この記事は、「連載 グラフアートを描こう」の第4回です。
第1回
、
第2回
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第3回
を読んでいない人はそちらから読んでいただくとより理解が深まります。
この記事では、グラフを縦方向・横方向へ拡大・縮小させる方法について解説します。
描画したパーツを動かすのはお絵かきソフトでは必須機能ですが、グラフアートでも同様のことができます。
前回は、グラフを右にずらすためにこのような考えを使いました。
本来$ (s, t) $にある点を$ (s + a, t) $に移動させたいのだから、数式で$ x $を$ x - a $にすれば$ s + a - a = s $で帳消しにできる。
これと同じことが、拡大・縮小でもできます。「横方向に$ a $倍に引き伸ばす」操作について同じように考えると、次のようになります。
本来$ (s, t) $にある点を$ (as, t) $に移動させたいのだから、数式で$ x $を$ \frac{x}{a} $にすれば$ a \cdot \frac{s}{a} = s $で帳消しにできる。
$ a $を$ 1 $より小さくすれば、縮小もできますね。
では、こちらに用意した円$ x^2 + y^2 = 1 $のグラフを、実際に横方向に伸縮させてみましょう。
$x^2 + y^2 = 1\hspace{1mm}のグラフ$
横方向に$ 2 $倍に引き伸ばすために、$ x $を$ \frac{x}{2} $にしてみます。2乗がついているので括弧が必要であることに注意してください。
$\left( \frac{x}{2} \right)^2 + y^2 = 1\hspace{1mm}のグラフ$
たしかに、横方向に引き伸ばされていますね。
では、今度は横方向に半分にしてみましょう。半分にするということは$ \frac{1}{2} $倍にするということなので、$ x $を$ \frac{x}{1/2} = 2x $にしてみます。
$(2x)^2 + y^2 = 1\hspace{1mm}のグラフ$
ところで、$ (2x)^2 + y^2 = 1 $の括弧を展開すると、何かに気が付かないでしょうか。
そうです、今まで使ってきた、楕円のグラフの式と全く同じものになります。
$4x^2 + y^2 = 1\hspace{1mm}のグラフ$
実際、上の図4は、その上の図3をズームインしたものになっていますね。
ここまでの議論の$ x $を$ y $に変えると、左右ではなく上下に伸縮させることができます。
$ x^2 + y^2 = 1 $の$ y $を$ \frac{y}{2} $に変えると、円が縦方向に$ 2 $倍に伸びます。
$x^2 + \left( \frac{y}{2} \right)^2 = 1\hspace{1mm}のグラフ$
図4の楕円と似ていますね。実際、このグラフを縦横両方に半分の大きさにすると図4のグラフが得られます。証明は読者の演習問題とします。
$ y $を$ 2y $に変えると、円が縦方向に$ \frac{1}{2} $倍に伸びます。言い換えると、半分の高さになります。
$x^2 + (2y)^2 = 1\hspace{1mm}のグラフ$
左右と上下の拡大・縮小は同時に行うことができます。例えば、「横に$ 3 $倍、縦に$ 2 $倍」であれば、$ x $を$ \frac{x}{3} $、$ y $を$ \frac{y}{2} $に変えればよいですね。円$ x^2 + y^2 = 1 $で実際にやってみましょう。
$\left( \frac{x}{3} \right)^2 + \left( \frac{y}{2} \right)^2 = 1\hspace{1mm}のグラフ$
両方の倍率を同じにすれば、全体を拡大することができます。縦横の両方に$ 5 $倍に拡大してみましょう。
$\left( \frac{x}{5} \right)^2 + \left( \frac{y}{5} \right)^2 = 1\hspace{1mm}のグラフ$
円を縦横に同じ倍率に拡大した場合は、$ \left( \frac{x}{a} \right)^2 + \left( \frac{y}{a} \right)^2 = 1 $という式になるため、この両辺に$ a^2 $を掛けて$ x^2 + y^2 = a^2 $という形で表記されることもあります。上の例の場合は$ a = 5 $なので、$ x^2 + y^2 = 25 $と書けます。
$ x^2 + y^2 = 25 $と書くと、上のグラフが点$ (3, 4) $を通っていることが確かめやすいですね。
ここまでは、倍率はずっと正の値でした。倍率を負の数にしたらどうなるでしょうか。
変化が分かりやすいように、$ y = x^3(x - 2) $のグラフを使ってみます。
$y = x^3(x - 2)\hspace{1mm}のグラフ$
これを「横に$ -2 $倍に拡大」してみましょう。今までの議論からすると、$ x $を$ \frac{x}{-2} = -\frac{x}{2} $に置き換えればよいですね。
$y = \left( -\frac{x}{2} \right)^3\left(-\frac{x}{2} - 2\right)\hspace{1mm}のグラフ$
この2つのグラフを比較すると、左右反転して横に$ 2 $倍になっていることが分かります。
すなわち、マイナスの拡大率はグラフの反転を伴うといえます。
上下方向でも同じことができます。上下方向に$ -\frac{1}{2} $倍させる、すなわち$ y $を$ \frac{y}{-1/2} = -2y $に変えると、
$-2y = x^3(x - 2)\hspace{1mm}のグラフ$
上下反転して、高さが半分になります。
ここで、左右と上下の両方に$ -1 $倍させるとどうなるでしょうか。
$-y = (-x)^3(-x - 2)\hspace{1mm}のグラフ$
図9と図12を比較すると、これは原点を中心とする180度回転になっていることが分かります。
すなわち、あるグラフを原点を中心として180度回転させるには、$ x $を$ -x $に、$ y $を$ -y $に置き換えればよいといえます。
180度だけでなく、他の角度でも回転させたいですね。
第5回
は、「グラフを回そう 前編 掛け算って何?」です。