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デデキント・マクニール完備化
(Dedekind-MacNeille completion) という概念を知ったので,勉強したことを書き残しておきます.
デデキント・マクニール完備化とは,半順序集合に対して,それを含む最小の完備束を構成する操作のことです.
Wikipedia
に載っていた
画像
上の画像が何をしているのかイメージできるようになることを目標に解説していきます.
詳しくは後述しますが,デデキント・マクニール完備化は冪集合の部分集合として構成されます.
半順序集合を,冪集合に含まれるある完備束に埋め込む
準備
上界・下界
を半順序集合とし,をの部分集合とする.
このときの上界全体の集合をと書き,の下界全体の集合をと書く.
を半順序集合とし,とする.このとき,次の3条件は同値である.
- .
- .
- .
(1)(2) のみ示す.((1)(3) も同様)
- :を任意に取ると,よりが成り立つ.
- :反射律よりとなるからである.
を半順序集合とし,をの部分集合とする.このとき,次のことが成り立つ.
- とが成り立つ.
- であれば,とが成り立つ.
- であれば,とが成り立つ.
- とが成り立つ.
- を任意に取る.このとき任意のに対してが成り立つから,はの下界でありを得る.同様に,任意のに対してが成り立つから,はの上界でありも成り立つ.
- とを任意に取ると,よりだからが成り立ち,を得る.も同様に示せる.
- (2)よりが成り立つから,再び(2)を使えばを得る.も同様に示せる.
- (1)よりが成り立つから,(2)よりである.また,(1)よりでもある.も同様に示せる.
特に次の3性質が成り立つことに注意しておきます.
前命題 (1),(2) よりは
Galois接続
である.
(4) が成り立つことやが閉包作用素となること(に対応する主張)は,一般のGalois接続に対しても全く同様に示される.
だから,最小元をもつ半順序集合を考えればよい.たとえば大小関係による半順序集合はを最小元にもつから
である.
完備束
任意の部分集合が上限と下限をもつような半順序集合を
完備束
といいますが,この定義は「次の2条件 (1), (2) のどちらか一方を満たすこと」と弱めることができます.
半順序集合について,次の2条件は同値である.
- の任意の部分集合が上限をもつ.
- の任意の部分集合が下限をもつ.
(1)(2) のみ示す(逆も同様)
の任意の部分集合に対して,下記2点よりがの下限となる.
- とより,はの下界である.
- の下界を任意に取ると,よりが成り立つ.
この証明から,次のこともわかります.
順序埋め込み
順序埋め込み
半順序集合と写像を考える.
- が単調増加であるとは,を満たす任意のに対してが成り立つことをいう.
- が順序を反映するとは,を満たす任意のに対してが成り立つことをいう.
- が順序埋め込みであるとは,が単調増加かつ順序を反映することをいう.
順序を反映する写像は単射
半順序集合と順序を反映する写像について,は単射である.
がを満たすとき,反射律よりかつが成り立つ.するとが順序を反映することからかつとなり,反対称律よりを得る.
デデキント・マクニール完備化
定義と最小性
デデキント・マクニール完備化の定義を述べる前に,次の命題を示しておきます.
閉包作用素による完備束の像は完備束
を完備束とし,写像は次の3条件を満たすとする.
- 任意のに対して,が成り立つ.
- を満たす任意のに対して,が成り立つ.
- 任意のに対して,が成り立つ.
このとき,次のことが成り立つ.
- 任意のに対して,が成り立つ.
- である.(ただし,はによるの像とした.(矢印記法))
- の部分集合に対して,(における)の上限・下限がともに存在して
が成り立つ.よって,は(の半順序部分集合として)完備束である.
- 条件1よりだから,条件2よりとなる.これと条件3を合わせればよい.
- 任意のに対して,を満たすを取ればとなる.逆の包含は明らか.
- まず上限について,任意のに対して
が成り立つから,はの上界である.またの上界を任意に取ると,より
が成り立つから,はの上界の最小元でありを得る.
下限については,であることを示せばよい.任意のに対して,よりが成り立つ(に注意).よってはにおけるの下界だからを得る.
,に対して上の命題を使えば,次の完備束が得られます.
デデキント・マクニール完備化
半順序集合に対して,そのデデキント・マクニール完備化を
で定める.
半順序集合のデデキント・マクニール完備化は(包含関係に関して)完備束である.
半順序集合は,そのデデキント・マクニール完備化に埋め込むことができます.
つまり,とを同一視することによって,をの半順序部分集合とみなせます.
を半順序集合とし,各に対してとおく.
- 任意のに対して,が成り立つ.
- 写像は順序埋め込みである.
- 既に示した通りが成り立つから,である.
- 既に示した通り,についてであることとであることは同値である.
またデデキント・マクニール完備化は,次の意味でを含む最小の完備束になっています.
デデキント・マクニール完備化の最小性
半順序集合と完備束および順序埋め込みに対して,を満たす順序埋め込みが存在する.
写像が所望の性質を満たすことを確認する.まず任意のに対して,下記2点よりが成り立つ.
- 任意のに対してよりが成り立つから,はの上界である.
- 反射律よりであることを踏まえると,の任意の上界に対してが成り立つ.
また,下記2点よりは順序埋め込みである.
- がを満たすとき,よりである.
- がを満たすとし,とを任意に取る.このときの単調増加性よりはの上界となるので
よりが成り立ち,である.
半順序集合とその部分集合に対して
が成り立つことを示せ.
次の2式を示せば十分.
.
のとき,反射律よりが成り立つからである.またのとき,を満たすが存在する.このとき任意のに対してが成り立つから,となる.
.
のとき,任意のに対してよりが成り立つから
である.またのとき,任意のに対してよりが成り立つから,となる.
を半順序集合とし,を単調増加写像とする.このとき,ある単調増加写像が存在して,任意のに対して
が成り立つことを示せ.
解答例
(デデキント・マクニール完備化の最小性の証明で「が順序を反映すること」は「が順序を反映すること」を示すためにしか使わなかったことに注意して,に対して同じ議論をすればよい.)
,とし,
で定める写像が所望の性質を満たすことを確認する.
- を任意に取る.このとき任意のに対して
が成り立つことに注意すれば
- を満たすを任意に取る.このとき
よりを得る.
例
のデデキント・マクニール完備化
はと順序同型である.(は大小関係によって全順序集合とみなしている)
の部分集合に対して,次のことが成り立つ.
- が上に有界である場合:の最小元が存在してが成り立つ.
- が上に有界でない場合:が成り立つ.
したがってである.すると,次の写像は明らかに順序同型である.
のデデキント・マクニール完備化
はと順序同型である.(は大小関係によって全順序集合とみなしている)
順序埋め込みと包含写像に対して,を満たす順序埋め込みが存在し,このの全射性が次のように示せる.
- を任意に取り,とおく.このときの稠密性より
が成り立つから,であり拡大実数を考えることができる.を示すためを任意に取ると,を満たす有理数が存在し,が順序埋め込みであることから
が成り立つ.よっての任意性よりを得る. - よりであることに注意すると,拡大実数を考えることができる.ところでは順序埋め込みだから,任意の有理数に対して
が成り立ち,を得る.同様にしても成り立つ.
他にも簡単な例をいくつか挙げておきます.
(どのような半順序を考えているか説明するのは大変なので,ハッセ図で済ませます.)
反鎖
デデキント・マクニール完備化によって最大元と最小元が増えた
反鎖のデデキント・マクニール完備化
2個以上の元をもつ集合を等号によって半順序集合とみなす.このとき,デデキント・マクニール完備化はと順序同型であることを示せ.ただし,はに属さないある元であり,は次の半順序
によってを含む半順序集合とみなしている.
解答例
の部分集合について,次のことが成り立つ.
したがってである.すると,次の写像は明らかに順序同型である.
有限全順序集合
有限全順序集合は完備束だから,そのデデキント・マクニール完備化はと順序同型である.
デデキント・マクニール完備化しても変わらない(その1)
デデキント・マクニール完備化しても変わらない(その2)
デデキント・マクニール完備化によって最大元が増えた
デデキント・マクニール完備化によって最小元が増えた
デデキント・マクニール完備化によって最大元が増えた
デデキント・マクニール完備化によって3つの元が増えた
点からなる次の半順序集合に対して,そのデデキント・マクニール完備化のハッセ図を描け.
N字のハッセ図
解答例
解答例
誤りがあればご指摘いただけると幸いです.
ここまでお読みいただきありがとうございました.