自然数は0を含まないものとする。
連続フーリエ変換は連続かつ非周期関数のフーリエ変換を指し、フーリエ変換は広義の、時間の関数から周波数の関数への変換を指すものとする。
はじめに
実離散フーリエ変換とは
離散フーリエ変換は離散時間の関数を離散周波数の関数に変換するものです。
有限のデータを扱うため、音声や画像などのデータ処理において重宝されます。
また、フーリエ変換は三角関数や複素指数関数の基底変換(後述)として捉えることができます。
この場合、連続関数や無限次元ベクトル空間であれば収束条件や積分と極限の入れ替えなどの解析的な議論が必要となるため、無限次元のフーリエ級数展開から連続フーリエ変換を導出するよりも、有限次元の離散フーリエ変換からフーリエ変換を導出した方が分かりやすいと思われます。
一方で、一般的に離散フーリエ変換は複素数を用いて以下のように表現されます。
複素離散フーリエ変換
関数の複素離散フーリエ変換は
複素離散逆フーリエ変換は
フーリエ級数展開や連続フーリエ変換が実数から複素数に拡張したように、離散フーリエ変換も実数から考える方が直感的理解につながると思われます。
そこで、このシリーズでは離散フーリエ変換の実数表現、つまり実離散フーリエ変換を、基底変換として導出し、最後にフーリエ級数展開と複素離散フーリエ変換の対応について見ていきます。
このシリーズの道筋
- 数ベクトル空間・基底変換とは何かを説明する。(前編)
正規直交基底により任意のベクトルが展開できることなどを示す。 - 離散三角関数の直交性を示す。(中編)
前編の議論から離散三角関数が正規直交基底になることが示せる。 - 正規直交基底の離散三角関数から実離散フーリエ変換を導出し、フーリエ級数展開や複素離散フーリエ変換との対応を調べる。(後編)
数ベクトルと直交
数ベクトル
とする。
に対して,和と実数倍を
と定義したとき、を実次元数ベクトル空間または単に数ベクトル空間といい、その各元を実次元数ベクトル、または単に数ベクトルという。
を零ベクトルという
これから説明することは一般のベクトル空間でも定義できますが、情報を減らすために実離散フーリエ変換に関わる実次元数ベクトル空間に絞って説明します。
一次結合・スパン・一次独立・一次従属
数ベクトルと実数に対して
をの一次結合という。
の一次結合で表されるベクトル全体の集合をのスパンといい、
と表す。また、
となるとき、は一次独立であるという。
一次独立の一意性
一次独立な数ベクトルに対して
となる。つまり一次独立なら一次結合の表し方は一通りしかない。
数ベクトルが一次独立であるとする。
となるが少なくとも一つ存在すると仮定すると、
としたときにが解の一つになるから、が一次独立であることと矛盾する。よって、
内積・ノルム
数ベクトルに対して
をとの内積という。また、
をのノルムという。
となるとき、とが直交するという。
直交系・正規直交系
数ベクトルが互いに直交するとき、つまり
となるとき、を直交系という。
また、基底が互いに直交してそれぞれのノルムが1のとき、つまり
となるとき、を正規直交系という。
直交と線形独立
数ベクトルが直交系でそれぞれ零ベクトルでなければ線形独立である。
とおき、係数が全てになることを示す。
一般に任意のに対してとなるから
数ベクトルが互いに直交するとき、ならばであるため、
仮定よりは零ベクトルでないため、より
よっては線形独立である。
基底変換
基底
数ベクトルが
- 一次独立かつ
- 任意の数ベクトルをその一次結合で表せる、
つまりのスパンがとなるとき
をの基底という。
基底と一意性
基底の一次結合による数ベクトルの表し方は一通りしかない。
基底変換
任意の数ベクトルを、ある基底の一次結合から別の基底の一次結合で表すとき、これを基底変換という。
直交基底・正規直交基底
が直交系かつ基底となるとき、を直交基底という。
また、が正規直交系かつ基底となるとき、を正規直交基底という。
基底による展開
任意のベクトルは、の正規直交基底によって次のように表せる。
このように与えられたベクトルを正規直交基底の一次結合で表すことを、のによる展開という。
がの基底であるため、任意のベクトル を次のように線形結合で表せる。
さらには正規直交基底であるため、との内積は次のようになる。
よってとなるからは次のように表せる。
取り換え定理
数ベクトルのスパンをとする。つまり
が一次独立のとき、の内、ある個をに置き換えてもそれらのスパンがとなる。
つまり、とすると
数学的帰納法で示す。
まずの場合を考える。
が一次独立であるから補題2より
のスパンはだからを次のように表せる。
仮にとするとと矛盾するからとなるが存在する。
とすると、以外の番号をとなるように定める。
このとき、を次のようにと()の線形結合で表せる。
よって
より、とを置き換えられた。
次にで個のときに成り立つとして、個でも成り立つことを示す。仮定より
と仮定すると、
これはが一次独立であることと矛盾するため、となるが少なくとも一つ存在する。
を除くからをとなるように番号を定めると、を次のようにと()の線形結合で表せる。
よって
よってとを置き換えられた。
数学的帰納法より、全てので示された。
線形独立と基底
個の次ベクトルは線形独立なら次ベクトル空間の基底になる。
定理5の取り換え定理でを次基底ベクトルとしてを個の次ベクトルとすると、基底になることが分かる。
直交と基底
個の次ベクトルは互いに直交するなら次ベクトル空間の基底になる。
中編で離散三角関数の直交性を示し、命題7より基底となることを示します。