(本記事は ゲージ対称性とは何か(11):経路積分量子化におけるFaddeev-Popovの方法 の続きです。)
前回の終わりで述べたように、Faddeev-Popov(FP)の方法において、ゲージ固定を施したYang-Mills(YM)理論の分配関数は
と書けることを述べました。これはLagrange formalismに基づきます。
一方で、Diracの方法では「ゲージ固定は第1種拘束条件の数だけ必要」でした。YM理論では第1種拘束条件は2つ、それに応じて2つのゲージ固定が必要です。典型的に以下がよく用いられます:
(このへんのことは
ゲージ対称性とは何か(8):Yang-Mills理論とDiracの方法
をご参照ください)
こちらはHamiltonian formalismで展開されます。
FPの方法ではEq.(1)の条件が課されているようには見えず、両者は不整合に見えます。しかし実は両者は整合的です。
今回はFPの方法とDiracの方法の整合性に関して述べます。
以下はRef.[1]P162-の議論に基づいています(今回ちょっとオリジナリティが低いです...。)。
他の参考文献としてRef.[2-4]をあげておきます。ちゃんと読んでないのですが、本記事の関連事項が扱われており、有用かと思います。
以下、Diracの方法に基づいた分配関数の経路積分表示から出発して、公式1で示した、FPの方法における経路積分を導きます。
ゲージ理論等特異系における経路積分において、次の遷移振幅を計算します:
上記の
ここで、
そこで次の事実を用います。Eq.(2)と以下の経路積分は等価です:
この式では
以下、YM理論におけるEq.(3)から出発して、最初に示した「公式1(Faddeev-Popovの方法における分配関数)」を導きます。
Eq.(3)をCoulombゲージのYM理論(拘束・ゲージ固定はEq.(1))に適用すると以下になります:
ここで
であり、
です。また
の汎関数行列式です。
Eq.(4)のデルタ関数を見ると、Eq.(3)の拘束・ゲージ固定が課されていることがわかります。つまりDiracの方法と整合的です。これを変形し、最終的にFPの方法と同じ表式を導きます。
まず
を定義しておきます。
次に、以下の等式を用います:
この式を使って、デルタ関数を
磁場に関し、
以上より
となります。
これがCoulomb gaugeにおける遷移振幅の経路積分表示です。
(注意:上記の計算で、
ここまでの計算で重要なことをまとめておきます:
ここまで導けば、あとは基本的に前回行った計算と同様です。
まずFPの方法におけるゲージ固定項
次の量を定義します:
です。これをEq.(5)にかければ
となります。
作用と
ここで
さらに
となります(
次に
なので、デルタ関数の性質より
です。これはFP determinantです。
さらに
であることが証明できます。これはEq.(6)の証明とほぼ同じなので省略します。
以上より
とかけます。
あとは前回と同様、
を用いてデルタ関数部分を作用にとりこみ、さらにFP determinant
となります(
前記事
の「局所場の形で書き直す」をご参照ください)。
これは公式1と一致します。
よってDiracの方法とFPの方法の整合性が示されました。
ここで、Eq.(7)の代わりに、以下の等式
を用いて変形すると、遷移振幅は
とかけます。ここで導入された補助場
今回はDiracの方法とFaddeev-Popov(FP)の方法の整合性に関して議論しました。Eq.(3)から公式1を導くことで、両者の整合性を示しました。
正直この話は、両者の整合性が気にならない限りはあまり知る必要はないかもしれません。しかし本シリーズでは、Diracの方法をずっと話していたのにそこから突然FPの方法に話が移ったので、この点は気になるのではないかと思い、記事にすることにしました。
おしまい。
☆次の記事: ゲージ対称性とは何か(13): BRST対称性・BRST量子化
ここではRef[1]P155-に基づき、本文Eq.(3)がEq.(2)に等しいことを示します。
Eq.(3)に正準変換を施して
で実現するとします(
が成立します。
ここで、
が成立するので (2つめのイコールは、Poisson括弧を定義に従い展開し、
が成立します。
が、Eq.(A1)のデルタ関数との積の形で成立します。よってEq.(A1)とあわせて
となります。
位相空間全体を
及びそれに共役な運動量
です。更に
以上から
ここではPoisson括弧が正準変換で不変なことから導かれる
を使っています。
を満たす解
のことです。
拘束
と展開されるから、デルタ関数の性質より
となります。これらより
となり、本文Eq.(2)に帰着します(