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大学数学基礎解説
文献あり

デデキント・マクニール完備化

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Wikipediaを眺めていたら デデキント・マクニール完備化 (Dedekind-MacNeille completion) という概念を知ったので,勉強したことを書き残しておきます.
デデキント・マクニール完備化とは,半順序集合に対して,それを含む最小の完備束を構成する操作のことです.

[Wikipedia](https://en.wikipedia.org/wiki/Dedekind%E2%80%93MacNeille_completion)に載っていた[画像](https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Dedekind-Macneille_completion.svg) Wikipedia に載っていた 画像

上の画像が何をしているのかイメージできるようになることを目標に解説していきます.
詳しくは後述しますが,デデキント・マクニール完備化は冪集合の部分集合として構成されます.

半順序集合!FORMULA[0][37205][0]を,冪集合!FORMULA[1][754177012][0]に含まれるある完備束!FORMULA[2][1329949504][0]に埋め込む 半順序集合Sを,冪集合2Sに含まれるある完備束DM(S)に埋め込む

準備

上界・下界

Sを半順序集合とし,ASの部分集合とする.
このときAの上界全体の集合をAuと書き,Aの下界全体の集合をAlと書く.
Au:={uS任意の aA に対して au が成り立つ},Al:={lS任意の aA に対して la が成り立つ}.

(S,)を半順序集合とし,x,ySとする.このとき,次の3条件は同値である.

  1. xy.
  2. {x}l{y}l.
  3. {x}u{y}u.
(1)(2) のみ示す.((1)(3) も同様)
  • ()z{x}lを任意に取ると,zxyよりz{y}lが成り立つ.
  • ():反射律よりx{x}l{y}lとなるからxyである.

(S,)を半順序集合とし,A,BSの部分集合とする.このとき,次のことが成り立つ.

  1. AAulAAluが成り立つ.
  2. ABであれば,AuBuAlBlが成り立つ.
  3. ABであれば,AulBulAluBluが成り立つ.
  4. Aulu=AuAlul=Alが成り立つ.
  1. aAを任意に取る.このとき任意のuAuに対してauが成り立つから,aAuの下界でありaAulを得る.同様に,任意のlAlに対してlaが成り立つから,aAlの上界でありaAluも成り立つ.
  2. uBuaAを任意に取ると,ABよりaBだからauが成り立ち,uAuを得る.AlBlも同様に示せる.
  3. (2)よりAuBuが成り立つから,再び(2)を使えばAulBulを得る.AluBluも同様に示せる.
  4. (1)よりAAulが成り立つから,(2)よりAuAuluである.また,(1)よりAuAuluでもある.Alul=Alも同様に示せる.

特に次の3性質が成り立つことに注意しておきます.

AAul 閉包作用素
  • AAulである.
  • ABならば,AulBulである.
  • (Aul)ul=Aulである.

前命題 (1),(2) より()u:2X2X:()l Galois接続 である.
(4) が成り立つことやAAulが閉包作用素となること(に対応する主張)は,一般のGalois接続に対しても全く同様に示される.

ul=満たさない半順序集合Sの例を一つ挙げよ.

u=Sだから,最小元をもつ半順序集合を考えればよい.たとえば大小関係による半順序集合N0を最小元にもつから
ul=Nl={0}
である.

完備束

任意の部分集合が上限と下限をもつような半順序集合を 完備束 といいますが,この定義は「次の2条件 (1), (2) のどちらか一方を満たすこと」と弱めることができます.

半順序集合Sについて,次の2条件は同値である.

  1. Sの任意の部分集合が上限をもつ.
  2. Sの任意の部分集合が下限をもつ.
(1)(2) のみ示す(逆も同様)

Sの任意の部分集合Aに対して,下記2点よりsupS(Al)Aの下限となる.

  • supS(Al)=min(Alu)AluAより,supS(Al)Aの下界である.
  • Aの下界xSを任意に取ると,xAlよりxsupS(Al)が成り立つ.

この証明から,次のこともわかります.

完備束Lとその部分集合Aに対して,supL(A)=infL(Au)infL(A)=supL(Al)が成り立つ.

順序埋め込み

順序埋め込み

半順序集合S,Lと写像ι:SLを考える.

  1. ι単調増加であるとは,xyを満たす任意のx,ySに対してι(x)ι(y)が成り立つことをいう.
  2. ι順序を反映するとは,ι(x)ι(y)を満たす任意のx,ySに対してxyが成り立つことをいう.
  3. ι順序埋め込みであるとは,ιが単調増加かつ順序を反映することをいう.
順序を反映する写像は単射

半順序集合S,Lと順序を反映する写像ι:SLについて,ιは単射である.

x,ySι(x)=ι(y)を満たすとき,反射律よりι(x)ι(y)かつι(x)ι(y)が成り立つ.するとιが順序を反映することからxyかつxyとなり,反対称律よりx=yを得る.

デデキント・マクニール完備化

定義と最小性

デデキント・マクニール完備化の定義を述べる前に,次の命題を示しておきます.

閉包作用素による完備束の像は完備束

Lを完備束とし,写像Cl:LxxLは次の3条件を満たすとする.

  • 任意のxLに対して,xxが成り立つ.
  • xyを満たす任意のx,yLに対して,xyが成り立つ.
  • 任意のxLに対して,xxが成り立つ.

このとき,次のことが成り立つ.

  1. 任意のxLに対して,x=xが成り立つ.
  2. Cl(L)={xLx=x}である.(ただし,Cl(L)ClによるLの像とした.(矢印記法))
  3. Cl(L)の部分集合Sに対して,(Cl(L)における)Sの上限・下限がともに存在して
    supCl(L)(S)=supL(S),infCl(L)(S)=infL(S)
    が成り立つ.よって,Cl(L)は(Lの半順序部分集合として)完備束である.
  1. 条件1よりxxだから,条件2よりxxとなる.これと条件3を合わせればよい.
  2. 任意のxCl(L)に対して,x=yを満たすyLを取ればx=y=y=xとなる.逆の包含は明らか.
  3. まず上限について,任意のxSに対して
    xsupL(S)supL(S)
    が成り立つから,supL(S)Sの上界である.またSの上界uCl(L)を任意に取ると,supL(S)uより
    supL(S)u=u
    が成り立つから,supL(S)Sの上界の最小元でありsupCl(L)(S)=supL(S)を得る.
    下限については,infL(S)Cl(L)であることを示せばよい.任意のxSに対して,infL(S)xよりinfL(S)x=xが成り立つ(xSCl(L)に注意).よってinfL(S)LにおけるSの下界だからinfL(S)infL(S)を得る.

L=2SCl(A)=Aulに対して上の命題を使えば,次の完備束DM(S)が得られます.

デデキント・マクニール完備化

半順序集合Sに対して,そのデデキント・マクニール完備化DM(S)
DM(S):={A2SAul=A}
で定める.

半順序集合Sのデデキント・マクニール完備化DM(S)は(包含関係に関して)完備束である.

前命題から従う.

半順序集合Sは,そのデデキント・マクニール完備化DM(S)に埋め込むことができます.
つまり,xS{x}lDM(S)を同一視することによって,SDM(S)の半順序部分集合とみなせます.

Sを半順序集合とし,各xSに対してι(x):={x}lとおく.

  1. 任意のxSに対して,ι(x)DM(S)が成り立つ.
  2. 写像ι:SDM(S)は順序埋め込みである.
  1. 既に示した通り{x}l={x}lulが成り立つから,ι(x)=ι(x)ulである.
  2. 既に示した通り,x,ySについてxyであることと{x}l{y}lであることは同値である.

またデデキント・マクニール完備化DM(S)は,次の意味でSを含む最小の完備束になっています.

デデキント・マクニール完備化の最小性

半順序集合Sと完備束Lおよび順序埋め込みj:SLに対して,j=jιを満たす順序埋め込みj:DM(S)Lが存在する.

写像j:DM(S)AsupL(j(A))Lが所望の性質を満たすことを確認する.まず任意のxSに対して,下記2点よりj(x)=(jι)(x)が成り立つ.

  • 任意のyι(x)に対してyxよりj(y)j(x)が成り立つから,j(x)j(ι(x))の上界である.
  • 反射律xι(x)よりj(x)j(ι(x))であることを踏まえると,j(ι(x))の任意の上界uLに対してj(x)uが成り立つ.

また,下記2点よりjは順序埋め込みである.

  • A,BDM(S)ABを満たすとき,j(A)j(B)よりj(A)j(B)である.
  • A,BDM(S)j(A)j(B)を満たすとし,aAuBuを任意に取る.このときjの単調増加性よりj(u)j(B)の上界となるので
    j(a)supL(j(A))=j(A)j(B)=infL(j(B)u)j(u)
    よりauが成り立ち,aBul=Bである.

半順序集合Sとその部分集合ADM(S)に対して
A=ι(A)=ι(Au)
が成り立つことを示せ.

次の2式を示せば十分.

  • Aι(A)Aul.

    aAのとき,反射律よりaι(a)が成り立つからa{ι(a)aA}=ι(A)である.またxι(A)のとき,xι(a)を満たすaAが存在する.このとき任意のuAuに対してxauが成り立つから,xAulとなる.

  • Aι(Au)Aul.

    aAのとき,任意のuAuに対してauよりaι(u)が成り立つから
    a{ι(u)uAu}=ι(Au)
    である.またxι(Au)のとき,任意のuAuに対してxι(u)よりxuが成り立つから,xAulとなる.

S,Tを半順序集合とし,f:STを単調増加写像とする.このとき,ある単調増加写像DM(f):DM(S)DM(T)が存在して,任意のxSに対して
DM(f)({sSsx})={tTtf(x)}
が成り立つことを示せ.

解答例

デデキント・マクニール完備化の最小性の証明で「jが順序を反映すること」は「jが順序を反映すること」を示すためにしか使わなかったことに注意して,j=ιTfに対して同じ議論をすればよい.)

ιS:Sx{sSsx}DM(S)ιT:Ty{tTty}DM(T)とし,
DM(f)(A):=supDM(T)((ιTf)(A))
で定める写像DM(f):DM(S)DM(T)が所望の性質を満たすことを確認する.

  • xSを任意に取る.このとき任意のsιS(x)に対して
    (ιTf)(s)(ιTf)(x)
    が成り立つことに注意すれば
    DM(f)(ιS(x))=supDM(T)((ιTf)(ιS(x)))=(ιTf)(x).
  • ABを満たすA,BDM(S)を任意に取る.このとき
    (ιTf)(A)(ιTf)(B)
    よりDM(f)(A)DM(f)(B)を得る.

Nのデデキント・マクニール完備化

DM(N)N{}と順序同型である.(Q,N{}は大小関係によって全順序集合とみなしている)

Nの部分集合Aに対して,次のことが成り立つ.

  • Aが上に有界である場合:Auの最小元nが存在してAul={0,1,,n}が成り立つ.
  • Aが上に有界でない場合:Aul=l=Nが成り立つ.

したがってDM(N)={{0,1,,n}nN}{N}である.すると,次の写像j:N{}DM(N)は明らかに順序同型である.
j(n):={{0,1,,n}(nN),N(n=).

Qのデデキント・マクニール完備化

DM(Q)R=R{,}と順序同型である.(Q,Rは大小関係によって全順序集合とみなしている)

順序埋め込みι:Qx(,x]QDM(Q)と包含写像j:QRに対して,j=jιを満たす順序埋め込みj:DM(Q)Rが存在し,このjの全射性が次のように示せる.

  • yRを任意に取り,A:=(,y]Qとおく.このときQの稠密性より
    Aul=([y,)Q)l=(,y]Q=A
    が成り立つから,ADM(Q)であり拡大実数j(A)Rを考えることができる.y=j(A)を示すためε(0,)を任意に取ると,yε<xyx+<y+εを満たす有理数x,x+Qが存在し,jが順序埋め込みであることから
    yε<x=j((,x]Q)j(A)j((,x+]Q)=x+<y+ε
    が成り立つ.よってεの任意性よりy=j(A)を得る.
  • ul=Ql=よりDM(Q)であることに注意すると,拡大実数j()Rを考えることができる.ところでjは順序埋め込みだから,任意の有理数xQに対して
    x=j(x)=j((,x]Q)j()
    が成り立ち,j()=を得る.同様にしてj(Q)=も成り立つ.

他にも簡単な例をいくつか挙げておきます.
(どのような半順序を考えているか説明するのは大変なので,ハッセ図で済ませます.)

反鎖

デデキント・マクニール完備化によって最大元と最小元が増えた デデキント・マクニール完備化によって最大元と最小元が増えた

反鎖のデデキント・マクニール完備化

2個以上の元をもつ集合Sを等号=によって半順序集合とみなす.このとき,デデキント・マクニール完備化DM(S)S{,}と順序同型であることを示せ.ただし,,Sに属さないある元であり,S{,}は次の半順序
xyx= または y= または x=y
によってSを含む半順序集合とみなしている.

解答例

Sの部分集合Aについて,次のことが成り立つ.

  • A=のとき,Aul=Sl=である.
  • #A=1のとき,Aul=Al=Aである.
  • #A2のとき,Aul=l=Sである.
したがってDM(S)={,S}{{x}xS}である.すると,次の写像j:S{,}DM(S)は明らかに順序同型である.
j(x):={(x=),{x}(xS),S(x=).

有限全順序集合

有限全順序集合Sは完備束だから,そのデデキント・マクニール完備化DM(S)Sと順序同型である.
デデキント・マクニール完備化しても変わらない(その1) デデキント・マクニール完備化しても変わらない(その1)
デデキント・マクニール完備化しても変わらない(その2) デデキント・マクニール完備化しても変わらない(その2)

デデキント・マクニール完備化によって最大元が増えた デデキント・マクニール完備化によって最大元が増えた

デデキント・マクニール完備化によって最小元が増えた デデキント・マクニール完備化によって最小元が増えた

デデキント・マクニール完備化によって最大元が増えた デデキント・マクニール完備化によって最大元が増えた

デデキント・マクニール完備化によって3つの元が増えた デデキント・マクニール完備化によって3つの元が増えた

4点からなる次の半順序集合に対して,そのデデキント・マクニール完備化のハッセ図を描け.
N字のハッセ図 N字のハッセ図

解答例 解答例 解答例

誤りがあればご指摘いただけると幸いです.
ここまでお読みいただきありがとうございました.

参考文献

投稿日:2024724
更新日:126
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