はじめに
オイラーの時代の数学の著作をいくつか読んでみたのですが、そこで微分法が今高校で習うものと少し違うことに気付きました。というのもをひとまとまりにするのではなく、というようにを分けているのです。いろいろ読んでみて、は正しく気をつければ普通の量として扱ってよいとわかりました。ここではその気をつけ方を解説します。
微小量の計算ルール
などの微小量は以下の計算のルールさえ守れば、普通の量とみなせます。
- ルール1 足し算では高次の微小量を無視する。
例えば と置き換えます。また係数がかかっていても、微小量どうしの比較で負けていたら無視します。たとえばとなります。 - ルール2 同じ次数の微小量の比だけ意味をもつ。
日常的な感覚でも、やをとしてもさほど問題はないですが、という計算になるとに匹敵する大きさになりうることが分かります。なのでという量は安易にどちらかを勝たせてやにしないようにします。同じように、などの項も残しておきます。 - 書き方のルール
はという意味ではという意味です。
と表すとき、の微分はとなります。
例えばのとき
となります。
積分
この記事
高校数学の数列と微分積分は似ているという話(和分差分)
にあるように微分積分は数列の差と和に対応しています。数列の差を取る演算を
とすれば
となり ,としたとき
と似たようになるのがわかります。積分は以下のような計算を表します。
の項は本来いくら足してもになるはずですが、積分は無限回の足し算をするので、微小量の「格上げ」ができます。実際の計算では、 となる関数を探してこの和を求めます。
これは
というように和の求める方法と同じです。
刻み幅の変化の影響
積分編
をとおき置換積分するとき、として
としますが、このときに暗黙に刻み幅の取り方を変えても積分が変わらないという事実を使っています。どういうことかというと
この式では常に一定の刻み幅で関数を区切って足していますが、
とし、を変数とした積分では、を一定の刻み幅とするのでは変化します。, に対応するをとすると
なのでというよう刻み幅が変化することになります。それでも積分結果は同じになるということが、置換積分が成立するための条件です。
微分編
微分の場合、二回微分から刻み幅の変化の影響がでてきます。積分の場合は、計算結果が同じになるので気にしなくてもよかったですが、微分の場合注意しないといけないことがあります。
をとおき、のについての二回微分を求めます。正しい求め方は
です。しかし単純に
としてはだめなのでしょうか?実をいうとこの式はの意味を適切に考えれば間違っていません。は次のように変形できます。
の変化がという項です。本来は
という形で、の影響を含んでいるのですが、が"入力変数"のときはその刻み幅の変化はゼロとするという暗黙の了解のもと、のときのをの二回微分と定義しているのです。しかしとしを入力変数にする場合、の変化を考える必要があるため、の依存性を復活させる必要があります。
昔の微分法のメリット
高校数学ではというものが実在であり、これがの分数のように扱えるのは「うまい記法」に過ぎないという教育になっていると思います。しかし大学で全微分、微分方程式を習うと、
とか
の両辺を積分とか言われて面食らうと思います。なのでこの記事で述べたようなライプニッツの微分法に忠実な考え方のほうが結局いいのではないでしょうか?
また例えば のように「〇〇の△△についての微分」ではなく単に「〇〇の微分」を考え、との関係は後で考えるということができます。
例
定数変化法
まずになってほしい項をとして解きます。そのときでてくる積分定数を変数としてもう一回解きます。
まず
を解きます。
と置いてもう一度はじめの微分方程式をときます。
より
三角関数の加法定理を積分の関係から求める
楕円関数論の黎明期の問題で、「ラグランジュ考案オイラー改」の方法を紹介しますE506。ある曲線の弧長が座標を用いてと表せるとき、となるようなの代数的関係を求めます。曲線が円の場合
です。とおき、
となるの関係を求めます。そしてこのとき積分定数をのときとなるようにします。こうすることで
となるの関係が求まります。まず
と置きます。このは微小な定数と考えます。
これはをで微分したものではなく、を微小な定数で割ったものであることに注意してください。ここでとおきます。
より
次にの両辺を二乗し
の両辺を微分します。は定数でなので
よって
とより
ここで両辺をで割ると変数分離系になるのですが、微小量の次数を合わせるためで割ります。
を無理やり入れこんでいるように思うかもしれませんが、は任意定数で、左辺の微小量との比較ができる微小定数である必要があります。このためを使って表すことがむしろ必要です。
より
同様の議論をにも行い
のとき、なので
よって
で,
また
を満たすので、とおけば
このようにを使ってやりたい放題できるという話でした。
ありがとうございました。