクト

式: ρ=2|sin(5θ)sin(5ϕ)||cos(5θ)cos(5ϕ)|
難易度: ★★★★★★★★★★

画像を見た瞬間なんだこれはと思いましたが、がんばって解説します。

まず、この式で使われているρ,θ,ϕ球座標の表記です。詳しくは Desmos公式 をご覧ください。

観察

係数が大きすぎるのでいったん5nに置き換えて考えます。つまり、

ρ=2|sin(nθ)sin(nϕ)||cos(nθ)cos(nϕ)|

について考えます。5だと大きすぎるので、いったんn=1のグラフを見てみましょう。

!FORMULA[114][-893869212][0]のとき n=1のとき

x軸に沿ってトゲが2本ありますが、z軸上になんだか怪しげな形がありますね。拡大してみましょう。

!FORMULA[118][-893869212][0]のとき(!FORMULA[119][34318338][0]軸付近の拡大図) n=1のとき(z軸付近の拡大図)

まるでz=xyのグラフのような、いかにもill-definedになっていそうな形が見えますね。

実は、この式は本当にill-definedです。というのも、z軸上ではϕ0またはπθは任意ですが、このときρ=2|cos(5θ)|となりρが一意に定まらないからです。
Desmosでは、とりうる全てのθに対するρの値(すなわち1ρ2)がz軸上でのρの値として描画されるので、この場合は1z2の範囲でグラフが垂直(z軸と重なる)になっています。z<0の場合も同様で、下側にも同じ形があります。

数式による考察

それでは、数式を使って考察していきましょう。ρの最大値と最小値を求めます。そのために、少し式変形を行います。

ρ=2|sin(nθ)sin(nϕ)||cos(nθ)cos(nϕ)|=2|sin(nθ)||sin(nϕ)||cos(nθ)||cos(nϕ)|=2(|cos(nθ)||cos(nϕ)|+|sin(nθ)||sin(nϕ)|)

ここで、a=(|cos(nθ)|,|sin(nθ)|),b=(|cos(nϕ)|,|sin(nϕ)|)とおくと、

ρ=2ab

と極めて簡潔に表せます。

a=OA,b=OBとなるように点A,Bをとると、これらは単位円の第1象限上(x,y軸上も含む)の点なので、ρ

  • a=bのときab=1で最小値1
  • abすなわちa=(1,0),b=(0,1)またはa=(0,1),b=(1,0)のときab=0で最小値2

を取ります。

図示

α=nθ,β=nϕとおき、αβ平面でこの様子を図示してみましょう。0απ2,0βπ2の範囲では全ての絶対値が外れ、かつcossinは単調なのでa=bα=βと同値になります。
(β=0z軸上のill-definedな点に対応しますが、そのことは一旦考えないことにします)

!FORMULA[162][-605621411][0]が最大値と最小値を取る場所(横軸は!FORMULA[163][28360322][0]、縦軸は!FORMULA[164][-2055020204][0]) ρが最大値と最小値を取る場所(横軸はα、縦軸はβ)

赤の線上の全ての点でρは最小値を取り、青の点でρは最大値を取ります。

αβの範囲を広げるためには、sincosの対称性から、この図を鏡写しにして並べていけばよいことがわかります。

!FORMULA[171][28360322][0]と!FORMULA[172][-2055020204][0]の範囲を広げた αβの範囲を広げた

青の点はρの最大値、すなわちトゲに対応します。たとえばn=2のときであれば、0α<4π,0<β<2πとなり、この範囲に12本のトゲがあることがわかります。β=0,πすなわちz軸上のトゲも足せば、全部で14本のトゲになります。

!FORMULA[180][-893868251][0]のとき、!FORMULA[181][-962016740][0]本のトゲがある n=2のとき、1+4+4+4+1=14本のトゲがある

また、n=3以降では格子状の模様が見えてきます。これはρが最小値を取るときに対応しています。ちょうどαβ平面で赤い線が格子状に並んでいたのに対応します。

!FORMULA[185][-893867290][0]のとき n=3のとき

nを大きくするとトゲの先端に花弁のような構造が目立ちますが、これはあくまで描写上の不具合であり数学上は存在しません。

n=5のときの考察

n=5のときは、z軸上の上下に1本ずつ、それ以外は同じϕごとに10個のトゲがあり、互い違いに9段並んでいるので、合計92本のトゲがあることがわかります。

!FORMULA[195][-893865368][0]のときを真上から見た様子。Wolfram|Alphaのロゴの進化版にも見える n=5のときを真上から見た様子。Wolfram|Alphaのロゴの進化版にも見える

ID41: のこぎり波

式: f(x)=n=1501nsin(nx)
難易度: ★★★★★★★

これはフーリエ級数です。の上端は本当はであるべきですが、Desmosの制約により適当な大きい値が入っています。

厳密な証明は他の記事に譲るとして、ここではお気持ちだけ述べることにします。

g(x)π2x2(0<x<2π)を周期的に実数全体に拡張したものとします。x2πの倍数であるときはg(x)=0とします。こうすることで、g(x)奇関数になります。

ここで、g(x)n=1ansin(nx)という級数の形で表せるとします。この級数は収束し、かつ積分と交換可能であるとします。それが信じられない人は十分に大きいNに対してg(x)n=1Nansin(nx)となるような近似を考えていると思ってください。

この係数anを求めるためにいくつかの補題を用意します。

積和の公式

sinαsinβ=12(cos(α+β)cos(αβ))

指数法則を使う

sinαsinβ=eiαeiα2ieiβeiβ2i=eiαeiβeiαeiβeiαeiβ+eiαeiβ4=12(eiαeiβ+eiαeiβ2eiαeiβ+eiαeiβ2)=12(cos(α+β)cos(αβ))

m,n1以上の整数のとき
02πsinmxsinnxdx={0(mn)π(m=n)

02πsinmxsinnxdx=02π12(cos(m+n)xcos(mn)x)dx=1202πcos(m+n)xdx+1202πcos(mn)xdx=12[1m+nsin(m+n)x]02π+1202πcos(mn)xdx=0+1202πcos(mn)xdx=1202πcos(mn)xdx
mnのとき
1202πcos(mn)xdx=12[1mnsin(mn)x]02π=12(00)=0
m=nのとき
1202πcos(mn)xdx=1202π1dx=12[x]02π=π

kに対するakを計算するために、g(x)=n=1ansin(nx)の両辺にsin(kx)を掛けて0から2πまで積分します。このとき、

02π(左辺)sin(kx)dx=02π(π2x2)sin(kx)dx=02ππ2sin(kx)dx02πx2sin(kx)dx=02πx2sin(kx)dx=1k02πx2(cos(kx))dx=1k([x2cos(kx)]02π02π12cos(kx)dx)=1k(2π202)=πk

02π(右辺)sin(kx)dx=02πn=1ansin(nx)sin(kx)dx=n=1an(02πsin(nx)sin(kx)dx)=nkan(02πsin(nx)sin(kx)dx)+ak(02πsin(kx)sin(kx)dx)=0+akπ=akπ
(ただし、3行目の1nのうちnkであるもの全体で和を取るものとする)

なので、これらを比較してakπ=πkすなわちak=1kを得ることができます。

なお、ここでの議論には収束性級数と積分の交換が仮定されているので、厳密な議論ではないということにご注意ください。

投稿日:25日前
更新日:25日前
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