非線形シグマ模型におけるWess-Zumino-Witten項 (1/2) では、NLσ模型のもつ余分な離散対称性を破り、QCDのもつ離散対称性を実現するためにWess-Zumino-Witten項を導入しました(脚注)。この項はNLσ模型において量子アノマリーを実現する項です。
QCDにおいて量子アノマリーによりもたらされる過程で有名なものに$\pi^0\rightarrow 2\gamma$があります。WZW項が低エネルギー有効理論における量子アノマリーを実現するなら、$\pi^0\rightarrow 2\gamma$もこの項により実現すると考えられます。本記事ではWZW項をゲージ化し、$\pi^0\rightarrow 2\gamma$の過程の確率振幅がQCDの予言と一致することを見ます。
さらに、バリオン数に関する$U(1)_V$変換のカレントを導くことで、Skyrme模型におけるtopological degree
\begin{align}
B=\int d^3x B^0=\frac{i}{24\pi^2}\int d^3x \epsilon^{0\nu\alpha\beta}{\rm tr}(L_\nu L_\alpha L_\beta),\ \ \ L_\mu :=U^\dagger\partial_\mu U
\end{align}
がバリオン荷(=バリオンの粒子数)であることを示します。
本記事はRef.Zahed1986に基づいています。
最初に本記事で必要な基礎事項を述べておきます。主に変換性に関わることです。
SU(3)のflavor空間において扱われるクォークはup quark (u),down quark (d), strange quark (s)の3種類です。これらの電荷は$e$を電子の電荷の絶対値として、以下の表のようになります:
クォークの種類 | 電荷 | 質量 |
---|---|---|
up quark (u) | +2/3e | 2.2MeV |
down quark (d) | -1/3e | 4.7MeV |
strange quark (s) | -1/3e | 93MeV |
以降u, d, sをそれぞれ$q^1, q^2, q^3$に対応させます。このインデックスに対応する空間をflavor空間と呼びます。一方、ガンマ行列$\gamma^\mu, \gamma_5$が作用する空間はspinor空間であり、このインデックスに関して$q$はLorentz変換を受けることに注意してください。
クォークのchiralityという概念を導入するため、$P_R, P_L$を以下のように定義します:
\begin{align}
P_L:=\frac{(1-\gamma_5)}{2}, \ \ \ P_R:=\frac{(1+\gamma_5)}{2}
\end{align}
これらはprojection operatorの性質を満たします:$P_L^2=P_R^2=1,\ P_RP_L=P_LP_R=0$。
Left handed (LH), right handed (RH)のクォークを
\begin{align}
q_L^i:= P_L q^i, \ \ q_R^i:=P_R q^i
\end{align}
で定義します。これらは$\gamma_5$の固有状態です:$\gamma_5 q_R=+q_R,\ \ \gamma_5 q_L=-q_L$。
$q_R$はchiralityプラス、$q_L$はchirality マイナスであると言います。
NLσ模型の$U$とクォークとの関係は以下です:
\begin{align}
U^{ij}=\bar q^j\frac{(1-\gamma_5)}{2} q^i=\overline{q_R}^j q_L^i \tag{1}
\end{align}
ここで$\bar q:=q^\dagger \gamma_0$です。flavorの足の付き方に注意してください。また$\overline{q_R}:=(P_R q)^\dagger \gamma_0=\bar qP_L$であることにも注意してください。
クォークはLH、RHの変換に対し
\begin{align}
\begin{cases}
\text{LH}: q_L\to L q_L, \ \ \ q_R\text{は不変}\\
\text{RH}: q_R\to R q_R, \ \ \ q_L\text{は不変}
\end{cases}
\tag{2}
\end{align}
と変換します。ここで$L=\exp(iQ_L), R=\exp(iQ_R)$です。
$U$はEq.(1)と(2)より
\begin{align}
U\rightarrow \exp(iQ_L)U\exp(-iQ_R)=LUR^\dagger \tag{3}
\end{align}
と変換することがわかります。これは
Skyrme模型の基礎
の「非線形表現」の章で示した変換性と一致します。
Vector charge $Q_V$とaxial vector charge $Q_A$は次のように定義されます:
\begin{align}
\begin{cases}
Q_V=\frac{1}{2}(Q_L+Q_R),\\
Q_A=\frac{1}{2}(Q_L-Q_R),
\end{cases}
\end{align}
vector変換, axial vector変換は$\exp(iQ_V), \exp(iQ_A)$による変換ですが、$Q_L=Q_R$とすると、$U$の変換のaxial vector変換は消え、vector変換のみが残ります。すなわち$Q_L=Q_R=Q$とすると、$U$に対するvector変換は
\begin{align}
U\xrightarrow{\text{vector変換}} \exp(iQ)U\exp(-iQ)
\end{align}
となります。
電磁気学の大域的な(=場所に依存しない)U(1)変換に対する$U$の変換はvector変換であり、クォークの電荷の行列$Q={\rm diag}(+2/3,-1/3,-1/3)$を用いて
\begin{align}
U\rightarrow \exp(iQ)U\exp(-iQ)
\end{align}
となります。以下この変換を$U(1)_{\rm em}$変換と呼びます。
クォークは電荷だけではなくバリオン荷を持ちます。すべてのクォークはバリオン荷1/3を持ちます。核子は3つのクォークからなり、バリオン荷は加法的であるため、核子はバリオン荷1を持ちます。バリオン荷は粒子の反応過程で保存されます。
本記事では強い相互作用に関わるゲージ群を$SU(N_c)$とします(現実は$N_c=3$)。このときバリオン荷に関する不変性は、$Q_B=1/N_c \ {\rm diag}(1,1,1)$に関するvector変換です。
ゲージ変換とは局所的な変換のことを言います。例えばvector変換をゲージ変換にpromoteする場合、$\epsilon(x)$のように時空に依存するパラメータを用いて
\begin{align}
U\to \exp(i\epsilon(x)Q)U\exp(-i\epsilon(x)Q)
\end{align}
とします。
$\Gamma_{WZ}$を$U(1)_V$に関してゲージ化(ゲージ場を導入することでゲージ変換に対し不変にすること)します。そのためにvector変換をゲージ変換にpromoteします:
\begin{align}
U\rightarrow \exp(i\epsilon(x)Q)U\exp(-i\epsilon(x)Q)
\end{align}
この変換に対して$\Gamma_{WZ}$は不変ではありません。これが不変になるように$\Gamma_{WZ}$を変更します。
通常、U(1)ゲージ変換に対して理論を不変にするにはゲージ場を導入し、微分$\partial_\mu$を$\partial_\mu -iA_\mu$のように置き換えればよいです。ところが$\Gamma_{WZ}$はこのような操作ではゲージ不変にはできません。ではどうするかというと、try & errorでゲージ不変となる作用を探します。
以下では微分形式を用いて計算します。$a(x)$に対し$da:=\partial_\mu a\ dx^\mu$です。wedge積$\wedge$は明示しません。$dadb$は$da\wedge db=(\partial_\mu a)(\partial_\nu b)\ dx^\mu\wedge dx^\nu$のことと了解してください。
以下の量を定義します:
\begin{align}
\begin{cases}
\alpha&:=U^\dagger \partial_\mu U dx^\mu \\
&=U^\dagger dU =-dU^\dagger U=-U\beta U^\dagger,\\
\beta&:=U\partial_\mu U^\dagger dx^\mu\\
&=UdU^\dagger = -dUU^\dagger = -U^\dagger \alpha U
\end{cases}
\end{align}
これらのゲージ変換に対する変換性は以下です:
\begin{align}
\begin{cases}
\delta_Q\alpha&=i\epsilon[Q,\alpha]+id\epsilon U^\dagger QU-id\epsilon Q,\\
\delta_Q\beta&=i\epsilon[Q,\beta]+id\epsilon UQU^\dagger -id\epsilon Q
\end{cases}
\end{align}
この変換を
\begin{align}
\Gamma_{WZ}=N\int_{D^+_5}{\rm tr}(\alpha^5)=N\int_{D^+_5}{\rm tr}(\beta^5),
\ \ \ N:=-\frac{in}{240\pi^2}
\end{align}
に施します。$\Gamma_{WZ}$に関しては
前回の記事
を参照してください。計算すると
\begin{align}
\delta_Q\Gamma_{WZ}&=5N\int_{D_5^+}{\rm tr}(\alpha^4\delta_Q\alpha)\\
&=5N\int_{D_5^+}{\rm tr}
(\alpha^4\{i\epsilon[Q,\alpha]+id\epsilon U^\dagger QU-id\epsilon Q\})\\
&=5Ni\int_{D_5^+}d\epsilon {\rm tr}
\{(U^\dagger QU -Q)\alpha^4\} \tag{4}
\end{align}
ここで${\rm tr}(U^\dagger QU\alpha^4)={\rm tr}(QU\alpha^4 U^\dagger)$であり、また$U\alpha U^\dagger=-\beta$より$U\alpha^4U^\dagger=(U\alpha U^\dagger)^4=\beta^4$であるから
\begin{align}
{\rm Eq.}(4)&=-5Ni\int_{D_5^+}d\epsilon\ {\rm tr}[Q(\alpha^4-\beta^4)]\\
&=5Ni\int_{D_5^+}d\epsilon\ {\rm tr} [Qd(\alpha^3-\beta^3)]\\
&=-5iN\int_{D_5^+}d(d\epsilon{\rm tr}(Q[\alpha^3-\beta^3]))
\end{align}
Stokesの定理から
\begin{align}
=-5iN\int_{M_4}d\epsilon \ {\rm tr}(Q(\alpha^3-\beta^3)) \tag{5}
\end{align}
ここで$M_4$は$\partial D_5^+$です。ということで$\delta_Q\Gamma_{WZ}$はゼロにはなりません。
これを打ち消すために、ゲージ場$A:=A_\mu dx^\mu$を導入します。そして
\begin{align}
\Gamma_{WZ}^{(1)}:=\Gamma_{WZ}-5n\int_{M_4}A \ {\rm tr}[Q(\alpha^3-\beta^3)]
\end{align}
を定義し、この量のゲージ変換性を考えます。$\delta_Q\Gamma_{WZ}^{(1)}$は、$\delta_Q A=-id\epsilon$より、初項の$\delta_Q \Gamma_{WZ}$と第2項の$A$に$\delta_Q$が作用した部分が打ち消します。よって
\begin{align}
\delta_Q\Gamma_{WZ}^{(1)}=-5N\int_{M_4}
A\ {\rm tr}[Q\delta_Q(\alpha^3-\beta_3)]
\end{align}
となります。
計算していくと、以下のようになります:
\begin{align}
{\rm tr}(Q\delta_Q \alpha^3)&={\rm tr}
\left[Q\{(id\epsilon U^\dagger Q U -id\epsilon Q)\alpha^2
+\alpha(id\epsilon U^\dagger Q U -id\epsilon Q)\alpha
+\alpha^2(id\epsilon U^\dagger QU-id\epsilon Q)\}\right]\\
-{\rm tr}(Q\delta_Q \beta^3)
&=-{\rm tr}
\left[Q\{(id\epsilon U Q U^\dagger -id\epsilon Q)\beta^2
+\beta(id\epsilon U Q U^\dagger -id\epsilon Q)\beta
+\beta^2(id\epsilon U QU^\dagger-id\epsilon Q)\}\right]
\end{align}
ゆえに
\begin{align}
{\rm tr}[Q\delta_Q(\alpha^3-\beta^3)]
=id \ \epsilon{\rm tr}
[&\underline{-2Q^2(\alpha^2-\beta^2)}\\
&-Q(U^\dagger QUdU^\dagger dU-UQU^\dagger dUdU^\dagger)\\
&+\underline{Q(dU^\dagger QdU-dUQdU^\dagger)}\\
&+Q(-dU^\dagger dUU^\dagger QU+dUdU^\dagger UQU^\dagger)\\
&+QU^\dagger dU QU^\dagger dU-QUdU^\dagger QUdU^\dagger]
\end{align}
を得ます。下線を付した部分以外は打ち消し合ってゼロになります。以上から
\begin{align}
\delta_Q\Gamma^{(1)}_{WZ}
&=-5N\int_{M_4}A\ {\rm tr}(Q\delta_Q(\alpha^3-\beta^3))\\
&=
-5iN\int_{M_4}
A\ d\epsilon \ {\rm tr}
[2Q^2(\beta^2-\alpha^2)-QdUQdU^\dagger+QdU^\dagger QdU]\\
&=-10iN\int_{M_4}
A\ d\epsilon \ {\rm tr}
[Q^2(\beta^2-\alpha^2)-QdUQdU^\dagger]
\end{align}
ここで
\begin{align}
QdUQdU^\dagger=d(aQUQddU^\dagger
-bQdUQU^\dagger), \ \ a+b=1
\end{align}
であり、これがparity対称性をもつように$a=b=1/2$とします。また$\alpha^2-\beta^2=d(\alpha+\beta)$であることを用いて変形すれば
\begin{align}
&=10iN\int_{M_4}d\epsilon \ A \ {\rm tr}
[Q^2d(\alpha-\beta)
+\frac{1}{2}
d(QdUQU^\dagger - QUQdU^\dagger)]\\
&=10iN\int_{M_4}d\epsilon \ dA \ {\rm tr}
[Q^2(\alpha-\beta)
+\frac{1}{2}
(QdUQU^\dagger - QUQdU^\dagger)]
\end{align}
2行目では部分積分を行いました。この結果から$\delta \Gamma^{(1)}_{WZ}$もゲージ不変ではないことがわかります。
さらにこの項を打ち消すため、「その2」と同様に
\begin{align}
\Gamma^{(2)}_{WZ}:=
\Gamma_{WZ}^{(1)}
+10N\int_{M_4} A dA \ {\rm tr}
[Q^2(\alpha-\beta)
+\frac{1}{2}
(QdUQU^\dagger - QUQdU^\dagger)]
\end{align}
を定義します。$\delta_Q\Gamma^{(2)}_{WZ}$を計算すると、$\delta\Gamma^{(1)}_{WZ}$と第2項において$A$に$\delta_Q$が作用する部分は消えるので
\begin{align}
\delta_Q\Gamma^{(2)}_{WZ}
&=10N\int_{M_4} A dA\ \delta_Q {\rm tr}
[Q^2(\alpha-\beta)
+\frac{1}{2}
(QdUQU^\dagger - QUQdU^\dagger)]\\
&=10N\int A dA \ {\rm tr}
[Q^2\{i\epsilon([Q,\alpha]-[Q,\beta])
+id\epsilon(U^\dagger QU-UQU^\dagger)\}\\
&\hspace{4cm}+\frac{1}{2}
\{Qd(i\epsilon[Q,U])QU^\dagger
+QdUQ(i\epsilon[Q,U^\dagger])\\
&\hspace{5cm}-Qi\epsilon[Q,U]QdU^\dagger
-QUQd(i\epsilon[Q,U^\dagger])
\}]
\end{align}
となります。あとは$\epsilon$に比例する部分と$d\epsilon$に比例する部分をそれぞれ計算すれば、どちらもゼロになることがわかります:
\begin{align}
\delta_Q \Gamma^{(2)}_{WZ}=0
\end{align}
これで$U(1)_V$のゲージ変換に対して不変なWZW項が求まりました。
まとめると以下のようになります:
$U(1)_V$に関してゲージ化されたWZW項は以下で与えられる:
\begin{align}
\Gamma_{WZ}[U,A]&=N\int_{D_5^+}{\rm tr}[\alpha^5]
-5N\int_{M_4}A\ {\rm tr}[Q(\alpha^3-\beta^3)]\\
&\hspace{2cm}
+10N\int_{M_4} AdA \ {\rm tr}
[Q^2(\alpha-\beta)+\frac{1}{2}
(QdUQU^\dagger-QUQdU^\dagger)],\\
\Big(\alpha&:=U^\dagger \partial_\mu U dx^\mu, \ \ \beta:=U\partial_\mu U^\dagger dx^\mu, \ \ N=-\frac{in}{240\pi^2}\Big) \tag{6}
\end{align}
この作用はゲージ場と擬スカラー中間子の相互作用項となっています。
$U(1)_V$変換に関するカレントを求めることを考えます。その際に便利なのがGell-Mann-Levyの方法です(
この記事
参照のこと)。これは、カレントを導く際の変換パラメータ$\epsilon$を時空に依存させて作用の変化を計算し、変化した部分のうち$\partial_\mu \epsilon$に比例する部分がカレントに対応する、という定理です。これに習えば、上で計算した$\delta_Q\Gamma_{WZ}$のうち$d\epsilon$に比例する部分が$U(1)_V$のカレントに対応します。ということで既にカレントの計算は終わっていて、Eq.(5)から$\partial_\mu\epsilon$を除いたものが対応します。ゆえにカレントは
\begin{align}
J^\mu=\frac{in}{48\pi^2}\epsilon^{\mu\nu\alpha\beta}
{\rm tr}[Q(L_\nu L_\alpha L_\beta-R_\nu R_\alpha R_\beta)] \tag{7}
\end{align}
となります。$U(1)_{\rm em}$のカレントが欲しければ$Q={\rm diag}(+2/3,-1/3,-1/3)$とすればよいです。
バリオンカレントは最初の章で述べた$U(1)_B$に関する変換のカレントです。Eq.(7)で$Q_B=1/N_c\ {\rm diag}(1,1,1)$として
\begin{align}
J_B^\mu &=\frac{n}{N_c}\frac{i}{48\pi^2}
\epsilon^{\mu\nu\alpha\beta}
{\rm tr}[L_\nu L_\alpha L_\beta-R_\nu R_\alpha R_\beta]\\
&=\frac{n}{N_c}\frac{i}{24\pi^2}\epsilon^{\mu\nu\alpha\beta}
{\rm tr}[L_\nu L_\alpha L_\beta] \tag{8}
\end{align}
がバリオンカレントです。ここで$n=N_c$とすれば
\begin{align}
J_B^\mu &=\frac{i}{24\pi^2}\epsilon^{\mu\nu\alpha\beta}
{\rm tr}[L_\nu L_\alpha L_\beta]
\end{align}
を得ます。よってバリオン数$B$は
\begin{align}
B=\int d^3x J^0_B=\frac{i}{24\pi^2}
\int d^3x\ \epsilon^{0\nu\alpha\beta}
{\rm tr}[L_\nu L_\alpha L_\beta]
\end{align}
となり、
Skyrme模型の基礎
で示したバリオン数と係数まで含めて一致します。こうして$U$をmapとするtopogical degreeをバリオンの粒子数とみなすことが正当化されます。
ちなみに、LHとRHの変換それぞれのカレントを計算すると
\begin{align}
J_L^\mu &=5N\epsilon^{\mu\alpha\beta\gamma}{\rm tr}(Q_L R_\alpha R_\beta R_\gamma),\\
J_R^\mu &=-5N\epsilon^{\mu\alpha\beta\gamma}{\rm tr}(Q_R L_\alpha L_\beta L_\gamma)
\end{align}
となります。ここで$R_\mu:=U\partial_\mu U^\dagger$です。$Q_L=Q_R=Q_B$として、$J_L$と$J_R$を足せば
\begin{align}
J_B^\mu = J^\mu_L+J^\mu_R=\frac{i}{24\pi^2}
\frac{n}{N_c}\epsilon^{\mu\alpha\beta\gamma}{\rm tr}(L_\alpha L_\beta L_\gamma)
\end{align}
となり、Eq.(7)と一致します。
WZW項はNLσ模型に量子アノマリーの効果を導入します。量子アノマリーによる擬スカラー粒子の崩壊で有名なのが、中性パイオンが2光子に崩壊する$\pi^0\to 2\gamma$です。Eq.(6)の第3項は2つの光子と擬スカラー中間子の結合を表す項です。よって、この項は$\pi^0\to 2\gamma$の崩壊を表す項を含み、それはQCDのABJ anomalyから導かれる崩壊の確率振幅と一致する結果を与えると考えられます。
これを確かめるため、Eq.(6)の第3項の中から対応する項を抜き出します。低エネルギーの状況を考え、$\tilde \pi^a:=\pi^a/f_\pi$のべきで展開します。このとき
\begin{align}
&U\sim {\bf 1}+i\tilde \pi, \ \
U^\dagger\sim {\bf 1}-i\tilde \pi\\
&\alpha\sim id\tilde\pi, \ \ \beta\sim -id\tilde\pi
\end{align}
これらより
\begin{align}
&\cdot {\rm tr}(Q^2(\alpha-\beta))\sim 2i{\rm tr}(Q^2d\tilde\pi),\\
&\cdot \frac{1}{2}
{\rm tr}(QduQU^\dagger-QUQdU^\dagger)
\sim i{\rm tr}(Q^2 d\tilde \pi)
\end{align}
ゆえにEq.(6)第3項は
\begin{align}
&10N\int_{M_4} AdA \ {\rm tr}
[Q^2(\alpha-\beta)+\frac{1}{2}
(QdUQU^\dagger-QUQdU^\dagger)]\\
&\sim 10N\int_{M_4}
AdA \ 3i{\rm tr}(Q^2d\tilde\pi) \\
&=-30iN\int_{M_4}dAdA \ {\rm tr}(Q^2 \tilde\pi) \tag{9}
\end{align}
ここで$\displaystyle N=-\frac{in}{240\pi^2}$。また
\begin{align}
dAdA&=(\partial_\mu A_\nu dx^\mu\wedge dx^\nu)\wedge (\partial_\alpha A_\beta dx^\alpha\wedge dx^\beta)\\
&=
\frac{1}{4}\epsilon^{\mu\nu\alpha\beta}F_{\mu\nu}F_{\alpha\beta} \ d^4x
\end{align}
です。${\rm tr}(Q^2\tilde \pi)$の中で中性パイオンに対応する$\pi^3$($\pi^{a=3}$の意)の部分を抜き出すと
\begin{align}
{\rm tr}(Q^2\tilde \pi)
\xrightarrow{\pi^3\text{の部分}}
{\rm tr}(Q^2 \pi^3\lambda^3/f_\pi)
=\frac{1}{3}e^2\frac{\pi^3}{f_\pi}
\end{align}
となります。ここで$Q$に電荷$e^2$を付加しておきました。以上より
\begin{align}
{\rm Eq}(9)=-e^2\frac{n}{96\pi^2}
\int d^4x \ \epsilon^{\mu\nu\alpha\beta} F_{\mu\nu}F_{\alpha\beta}
\end{align}
を得ます。$n=N_c$とすればQCDのアノマリーの計算のそれと完全に一致します。バリオンカレントの計算において$n=N_c$とすると、Skyrme模型のトポロジカル不変量(map $U$のtopological degree)がバリオン数と一致しましたが、この例でも$n=N_c$と同定することが正当化されます。
前回と今回で以下の事項に関して書きました:
低エネルギー有効理論におけるアノマリーの効果がWZW項のみで記述でき、さらにそれがトポロジカルな側面を持つのは大変興味深い事実です。さらに、Skyrme模型におけるバリオン数が、 WZW項を通してanomalousな形でトポロジカル不変量と結びつくという発見は、その模型の提唱当時には(おそらく)思いもよらなかった驚くべき発展だと思います。実際に核子がパイオンのソリトンかどうかはわかりませんが、純粋に理論的にも面白いと思います。
おしまい。${}_\blacksquare$
(脚注)1971年にWessとZuminoによりWess-Zumino(-Witten)項は導入されました(Ref.Wess1971)が、その際には量子アノマリーの積分可能条件により同項が導かれています。
ここでは$U$と実在の粒子との関係についてメモしておきます。以下のnotationはRef.Zahed1986に従います。登場する粒子については、例えばRef.WikipediaやPDGをご参照ください。
本記事における$U$と$\pi^a$との関係は以下です:
$$
U({\boldsymbol x},t)
=\exp i\left[
\lambda^a\frac{\pi^a({\boldsymbol x},t)}{f_\pi}
\right],\ \
{\rm tr}(\lambda^a\lambda^b)=2\delta^{ab}
\ \ \ (a,b=1\text{-}8)
$$
$f_\pi$はパイオン崩壊定数, $\lambda^a$はGell-Mann行列(Ref.Gell-Mann)です。
$\pi^a$と実在の粒子との関係は以下のようになります:
$$
\lambda^a\pi^a({\boldsymbol x},t):=\sqrt{2}
\begin{pmatrix}
\pi^0/\sqrt{2}+\eta/\sqrt{6} & \pi^+ & K^+\\
\pi^- & -\pi^0/\sqrt{2}+\eta/\sqrt{6}&K^0\\
K^- & \bar K^0 & -\sqrt{\frac{2}{3}}\eta
\end{pmatrix}
$$
右辺に現れる$\pi^0$は中性パイオンを表す記号です($\pi^{a=0}$ではない)。これら8個の中間子は8重項と呼ばれます。本文のEq.(1)より、flavor SU(3)の基本表現と反基本表現をそれぞれ$3,\bar 3$と表すと$U$は$\bar 3\otimes 3$ですが、これを既約分解すると
\begin{align}
\bar 3\otimes 3 = 1\oplus 8
\end{align}
になります。上の中間子はこの8表現に属するので8重項と呼ばれます。
正確なことを言うと、行列中の$\eta$は実在の粒子の$\eta$(Ref.PDG参照)ではなく、$\eta^8$と書くべきものです。既約分解の1重項の粒子を$\eta^0$と書くと、実在の粒子である$\eta,\eta'$は、理想的なSU(3)における$\eta^0,\eta^8$の混ざった状態です。
$\pi^a$は以下のようになります:
$$ \begin{aligned} \pi^1&=\sqrt{2}(\pi^++\pi^-)\\ \pi^2&=\sqrt{2}i(\pi^+-\pi^-)\\ \pi^3&=2\pi^0\\ \pi^4&=\sqrt{2}(K^++K^-)\\ \pi^5&=\sqrt{2}i(K^+-K^-)\\ \pi^6&=\sqrt{2}(\bar K^0+K^0)\\ \pi^7&=\sqrt{2}i(K^0-\bar K^0)\\ \pi^8&=2\eta \end{aligned} $$
以上。${}_\blacksquare$