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逆正弦関数 (arcsin) の 3 乗のべき級数展開を求める

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1. イントロダクション

こんにちは.このウェブサイトを見ながらarcsin2xのべき級数展開を求めようとしていたところ,偶然arcsin3xのべき級数展開が求まりました.個人用のメモ代わりとして,このサイトに記事として投稿させていただきます.参考文献の書き方が分からないので,先に参照した記事を紹介しておきます.たいへん参考になりました.

  1. arcsin とその 2 乗の Maclaurin 展開の証明
  2. シャッフル積と反復ベータ積分

2. 概説

計算結果はこうなりました.何度か計算しなおして導き出した結果なので,この結果に誤りがないと信じたいです.どうやら Wolfram は二重級数の計算に弱いらしく(私が使い方を知らないだけかもしれません.)数値的な検証はできませんでした.

arcsin3x=340m<n1(m+1/2)2(n+1/2)(1/2)nn!x2n+1

このべき級数展開の求め方の大まかな流れを話します.

  1. 逆正弦関数を積分によって定義する.
  2. その自乗を重積分によって計算する.
  3. 整理するとarcsin2x1x2の形が出てくるので,積分して終わり.

3. 本論
3.1. 逆正弦関数の定義

まずは,例によって逆正弦関数を

arcsinx=0xdt1t2

と定義します.正弦関数の逆関数として定義しても同値なので,ここらへんの違いは気にしません.積分が発散してしまわないように,これを[1,1]上の関数とします.

3.2. 重積分と漸化式
3.2.1. 重積分による計算

これより,その自乗は

arcsin2x=0xds1s20xdt1t2

とかけるはずです.積分変数はここではstを用いることにします.この積分領域は(s,t)平面上での長方形領域[0,x]×[0,x]ですが,これを{(s,t)0<t<s<x}{(s,t)0<s<t<x}なる直角三角形領域に分割します.すると,もとの積分は

arcsin2x=0<t<s<xds1s2dt1t2+0<s<t<xds1s2dt1t2=0xds1s20sdt1t2+0xdt1t20tds1s2=20xds1s20sdt1t2

となります.ここまでは参考文献 [2] と同じ流れです.最後の式における[0,s]上のtに関する積分式はarcsinsに等しいので,べき級数展開した

0sdt1t2=0m(1/2)mm!s2m+12m+1

を代入します.項別に積分してあげると

arcsin2x=20xds1s20m(1/2)mm!s2m+12m+1=20m(1/2)mm!12m+10xdss2m+11s2

となります.

3.2.2. 漸化式の利用

最後の積分の closed-form が求められません.けっこう難しいです.ここでもう一度参考文献 [2] を参照します.参考文献 [2] によれば,非負整数mに対し

Im(x)=0xdss2m+11s2

としたとき

Im(x)=(2m)!!(2m+1)!!m<n(2n1)!!(2n)!!x2n1x2

が成り立つようです.これは反復ベータ積分と呼ばれるみたいです.数学はあまり詳しくないので,この積分についてどのような応用の仕方があるのかは分かりません.この求め方に関する記述がなかったので,軽く記述したいと思います.

積分に関する漸化式をつくる際には部分積分が有効ですが,この場合Im(x)を直接部分積分しても漸化式をつくることができません.これは被積分関数の分母に1x2という因子があるせいです.もしこれが分子にあれば

ddx1x2=x1x2

となるので,添え字はまだ分かりませんが少なくともIm(x)に似た形は出てきそうです.なので,目標としてはうまいこと分子の方に1x2なる因子をもっていきたいわけです.そのためにm>0の条件で差をとってあげると

Im1(x)Im(x)=0xdss2m11s2=[s2m2m1s2]0x0xdss2m2ms1s2=12mx2m1x2+12mIm(x)

となり漸化式ができます.整理したものを解くと

Im(x)=(2m)!!(2m+1)!!I0(x)(2m)!!(2m+1)!!0<nm(2n1)!!(2n)!!x2n1x2

が得られます.あとは境界条件I0(x)を求めるだけです.これは,簡単な置換によって積分の closed-form が求まりますが,べき級数展開して項別に積分した方が楽そうです.

I0(x)=0xds0n(1/2)nn!s2n+1=0n(1/2)nn!x2n+22n+2=120n(1/2)n(n+1)!x2n+2

しかしここで行き詰まってしまいました.そこで参照したのが参考文献 [1] です.これを超幾何級数としてかくことができれば,それらの間にある諸々の関係式を駆使して簡潔に表すことができそうです.(2)n=(n+1)!なので

I0(x)=x220n(1/2)nn!(n+1)!x2nn!=x220n(1/2)n(1)n(2)nx2nn!=x222F1[1/2,12x2]

となります.ここで Euler の変換公式(うわさによれば Pfaff の変換公式と超幾何関数の Euler 積分表示を用いて証明できるみたいです.ところで Pfaff は何と読めばよいのでしょうか?)

2F1[a,bcz]=(1z)cab2F1[ca,cbcz]

を用いると

I0(x)=x221x22F1[3/2,12x2]=x220n(2n+1)!22nn!n!(n+1)!x2nn!=0<n(2n1)!!(2n)!!x2n1x2

が成立します.これを一般項に代入します.次のようになります.

Im(x)=(2m)!!(2m+1)!!(0<n0<nm)(2n1)!!(2n)!!x2n1x2=(2m)!!(2m+1)!!m<n(2n1)!!(2n)!!x2n1x2

きれいになりました.

3.3. べき級数の特定

あとは得られた結果を整理するだけです.3.2.1 節と 3.2.2 節の結果をまとめると

arcsin2x=20m(1/2)mm!12m+1Im(x)=20m(1/2)mm!12m+1(2m)!!(2m+1)!!m<n(2n1)!!(2n)!!x2n1x2=20m1(2m+1)2m<n(1/2)nn!x2n1x2=1x220m<n1(m+1/2)2(1/2)nn!x2n

となります.したがって,両辺を1x2で割って[0,z)で積分すると

arcsin2x1x2=120m<n1(m+1/2)2(1/2)nn!x2n0zdxarcsin2x1x2=0zdx120m<n1(m+1/2)2(1/2)nn!x2n13arcsin3z=120m<n1(m+1/2)2(1/2)nn!z2n+12n+1arcsin3z=340m<n1(m+1/2)2(n+1/2)(1/2)nn!z2n+1

が得られるので,最後に変数をxに変えてあげると

arcsin3x=340m<n1(m+1/2)2(n+1/2)(1/2)nn!x2n+1

が導かれます.

4. おわりに

既知の結果を考えると

arcsin1x=120<n1n+1/2(1/2)nn!x2n+1arcsin2x=120<n1n2n!(1/2)nx2narcsin3x=340m<n1(m+1/2)2(n+1/2)(1/2)nn!x2n+1

となるみたいです.偶数次の挙動が奇数次のときとは異なり変なので,任意のnに対するarcsinnxのべき級数を表現するのは難しいのではないかと思います.しかし奇数次ならば,これと同じ手順で求まると思うので,案外簡単に求まるのかもしれません.

以上です.お読みいただきありがとうございました.

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更新日:22日前
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okawr
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