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大学数学基礎解説
文献あり

ライプニッツ記法の正しい扱い方

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はじめに

オイラーの時代の数学の著作をいくつか読んでみたのですが、そこで微分法が今高校で習うものと少し違うことに気付きました。というのもdy/dxをひとまとまりにするのではなく、dy=Pdxというようにdx,dyを分けているのです。いろいろ読んでみて、dx,dyは正しく気をつければ普通の量として扱ってよいとわかりました。ここではその気をつけ方を解説します。

微小量の計算ルール

dx,dyなどの微小量は以下の計算のルールさえ守れば、普通の量とみなせます。

  • ルール1 足し算では高次の微小量を無視する。
    例えば dx+dx2dx, x+dxx と置き換えます。また係数がかかっていても、微小量どうしの比較で負けていたら無視します。たとえばx+10dxxとなります。
  • ルール2 同じ次数の微小量の比だけ意味をもつ。
    日常的な感覚でも、1+0.011+0.021としてもさほど問題はないですが、0.02/0.01という計算になると1に匹敵する大きさになりうることが分かります。なのでdy/dxという量は安易にどちらかを勝たせて0にしないようにします。同じように(dy/dx)2d2z/dxdyなどの項も残しておきます。
  • 書き方のルール
    dx2(dx)2という意味でd2xd(dx)という意味です。

y=f(x)と表すとき、yの微分はdy=f(x+dx)f(x)となります。
例えばf(x)=x2のとき
dy=(x+dx)2x2=2xdx+dx22xdx
となります。

積分

この記事 高校数学の数列と微分積分は似ているという話(和分差分) にあるように微分積分は数列の差と和に対応しています。数列の差を取る演算を
Δan=an+1an
とすれば
n=0n=N1Δan=aNa0
となり y=y(x),dy/dx=y(x)としたとき
aby(x)dx=abdy=y(b)y(x)
と似たようになるのがわかります。積分は以下のような計算を表します。
aby(x)dx=y(a)dx+y(a+dx)dx+ .. +y(bdx)dx+y(b)dx
dxの項は本来いくら足しても0になるはずですが、積分は無限回の足し算をするので、微小量の「格上げ」ができます。実際の計算では、dy=y(x)dx となる関数yを探してこの和を求めます。
abdy=y(a+dx)y(a)+y(a+2dx)y(a+dx)+y(a+3dx)y(a+2dx)+..+y(bdx)y(b2dx)+y(b)y(bdx)=y(b)y(a)
これは
k=0n1((k+1)2k2)=2k=0n1k+n=n2
というように和の求める方法と同じです。

刻み幅の変化の影響

積分編

f(x)dx
x=g(t)とおき置換積分するとき、dx=g(t)dtとして
f(g(t))g(t)dt
としますが、このときに暗黙に刻み幅の取り方を変えても積分が変わらないという事実を使っています。どういうことかというと
abf(x)dx=f(a)dx+f(a+dx)dx+ .. +f(bdx)+f(b)dx
この式では常に一定の刻み幅dxで関数を区切って足していますが、dx=g(t)dt
とし、tを変数とした積分では、dtを一定の刻み幅とするのでdxは変化します。f(g(t))=h(t), a,b に対応するtta,tbとすると
tatbh(t)g(t)dt=h(ta)g(ta)dt+h(ta+dt)g(ta+dt)dt+ .. +h(tb)g(tb)dt
なのでdx1=g(ta)dt,dx2=g(ta+dt)dt,..というよう刻み幅が変化することになります。それでも積分結果は同じになるということが、置換積分が成立するための条件です。

微分編

微分の場合、二回微分から刻み幅dxの変化の影響がでてきます。積分の場合は、計算結果が同じになるので気にしなくてもよかったですが、微分の場合注意しないといけないことがあります。
d2ydx2
x=g(t)とおき、ytについての二回微分を求めます。正しい求め方は
d2ydt2=ddt(dydt)=ddt(ydxdt)=dydtdxdt+dydxd2xdt2=y(dxdt)2+yd2xdt2
です。しかし単純に
d2ydt2=d2ydx2dx2dt2
としてはだめなのでしょうか?実をいうとこの式はd2yの意味を適切に考えれば間違っていません。d2yは次のように変形できます。
d2y=d(dy)=d(ydx)=dydx+yd2x
dxの変化がd2xという項です。本来d2y/dx2
d2ydx2=y+yd2xdx2
という形で、d2xの影響を含んでいるのですが、xが"入力変数"のときはその刻み幅の変化d2xはゼロとするという暗黙の了解のもと、d2x=0のときのd2y/dx2yの二回微分と定義しているのです。しかしx=g(t)としtを入力変数にする場合、dxの変化を考える必要があるため、d2xの依存性を復活させる必要があります。

昔の微分法のメリット

高校数学ではdy/dxというものが実在であり、これがdx,dyの分数のように扱えるのは「うまい記法」に過ぎないという教育になっていると思います。しかし大学で全微分、微分方程式を習うと、
df=fxdx+fydy
とか
dxx=dyy
の両辺を積分とか言われて面食らうと思います。なのでこの記事で述べたようなライプニッツの微分法に忠実な考え方のほうが結局いいのではないでしょうか?
また例えばd(xy)=xdy+ydx のように「〇〇の△△についての微分」ではなく単に「〇〇の微分」を考え、xyの関係は後で考えるということができます。

  • 例1
    dydx=(Ax2+B)y(Ax2B)x+CAx2B
    という微分方程式を解く
    (Ax2B)xdy(Ax2+B)ydxCxdx=0(Ax2B)(xdy+ydx)2Ax2ydxCxdx=0(Ax2B)d(xy)(2Axy+C)xdx=0d(xy)2Axy+C=xdxAx2B12Aln(2Axy+C)=12Aln(Ax2B)+K2Axy+CAx2B=K
  • 例2
    xyy=x2lnx

xdyydxx2=lnxdxd(yx)=lnxdxyx=xlnxx+Cy=x2(lnx1)+Cx

定数変化法

まず0になってほしい項を0として解きます。そのときでてくる積分定数を変数としてもう一回解きます。
dydx=x+y
dy=xdx+ydx
まず
dyydx=0
を解きます。
dy/y=dxlny=x+Cy=Cex
y=sexと置いてもう一度はじめの微分方程式をときます。
dy=exds+sexdxより
exds+sexdx=xdx+sexdxexds=xdxds=exxdxs=exxdx+Cy=ex(exxex+C)=Cexx1

三角関数の加法定理を積分の関係から求める

楕円関数論の黎明期の問題で、「ラグランジュ考案オイラー改」の方法を紹介しますE506。ある曲線の弧長が座標xを用いてL(x)と表せるとき、L(x)+L(y)=L(z)となるようなx,y,zの代数的関係を求めます。曲線が円の場合
L(x)=dx1x2
です。X=1x2,Y=1y2とおき、
dxX+dyY=0
となるx,yの関係を求めます。そしてこのとき積分定数をy=0のときx=zとなるようにします。こうすることで
0xdxX+0ydyY=0zdzZ
となるx,y,zの関係が求まります。まず
dxX=dyY=dt
と置きます。このdtは微小な定数と考えます。
dxdt=X(1)dydt=Y
これはx,ytで微分したものではなく、dx,dyを微小な定数dtで割ったものであることに注意してください。ここでp=x+y,q=xyとおきます。
dpdt=XYdqdt=X+Y
より
(2)dpdqdt2=XY=x2+y2=pq
次に(1)の両辺を二乗し
dx2dt2=X=1x2dy2dt2=Y=1y2
の両辺を微分します。dtは定数でd(dx2)=2dxd2xなので
d2xdt2=xd2ydt2=y
よって
(3)d2pdt2=p
(2)(3)より
d2pdt2q=dpdqdt2
ここで両辺をqdpで割ると変数分離系になるのですが、微小量の次数を合わせるためqdp/dtで割ります。
d2pdpdt=dqqdt
lndp=lnq+ln(Cdt)dp/q=Cdt
dtを無理やり入れこんでいるように思うかもしれませんが、Cは任意定数で、左辺の微小量との比較ができる微小定数である必要があります。このためdtを使って表すことがむしろ必要です。
dp/dt=XY より
XYxy=C
同様の議論をqにも行い
X+Yx+y=D
x=z,y=0のとき、X=Z,Y=1なので
C=Z1zD=Z+1z
よって
Z=D+CDC=(X+Y)(xy)+(XY)(x+y)(X+Y)(xy)(XY)(x+y)=xXyYxYyX=(xXyY)(xY+yX)x2Yy2X=(x2y2)XY+xy(XY)x2y2=XYxy
X=1x2,Y=1y2,Z=1z2で,
dxX=arcsinx
また
0xdxX+0ydyY=0zdzZ
を満たすので、0xdxX,0ydyY=a,bとおけば
cos(a+b)=cos(a)cos(b)sin(a)sin(b)
このようにdx,dyを使ってやりたい放題できるという話でした。
ありがとうございました。

参考文献

投稿日:202434
更新日:2024311
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17世紀の数学を学び始めました。 https://www.17centurymaths.com/ このサイト素晴らしい。

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