本記事内ではレムニスケートについて扱っておりますが,大学受験に出てくる問題や楕円積分のような大学数学の内容は含まれておりません.酔狂な初等幾何狂い向けの記事になりますのでご了承ください.
レムニスケート初等幾何学研究所の末端職員の立見鶏と申します.本研究所ではレムニスケートにまつわる初等幾何的な性質を探り出し,初等幾何学的な証明を解き明かし,世に啓蒙していくことを目標として日夜邁進しております.
と言っても,Mathlog上での実際の活動は匿氏によるものがほとんどであり,氏の
Mathlog
を見れば十分と言う話も.が,せっかくなのでまとめておこうと言うことで本記事を作成することにしました.この記事での最終目標は「レムニスケート版『余弦定理』」を証明するところまで初等幾何的に追いたいぞ,というところです.
具体的には,以下の図で何が起きているのかを理解してみたいところです.
なお,本記事に最初に着手したのは2024年2月だったようで,2年半以上も放ったらかしにしていたことに……
レムニスケートが数学界に現れた歴史的な背景は数学史の書籍にお任せいたしますが,現代においてレムニスケートが出てくるのは高校数学における「式と曲線」的な項目での極方程式の辺りでしょうか.教科書の内容や大学受験の問題の中では一般的な座標表示や極方程式表示のほかに,二定点からの距離の積が一定である点の軌跡(を満たす集合のうちの一つ)という性質が紹介されております.これらの定義に加えてレムニスケートが持つ性質の一つに,直角双曲線を中心で反転させたもの,と言うものも広く知られているようです.
上で紹介した匿氏の業績の多くはこの性質を深く活用したものであり非常に重要ですが,まずはこれらの定義がちゃんと同値であることをなるべく初等幾何学的に把握していきましょう.
以下の四つの主張は同一の曲線を表す.
(1)長さ$2a$の線分$AB$について$PA\times PB=a^2$を満たす点$P$の軌跡の曲線.(この二点$A,B$をこの曲線の焦点と呼ぶこととする)
(2)極方程式$r^2=2a^2\cos 2\theta$で表される曲線.
(3)直交座標で$(x^2+y^2)^2=2a^2(x^2-y^2)$で表される曲線.
(4)直角双曲線(漸近線が直行する双曲線)を双曲線の中心を中心として適当な半径で反転させた曲線.(に双曲線の中心を追加したもの)
(2)や(3)から議論を始めれば簡単な計算により示されますが,今回は初等幾何と言う理念に則り,(1)を主体として示していきましょう.なお,三点が同一直線上に並ぶ時などの特殊な場合は触れていないやや厳密性に欠いたものとなっております.(もっと言えば十分性についても厳密な議論が本来は求められるでしょうが,ここは各々の課題ということで……)
まずは(1)の意味をもう少し噛み砕いていく.
長さ$2a$の線分$AB$の中点を$O$として,点$C$を三角形$OPB$と三角形$OBC$が同一の向きの相似となるように取る.また,$\angle POB=\theta$とする.
$\angle PBC=\angle PBO+\angle OPB=\angle POA$
$PB:BC=PO:BO=PO:OA$
から三角形$PBC$と三角形$POA$は相似となる.……①
まず(2)について議論する.
(1)が成り立つとき
条件より$OA\times OB=a^2=PA\times PB$であり点$O$は曲線上にある.
三角形$PBC$と三角形$POA$の相似から$PC=PA\times \dfrac{PB}{PO}=\dfrac{a^2}{PO}=\dfrac{BO^2}{PO}=CO$
よって$\angle COP=\angle CPO=2\theta$であり,$PO=2CO\cos 2\theta=\dfrac{2a^2}{PO}\cos 2\theta$
から$PO^2=2a^2\cos 2\theta$となる.((1)$\Longrightarrow$(2))
(2)が成り立つとき,すなわち$PO^2=2a^2\cos 2\theta$であれば
$CO=\dfrac{BO^2}{PO}=\dfrac{a^2}{PO^2}\times PO=\dfrac{PO}{2\cos 2\theta}$
より$\angle POC=2\theta$から$CO=CP$となる.
三角形$POB$と三角形$BOC$,三角形$PBC$と三角形$POA$の相似から
$\dfrac{BO^2}{PO}=CO=CP=\dfrac{PA\times PB}{PO}$
となり$PA\times PB=a^2$が成り立つ.((2)$\Longrightarrow$(1))
続いて(3)について議論するがその前に①までの定義に加えて,直線$OB$に関して点$P$と対称な点を$P’$,点$P’$から直線$OB,OP$に下ろした垂線の足を順に点$D,E$とするように追加する.
方べきの定理などより$OD^2-PD^2=OE\times OP$となるので
$PA\times PB=a^2 \Longleftrightarrow CO=CP\Longleftrightarrow \dfrac{OP}{CO}=\dfrac{2OE}{OP’}$
$\Longleftrightarrow OP^2=\dfrac{BO^2}{OP}\times\dfrac{2(OD^2-PD^2)}{OP}\Longleftrightarrow OP^4=2a^2(OD^2-PD^2)$
これは(1)と(3)が同値であることを示している.
最後に(4)についてだが,一部で直角双曲線の有名性質を用いる.
直線$AB$に関して点$C$と対称な点を$C’$とすれば,点$C’$は点$P$を点$O$中心,半径$a$の円で反転させた点となり,$C’B=PB\times\dfrac{OB}{OP}$が分かる.
$PA\times PB=a^2\Longleftrightarrow (PA-PB)^2=2OP^2$ (中線定理)
$\Longleftrightarrow |C’A-C’B|=a\sqrt 2$
これは直角双曲線となる事を表しており,(1)と(4)が同値である事を示している.さらに言えば,元のレムニスケートと,この反転により得られる直角双曲線は焦点が同一である.
これにより,レムニスケートの議論をするときにどの定義を用いても問題ないことが保証されました.本稿では(1)と(4)をメインに使っていきますが,座標を用いた計算による裏付けも可能なことが言えて安心できますね.
以下,レムニスケートの焦点は定義(1)の点$A,B$,レムニスケートの中心は線分$AB$の中点$O$であるとしていきます.
レムニスケートはWikipediaにおいて
ベルヌーイのレムニスケート
として紹介されており,『性質』の項目もこのページ内にあります.この中には初等幾何的な解釈が出来るものがいくつかありますので,それをここでこなしていきます.なお,Wikipediaではじめに紹介されている極座標の方程式について$r^2=a^2\cos 2\theta$と記載されており,係数には少し気をつけておきましょう.(2026.08.31時点での話です)
それでは『性質』から以下の三つをご紹介.
上図のように点$A,B$を焦点,点$O$を中心とする直角双曲線$\mathcal{H}$上に点$C$を取り,点$C$における$\mathcal{H}$の接線$\ell$に点$O$から下ろした垂線の足$D$がレムニスケート上を動くという主張です.点$D$をそのまま考えるよりも点$O$を直線$\ell$に関して対称移動させた点$P$を考えた方が都合が良いので,点$P$の挙動から示しましょう.
以下の証明では
であることは有名事実としております.二つ目の事実は先程断りなく使ってしまいましたが……
有名事実と中線定理より$2OB^2=(CA-CB)^2=2CO^2+2OB^2-2CA\cdot CB$から
$CO^2=CA\cdot CB$……①
したがって$CA:CO=CP:CB$であり,$\angle ACD=\angle DCB, \angle OCD=\angle DCP$から
$\angle ACO=\angle PCB$
これらを合わせると三角形$ACO$と$PCB$の相似が示され,同様の議論で三角形$ACP$と$OCB$の相似も分かる.
したがって
$AC\cdot PB=AO\cdot PC, BC\cdot PA=BO\cdot PC$
となり,辺々かけて①で割れば$PA\cdot PB=AO\cdot BO$が導かれる.これはレムニスケートの定義である.
点$D$は点$O$を中心として$2$倍の縮小をして得られるため,点$D$の軌跡もレムニスケートとなる.
点$P,D$がレムニスケートを網羅することは明らかでもよろしいでしょうか……
途中の相似の部分から分かることですが,このレムニスケートにおける点$C$と$P$の関係性は,図$1$から$3$における点$C$と$P$の関係性と同一であることが分かります.また,途中で利用していませんが,$A,C,B,P$が同一円周上であることも興味深いですね.
それでは次の『性質』へ.
包絡線についての詳しい説明は別で各自補っていただくとして,この主張が言いたいことは,
直角双曲線上の点$C$を中心とし,直角双曲線の中心$O$を通る円は,この直角双曲線と焦点が同一であるレムニスケートと接する
ということです.さらに言えば,この点$P$は点$C$における直角双曲線の接線に関して点$O$と対称な点になります.先ほどの性質の際に点$P$の方が「都合が良い」と申し上げた理由の一つですね.
さて,この主張を示すための前提知識ですが
を使わせてください.なお,直線同士のときは接するではなく平行となるで読み替えていただきたく.
点$A,B$を焦点とする直角双曲線を$\mathcal{H}$,レムニスケートを$\mathcal{L}$とする.点$C$における$\mathcal{H}$の接線に関して点$O$と対称な点を$P$とする.
直線$AB$に関して点$C$と対称な点を$C’$とすれば,これまでの議論から点$C’$は点$P$を線分$AB$が直径である円に関して反転させた点となることが言え,点$C$は線分$OP$の垂直二等分線上であることから,点$C’$における$\mathcal{H}$の接線は直線$OC$と垂直であることがわかる.
したがって点$C$を中心とし点$O$を通る円は点$P$も通ることから,上述の反転によってこの円は点$C’$における$\mathcal{H}$の接線に移る.
レムニスケートの定義で(4)に関して示した際の事実より,上述の反転によって$\mathcal{H}$と$\mathcal{L}$は移り合うので,点$C$を中心として点$O$を通る円は$\mathcal{L}$と接する.
ここで示した事実により,レムニスケートに接する円の一部が与えられるようになりました.この円を介することにより,レムニスケートの接線も初等幾何的に描くことも可能ですし,直線$PC$を描くことでレムニスケート上の点$P$における法線が具体的に与えられ,さらにそこから接線も導くことができます(点$O$の場合を除いて,ですが).円を経由する必要がないので作図の手間も省けますね.かなり嬉しい.
これを用いて解くことができるもう一つの『性質』を最後にご紹介.
図を上に示したので,ここまでの議論から各自で示してみましょう.
この項で示した性質たちについては,英語が堪能であればちゃんと説明された文献が見つけられます.
匿氏のMathlog記事
から既に参照済みの方も多いかもしれません.
レムニスケートの基本的な性質はだいぶ習得できたことと思われますので,この項では過去にMathlogで匿氏が提示したレムニスケートの性質を紹介しつつ証明していきたいと思います.なお,頂点の割り振りは原典と異なることが多く,特別な断りがなければ点$A,B$を焦点,点$O$を中心とするレムニスケート上に点$P$を取っております.
下図$(PA< PB)$において$\alpha +\beta=4\gamma$
レム・ツー・スリー・フォー ~レムニスケート上の点がつくる角度に関して~
より若干の改題
点$C$を三角形$POA$と$AOC$が相似となるように取れば,これまでの議論から
$\angle APC=\angle OPB, \angle CPO=\angle COP$であり,$\angle APB$の内角二等分線と$\angle CPO$の内角二等分線は一致し,この直線と直線$AB$の交点を$D$とすれば
$\dfrac{\alpha +\beta}2=\angle PDA=2\gamma$となるので$\alpha +\beta=4\gamma$
これまでに度々出現していた点$C$を用いて示しておりますが,この補助点を経由しなくても示すことができます.人によっては以下の解法2.の方が思いつきやすいかも.
半直線$AP$上に点$D$,半直線$BP$上に点$E$を$AD=BP, BE=AP$を満たすように取れば
$PA\times PB=AO^2=BO^2$より三角形$APO$と$AOD$,三角形$BPO$と$BOE$はそれぞれ相似となり,$\angle PDO=\angle POA=\angle PEO$から$O,P,D,E$は同一円周上である.
$PD=PB-PA=PE$および$\angle OED=\angle OPA=\alpha -\gamma$,$\angle ODE=\angle OPE=\gamma -\beta$から
$(\alpha -\gamma)-\gamma=\gamma+(\gamma -\beta)$となるので$\alpha +\beta=4\gamma$
あるいは,内角二等分線に関する定理を知っていればもっと補助点や補助線が少なくて済ませることも出来ます.
$\angle APB$の内角二等分線と直線$AB$の交点を$D$とすれば,有名定理から
$PD^2=PA\times PB-DA\times DB=OA^2-(OA-AD)(OA+AD)=AD^2$
となり$PD=AD$である.
以降は解法 1.の最終部分と同様に角度を追跡して示される.
これらの解法を逆にたどればレムニスケートの別の定義として解釈することも可能です.これは以下のような形になります.
線分$AB$の中点を$O$とし直線$AB$を$\ell$とする.直線$\ell$上にない点$P$について$\ell$と直線$AP$が成す角度を$\alpha$,直線$BP$が成す角度を$\beta$,直線$OP$が成す角度を$\gamma$とする.このとき,点$P$が動く領域は点$A,B$を焦点とするレムニスケートから直線$\ell$との交点を除外した曲線の一部となる.
再掲
直線同士が成す角度にも有向性の概念を要しますね.証明は先ほどまでの部分を辿って確認してみてください.
点$P$が点$O$に十分近づく場合は$\alpha$と$\beta$は一方が$0\degree$,もう一方が$180\degree$に近づいていきますので,点$O$のおけるレムニスケートの接線は点$O$を通り直線$AB$と$45\degree$を成す二つの直線であることが感覚的な分かる気がします.
厳密な証明は座標などでの表示から求める,もしくは直角双曲線と漸近線は接するという概念の導入などからでしょうか.
続いての性質はこちら.
楕円$\epsilon$とレムニスケート$\mathcal{L}$はともに$2$点$A,B$を焦点とし,互いに接している.これらの中心を$O$とし,$\mathcal{L}$上の$O$に関して$B$と同じ側に$P,Q$をとると,四角形$OPBQ$は円$\gamma$に内接した.$B$から引いた$\gamma$の接線と$\epsilon$との交点を$C,D$としたとき,
$\angle PBQ=\dfrac{\angle CAD}2+90\degree $
この性質は長径と短径の比が$\sqrt 2$である楕円に関しての特徴から来る部分がかなりのウェイトを占めておりますが,レムニスケートに関する特徴から解明していきます.
まずはレムニスケート上に2点ある場合に押さえておきたい性質を.
$2$点$A,B$を焦点とし中心を$O$とするレムニスケート上に点$P,Q$を取り,三角形$OPQ$の外心を$O$,円$OPQ$の点$P,Q$における接線の交点を$R$とすれば,三角形$OO_1B$と三角形$OBR$は相似.
外心について作図的性質に立ち返って考えてみたいと思います.直角双曲線の性質を前提知識として使うので要注意.
前の章の性質1.から,$A,B$を焦点とする直角双曲線を$\mathcal{H}$とすれば線分$OP,OQ$の垂直二等分線は$\mathcal{H}$に接するので,この接点を順に$P’,Q’$とする.線分$P’Q’$の中点を$M$とすれば,直角双曲線の性質から,(直角双曲線の中心である)$O$,(2点$P,Q$における接線の交点である)$O_1$,(2点$P,Q$の中点である)$M$は同一直線上である.
性質1.2.での議論から三角形$OP’Q’$は三角形$OPQ$の逆平行の適当な相似を直線$AB$に関して対称移動させたものとなる.したがって三角形$OP’Q’$の点$O$からの中線と三角形$OPQ$の点$O$からの類似中線は直線$AB$に関して対称である.すなわち直線$OO_1$と直線$OR$は直線$AB$に関して対称.よって$\angle O_1OB=\angle BOR$,$\angle P’OO_1=\angle ROP$.また接弦定理より$\angle OPR=180\degree -\dfrac{\angle OO_1P}2=\angle OO_1P’$
したがって三角形$OO_1P’$と三角形$OPR$は相似であり,$OO_1\times OR=OP\times OP’=OB^2$が分かり,上述の角度追跡から三角形$OO_1B$と三角形$OBR$も相似.
このことを用いれば,$\angle O$が直角でない三角形$OPQ$が与えられた時に,点$O$を中心として点$P,Q$を通るレムニスケートを決定できる事,レムニスケートの焦点を具体的に与えられる事が分かります.
また,この証明の議論の内容から以下の派生もすぐに導かれます.
点$O$と点$R$は直線$P’Q’$に関して線対称.
先の証明での議論から三角形$OO_1P’$と三角形$OPR$より,三角形$OO_1P$と三角形$OP’R$は相似なので$P’R=P’O$
同様に$Q’R=Q’O$であり直線$P’Q’$は線分$OR$の垂直二等分線なので題意を満たす.
上図で点線にて示されている円は前の章の性質2.で出てきた円であり,性質同士の繋がりを示しております.
この補題を用いて原題である定理3の議論を進めていきましょう.
点$P,Q$における円$\gamma$の接線の交点を$R$とすれば,点$R$は点$B$における円$\gamma$の接線に関して点$O$と対称な点と一致する.
先の補題と同様に$O_1,P’,Q’$を定義すれば,三角形$OO_1B$と三角形$OBR$の相似から$BO=BR$と直線$O_1B$と$OR$の平行がわかり,点$B$における円$\gamma$の接線は直線$P’Q’$と一致する.したがって補題より題意は明らか.
ここから先はレムニスケートではなく楕円関連の話になってきますが,乗り掛かった船なので示しておきましょう.原題は以下のようになっているはずです.
長径と短径の比が$\sqrt 2$である楕円$\epsilon$の焦点$A,B$と中心$O$において,$O,B$を通る円$\gamma$の点$B$における接線を$\ell$とする.
直線$\ell$に関して$O$と対称な点を$R$とし,$R$から円$\gamma$に引いた接線と円$\gamma$の接点を$P,Q$とし,直線$\ell$と楕円$\epsilon$の交点を$C,D$とすれば
$\angle PBQ=\dfrac{\angle CAD}2+90\degree $
直線$\ell$と直線$RP,RQ$の交点を順に$E,F$とし,直線$RB$が円$\gamma$と再び交わる点を$S$とする.
三角形$OO_1B$と三角形$OBR$の相似から$BS=BO=BR$であり
$\dfrac{OE+BE}{OB}=\dfrac{RE+EP}{RB}=\dfrac{RP}{RB}=\dfrac{\sqrt{RB\times RS}}{RB}=\sqrt 2$
から,点$E,F$は点$O,B$を焦点として長径と短径の比が$\sqrt 2$である楕円上にあることが分かり,この楕円は楕円$\epsilon$を点$B$を中心として$\frac 12$倍にしたものとなる.
したがって$\angle PBQ=\dfrac{\angle PRQ}2+90\degree=\dfrac{\angle EOF}2+90\degree=\dfrac{\angle CAD}2+90\degree$
この辺りの性質も面白いですが,またいずれ……
この章で紹介する最後の性質はこちら.
レムニスケート$\mathcal{L}$の中心を$O$,焦点を$A,B$とする.ある直線と$\mathcal{L}$が4点$P,Q,R,S$で交わっており,三角形$OPQ$,三角形$ORS$の外接円の半径がそれぞれ$x,y$であるとき$xy=OA\times OB$である.
レムニスケートと1本の直線が生み出す関係について - A relationship between a line and a lemniscate -
より改題
原題においては$xy$とレムニスケートで囲まれる領域の面積との関係式が表されておりますが,今回の記事ではレムニスケートの面積は(Wikipediaのページには載っておりますが)紹介できておらず上記の定理の表記となっております.
この定理を解くにあたって,大変申し訳ないのですが,初等幾何を逸脱した計算をさせていただきます.
以下の補題の証明に関して,最初の定義の(3)を用いていきます.
あるレムニスケートが$y$軸上に中心を持ち$x$軸と交点を$4$つ持つとき,この$4$点の$x$座標の和は$0$となる.
このレムニスケートを表す式は実数$\alpha, \theta$を用いて
$((x\cos{\theta}+(y-\alpha)\sin{\theta})^2+(x\sin{\theta}-(y-\alpha)\cos{\theta})^2)^2=$
$2a^2((x\cos{\theta}+(y-\alpha)\sin{\theta})^2-(x\sin{\theta}-(y-\alpha)\cos{\theta})^2)$
となるので,これに$y=0$を代入して
$(x^2+\alpha^2)^2=2a^2((\cos^2{\theta}-\sin^2{\theta})(x^2-\alpha^2)-4\alpha x\sin{\theta}\cos{\theta})$
の解がレムニスケートと$x$軸の交点の$x$座標となるが,この式は$x^3$の係数が$0$であることから解と係数の関係より$4$つの解の和は$0$となる.
この補題も初等幾何的な解釈が絶対にありそうですが見つけられず……この補題自体も楕円曲線の加法に関する部分みたいで面白いですね.
なお,計算を許すのであればこの議論を延長することで以下のように最後まで示すことができます.
補題9のレムニスケートの中心を$O_\alpha$とし,$P,Q,R,S$の$x$座標を順に$p,q,r,s$とすれば,上の証明より
$(x-p)(x-q)(x-r)(x-s)=(x^2+\alpha^2)^2-2a^2\cos{2\theta}(x^2-\alpha^2)+4a^2\alpha x\sin{2\theta}$
よって
$(x+p)(x+q)(x+r)(x+s)=(x^2+\alpha^2)^2-2a^2\cos{2\theta}(x^2-\alpha^2)-4a^2\alpha x\sin{2\theta}$であり
$(x^2-p^2)(x^2-q^2)(x^2-r^2)(x^2-s^2)=[(x^2+\alpha^2)^2-2a^2\cos{2\theta}(x^2-\alpha^2)]^2-(4a^2\alpha x\sin{2\theta})^2$
となる.これに$x=i\alpha$を代入すれば
$(\alpha^2+p^2)(\alpha^2+q^2)(\alpha^2+r^2)(\alpha^2+s^2)=16a^4\alpha^4$
が導かれる.
三角形$ABC$の辺$BC$を底辺としたときの高さを$h$とすれば,三角形$ABC$の外接円の半径は$\dfrac{AB\times AC}{2h}$で表される.$O_\alpha$の$y$座標が$\alpha$であることと合わせて,三角形$O_\alpha PQ, O_\alpha RS$の外接円の半径の積は
$\dfrac{O_\alpha P\times O_\alpha Q\times O_\alpha R\times O_\alpha S}{4\alpha^2}=\dfrac{\sqrt{(\alpha^2+p^2)(\alpha^2+q^2)(\alpha^2+r^2)(\alpha^2+s^2)}}{4\alpha^2}$
$=a^2$
となり,これは所望の値である.
これが大元のページで触れられていた,四次方程式の解を用いた証明と思われます.これで十分面白いのですが,せっかくなのでこの構図の性質をもう少し探っていきましょう.
まずは補題9からすぐに分かることを.
点$O$を中心とするレムニスケート$\mathcal{L}$が直線$\ell$と異なる四点$P,Q,R,S$と交わっている.(四点はこの順で並んでいるものとする)
線分$PQ$の中点を$M$,$RS$の中点を$N$とすれば$OM=ON$
四点の順番は実際には自由で,接している場合も対応可能ですが,証明の簡易化のために上記設定にしております.
点$O$を通り直線$\ell$に垂直な直線と直線$\ell$の交点を$H$とすれば五点$P,Q,H,R,S$はこの順に並び,補題9より
$HP+HQ=HR+HS$が成り立つ.
したがって$HM=HN$となるので$OM=ON$が言える.
この補題を用いつつ,ここまでに得られてきたレムニスケートの性質を組み合わせて元の定理8を解いていきます.
補題10の設定に加えて,図のようにレムニスケートの焦点を$A,B$とし,三角形$OPQ,ORS$の外心を順に$O_1,O_2$とする.円$OPQ$の点$P,Q$における接線の交点を$T_1$とし,円$ORS$の点$R,S$における接線の交点を$T_2$とする.
一般に,三角形$ABC$において中線と類似中線,垂心と外心は等角共役に関係にあることから,三角形$OPQ$について等角共役を考えれば$\angle MOH=\angle T_1OO_1$である.
補題4より三角形$OO_1B$と$OBT_1$は相似であり,これらの議論から
$\angle O_1OB=\angle BOT_1=\dfrac{\angle MOH}2=\dfrac{\angle NOH}2=\angle O_2OA=\angle AOT_2$
となるので,$T_1,O,O_2$と$T_2,O,O_1$はそれぞれ同一直線上.
相似から$OO_1\times OT_1=OB^2=OO_2\times OO_2$となるため
$OO_1:OO_2=OT_2:OT_1$となり,直線$O_1O_2$と直線$T_1T_2$は平行となる.
また直線$O_1T_1$と$O_2T_2$はいずれも直線$\ell$に垂直であるため,この二直線も平行であることから四角形$O_1O_2T_2T_1$が平行四辺形であることが分かる.
したがって$OO_1\times OO_2=OO_1\times OT_1=OB^2=OA\times OB$
となる.
この平行四辺形の関係は反転後の直角双曲線の世界でも面白い性質に導けそうですね.
それでは最後にこの記事の目的である定理について進んでいきましょう.冒頭で定理の図だけお出ししておりましたが,改めて定理の主張と共に紹介させてください.
点$O$を中心とするレムニスケート$\mathcal{L}_1,\mathcal{L}_2$が角度$\theta$をなして交わっている。$\mathcal{L}_1$上に点$P( \neq O)$をとり、「$P$で$\mathcal{L}_1$と接し$O$を通る円」と$\mathcal{L}_2$との交点が2つできるとき、それを$X,Y$とする。「$P$を中心とし$X,Y$を通るレムニスケート」を$\mathcal{L}_3$としたとき、$\mathcal{L}_1,\mathcal{L}_2,\mathcal{L}_3$の周長をそれぞれと$a,b,c$すると、$a^4+b^4-2a^2b^2\cos{2\theta}=c^4$が成立する。
レムニスケート版『余弦定理』の提案 - Suggestion of "law of cosines" in lemniscate geometry - より若干の改題
この定理の主張ではレムニスケートの周長が出てきておりますが,これは単に相似比を表しているものなので,$\mathcal{L}_1,\mathcal{L}_2,\mathcal{L}_3$の焦点を順に$A_1$と$A_2$,$B_1$と$B_2$,$C_1$と$C_2$として$OA_1=a,OB_1=b,PC_1=c$と定義し直しても同じ式が成り立ちます.以下ではこちらの定義で示していきます.
なお,この定理は原典の方の『余弦定理』であり,より簡略化された式では$A_1B_1\times A_1B_2=C_1P^2$という主張となっております.これは本来の意味での余弦定理を用いて
$A_1B_1^2=a^2+b^2-2ab\cos{2\theta},A_1B_2^2=a^2+b^2+2ab\cos{2\theta}$
を辺々かけて
$(A_1B_1\times A_1B_2)^2=(a^2+b^2)^2-(2ab\cos{2\theta})^2=a^4+b^4-2a^2b^2(2\cos^2{\theta}-1)$
から上記の原典に結び付けられます.
それでは『余弦定理』の証明をやっていきましょう.ここまでお読みいただいた読者の皆様であれば,方針はなんとなく思い浮かぶのではないでしょうか.
円$OPXY$の中心を$O_1$,点$X,Y$における円$OPXY$の接線の交点を$Z$とする.
これまでの議論(性質2や補題4)より
円$OPXY$とレムニスケート$\mathcal{L}_1$が点$P$で接していることから三角形$OO_1A_2$と$OA_2P$は相似
$\Longrightarrow$ $\angle O_1OA_2=\angle A_2OP$かつ$OO_1\times OP=OA_2^2$
円$OPXY$とレムニスケート$\mathcal{L}_2$が点$X,Y$で交わっていることから三角形$OO_1B_2$と$OB_2Z$は相似
$\Longrightarrow$ $\angle O_1OB_2=\angle B_2OZ$かつ$OO_1\times OZ=OB_2^2$
円$OPXY$とレムニスケート$\mathcal{L}_3$が点$X,Y$で交わっていることから三角形$PO_1C_1$と$PC_1Z$は相似
$\Longrightarrow$ $PO_1\times PZ=PC_1^2$
上記より$\angle POZ=\angle POO_1+\angle O_1OZ=2\angle A_2OO_1+2\angle O_1OB_2=2\theta$
であり,一般的な意味での余弦定理から
$PZ^2=OP^2+OZ^2-2OP\times OZ\cos{\angle POZ}$
なので,$PO_1=OO_1$と上記を合わせて
$PC_1^4=OA_2^4+OB_2^4-2OA_2^2OB_2^2\cos{2\theta}$
となるので,
$a^4+b^4-2a^2b^2\cos{2\theta}=c^4$
が導かれる.
レムニスケートの『余弦定理』は三角形の余弦定理の派生だったことがわかります.よくできた定理ですね.
と言うわけでレムニスケートの基本的な性質を紹介し,それらに対してなるべく初等幾何的な解釈を与えてみました.レムニスケートの世界は当然この程度で終わりではありません.例えば面積などまだ初等幾何的に扱えていない項目があります.途中で計算に頼った部分もあります.レムニスケート自体もさらなる拡張があり,匿氏の ポスト でも紹介されております.新しいレムニスケートの世界を切り拓くのは皆さんの閃きかもしれませんので,お暇な時にはレムニスケートのこと,少し考えてみてください.