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大学数学基礎解説
文献あり

Picard Fuchsの微分方程式

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$$\newcommand{a}[0]{\alpha} \newcommand{b}[0]{\beta} \newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{d}[0]{\delta} \newcommand{D}[0]{\Delta} \newcommand{dis}[0]{\displaystyle} \newcommand{E}[0]{\eta} \newcommand{e}[0]{\varepsilon} \newcommand{F}[4]{{}_2F_1\left(\begin{array}{c}#1,#2\\#3\end{array};#4\right)} \newcommand{farc}[2]{\frac{#1}{#2}} \newcommand{G}[0]{\Gamma} \newcommand{g}[0]{\gamma} \newcommand{Gal}[0]{\mathrm{Gal}} \newcommand{H}[0]{\mathbb{H}} \newcommand{id}[0]{\mathrm{id}} \newcommand{Im}[0]{\mathrm{Im}} \newcommand{Ker}[0]{\mathrm{Ker}} \newcommand{l}[0]{\left} \newcommand{ndiv}[0]{\nmid} \newcommand{O}[0]{\Omega} \newcommand{o}[0]{\omega} \newcommand{ol}[1]{\overline{#1}} \newcommand{ord}[0]{\mathrm{ord}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{r}[0]{\right} \newcommand{Re}[0]{\mathrm{Re}} \newcommand{s}[0]{\sigma} \newcommand{t}[0]{\tau} \newcommand{tt}[1]{\tilde{#1}} \newcommand{ul}[1]{\underline{#1}} \newcommand{wt}[1]{\widetilde{#1}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} \newcommand{z}[0]{\zeta} \newcommand{ZZ}[1]{\mathbb{Z}/{#1}\mathbb{Z}} \newcommand{ZZt}[1]{(\mathbb{Z}/{#1}\mathbb{Z})^\times} $$

はじめに

 この記事では Chudnovskyの公式の証明 において重要となる公式
$$\D_\G(\t)^{\frac1{12}}=\farc1{(1728J(\t))^{\frac1{12}}}\F{\frac1{12}}{\frac5{12}}1{\frac1{J(\t)}}$$
に通ずる理論:Picard Fuchsの微分方程式について解説していきます。
 なおこの記事では 楕円関数の記事 の内容を断りなく使用するので予め目を通しておくことをお勧めします。

同値な格子

 まず格子$L$に対して定まる関数たちが等価な変形$L'=aL\;(a\neq0)$によってどう変化するかを見ていきます。
 ここで重要な関数、$J$-不変量を定めましょう。

 格子$L$に対し判別式$\D$$J$-不変量$J$
\begin{align} \D(L)&=g_2(L)^3-27g_3(L)^2\\ J(L)&=\farc{g_2(L)^3}{g_2(L)^3-27g_3(L)^2} \end{align}
と定める。ただし
$$g_2(L)=60G_4(L),\quad g_3(L)=140G_6(L)$$
とした。

 ちなみに実際によく目にする(?)$j$-不変量は$j(L)=1728J(L)$と定義されます。これと区別するためこの記事では大文字で$J$-不変量と言うことにしています。

$$G_{2k}(aL)=a^{-2k}G_{2k}(L)$$
が成り立つ。特に
$$\D(aL)=a^{-12}\D(L),\quad J(aL)=J(L)$$
が成り立つ。

 アイゼンシュタイン級数の定義より
$$G_{2k}(aL)=\sum_{\substack{\o'\in aL\\\o'\neq0}}\farc{1}{\o'^{2k}} =\sum_{\substack{\o\in L\\\o\neq0}}\farc{1}{(a\o)^{2k}}=\farc1{a^{2k}}G_{2k}(L)$$
とわかる。

 このように$J$-不変量は格子の等価な変形に対して不変であるため"不変"量と呼ばれています。

 格子$L$と等価な格子$L'=aL$に対し$\o\in L,a\o\in L$に対応する擬周期をそれぞれ
\begin{align} \eta(L)&=\z(z+\o,L)-\z(z,L)\\ \eta(aL)&=\z(z+a\o,aL)-\z(z,aL) \end{align}
とおくと
$$\eta(aL)=\farc1a\eta(L)$$
が成り立つ。

 ワイエルシュトラスの$\z$関数について
\begin{eqnarray} \z(az;aL)&=&\farc1{az}+\sum_{\substack{\o'\in aL\\\o'\neq0}}\left(\frac1{az-\o'}+\farc1\o+\frac{az}{\o^2}\right) \\&=&\farc1{az}+\sum_{\substack{\o\in L\\\o\neq0}}\left(\frac1{az-a\o}+\farc1{a\o}+\frac{z}{a\o^2}\right)=\farc1a\z(z;L) \end{eqnarray}
が成り立つので
\begin{eqnarray} \E_k(aL)&=&\z(z+a\o_k:aL)-\z(z;aL) \\&=&\z(az+a\o_k:aL)-\z(az;aL) \\&=&\farc1a(\z(z+\o_k;L)-\z(z;L))=\frac1a\E_k(L) \end{eqnarray}
を得る。

特別な格子

 最後に$J$-不変量によって特徴付けられる格子について解説しておきましょう。

 格子$L$に対して等価な格子$L_J$
$$L_J=\mu(L)L\qquad\bigg(\mu(L)=\sqrt{\frac{g_3(L)}{g_2(L)}}\bigg)$$
と定める。

 いま等価な格子$L'=aL$に対しては
$$\mu(L')=\sqrt{\frac{a^{-6}g_3(L)}{a^{-4}g_2(L)}}=\frac1a\mu(L)$$
から
$$L'_J=\mu(L')L'=\farc1a\mu(L)\cdot aL=L_J$$
が成り立つので等価な格子たちに対して$L_J$は一意に定まることがわかります。
 そしてこの格子が$L_J$と名付けられているのは以下の特徴付けによるものになります。

 格子$L$に対して定まる楕円曲線
\begin{align} X(L) &=X(g_2(L),g_3(L))\\ &=\{(x,y)\in\C^2\mid y^2=4x^3-g_2x-g_3\} \end{align}
について
$$X(L_J)=\left\{(x,y)\in\C^2\mid y^2=4x^2-\frac{27J}{J-1}(x+1)\right\}$$
が成り立つ。

 $L_J,\mu(L)$の取り方から
\begin{align} g_2(L_J)&=\mu(L)^{-4}g_2(L)=\farc{g_2(L)^3}{g_3(L)^2}\\ g_3(L_J)&=\mu(L)^{-6}g_3(L)=\farc{g_2(L)^3}{g_3(L)^2} \end{align}
つまり$g_2(L_J)=g_3(L_J)$が成り立つのでこの値を$g$とおくと$J$の定義より
$$J=\frac{g^3}{g^3-27g^2}=\farc{g}{g-27}$$
つまり
$$g=\frac{27J}{J-1}$$
がわかる。したがって
$$4x^3-g_2(L_J)x-g_3(L_J)=4x^3-\farc{27J}{J-1}(x+1)$$
を得る。

Picard Fuchsの微分方程式

 格子$L$上の($0$でない)点$\o$に対し$\C$上の経路$\b$
$$\b:0\to\o$$
と定め、これに対応する$\C^2$上の閉路$\a$
$$\a=(\wp(\b),\wp'(\b))$$
と定める。
 ただし$\b$を適当に平行移動させることで以下$z\in\b$において$\wp(z),\wp'(z)$は極も零点も取らないものとする。

 いま$\wp$関数は微分方程式
$$\wp'(z)^2=4\wp(z)^3-g_2\wp(z)-g_3$$
を満たしていたので$\a\subset X(L)$が成り立つことに注意しましょう。

 $\o\in L$に対応する擬周期を
$$\E=\z(z+\o,L)-\z(z,L)$$
とおくと$\o,\E$$\C^2$上の周回線積分を用いて
$$\o=\oint_{(x,y)\in\a}\frac{dx}{y},\quad \E=-\oint_{(x,y)\in\a}\frac{x}{y}dx$$
と表せる。

 変数変換
$$(x,y)=(\wp(z),\wp'(z)),\quad dx=\wp'(z)dz=ydz$$
により
\begin{align} \oint_\a\frac{dx}{y}&=\int_\b dz=\o\\ -\oint_\a\frac{x}{y}dx&=\int_\b(-\wp(z))dz=\big[\z(z)\big]_\b=\E \end{align}
とわかる。

 $\C^2$$\R$上の$4$次元空間なので線積分?といった感じですが単なる積分
$$\oint_\a f(x,y)dx=\int_{z\in\b} f(\wp(z),\wp'(z))d\wp(z)$$
だと思えばそう難しくないと思います。
 以下$\O\in L_J$を任意に取り、対応する擬周期を$H$とおきます。

$$g=g_2(L_J)=g_3(L_J)=\frac{27J}{J-1}$$
および
$$I_n=\oint_\a\frac{x^n}{2y^3}dx$$
とおくと
$$\frac{d\O}{dg}=I_1+I_0,\quad\frac{dH}{dg}=-I_2-I_1$$
が成り立つ。

 $(x,y)\in\a\subset X(L_J)$に対し
$$y^2=4x^3-g(x+1)$$
という関係から
\begin{align} \farc{d}{dg}y^2&=2y\frac{dy}{dg}\\ &=\frac d{dg}(4x^3-g(x+1))=-(x+1) \end{align}
特に
$$\farc{d}{dg}\left(\frac1y\right)=-\frac{y'}{y^2}=-\frac{2yy'}{2y^3}=\frac{x+1}{2y^3}$$
が成り立つことに注意する。
 いま$\O,H$の積分表示
$$\O=\oint_\a\farc{dx}{y},\quad H=-\oint_\a\frac xydx$$
$g$について微分することで
\begin{align} \frac{d\O}{dg} &=\oint_\a\frac{d}{dg}\left(\frac1y\right)dx\\ &=\oint_\a\farc x{2y^3}dx+\oint_\a\frac1{2y^3}dx=I_1+I_0\\\\ \frac{dH}{dg} &=-\oint_\a x\frac{d}{dg}\left(\frac1y\right)dx\\ &=-\oint_\a\farc{x^2}{2y^3}dx-\oint_\a\frac x{2y^3}dx=-I_2-I_1 \end{align}
を得る。

$$I_0=\frac{9\O-6H}{2g(g-27)},\quad I_1=-\farc{g\O-18H}{4g(g-27)},\quad I_2=\frac{3\O-2H}{8(g-27)}$$
が成り立つ。

 まず$(x,y)\in\a$に対し
$$f_n(x,y)=\frac{x^n}y$$
$x$について微分することを考える。これは
\begin{align} \frac{d}{dx}f_{n+1}(x,y) &=\frac{d}{dx}(xf_n(x,y))\\ &=f_n(x,y)+x\frac{d}{dx}f_n(x,y) \end{align}
および
$$2y\frac{dy}{dx}=12x^2-g$$
が成り立つことに注意すると
\begin{align} \frac{d}{dx}f_0(x,y)&=-\frac{12x^2-g}{2y^3}\\ \frac{d}{dx}f_1(x,y)&=\frac1y-\frac{12x^3-gx}{2y^3}\\ &=\frac1y-\frac{3(y^2+g(x+1))-gx}{2y^3}\\ &=-\frac1{2y}-\farc{2gx+3g}{2y^3}\\ \frac{d}{dx}f_2(x,y)&=\farc xy-x\left(\frac1{2y}+\farc{2gx+3g}{2y^3}\right)\\ &=\frac x{2y}-\farc{2gx^2+3gx}{2y^3} \end{align}
と求まる。
 いま積分公式
$$\oint_\a \frac d{dx}f(x,y)dx=[f(x,y)]_{\a}=0$$
に注意してこれらを積分することで
\begin{alignat}{3} \oint_\a\frac d{dx}f_0(x,y)dx&=&-12I_2+gI_0&=0\\ \oint_\a\frac d{dx}f_1(x,y)dx&=&-\farc12\O-2gI_1-3gI_0&=0\\ \oint_\a\frac d{dx}f_2(x,y)dx&=&\frac12H-2gI_2-3gI_1&=0 \end{alignat}
つまり
$$\begin{pmatrix} -12&0&g \\0&2&3 \\2&3&0 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} I_2\\I_1\\I_0 \end{pmatrix} =\frac1{2g}\begin{pmatrix} 0\\-\O\\ H \end{pmatrix}$$
が成り立つので、これを$I_0,I_1,I_2$について解くことで主張を得る。

\begin{align} 36J(J-1)\frac{d\O}{dJ}&=3(J+2)\O-2(J-1)H\\ 24J(J-1)\frac{dH}{dJ}&=3J\O-2(J+2)H \end{align}
が成り立つ。

 いま補題5,6から
\begin{align} \farc{d\O}{dg}&=\farc{(18-g)\O+6H}{4g(g-27)}\\ \frac{dH}{dg}&=-\frac{g\O+2(18-g)H}{8g(g-27)} \end{align}
が成り立つので
$$g=\frac{27J}{J-1}=27+\frac{27}{J-1}$$
特に
\begin{align} \frac d{dg}&=\l(\frac{dg}{dJ}\r)^{-1}\frac d{dJ}=-\frac{(J-1)^2}{27}\frac d{dJ}\\ 18-g&=-\farc{9(J+2)}{J-1} \end{align}
に注意してこれを整理することで主張を得る。

Picard Fuchsの微分方程式

 任意の$\O\in L_J$に対し
$$\farc{d^2\O}{dJ^2}+\frac1J\cdot\frac{d\O}{dJ}+\frac{31J-4}{144J^2(J-1)^2}\O=0$$
が成り立つ。

 いま補題7の式を$H,\frac{dH}{dJ}$について整理することで
\begin{eqnarray} 2(J-1)H&=&-36J(J-1)\frac{d\O}{dJ}+3(J+2)\O \\24J(J-1)^2\farc{dH}{dJ}&=&3J(J-1)\O-(J+2)\left(-36J(J-1)\frac{d\O}{dJ}+3(J+2)\O\right) \\&=&36J(J-1)(J+2)\frac{d\O}{dJ}-3(5J+4)\O \end{eqnarray}
が成り立つので$2\frac{dH}{dJ}$を二通りに計算することで
\begin{align} 2\farc{dH}{dJ} &=\frac d{dJ}\l(-36J\frac{d\O}{dJ}+3\frac{J+2}{J-1}\O\r)\\ &=-36J\frac{d^2\O}{dJ^2}+\l(-36+3\frac{J+2}{J-1}\r)\frac{d\O}{dJ}-\frac9{(J-1)^2}\O\\ &=\frac1{12J(J-1)^2}\l(36J(J-1)(J+2)\frac{d\O}{dJ}-3(5J+4)\O\r) \end{align}
つまり
$$\farc{d^2\O}{dJ^2}+\frac1J\cdot\frac{d\O}{dJ}+\frac{31J-4}{144J^2(J-1)^2}\O=0$$
を得る。

Picard Fuchsの微分方程式の解

 Picard Fuchsの微分方程式はRiemannのP方程式というものの一つであり、その$P$図式は
$$P\l\{\begin{matrix} 0&1&\infty\\ -\frac16&\frac14&0\\ \frac16&\frac34&0 \end{matrix};J\r\}$$
と求まります。したがってこれは超幾何関数によって解くことができ、特に
\begin{align} P\l\{\begin{matrix} 0&1&\infty\\ \frac16&\frac14&0\\ -\frac16&\frac34&0 \end{matrix};J\r\} &=P\l\{\begin{matrix} 0&1&\infty\\ 0&\frac14&-\frac16\\ 0&\frac34&\frac16 \end{matrix};\frac1J\r\}\\ &=(1-J^{-1})^{\frac14} P\l\{\begin{matrix} 0&1&\infty\\ 0&0&\frac1{12}\\ 0&\frac12&\frac5{12} \end{matrix};\frac1J\r\} \end{align}
と変形できることから$J=\infty$の周りで以下のような解が得られます(詳しくは この記事 の第1~3節をご参照ください)。

$$b(J)=J^{-\frac14}(1-J)^{\frac14}\F{\frac 1{12}}{\farc5{12}}1{\frac1J}$$
はPicard Fuchsの微分方程式
$$\farc{d^2b}{dJ^2}+\frac1J\cdot\frac{db}{dJ}+\frac{31J-4}{144J^2(J-1)^2}b=0$$
を満たす。

モジュラー形式と超幾何関数

  楕円関数の記事 では任意の格子$L$に対し等価な格子$$L_\t=\Z+\Z\t\quad(\t\in\H)$$
が(複数)存在することを紹介しました。
 いまそのような格子$L_\t$を変数に取るような関数を単に$\t$を変数とした形で表すこととしましょう。つまり
\begin{alignat}{3} G_{2k}(L_\t)&=G_{2k}(\t)\\ \D(L_\t)&=\D(\t)&&=g_2(\t)^3-27g_3(\t)^2\\ J(L_\t)&=J(\t)&&=\frac{g_2(\t)^3}{g_2(\t)^3-27g_3(\t)^2}\\ \mu(L_\t)&=\sqrt{\frac{g_3(\t)}{g_2(\t)}} \end{alignat}
といった具合になります。

モジュラー形式との関係

 ちなみに
$$G_{2k}(L_\t)=\sum_{\substack{\o\in L_\t\\\o\neq0}}\frac1{\o^{2k}} =\sum_{(m,n)\neq(0,0)}\frac1{(m\t+n)^{2k}}=G_{2k}(\t)$$
はモジュラー形式のアイゼンシュタイン級数と一致するが
\begin{align} g_2(\t)&=60G_4(\t)=60\cdot2\z(4)E_4(\t) =60\cdot\frac{2\pi^4}{90}E_4(\t)=\frac{4\pi^4}3E_4(\t)\\ g_3(\t)&=140G_6(\t)=140\cdot2\z(6)E_6(\t) =140\cdot\frac{2\pi^6}{945}E_6(\t)=\frac{8\pi^6}{27}E_6(\t) \end{align}
なので
\begin{eqnarray} \D(L_\t) &=&\left(\frac{4\pi^4}{3}\right)^3E_4(z)^3-27\left(\frac{8\pi^6}{27}\right)^2E_6(\t)^2 \\&=&\frac{2^6\pi^{12}}{27}(E_4(\t)^3-E_6(\t)^2) \\&=&\frac{(2\pi)^{12}}{1728}(E_4(\t)^3-E_6(\t)^2) \end{eqnarray}
となりこれはラマヌジャンのデルタ
$$\D_{\G}(\t)=q\prod^\infty_{n=1}(1-q^n)^{24}=\farc{E_4(\t)^3-E_6(\t)^2}{1728}$$
とは$(2\pi)^{12}$倍だけ異なることに注意する。
 また$J(L_\tau)$$\mu(L_\tau)$
$$J(L_\t)=\frac{E_4(\t)^3}{E_4(\t)^3-E_6(\t)^2},\quad \mu(L_\t)=\frac{2\pi}{\sqrt6}\sqrt{\frac{E_6(\t)}{E_4(\t)}}$$
と表せる。

 さて上では$J$-不変量によって特徴付けられる格子
$$L_J=\mu(L)L$$
に対し任意の$\O\in L_J$がPicard Fuchsの微分方程式
$$\farc{d^2\O}{dJ^2}+\frac1J\cdot\frac{d\O}{dJ}+\frac{31J-4}{144J^2(J-1)^2}\O=0$$
を満たすこと、および
$$b(J)=J^{-\frac14}(1-J)^{\frac14}\F{\frac 1{12}}{\farc5{12}}1{\frac1J}$$
も同じ微分方程式を満たすことを示したのでした。
 このことから以下の事実を示してこの記事の締めとしましょう。

$$\mu(\tau) =\frac{2\pi}{\sqrt6}J^{-\frac14}(1-J)^{\frac14}\F{\frac 1{12}}{\farc5{12}}1{\frac1J}$$
が成り立つ。

 $L_\t$に対して定まる格子$L_J=\mu(\t)L_\t$の基本周期として$\O=\mu(\t),\mu(\t)\t$が取れ、これらは二階線形微分方程式
$$\farc{d^2\O}{dJ^2}+\frac1J\cdot\frac{d\O}{dJ}+\frac{31J-4}{144J^2(J-1)^2}\O=0$$
の解であったのでこの微分方程式を満たす任意の関数$g(J)$はこれらの線形結合
$$g(J)=c\mu(\t)+d\mu(\t)\t=(c+d\t)\mu(\t)\quad(c,d\in\C)$$
として表せる(解空間が二次元線形空間であることからわかる)。
 いま$b(J)$はその微分方程式を満たすのである$c,d\in\C$が存在して
$$b(J)=(c+d\t)\mu(\t)$$
が成り立ち、また$J,\mu$の周期性
$$J(\t+1)=J(\t),\quad\mu(\t+1)=\mu(\t)$$
に注意すると
$$b(J)=(c+d+d\t)\mu(\t)$$
となるので$d=0$でなければならないことがわかる。
 そして$\tau\to i\infty$において
$$E_4(\tau),E_6(\tau)\to1,\quad J(\tau)\to\infty$$
となることに注意すると
$$b(J)\to1,\quad\mu(\tau)\to\frac{2\pi}{\sqrt6}$$
つまり
$$b(J)=\frac{\sqrt6}{2\pi}\mu(\tau)$$
を得る。

$$\D(\t)^{\frac1{12}}=\farc{2\pi}{\sqrt[4]{12}}J(\t)^{-\frac1{12}}\F{\frac1{12}}{\frac5{12}}1{\frac1{J(\t)}}$$
が成り立つ。

$$J=\frac{g_2^3}{\D},\quad J-1=\frac{27g_3^2}{\D}$$
つまり
$$g_2=(J\D)^{\frac13},\quad g_3=\left(\frac{(J-1)\D}{27}\right)^{\frac12}$$
が成り立つことに注意すると
\begin{align} \mu &=\sqrt{\frac{g_3}{g_2}} =\frac{((J-1)\D)^{\frac14}}{27^{\farc14}(J\D)^{\frac16}}\\ &=27^{-\frac14}J^{-\frac16}(J-1)^{\frac14}\D^{\farc1{12}} \end{align}
と表せることから上の補題と合わせて主張を得る。

参考文献

投稿日:202148
更新日:520
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子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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