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Borel総和法について

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はじめに

どうもこんにちは、🐟🍊みかん🍊🐟です。今回は らららさんの記事 を読んで思ったことを起点に書いていこうと思います。先の記事で発散級数を使って積分

0xsinhxdx=π24

を求めていました。概略としては留数定理を用いることによって

η(1)=n=0n(1)n1=14

を正規化することに帰着させていました。記事の内容の大まかな部分は正しいと考えていますが、やはり発散級数を使っているという点で「怪しい」ものになってしまっています。実際、Abelは「発散級数は悪魔が発明したものだ。そのようなものを少しでも証明中に用いるのは恥だ。」と述べていました。しかし、そののちに出てくるように「それは[発散級数を用いても]結果は大抵正しい。それが実に不思議なのだ。僕はその理由が知りたいのだ」とも言っています。実際、以前に書いた ζ(1)を正規化する 記事においても、厳密性はある程度捨てて複数の手法を用いましたが、結果的にすべて同じ結果となりました。

つまり、発散級数においてもある程度のバックグラウンドが存在し、我々がその断面を異なる側面から見ている、と解釈するのがある程度正当な見方と言えるかもしれません。事実、Eulerの時代においては「各関数はそれぞれ天賦の法則に支配されるものと信じられた」ものでしたが、解析関数の理論によって(複素)微分可能な関数についてはかなり強い制約がかかることによって「一定の法則によって支配される」ことになります。このことは実関数の断面においては思いもよらないことになるわけです。

そこでここでは、数多くある正規化のうちでも、当時無名の数学者、Émile Borelによって「当時知られていた多くの古典的な発散級数に対して"正しい"答えを与える」方法、即ちBorel総和法について書いていきたいと思います。

本記事では、原則として収束するとは限らない級数の「和」に関しては「正規化」という語を用いることにします。このような立場においては「Borel Summuration」は「Borel正規化」と邦訳するべきなのでしょうが、このような数学的な用語については基本的に「総和法」としました。

また、本稿における一部主張について証明の確認ができていないものがあります。

この点についてはあらかじめご了承ください。

Borel総和法の定義と正当性

まずBorel変換を次のように定義します。但し、以下

A(z)=n=0anzn

とします。

Borel Transform

形式的冪級数A(z)C[[z]]に対して、そのBorel変換BA

B{A}(t)=n=0ann!tn

で定義する。

さらにこのBorel変換に対して、次のような積分を考えます。

Borel's integral Summuration

A(z)のBorel総和BA(t)が実軸上解析的で、積分

a(z)=0etBA(tz)dt

が複素数zCで収束するものとする。このとき、a(z)A(z)のBorel総和といい、

n=0anzn=a(z)

と表す。

まずこの定義の正当性を示すために、元の和A(z)が収束する限りにおいてa(z)と一致することを見ます。まずA(z)が収束するので元の級数の収束半径はR>|z|となります。従って、WeierstrassのM判定法によってBA(z)は一様連続性が出てくることから積分と級数の順序の交換をすることができて、

A(z)=n=0anzn=n=0ann!zn0ettndt=0etn=0ann!(tz)n=0etBA(tz)dt=a(z)

とできるので、実際にA(z)が収束する限りにおいてa(z)と一致することが分かりました。残る問題点としてはこのように漸近展開された級数から関数が一意的に定まるかどうか、というものがありますが、今は冪級数御形でしか考察していないので形式的冪級数環において一致の定理が成立することを考えると大した問題ではなさそうです。一応きちんと考えます。実は、次の主張が成立することが知られています。

Carleman's theorem

f:CCが領域D={z:|z|<R,Rez>0}で連続かつ内部で解析であるとし、さらにすべての非負整数nに対して

|f(z)|<|bnz|n

が成立するものとする。このとき、

n=01bn

が発散するとき、f=0となる。

これの証明を探そうとしたのですが、どうやら この本 に載っているようで、内容の確認ができていません。ほかに情報源があれば教えてください。どうしようもないのでとりあえず成立は仮定します。ここで、十分大きいNとある定数cに対して不等式

|f(z)n=0Nanzn|<|cnz|n

が成立してほしくなります。実際は、次の定理によってBorel総和可能ならば、上記の不等式より強い不等式が成立することが知られているようです。

Watson's theorem

fDの内部で単葉であり、fDにおいて漸近級数

f(z)n=0anzn

を持つとき、ある正定数Cに対して

|f(z)n=0Nanzn|<CN+1(n+1)!|z|n+1

が成立する。

この定理に関してもCarlemanの定理と同様で、 この本 に載っているらしいです。Watsonの定理をを考えると、Borel総和可能ならば明らかにCarlemanの定理の主張を満たすことが分かります。なぜなら、Watsonの定理によって漸近級数が(少なくとも一つ)与えられ、そのうちの一つと上で挙げた不等式を考えることによって

|f(z)n=0Nanzn|0(N)

となることからfAと一致することになります。これによって、Borel総和がある種「正当な」正規化方法である、と考えることができます。

少し蛇足ですが、Borel和はxzxと置換することにより

a(z)=1z0exzBA(x)dx=1zL{BA}(1z)

と、Laplace変換を使って書けます。

具体例

一般論ばかり話していても面白くないので、いくつか具体例を挙げて使ってみましょう。

幾何級数

まずは幾何級数

A1(z)=n=0zn

を考えます。これのBorel変換が

BA1(z)=n=0znn!=ez

となるので、幾何級数のBorel正規化は

a1(z)=0exBA1(xz)dx=0e(1z)xdx=11z

となります。これはA1Cへの解析接続を与えていますね。

母関数にn!を掛けたもの

この変形を使うと

A2(z)=n=0n!an2zn

としてA2=BA2(z)が既知とすればA2を求めるのはLaplace変換の計算に帰着されますね。つまり

A2(z)=1zL{A2(t)}(1z)

となります。

an2=1

このときはA2=11zが分かるので、簡単な計算により

A(z)=n=0n!zn=1ze1zΓ(0,1z)

を得ます。ちなみに右辺はz=1を中心に展開すると

e1Γ(0,1)+(1z)+O((1z)2)

となるので無理やり正規化すると、(極を通らないように積分経路を変更して)

n=0n!=Ei(1)iπ+2niπe,nZ

となります。このような表示になっているのは原点に対数分岐点があるからですね。もしCauchyの「教程」のような立場を貫くのであれば積分は主値として解釈するものになり上の実部が和として解釈されるものの、複素関数として見れなくなるのであまりうれしくない気もします。

η(1)

らららさんの記事でやっていたものですね。要するに

Li1(x)=n=1nxn,η(1)=Li1(1)

となるので、右側をどうにかすることが目標になります。Borel変換すると

BLi1(x)=n=1nn!xn=xex

となるので、

Li1(z)=z0xexezxdx=z(1z)2

となりました。Dirichletηfunctionはポリログの特殊値として出てくるので、z1とすることで結果的に

η(1)=14

を得ることができました。ζ(1)をこれと同じようにやろうとすると発散してしまうのでちょっとうれしくなかったり...(解析接続すればいいとか言わないで)

おわりに

今回は正規化について少し話しました。Borel総和法は色々遊びやすそうな正規化で、Taylor展開が分かっていればかなり多くの「和」を計算することができるなかなか便利なものでした。しかし、例えば以前話したような
ζ(1)=γ
のような正規化は(少なくとも僕が試した範囲では)直接計算することができないなど、正規化の強さだけを考えると多少難点があります。上で述べたものも正規化を正当化することができ、例えばRamanujan総和法などを使えばうまく「計算」できます。他の正規化についてももしかしたら暇があったらまた記事を書くかもしれません。

投稿日:20231229
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