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大学数学基礎解説
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準同型定理を図いっぱいで理解しよう!(後編)

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どうも

 こんにちは ごててんという者です いつか書こうと思っていた記事をようやく書き終えました(※2年くらい逃げてました)

 この記事シリーズ(全2回)では、群論の重要な定理「準同型定理」を説明します。結構しっかり書いた記事ですので、そんなに気軽に読めない記事かもしれません!
 後編(この記事です)では「準同型」「準同型定理」について説明します。いよいよ本番です。

 前編は→ https://mathlog.info/articles/sTacgC5iT24V4aWjLhiu

準同型について

 準同型の説明です。無茶苦茶雑なことを書くと、群と群の間のいいかんじの写像のことです。定義を見ましょう。

準同型写像

 G1,G2を群, ϕ:G1G2を写像とする. このとき, 任意のGの元x,yについて ϕ(xy)=ϕ(x)ϕ(y)が成立するとき, ϕ準同型であるという.

 線形代数や微積分をやっていて、たびたび「代数的に」いい感じの写像に出会ってきたと思います。これはそれらを包括しています。

 例をいっぱい出します!

微分は準同型写像

 開区間I=(0,1)上のC級関数全体をCとします。またf,gC,x(0,1)とするとき、その和f+g(f+g)(x)=f(x)+g(x)で定めます。するとこれはf+gCで、この演算でCは群となります。
 このとき、微分を行う写像 ddx:CC; ffは準同型となります。
ddx(f+g)=dfdx+dgdx

exp

 R>={rR|r>0}とします。指数関数 exp:RR>は準同型写像です。
 exp(x+y)=exp(x)exp(y)が成立していますね。定義域では「和」が群の演算、値域では「積」が群の演算になっていることに注意してください。

行列式

 正則行列の行列式を求める写像det:GLn(R)R{0}は準同型写像となります。

 結構ビッグネーム(?)が出てきますね。準同型はそれくらい広い概念です。一応触れておきますが、「線形写像」も準同型の例です。

準同型の基礎知識

 準同型の、すぐわかる性質を述べておきます。

 ϕ:G1G2を準同型とすると、ϕは単位元は送っても単位元です。ϕは逆元を送っても逆元です。ちゃんとした主張は画像で済ましちゃいますね。
演算の構造をある程度保ってくれる 演算の構造をある程度保ってくれる

同型

 さて、群論でキモとなる概念である「同型」について説明します。

同型の定義

 G1,G2を群, ϕ:G1G2を写像とする. このときϕ同型であるとは, ϕが逆写像を持ち, ϕϕ1も準同型であることである. また2つの群の間に同型が存在することG1G2で表す。

 「同型」は...... まあ群と群の間に同型があったらその2つの群は同じとみなします。そのくらいの認識でいいと思います。より正確に言えば、G1G2としたとき、G1が◯◯ならG2も◯◯になる」というような◯◯が群論で扱われる性質...... という感じです。例えば◯◯には「巡回群」とか「可換群」とかが入ります。

 同型という概念自体は重要ですが、別に話すことがあるかというと別に無い、という感じです。群論の範疇で 対象が「同じ」とはなにか を規定するのが同型の概念、という認識で問題ありません。

同型の例

 例ですが、準同型定理を説明する中で色々証明します。ですので、ここでは控えめに例を紹介しようと思います。

内部自己同型

 そうなってほしいと思いますので当然といえば当然ですが、群Gは自分自身と同型です。GGです。しかし、同型の作り方は工夫することができますし、しないこともできます。
 例えば恒等写像idG:GGが同型です。それとは別に内部自己同型というものがあります。それは、Gの元gを固定して、写像の対応xgxg1を考えるというものです。これも同型写像です。どうしてこれが同型になるかは、練習で示してみてください。

3次対称群の部分群

 S3の部分群として、(123)で生成される部分群H={1,(123),(132)}を考えます。これはZ/3Zと同型になります。なんか、そんな気がしますね(?)

 このくらいにしておきましょう。

準同型の核(超重要)

 準同型定理を理解するために一番大事なのがKer(ϕ)と書かれる、準同型の「核(Kernel)」です。これが...... 本当に大事です。 まずは定義をします。

核(ついでに像)

 G1,G2を群, ϕ:G1G2を準同型とする. このとき, 準同型のKer(ϕ)と像Im(ϕ)を次で定義する.(G2の単位元を1とする.)

Ker(ϕ)={xG1|ϕ(x)=1} (=ϕ1(1)).
Im(ϕ)={ϕ(x)G2|xG1} (=ϕ(G1)).

核は正規部分群

 G1,G2を群, ϕ:G1G2を準同型とする.
 このときKer(ϕ)G1正規部分群となる. また, Im(ϕ)G2の部分群となる.

 この命題は大事です。(証明は省略します。)
 前編を思い出してみてください。(読んでない人は別に大丈夫です。)「G/HHが正規部分群なら演算が(xH)(yH)=xyHで定まり剰余群となる。」のでした。いま、Ker(ϕ)という、結構カノニカルな正規部分群が得られました。......これで剰余群を考えたら何か起きてくれそうですよね? それが準同型定理に繋がります。

アイキャッチ アイキャッチ

この記事の主定理

 さて、この記事のキーとなる定理が次になります。この定理は超大事だぞ!!!!!!!!!!!!!と言うためにここまで5,000文字打ったと言っても過言ではありません。

単射とKer(ϕ)

 G1,G2を群, ϕ:G1G2を準同型とする. このとき, 次は同値.
(1) ϕ単射である.
(2) Ker(ϕ)={1}. (1G1の単位元を表すとする.)

 これがたいへんに準同型定理を理解するための助けになります。
 この定理は「単射」と「Ker(ϕ)={1}」を結びつけるものですが、これをもう少し深読みしてみましょう。
 物事というのは往々にしてグラデーションです。「数学が好き」というのも度合いがありますよね。「親しみやすい数学の雑学はちょっと楽しめる」から「数学者になる以外の人生が想像つかない」など、色々あります。さて、「単射」という言葉ですが、これは「極端」ですよね。

「単射」は極端な性質

 例えばですが、次のような3つの写像を考えてみましょう。

f:ZZ ; f(x)=|x|. 絶対値を取る写像
g:ZZ ; g(0)=0 or g(x)=x/|x| (x0). 符号を得る写像
h:ZZ ; h(x)=1. すべて1に送る写像

 これらはすべて単射ではありませんが、「単射っぽさ」を考えたら f>g>h という気がしませんでしょうか。

 単射というのは、「行き先のかぶらなさ」が一番大きい場合のことです。そして、準同型におけるKer(ϕ)というのは、「準同型写像の行き先がどれだけ被っているか」を表します。上の定理で言えば、「単射」という、いちばん行き先が被らない状況にKer(ϕ)が一元集合」という事実が対応しているということです。

核の小ささと単射っぽさが対応 核の小ささと単射っぽさが対応

像についても触れる

 Im(ϕ)も単射かどうかを表す側面があります。また次の3つの写像を見てみましょう。

f:ZZ ; f(x)=|x|. 絶対値を取る写像
g:ZZ ; g(0)=0 or g(x)=x/|x| (x0). 符号を得る写像
h:ZZ ; h(x)=1. すべて1に送る写像

 上の方が「単射っぽい」ですが、「像が大きい」というのがありますね。

 「Ker(ϕ)が小さい」と「単射っぽい」、そして「Im(ϕ)が大きい」

 

 つまりKer(ϕ)が小さい」と「Im(ϕ)が大きい」
 これも理解の助けになるはずです。

 

 ...

 

 ...

 

 ...

 

 

 

準同型定理

 さあ!!!ここまで長かったですね!!!ようやく本題です!!!!!!!

 アイキャッチをもう一度貼りますね。

またこのアイキャッチ またこのアイキャッチ

 ここに出てくるG/Ker(ϕ)が主役です。準同型ϕ:G1G2が与えられたとき、Ker(ϕ)という正規部分群が得られるのでそれで割ってみます。すると現れるものがG/Ker(ϕ)なのですが、これがなんと...... それでは準同型定理です。

準同型定理

 準同型ϕ:GGが与えられたとき, 同型G/Ker(ϕ)Im(ϕ)が成立する.

 なんと...... 像と同型だったんですね!!!このイメージをゆっくり説明していきます。キーワードは、「準同型を無理やり全単射にして同型を作る」です。

そもそもどんな同型写像?

 上の主張では具体的な同型を与えていないのですが、実際には同型写像の構成方法まで与えられています。ですが、その構成方法の具体例を見てみましょう。そして、その構成方法を理解することが準同型定理の理解に繋がります。

絶対値を取る写像

 R>={rR|r>0}とします。このとき、写像ϕ:R{0}R>を、絶対値を取る準同型 x|x|で定めます。
 この、特に単射でもない準同型から、全単射な同型写像を作るのが準同型定理です。それをやってみます。次の図を見てみてください。

2つの点が1つの点に対応 2つの点が1つの点に対応

 とまあこんな感じの図が想像できると思います。さて、ここから全単射な写像を作りたいので、まずは単射にしてみましょう。さて単射にするためには、定義域を変えないといけません。どう変えれば良いでしょうか? そうですね。正負を無視すれば良いです。

 さて、前編の記事でちらっと書いたことなのですが、Z/5Zというのは5Zの差を無視してできたものでした。では正負を無視するにはどうするか。そうですね。部分群{1,1}で剰余群を作ればいいです。そして{1,1}は、この場合のKer(ϕ)に他なりません!!!

情報を詰め込んだ図 情報を詰め込んだ図

 上の図で分かっていただけるかもしれませんが、これで全単射の完成です。どういう写像かなのですが、xKer(ϕ)、つまりx{1,1}={x,x} から ϕ(x)、つまり|x|に対応させます。これが全単射になっている、ということです。
 ここから同型を書き下すと、(R{0})/{1,1}R>という感じです。(見た目キモ!!!)そして、ϕは全射でしたので、Im(ϕ)=R>です。これとKer(ϕ)={1,1}を合わせると、上の準同型定理で見たような、G/Ker(ϕ)Im(ϕ)という形にまとめることができます。

じゃあ抽象的に

 さてさて、準同型定理の同型を構成する対応を書いてみます。それは上でも赤字で強調したxKer(ϕ)ϕ(x)の対応によります。これが1対1に対応しています

この図が自分で描けるとよい? この図が自分で描けるとよい?

 

 では、この対応の写像 xKer(ϕ)ϕ(x) で同型が定まることを示せば準同型定理を得られますね!

 

 ...

 

 ...

 

 ...

 

 
 すみません、 well-defined性を確かめていないようなのですが

 

 
 (>_<)

 

ここでも well-defined

 前編でも説明しました well-defined が、またここでも問題となります。xKer(ϕ)ϕ(x) の対応のどこが良くないか。そうですね。xKer(ϕ)は書き方が複数ある可能性があります。(2+5Z2+5Z=7+5Zのように複数通りの書き方がある話のことです。)

 
 さて、対応が well-defined, すなわちxKer(ϕ)の書き方に依らずϕ(x)が定まることを示すのですが、xKer(ϕ)=yKer(ϕ)ならϕ(x)=ϕ(y)であることがわかれば良いです。これは一瞬です。

  
 xKer(ϕ)=yKer(ϕ)と仮定します。このときkKer(ϕ)がありx=ykと書けるので、ϕ(x)=ϕ(yk)=ϕ(y)ϕ(k)=ϕ(y)がわかります.(kKer(ϕ)からϕ(k)=1が分かります。)

well-defined well-defined

 

これが同型写像になることを示そう!

 さて、xKer(ϕ)ϕ(x)が同型を与えていることを示しましょう。同型であることを示すステップをまとめます。

準同型であることを示す

全射であることを示す

単射であることを示す

 実は同型写像であることを示すには、「準同型+全単射」であることを示せば良い(証明略)ので、これで良いです。

関係ない補足

 位相空間の間の連続写像は、全単射だったとしても同相写像ではありません。なので、群論の同型写像はある種の「特別な場合」です。

 イメージしやすいと思うので、以前ツイートした内容を描いたものを掲載します。

だいたいこんなかんじです だいたいこんなかんじです

準同型であることの証明

 以下、対応xKer(ϕ)ϕ(x)を表す写像をψ:G/Ker(ϕ)Im(ϕ)と書きます。まずはこれが準同型であることを示さなければなりませんが、まあそれは簡単です。

  見やすくするためにN=Ker(ϕ)とします。またψ(xN)=ϕ(x)であることに注意しておきます。
 さて証明ですが、ψ((xN)(yN))=ψ(xyN)=ϕ(xy)=ϕ(x)ϕ(y)=ψ(xN)ψ(yN)です。準同型ですね。

 

全射であることの証明

 まあこれも簡単です。yIm(ϕ)ならϕ(x)=yとなるxGが取れます。もうお分かりですね。ψ(xKer(ϕ))=ϕ(x)=yです。全射!!!

 

単射であることの証明

 最後になります。ψ:G/Ker(ϕ)Im(ϕ)が単射であることを示します。また見やすくするためにN=Ker(ϕ)とします。ここでは私が重要重要と書きまくっていた定理を使います。(Kerが2つ出るので色分けしています。)

 G1,G2を群, ϕ:G1G2を準同型とする. このとき, 次は同値.
(1) ϕ単射である.
(2) Ker(ϕ)={1}. (1G1の単位元を表すとする.)

 この定理によると、Ker(ψ)={N}を示せばよいです。(G/Ker(ϕ)=G/Nの単位元はNです。)
 xNKer(ψ)、つまりψ(xN)=1であるとします。するとϕ(x)=ψ(xN)=1よりxKer(ϕ)=Nがわかるので、xN=Nがわかります。ということはKer(ψ)={N}が分かってしまいました。単射だ!!!  

 

やったーーーー!!!!

 こうして準同型定理を証明できました!証明自体はそんなに難しくなかったですね。あとは準同型定理を使う問題を実際に解いてみて、この記事をまとめて終わろうと思います。

準同型定理を使おう

もともと同型な写像に適用してみた場合

 「準同型を無理やり全単射にして同型を作る」のが準同型定理です。では、もともと同型だった場合はどうでしょうか。
 同型写像(つまり全単射)ϕ:GGを準同型定理の式G/Ker(ϕ)Im(ϕ)に適用したいです。

Ker(ϕ)は?
 単射なので単位元のみです。よって左辺はG/Ker(ϕ)=G/{1}Gです。

Im(ϕ)は?
 全射なのでIm(ϕ)=Gです。

 つまり、GG です!!!!!何も得られていません!!!!!!!!

 

exp

 準同型写像ϕ:RC{0}を、ϕ(θ)=exp(2πiθ)で定めます。ここに適用してみましょう!

Ker(ϕ)は?
 exp(2πiθ)=1となることとθZは同値です。よってKer(ϕ)=Zです。

Im(ϕ)は?
 絶対値が1の元全体と対応します。T={zC||z|=1}です。

 さて、これをG/Ker(ϕ)Im(ϕ)に適用してみると、R/ZTとなります。これをトーラス群と呼ぶようです。
トーラス群の図 トーラス群の図

対称群

 置換から符号を対応させる準同型sgn:Sn{1,1}を考えてみます。n2以上の整数とします。

Ker(sgn)は?
 置換σsgn(σ)=1となることは、n次交代群Anの元であることと同値です。(同値というか、そもそもAnの定義をKer(sgn)で行うのが主流なんですかね?)よってKer(sgn)=Anです。

Im(sgn)は?
 全射なので、{1,1}です。

 では、これをG/Ker(ϕ)Im(ϕ)に適用してみると、Sn/An{1,1}となります。

n=3の場合 n=3の場合

エンディング

 さて、準同型定理のイメージは掴んでいただけましたでしょうか。G/Ker(ϕ)Im(ϕ)という式からもう色々見て取れるのではないでしょうか。ここまでの内容を画像でまとめましたので、図を御覧ください。

これ1枚でマスター! これ1枚でマスター!

おしまい!

 ここまで読んでいただきありがとうございます!かな~~~~~り頑張って記事を書きました。GWを3日潰しました。どうでしたでしょうか?準同型定理の理解度は上がりましたでしょうか?
 今までに見てきた準同型定理の説明を見て、こういう説明の仕方をしているものは見たことがないな~~~と思い、(私が見たことがないだけだとは思いますが)いつか書こういつか書こうと思っていたら2年経ってしまいました。今回、なんとか完成させることができて、書き終わった今満足感に包まれています。図もいっぱい書きましたし、力作のつもりです。
 前編後編と割と長かったと思いますが、ここまで読んでいただき本当にありがとうございました。この記事の直感を持った状態で線形代数を見ると、Ker(ϕ)の次元が、「線形写像がどれだけ単射でないか」を表しているという見方ができると思います。準同型の核と単射とのつながりがこの記事で一番伝えたかった(?)ことですので、その部分を楽しんでいただけましたのなら幸甚の至りです。

 もし面白かったという方は記事の高評価よろしくお願いします! それでは~~~

参考文献

投稿日:202455
更新日:202455
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ごててん
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位相空間と環が好きです

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  1. どうも
  2. 準同型について
  3. 準同型の基礎知識
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  5. 同型の例
  6. 準同型の核(超重要)
  7. この記事の主定理
  8. 像についても触れる
  9. 準同型定理
  10. そもそもどんな同型写像?
  11. じゃあ抽象的に
  12. ここでも well-defined
  13. これが同型写像になることを示そう!
  14. 準同型であることの証明
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