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素数、代数閉体、極大イデアルの無限性を乗法群で見る!!

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より広く触れられている 文献 を見つけました。

素数と代数閉体の無限性

素数の無限性

素数は無限に存在する。

素数が有限個だと仮定するし、$p_1,p_2,…,p_n$が全ての素数だとする。このとき$p_1p_2…p_n+1$という整数は$p_1,p_2,…,p_n$と互いに素なのでこれらとは違う素因数を持つが、これは$p_1,p_2,…,p_n$が全ての素数であることに矛盾する。

代数閉体の無限性

代数閉体は無限体である。

$K$を代数閉体な有限体とする。すると非定数多項式$f(x)=\prod_{k∈K}(x-k)+1$を考えられるが、これは任意の$k∈K$に対して$f(k)=1$であり零点を持たないが、これは$K$が代数閉体であることに矛盾する。

この2つの無限性証明には「全てを掛けて、1ズラす(+1する)」という似た部分があります。
環論的には、素数や$(x-k)$というのは極大イデアルに対応し、全てを掛けるという部分はジャコブソン根基というものに対応しています。
これらの概念の下、定理1、定理2を一般化して行きます。

乗法群が有限なとき

ジャコブソン根基

可換環$A$に対して、任意の極大イデアルの交差を$A$のジャコブソン根基といい、$\mathrm{J}(A)$と表す。

極大イデアルが有限個のとき、互いに異なる極大イデアルは互いに素であるため、ジャコブソン根基は全ての極大イデアルの積と見なすことができます。だから極大イデアルの無限性を示す際、定理1や定理2の証明のように全て掛けるという操作がジャコブソン根基に対応していると思えます。
ジャコブソン根基には以下の強力な性質があります。

ジャコブソン根基の性質

可換環$A$とイデアル$I$に対して以下は同値である。

  1. $I\subset \mathrm{J}(A)$
  2. $1+I\subset A^×$
  3. $1+I$が乗法で群となる

(1$\Rightarrow$2)
$i∈I$に対して$1+i\not \in A^×$とするとある極大イデアル$ \mathfrak{m}$$1+i\in \mathfrak{m}$となるが$I\subset \mathrm{J}(A)$なので$i\in \mathfrak{m}$であり、$1=(1+i)-i\in \mathfrak{m}$となり矛盾する。
(2$\Rightarrow$1)
$i\in I\backslash \mathrm{J}(A)$が取れたとすると、ある極大イデアル$\mathfrak{m}$$i\not \in \mathfrak{m}$となるので$(i)+\mathfrak{m}=A$となる。よってある$a\in A$$m∈\mathfrak{m}$$-1=ai+m$とかけて$1+ai=-m\in \mathfrak{m}$とかけるが$1+ai\in 1+I\subset A^×$に矛盾する。
(2$\Rightarrow$3)
$i_1,i_2∈I$を任意にとると、仮定より$1+i_1\in A^×$である。$\frac{1+i_2}{1+i_1}=1+\frac{i_2-i_1}{1+i_1}$であり$\frac{i_2-i_1}{1+i_1}\in I$なので$1+I$は乗法で群となる。
(3$\Rightarrow$2)
自明。

直感的に解釈するならば、ジャコブソン根基は非常に$0$に近い元の集合であると言えるのかもしれません。だから1ズラした結果というのは1と似た性質(単元性)を持つようになるのだと思います。
例えば代数閉体の多項式環において、極大イデアルは代数閉体の元に対応し、これを代入して0になる多項式の全体になります。つまりジャコブソン根基に含まれる(全ての極大イデアルに含まれる)ことは、全ての値に対して0になるような多項式、つまり関数として0になる多項式であることと同値です。これは非常に0に近い多項式だと言えます。
但し、代数閉体の多項式環では(定理2より無限体であることが分かるので)多項式が関数として0ならば多項式としても0になり、ジャコブソン根基は0になります。

ジャコブソン根基が0になる

可換整域$A$に対して$\mathrm{J}(A)=(0)$なら、$A$は体か極大イデアルを無限に持つ。

$A$が体でないかつ極大イデアルを無限に持たないとし、$\mathfrak{m}_1,\mathfrak{m}_2…,\mathfrak{m}_n$を全ての極大イデアルとする。ここで$m_k\in\mathfrak{m}_k\backslash (0)$が取れて、整域性より$m_1m_2…m_k≠0$が成り立つが、$m_1m_2…m_k\in \mathrm{J}(A)=(0)$でありこれは矛盾する。

補題4は、整域において極大イデアルという点で元の挙動を決められるならば、体という単純な構造であるか、極大イデアルを十分多く(少なくとも有限個ではない)持たなければならないということを言っています。
そして極大イデアルの無限性証明において補題4は強力に働いてくれます。

乗法群が有限のとき

可換整域$A$の乗法群が有限なら、$A$は体か極大イデアルを無限に持つ。

補題4より$\mathrm{J}(A)=(0)$を示せばよい。
$r\in \mathrm{J}(A)\backslash (0)$が取れたとき整域性から$s:A \ni a \longmapsto 1+ra \in A$は単射であり、ジャコブソン根基の性質から$s(A)=1+rA\subset A^×$が言えるので$|A|≦|A^×|$より$A$は有限である。$0\in A\backslash s(A)$であるが、これは有限集合の自身への単射が全単射になることに矛盾する。

定理1. 素数は無限に存在する。
定理2. 代数閉体は無限体である。

(定理1)
$\mathbb{Z}^×=\{1,-1\}$より$\mathbb{Z}$の乗法群は有限であり、$\mathbb{Z}$は体でない可換整域なので定理5より極大イデアルを無限に持つ。素数は整数環$\mathbb{Z}$の極大イデアルに対応するので素数は無限に存在する。
(定理2)
$K$を有限体だとすると$K[x]^×=K^×$より$K[x]$の乗法群は有限であり、$K[x]$は体でない可換整域なので定理5より極大イデアルを無限に持つ。代数閉体$K$の元は$K[x]$の極大イデアルに対応するので、$K$は無限に元を持つがこれは$K$が有限体だったことに矛盾する。

見たように、定理5は定理1と定理2の結果の一般化と考えることができます(定理2の方の証明は系と考えていいのか怪しいですが)。回りくどいですが循環論法にはなっていない(はず)なので定理1と定理2の別証明とも言うことが出来ると思います。
ここで重要だったのは、乗法群に有限という強い制約を付けることによって、ジャコブソン根基(の元)を用いて作られた単元の構造を大きくさせ過ぎないことだと思います。
しかし乗法群が有限であるという条件は強すぎるようにも思います。或いは、ここの部分をもう少し一般化できないかを考えてみたいです。
最後に乗法群が有限生成な可換整域という仮定の下、極大イデアルの無限性について考えたいと思います(まあジャコブソン根基の0性何ですが)。

乗法群が有限生成なとき

加法と乗法の関係

$A$のイデアル$I,J$$I^2\subset J\subset I\subset \mathrm{J}(A)$を満たすとき、$I/J\cong (1+I)/(1+J)$が成り立つ。

蛇足かもですが、$1+I$$1+J$はジャコブソン根基の性質より乗法で群になります。
つまり同型の左辺は加法、右辺は乗法で群を見ています。

写像$φ:I \ni i \longmapsto [1+i] \in (1+I)/(1+J)$を定める。$i_1,i_2∈I$を任意に取ったとき$φ(i_1)φ(i_2)=[1+i_1][1+i_2]=[1+i_1+i_2+i_1i_2]=[(1+i_1+i_2)\frac{1+i_1+i_2+i_1i_2}{1+i_1+i_2}]=[(1+i_1+i_2)(1+\frac{i_1i_2}{1+i_1+i_2})]=[1+i_1+i_2]=φ(i_1+i_2)$
なので$φ$は群準同型になる。
$i∈\ker φ\Longleftrightarrow φ(i)=[1+i]=[1]\Longleftrightarrow 1+i\in 1+J\Longleftrightarrow i\in J$
よって$\ker φ=J$であり、準同型定理より$I/J\cong (1+I)/(1+J)$が成り立つ。

この補題は乗法群という分かりづらい対象を加法である程度考えられることを言ってくれます。直感的には関数$e^x$のテイラー展開の一次の項と一致していることから分かるように、指数法則のずっと弱いバージョンであるとも解釈できます。
ジャコブソン根基が0の場合には役に立ちませんが、それがある程度大きい場合、例えば局所環の場合には意味を持ってくれるらしいです(そういう話を何処かで見たのですが忘れました)。
ジャコブソン根基が0であることを示そうとしたとき、0でないと仮定してこの補題を用いて乗法群の構造(或いは加法群の構造)を強く規定することで、矛盾を導こうとしたいわけです。

乗法群が有限生成のとき

可換整域$A$の乗法群が有限生成なら、$A$は体か極大イデアルを無限に持つ。

(標数$p$の場合)
補題4より$\mathrm{J}(A)=(0)$を示せばよい。$r\in \mathrm{J}(A)\backslash (0)$が取れたとする。
$1+\mathrm{J}(A)$が無限位数の元を持たないとすると、仮定より$1+\mathrm{J}(A)$は有限でなくてはならず、定理5と殆ど同じの議論によって$\mathrm{J}(A)=(0)$が言える。
整域性より写像$s:A \ni a \longmapsto 1+ra \in A$は単射であり、$s(A)=1+rA\subset 1+\mathrm{J}(A)$が言えるので$|A|≦|1+\mathrm{J}(A)|$より$A$は有限であり、また$0\in A\backslash s(A)$であるが、これは有限集合の自身への単射が全単射になることに矛盾する。
よって$1+\mathrm{J}(A)$は無限位数の元$1+x$を持つ(但し$x\in \mathrm{J}(A)$とする)。標数$p$より$\mathbb F_p \subset A$と考えることができ、$1+x$は無限位数なので$\mathbb F_p$上超越的であり、よって$x$も超越的である。ここで$x\in \mathrm{J}(A)$より$1+x\mathbb F_p[x]\subset A^×$であるので$〈1+x\mathbb F_p[x]〉$$A^×$の部分群となるが$〈1+x\mathbb F_p[x]〉$ 有限生成でないので 矛盾する。
(標数0の場合)
補題4より$\mathrm{J}(A)=(0)$を示せばよい。$r\in \mathrm{J}(A)\backslash (0)$が取れたとする。$A$が極大イデアルを有限しか持たないとし、$\mathfrak{m}_1,\mathfrak{m}_2…,\mathfrak{m}_n$を全ての極大イデアルとする。
整域性より$A/\mathrm{J}(A)\cong rA/r\mathrm{J}(A)$である。
$(rA)^2\subset r\mathrm{J}(A) \subset rA \subset \mathrm{J}(A)$なので補題6より$rA/r\mathrm{J}(A)\cong (1+rA)/(1+r\mathrm{J}(A))$が言えるので、$A/\mathrm{J}(A)\cong (1+rA)/(1+r\mathrm{J}(A))$であることが分かり、$A/\mathrm{J}(A)$が有限生成であることが分かる。
中国剰余定理より$A/\mathrm{J}(A)\cong A/\mathfrak{m}_1 \oplus A/\mathfrak{m}_2…\oplus A/\mathfrak{m}_n$と書ける。$A/\mathfrak{m}_k$ 加法が有限生成な体なので有限体 であり、$A/\mathrm{J}(A)$は有限である。
標数0より、$\mathbb{Z}\subset A$と見ることができ、$N=|A/\mathrm{J}(A)|$としたとき、$N×A/\mathrm{J}(A)=0$より$N\in \mathrm{J}(A)$である。
ここで$1+N\mathbb{Z}\subset A^×$なので$〈1+N\mathbb{Z}〉$$A^×$の部分群となるが$〈1+N\mathbb{Z}〉$ 有限生成ではないので これは矛盾する。

青字 のところは非自明であるとは思いますが、ここで取り上げるには長くなってしまうので省きました。定理5の系として局所整域の乗法群は有限生成でないことが言えます。

さて、内容はここまでですが、もう少し考察してみたいと思います。正標数と標数0の場合で分けた証明ですが、この2つには似ているところがあります。2つとも非有限生成である部分群を構成することによって命題を示しました。
さらに$〈1+x\mathbb F_p[x]〉$$〈1+N\mathbb{Z}〉$という2つの群ですが、この書き方が似ています。何かの「環のイデアル(更にジャコブソン根基の部分集合)に1ズラす」という構成の仕方。これは冒頭で挙げた定理1と定理2の証明と随分似ているように思います。
部分群を構成して矛盾を導く、という手法もより一般化することで、より一般の環においても極大イデアルの無限性という問題を考えることにつながるかもしれません。

定理5や定理6では「体か極大イデアルを無限に持つ」ということを証明しましたが、ここで「体である可能性を弾けないのか」と思うかもしれませんが 乗法群が有限生成な体はどうせ有限体 ですので、例えば整域に無限性を付け加えれば体であることが弾けます(逆に有限な整域は必ず体になるので、有限か否かで体か極大イデアルの無限性かを判定できます)。
定理6では乗法群の有限生成性を考えましたが、乗法群っていうのはそれだけで難しいもので、これらの定理を使う場面は多分きっと永遠にこないと思います。乗法群ではなく加法群の有限生成性を考えた場合、これは$\mathbb{Z}$の整拡大なのでここで考えたことよりは幾分スマートに証明できてしまいます。乗法群の有限生成性と聞いて、パッと思いつくのはディリクレの単数定理ですが、整拡大であるが故にこの定理を考えずとも極大イデアルの無限性については示せてしまいます。

ありがとうございました。

参考にしたもの

高校数学の美しい物語『 素数が無限にあることの4通りの証明
龍孫江の数学日誌 in YouTube『 プチ小技集:代数閉体の無限性
Anko7919『 素数が無限に存在することのJacobson根基を利用した証明

投稿日:820
更新日:912
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数学が人並みに好きです。人並みです。独学でやってるので間違いが多いかもしれません。

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