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大学数学基礎解説
文献あり

非線形シグマ模型におけるWess-Zumino-Witten項 (1/2)

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【Notationなど】

  • 以下の略称を用います。
    • NLσ模型: 非線形シグマ模型(NonLinear sigma model)
    • WZW項: Wess-Zumino-Witten項
    • EoM: 運動方程式(Equation of Motion)
  • 前回の記事 ではSU(2)のSkyrme模型を扱いましたが、本記事ではSU(3)のNLσ模型・Skyrme模型を扱います。

非線形シグマ模型におけるアノマリーの実現

Skyrme模型の基礎 において、UをSkyrme模型の場とすると、そのtopological degreeに対応する
B:=d3xB0=i24π2d3x ϵ0ναβtr(LνLαLβ),   Lμ:=UμU
がバリオン荷(=バリオンの粒子数)であると述べました。しかしその根拠はなんでしょうか。Skyrmeは1961年のその論文の中で既にBを核子の粒子数に同定しています(Ref.[1])。しかしこれがトポロジカルに保存するからといってバリオン荷であるというのは、根拠としては弱いように思えます。Bがバリオン荷である最も直接的な証明は、Bがバリオンの粒子数に関するU(1)V変換のネーターチャージであることを示すことです。本記事と次の記事でこれを示します。

そのために、本記事ではメソンの低エネルギー有効理論である非線形シグマ模型(NLσ模型)においてアノマリーを実現する項 −Wess-Zumino-Witten項−(WZW項) を導出します。次の記事でWZW項をゲージ化することで、バリオンカレントを導きます。

Skyrme模型はNLσ模型にSkyrme項を加えたものであり、以下の議論は全てSkyrme模型でも成立します。また前回はSU(2)の模型を考えましたが、本記事と次の記事ではSU(3)の場合を考えます。

本記事はRef.[2]に基づいています(というかこの論文の日本語訳に近いです。文責はもちろん本記事筆者にあります)。またこの論文はSkyrme模型のreview論文であり、以下の議論は主にE.Wittenの論文Ref.[3]に基づいています。

QCDの離散対称性を実現する

NLσ模型とは以下のLagrangianで記述される理論です:
L=fπ24tr(μUμU),  U=exp(iλaπa(x,t)fπ)
ここでπaはパイオンやKメソンなどの擬スカラー中間子、λaはSU(3)の生成子(またはSU(2))、fπはパイオン崩壊定数と呼ばれる量です。一般にはこれに高次の相互作用項が入ります。Skyrme模型はNLσ模型に4次の微分を含む相互作用項として
tr([μU,νU]2)
を加えたものです。この項によりSkyrme模型には安定なソリトン解が存在します。NLσ模型は強い相互作用の基礎理論であるQCDの低エネルギー有効理論であり、特にSkyrme模型は核子を中間子のソリトンとして記述する興味深い模型です( Skyrme模型の基礎 参照)。

NLσ模型にはQCDに存在しない離散対称性が存在します。それは

  1. U(x,t)U(x,t)
  2. U(x,t)U(x,t)

の2つの対称性です。一方QCDは、1.と2.のコンビネーションである対称性:π^opU(x,t)π^op1=U(x,t)に対して不変(π^op: パリティ変換のオペレータ)ですが、1.2.それぞれの対称性は持ちません。2.の対称性は以下のようなK、π、η中間子の反応過程

K+Kπ+π0π, ηπ0π+ππ0

で破れます。逆に言えば、現実に存在するこれらの過程は上記対称性を破らないとNLσ模型に取り入れられません。このような過程はQCDでは量子アノマリーにより起こります。よって、上記離散対称性を破りこれらの過程を取り入れることは、NLσ模型にアノマリーの効果を取り入れることに相当します。

Wittenはこの効果を取り入れるため、NLσ模型において
(a) Lorentz対称性を保つ
(b) U(3)LU(3)Rを保つ
(c) 1.2.それぞれは破れているが、両者を同時に施す対称性は保持する

を満たすようなEoMを構築することを考えました。そのようなEoMを実現するには、

(1)λϵμναβLμLνLρLσ

をEoMに導入すればよいです。実際この項を取り入れたEoM
12fπ2μLμ+λϵμναβLμLνLαLβ=0
において(第1項はNLσ模型の最低次の項)xxを施すと
12fπ2μLμλϵμναβLμLνLαLβ=0
となります。更にπaπaを施せば
12fπ2μLμ+λϵμναβLμLνLαLβ=0
のように元に戻ります。ということで、このEoMは確かにWittenの提唱どおりの性質を持ちます。

問題はこの項を導く作用が簡単には作れないことです。上記の項を導くには、Lagrangianに
ϵμναβtr(LμLνLαLβ)
を加えればよいように思えます。しかしϵμναβの完全反対称性とtrの巡回不変性よりこの項はゼロになってしまいます。

EoMにλϵμναβLμLνLαLβをもたらす作用を求めるのに参考になるのが、単磁荷を持つU(1)Diracモノポールが存在する下で、そのモノポールを中心とする球面上を動く電子の運動を考えることです。この電荷の運動は以下の運動方程式

mr¨i+mr˙2ri=egϵijkr˙jrk

によって記述されます。m,eはそれぞれ電子の質量、電荷、gはモノポールの磁荷です。riはモノポールの座標です(iは方向のインデックス)。この式はttririそれぞれの変換に対しては不変ではありませんが、その組み合わせに関して不変性を持ちます。かつ単純に思いつく右辺の項を導く作用ϵijkr˙irjrkは消えてしまいます。ということで状況は同じです。

この解決法はよく知られています。詳しいことは省きますが、作用に
(2)egγAdr=eD2+dΣB
を加えればよいです。ここでAはDirac string(半無限の特異点のひも)をもつモノポールに対応するU(1)ゲージ場、Bはモノポールが作る磁場です。γは球面S2上の方向を持つ閉経路です。D2+γを境界とするS2の領域であり、ここではγの向き付けの左手側の領域とします。D2はその反対側の領域とします。Dirac stringはD±2のうちどちらかを貫きます。Eq.(2)の右辺の積分は、Dirac stringにより貫かれていない方の領域で行います。しかしDirac stringの位置はゲージ変換で変わるため物理的ではなく、どちらの領域での積分も同じ結果を与えなければなりません。このことから、経路積分の位相部分は
exp[ieD2+dΣB]=exp[ieD2dΣB]
を満たす必要があります。これはDirac quantizationの条件eg=n/2(n:整数)を導きます。

この例より、Eq.(2)の作用のNLσ模型における対応物を構成すれば、望むEoMを実現できます。

Wess-Zumino-Witten項

以下NLσ模型を4次元Euclid空間において考えます。時間方向をS1にコンパクト化し、さらに空間もS3であるとします。例えばSkrme模型において解に無限遠でゼロとなる境界条件をつければ空間をS3とみなせます。

このようなセットアップのもとで、モノポールの場合のS2上の閉経路 S1は、NLσ模型ではS3×S2上のS3×S1に対応します。S3×S2においてS2を分解し
(3)D5+=S3×S1×[0,1],  D5=S3×S1×[1,0]
を定義して、S3×S1D5の境界とみなします。

一方map Uに対応するSU(3)の多様体はS5×S3に同型です(Bott's theorem)。

モノポールの作用は、D2±上でU(1)不変です(γ上の線積分はゲージ場で書かれているのでU(1) variant、D2上の磁場はU(1) invariant)。これとのアナロジーで考えれば、NLσ模型の場合、作用はD5±上でSU(3)L×SU(3)R不変です。D5上のUU(x;s)のように表し、SU(3)へのmapであるとします。このときhomotopyは
(S3×S2,S5×S3)(S5,S5)π5(S5)=Z
となり、トポロジカルな不変量が存在します。

De-Rhamの定理によれば、トポロジカルに不変なclosed 5-form ω50S5上に存在します:
S5ω50=S5d5xQ50=2π
Q50π5(S5)=Zに対応するChern-Pontryagin densityであり
Q50=i240π2ϵ0μαβγδtr(LμLαLβLγLδ)
です。ω50は、1-form α=Lμdxμを定義すると
ω50=i240π2tr(α5)
と書けます。dα+α2=0を用いると、ω50はclosedであることがわかります:
dω50=i48π2tr(dα5)=i48π2tr(α6)=0
よってPoincare lemmaからω50はlocally exactになります。

モノポールの場合に習うと、上記したWittenの条件(a)-(c)を満たす作用は
ΓWZ=+λD5+ω50=λD5ω50
となります。D5±はEq.(94)で定義された領域です。
ΓWZは以下の性質を満たします:

  • SU(3)LSU(3)R不変
  • トポロジカルな不変量(ω50はclosed)
  • D5の境界D5=S3×S1にのみ依存 (ω50はlocally exact)

以上から、QCDの離散対称性を持つNLσ模型は
S±=fπ24d4xtr[LμLμ]±(i)λ240π2D5±d5xϵμναβγtr(LμLνLαLβLγ)
となります。そしてS3上のEoMは
fπ22μLμ+(iλ)48π2ϵναβγLνLαLβLγ=0
となり、望むEoMが得られます。WittenはΓWZがこのEoMを与える唯一の項であることを示しています。

モノポールの場合と同様、λには量子化条件がつきます:

exp(iλD5+ω50)=exp(iλD5ω50)λ(D5+ω50+D5ω50)=2nπ   (n:integer)
ここで2行目の左辺は
λ(D5+ω50+D5ω50)=λD5+D5ω50=λS3×S2ω50=2πλ
より、λは整数であることがわかります。

UはSU(3)の元であり、「QCDの離散対称性を実現する」の章で書いたようにU=exp(iϕ),ϕ:=λaπa/fπです。低エネルギーの場合を考えπfπに対して小さいとすると、ϕの成分は1より十分小さくなり
tr[LμLνLαLβLγ]tr[(iμϕ)(iνϕ)(iαϕ)(iβϕ)(1iϕ)(iγϕ)]itr[μϕνϕαϕβϕγϕ]
となります。これを用いてΓWZを書きなおすと、λを整数nとして
ΓWZ=±(iλ)240π2D5±d5xϵμναβγtr[LμLνLαLβLγ]±n240π2D5±d5xϵμναβγtr[μϕνϕαϕβϕγϕ]=n240π2D5=S3×S1dΣμϵμναβγtr[ϕνϕαϕβϕγϕ]
を得ます。この式は5次元の座標による表式ですが、境界は通常の時空なので、4次元の座標で書けば
=n240π2d4xϵμναβtr[ϕμϕνϕαϕβϕ]
となります。この項は5つの擬スカラー中間子を含むアノマリーによる反応過程、例えばK+Kπ+π0πを含みます。NLσ模型における低エネルギー極限でのアノマリーの効果はすべてこの項に含まれます。NLσ模型は対称性と低エネルギー性のみで特徴づけられる一般的な模型なので、この結果も大変一般的な結論です。

改めてWZW項は以下のようになります:

Wess-Zumino-Witten項

ΓWZ=(in)240π2D5+d5xϵμναβγtr(LμLνLαLβLγ)=(in)240π2D5d5xϵμναβγtr(LμLνLαLβLγ)
nは整数、D5±はEq.(3)で定義された領域。Lμ:=UμUUS3×S1上で定義されたSU(3)の値をとる場。

まとめ

非線形シグマ模型(NLσ模型)には存在するがQCDには存在しない離散対称性を破るために、Wess-Zumino-Witten項(WZW項)を導入しました。この対称性を破る作用は単純に考えると消えてしまいます。そこで磁気モノポールが単位球の中心に存在する際の球面上を動く電子を参考にして、そのような項 −WZW項− を構成しました。NLσ模型に存在する余分な離散対称性を破る効果は、QCDでは量子アノマリーによってもたらされます。よってWZW項はNLσ模型に量子アノマリーを導入する効果を持ちます。実際低エネルギー極限におけるアノマリーによる擬スカラー中間子の結合項を完全に書き下すことができます。

ここで紹介した方法はRef.[3]に基づくものです。発見法的であり、またトポロジカルな側面が強調されている方法かと思います。一方、アノマリーに直接則した方法でWZW項を導くことも可能です。WessとZuminoはRef.[4]において、アノマリーに関する積分可能条件(現在ではWess-Zumino条件とも呼ばれます)からこの項を導いています。

次の記事では、WZW項をゲージ化することで、U(1)ゲージ場とWZW項との相互作用を記述するWZW項を導きます。この計算からバリオンカレントを導き、冒頭で示したBがバリオン荷であることを示します。

おしまい。


次の記事: 非線形シグマ模型におけるWess-Zumino-Witten項 (2/2)

参考文献

[1]
Skyrme, T.H.R., A UNIFIED FIELD THEORY OF MESONS AND BARYONS, Nucl. Phys., 1962, 556-569
[2]
Zahed, I., Brown, G. E., THE SKYRME MODEL., Phys. Rep., 1986, 1-102
[3]
Witten, E., Global aspects of current algebra, Ncul. Phys. B, 1983, 422-432
[4]
Wess, J., Zumino, B., Consequences of anomalous ward identities, Phys. Lett. B, 1971, 95-97
投稿日:2023716
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  1. 非線形シグマ模型におけるアノマリーの実現
  2. QCDの離散対称性を実現する
  3. Wess-Zumino-Witten項
  4. まとめ
  5. 参考文献