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大学数学基礎解説
文献あり

p進数の解析学と実解析:積分編

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はじめに

 この記事では 前回の記事 に続いてp進関数の積分を実関数の積分と比較したりしながら解説していきます。
 内容は薄めです。

積分の定義

逆微分としての積分

 実解析における積分は、微分積分学の基本定理によって逆微分という重要な側面を持っていました。
ddxaxf(t)dt=f(x)
axddtf(t)dt=f(x)f(a)
そういうわけでp進関数の積分も逆微分というモチベーションから始めたいところなのですが、 前回の記事 で解説したように逆微分の不定性は定数関数の域に留まらないのでした。
f(x)=g(x)f(x)=g(x)+C(x)(C(x)=0)
つまるところ関数f(x)aからxまでの積分を
axf(x)dx=F(x)F(a)(F(x)=f(x))
と定めようにも、Fの取り方によってF(x)F(a)の値が変わってしまうわけなのです。
 じゃあFの取り方を固定すればいいじゃないか、例えば
xndx=1n+1xn+1+Const.
を基準として解析関数f(x)の不定積分を
f(x)dx=(n=0cnxn)dx=n=0cnn+1xn+Const.
と定めれば良いだとか、 前回の記事 の定理7に倣って連続関数f(x)の不定積分を
f(x)dx=n=0(x(n+1)x(n))f(x(n))+Const.
と定めれば良いだとか考えたくなりますが、こうなってくると積分の積分としての本来の意味があやふやになってしまい本質的ではない(気がする)ので逆微分として積分を定めることはひとまず諦めることにしましょう。

リーマン積分からの考察

 とりあえず逆微分として積分を考えるには難があるとわかったところで、そもそもの実解析における積分の定義であるリーマン積分に立ち返ってみましょう。
 リーマン積分では区間[a,b]を無数の小区間[xn,xn+1]に分割したときにリーマン和
n=0Nf(ξn)(xn+1xn)(ξn[xn,xn+1])
が近づく値を
abf(x)dx
と定めたのでした。
 ではp進関数に対しても同じようなプロセスで積分を構成してみましょう。

 まず区間Zppn個の小区間に分割します。
Zp=a=0pn1(a+pnZp)
次に各小区間から代表元aa+pnZpを選び、その点における値f(a)a+pnZpの長さ(的なもの)μ(a+pnZp)を掛け合わせてその和を取ります。
a=0pn1f(a)μ(a+pnZp)
そしてnと分割を細分化したときにこのリーマン和が近づく値を
Zpf(x)dμ
と定めます。
 ところで 前々回の記事 で紹介したように区間Iの長さ(的なもの)μ(I)

  • 平行移動に対する不変性:μ(a+I)=μ(I)
  • 直和に対する加法性:IJ=μ(IJ)=μ(I)+μ(J)

で特徴付けたとき、μ(a+pnZp)=pnμ(Zp)が成り立つのでした。そこでμ(Zp)=1を単位としてこの長さ(的なもの)を定めたときの積分
Zpf(x)dμ=limn1pna=0pn1f(a)
のことをVolkenborn積分と言い、この記事では単に
Zpf(x)dx
と表すことにします。

 p進関数の積分は定義しようと思えば色々な積分が考えられますが、この記事ではリーマン積分から自然に定義される積分としてVolkenborn積分のみを扱います。
 Volkenborn積分においてはリーマン積分と違って区間Zpの分割の仕方が「pn等分」で固定されており任意性がありませんが、実際分割の仕方を任意に選んでしまうとその値が一意に定まらなくなってしまいます。例えばf(x)=xの積分を考えると
xdx=limn1pna=0pn1a=limn1pnpn(pn1)2=12
と求められますが
Zp=(pn1Zp)(a=ppn1(a+pnZp))
と分割して求めようとすると
limn1pna=ppn1a=limn1pn(pn(pn1)2p(p1)2)
となり
limn1pnp(p1)2
は発散してしまうので値が定義できなくなります。
 代表元の取り方もξa=aa+pnZpと固定されているのも同様の理由になります。実際
Zpf(x)dx=limn1pna=0pn1f(a)
が収束するときξ0=pnpnZpとすると
limn1pna=1pnf(a)=limn1pna=0pn1f(a)+limnf(pn)f(0)pn=Zpf(x)dx+f(0)
f(0)だけのズレが出る(もしくは定義できない)ことになります。
 とりあえずp進関数の積分が定義できたので以下でその性質を見ていきましょう。

Volkenborn積分の性質

 とりあえずVolkenborn積分の持つ性質をざっと列挙していきます。

変換公式

線形性

Zp(af(x)+bg(x))dx=aZpf(x)dx+bZpg(x)dx

平行移動に対する変換公式

Zpf(x+m)dx=limn1pna=0pn1f(a+m)=limn(1pna=0pn1f(a)+a=0m1f(a+pn)f(a)pn)=Zpf(x)dx+a=0m1f(a)
(ただしmは正整数でfx=0,1,2,,m1において微分可能であるものとした。)

反転に対する変換公式

Zpf(x)dx=limn1pna=0pn1k=0ak(ak)=limn1pnk=0aka=0pn1((a+1k+1)(ak+1))=limn1pnk=0ak((1k+1)((pn1)k+1))=limn1pn(a0pn+k=1(1)k+1ak(pn1)pn(pn+1)(pn+k1)(k+1)!)=a0+k=1(1)kakk(k+1)=k=0(1)kk+1ak+k=1(1)k1akk=Zpf(x)dx+f(0)=Zpf(x+1)dx
ただし連続関数
f(x)=k=0ak(xk)
に対し
Zpf(x)dx=k=0(1)kk+1ak
であること(後述)と
f(0)=k=1(1)k1akk
であること( 前回の記事 の定理1)を用いた。

区間の変換公式

 fa+pnZp(0apn1)における積分を特性関数
1a+pnZp(x)={1xa+pnZp0xa+pnZp
を用いて
a+pnZpf(x)dx=Zp1a+pnZp(x)f(x)dx
と定めると、
a+pnZpf(x)dx=limm1pmxa+pnZ0xpm1f(x)=limm1pn1pmnx=0pmn1f(a+pnx)=1pnZpf(a+pnx)dx

積分公式

単項式

 ファウルハーバーの公式
a=0nak=1k+1j=0k(k+1j+1)Bkjnj+1(tet1=n=0Bnn!tn)
より
Zpxkdx=limn1pna=0pn1ak=limn1k+1j=0k(k+1j+1)Bkjpjn=Bk
特に
Zp(z+x)ndx=k=0n(nk)Bnznk=Bn(z)(teztet1=n=0Bn(z)n!tn)

二項係数

(xk)=(x+1k+1)(xk+1)
より
Zp(xk)dx=limn1pna=0pn1(ak)=limn1pn((pnk+1)(0k+1))=limn1pnpn(pn1)(pnk)(k+1)!=(1)kk+1

連続関数

Zpf(x)dx=n=0anZp(xn)dx=n=0(1)nn+1an

解析関数

Zpf(x)dx=n=0cnZpxndx=n=0cnBn

奇関数

 f(x)=f(x)のとき反転に関する変換公式から
Zpf(x)dx=12f(0)

指数関数

Zpextdx=n=0Bnn!tn=tet1

積分の存在

 上では積分の存在を仮定していましたがここで積分が存在する十分条件について確認しておきます。

 非負整数0kpn1に対してkp進展開を
k=i=0dkkipi(ki{0,1,2,,p1},kdk0)
とすると
(pn1k)(1)k(modpndk)
が成り立つ。

 kについての数学的帰納法で示す。k=0のときは自明。
(pn1k1)(1)k1(modpndk1)
が成り立つときdkdk1に注意すると
(pn1k)=(pnk)(pn1k1)(pnk)(1)k1(modpndk1)(pnk)+(1)k(modpndk)
であって、またp進法における足し算(pnk)+kの繰り上がり回数はnvp(k)である(これはpn=10000(p)であることから容易にわかる)ので Kummerの定理 より
vp((pnk))=nvp(k)ndk
すなわち
(pn1k)(pnk)+(1)k(1)k(modpndk)
を得る。

 連続関数f(x)=n=0an(xn)
limnann+1=0
を満たすときfの積分は存在し
Zpf(x)dx=n=0(1)nn+1an
が成り立つ。

1pna=0pn1f(a)k=0(1)kk+1ak=k=0(1pna=0pn1ak(ak)(1)kk+1ak)=k=1(1pn(pnk+1)(1)kk+1)ak=k=1((pn1k)(1)k)akk+1
と変形したとき、補題1に注意して
|(pn1k)(1)k|p{pn21k<pn21pn2k
と評価すると
|k=1((pn1k)(1)k)akk+1|pmax{pn2max1k<pn2|akk+1|p,maxpn2k|akk+1|p}max{pn2max1k|akk+1|p,maxpn2k|akk+1|p}0(asn)
となるので
Zpf(x)dx=limn1pna=0pn1f(a)=n=0(1)nn+1an
を得る。

おわりに

 この記事の内容は以上になります。ちょっとそっけないですがVolkenborn積分から何か面白い議論ができるのかはよくわからなかったので、p進数でも積分ができるんだなあくらいのイメージで締めさせていただきます。

参考文献

投稿日:202173
更新日:202457
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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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  3. 逆微分としての積分
  4. リーマン積分からの考察
  5. Volkenborn積分の性質
  6. 変換公式
  7. 積分公式
  8. 積分の存在
  9. おわりに
  10. 参考文献