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大学数学基礎解説
文献あり

ラマヌジャンの円周率公式の証明に触れる

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$$\newcommand{abs}[1]{\left |#1\right |} \newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{Fourier}[2]{\mathcal{F}_{#1}\left [#2\right ]} \newcommand{Hartley}[2]{\mathcal{H}_{#1}\left [#2\right ]} \newcommand{Hilbert}[2]{\mathcal{Hil}_{#1}\left [#2\right ]} \newcommand{inttrans}[3]{\mathcal{#1}_{#2}\left [#3\right ]} \newcommand{invtrans}[3]{\mathcal{#1}^{-1}_{#2}\left [#3\right ]} \newcommand{Laplace}[2]{\mathcal{L}_{#1}\left [#2\right ]} \newcommand{Li}[0]{\operatorname{Li}} \newcommand{Mellin}[2]{\mathcal{M}_{#1}\left [#2\right ]} \newcommand{ord}[0]{\operatorname{ord}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{Res}[1]{\underset{#1}{\operatorname{Res}}} \newcommand{tLaplace}[2]{\mathcal{B}_{#1}\left [#2\right ]} \newcommand{Weierstrass}[2]{\mathcal{W}_{#1}\left [#2\right ]} $$

はじめに

ラマヌジャンは以下の公式を発見しました。
$$ \frac1\pi=\frac{2\sqrt{2}}{99^2}\sum^\infty_{n=0}\frac{(4n)!}{(n!)^4}\frac{26390n+1103}{396^{4n}} $$
収束が非常に早く、円周率の数値計算に有効であるのは有名な話です。
今回はラマヌジャンの円周率公式の証明の流れについて書いていきます。ただし、この記事は上の公式を証明するものではありません。というのも、円周率公式と呼ばれる公式は複数あるのです。この記事では、以下の円周率公式の証明について書きます。
$$ \begin {aligned} \sum _{n=0}^{\infty }\frac {((2n)!)^3}{(n!)^6}\frac {42n+5}{2^{12n}}&=\frac {16}\pi \\\\ \end {aligned} $$
なぜこの公式を選んだのかと言うと、過去にMathlogで書いた モジュラー形式の話 を使えば証明が比較的容易だったからです。
ここで断っておくのですが、僕は円周率公式について、つい数日前に調べ始めた程度の素人で、理解が非常に浅いです。誤った内容が書かれている可能性が十分にあることをご了承ください。
$\newcommand{\F}[4]{{}_{#1}F_{#2}\left[\begin{array}{c}#3\end{array};#4\right]}$

証明の準備

円周率公式がどのような作りになっているかについて、 こちらの記事 で分かりやすく説明されているので、円周率公式のからくりまでの内容をなんとなく頭に入れてください。今回の記事では、超幾何関数の代数変換公式を認めた上で証明するのではなく、モジュラー形式の理論を使ったアプローチをします。そのため、 こちらの記事 の内容を使用しますので、モジュラー形式に初めて触れるような方は一読してからこの記事を読み進めることをお勧めします。それ以外に、アイゼンシュタイン級数も使うので、ご了承ください。
以下の証明は、 こちらの論文 のSection 9を元にしています。

証明(前半)

ポッホハマー記号$(x)_n=x\cdots(x+n-1)$を用いて、示すべき公式は
$$ \begin {aligned} \frac{16}{\pi}&=\sum _{n=0}^{\infty }\frac {\left (\frac {1}2\right )_n^3}{(n!)^3}\frac {42n+5}{64^{n}} \end {aligned} $$
となります。以下の関数を定義します。
$$ \begin {aligned} F(z)&:=\F 21{\frac {1}2,\frac {1}2\\ 1}z\\ G(z)&:=z\frac {dF}{dz}\\ H(z)&:=\F 32{\frac {1}2,\frac {1}2,\frac {1}2\\ 1,1}{z}\\ H_2(z)&:=z\frac{dH}{dz} \end {aligned} $$
示すべき式は
$$ \frac{16}{\pi}=5H\left(\frac{1}{64}\right)+42H_2\left(\frac{1}{64}\right) $$
となります。
子葉さんの記事 から以下のことが分かります。
$$ F(z)^2=H(4z(1-z)) $$
これは超幾何関数の変換公式です。
$$ zF(z)G(z)+(1-z)F(1-z)G(z)=\frac {1}\pi $$
これはルジャンドルの関係式です。ここで、第一種完全楕円積分$K(k)は$
$$ \begin {aligned} K(k)&=\frac \pi2 \F 21{\frac {1}2,\frac {1}2\\1}{k^2}\\ &=\frac {\pi }2F(k^2) \end {aligned} $$
であることに注意します。
$z=k^2,x=\frac{K'}K=\frac{F(1-z)}{F(z)}$とします。このとき こちらの記事 より
$$ \begin {aligned} \eta(ix)&=\sqrt [6]{2kk'}\sqrt {\frac {K}{\pi }} \end {aligned} $$
が成り立ちます。従って両辺を4乗して
$$ \begin {aligned} \eta^4(ix)&=\sqrt [3]{4z(1-z)}\frac {H(4z(1-z))}{4} \end {aligned} $$
なので、両辺を$z$で対数微分すると
$$ \begin {aligned} 4i\frac {\eta'(ix)}{\eta(ix)}\frac {dx}{dz}&=\frac {1}3\left (\frac {1}z-\frac {1}{1-z}\right )+\frac {1}{H(4z(1-z))}\frac {d}{dz}H(4z(1-z))\\ &=\frac {1-2z}{3z(1-z)}+\frac {4(1-2z)}{H(4z(1-z))}H'(4z(1-z))\\ &=\frac {1-2z}{3z(1-z)H(4z(1-z))}\left (H(4z(1-z))+3H_2(4z(1-z))\right ) \end {aligned} $$
ここで、正規化されたアイゼンシュタイン級数$E_2$を用いて
$$ \begin {aligned} \frac {\eta'(\tau)}{\eta(\tau)}&=\frac {d}{d\tau }\ln \eta(\tau)\\ &=\frac {d}{d\tau }\left (\frac {\pi i\tau }{12}+\sum _{n=1}^{\infty }\ln (1-e^{2\pi in\tau })\right )\\ &=\frac {\pi i}{12}+\sum _{n=1}^\infty \frac {2\pi ine^{2\pi in\tau }}{e^{2\pi in\tau }-1}\\ &=\frac {\pi i}{12}E_2(\tau) \end {aligned} $$
であり、また
$$ \begin {aligned} \frac {dx}{dz}&=\frac {d}{dz}\frac {F(1-z)}{F(z)}\\ &=\frac {1}{F(z)^2}\left(F(z)\frac {dF(1-z)}{dz}-\frac {dF(z)}{dz}F(1-z)\right )\\ &=\frac {1}{F(z)^2}\left(-\frac {F(z)G(1-z)}{1-z}-\frac {F(1-z)G(z)}z\right )\\ &=-\frac {zF(z)G(1-z)+(1-z)F(1-z)G(z)}{z(1-z)F(z)^2}\\ &=-\frac {1}{\pi }\frac {1}{z(1-z)H(4z(1-z))} \end {aligned} $$
ですから、
$$ \begin {aligned} H(4z(1-z))+3H_2(4z(1-z))&=\frac {E_2(ix)}{1-2z} \end {aligned} $$
を得ます。

証明(後半)

前半は一般論でしたが、後半は目的の級数に絞った議論をします。$x=\sqrt 7$に固定します。このときの$k$$\text{Modular lambda star}$を用いて$\lambda ^*(7)$と表され、その値は
$$ k=\frac{3-\sqrt 7}{4\sqrt{2}} $$
であるらしく( Wikipedia )、
$$ \begin {aligned} z=k^2&=\frac{8-3\sqrt 7}{16}\\ 4z(1-z)&=\frac {1}{64} \end {aligned} $$
が分かります。この値はモジュラー方程式というものを解くと出てくるらしいんですが、僕は理解していないので解説できません。
$A=H\left(\frac{1}{64}\right),B=H_2\left(\frac{1}{64}\right)$として、前半の結果に代入すると
$$ A+3B=\frac{8}{3\sqrt 7}E_2(i\sqrt 7) $$
となります。他に$A,B,\frac{1}{\pi},E_2(\sqrt 7)$に関する良い感じの関係式を得て$E_2(i\sqrt 7)$を消去することができれば、晴れて円周率公式の完成です。それでは ラマヌジャンの論文 $\text{TABLE 3}$をご覧ください。論文内の$n=7$の式は、以下を意味します。

$\frac{K'}K=7\frac{L'}L$のとき
$$ \begin {aligned} 7E_2\left (i\frac {K'}K\right )-E_2\left (i\frac {L'}{L}\right )&=\frac {12KL}{\pi ^{2}}(1+kl+k'l') \end {aligned} $$

$\frac{L'}{L}=\frac{1}{\sqrt 7}$のとき、$l=k',l'=k,KL=KK'=K^2\sqrt 7$より
$$ \begin {aligned} 7E_2\left (i\sqrt 7\right )-E_2\left (\frac {i}{\sqrt 7}\right )&=3\sqrt 7\left (\frac {2K}{\pi }\right )^2(1+2\sqrt z\sqrt {1-z})\\ &=\frac {27\sqrt 7}8A \end {aligned} $$
さらに、$E_2$のモジュラー関係式
$$ \begin {aligned} E_2\left (-\frac {1}\tau \right )-\tau ^{2}E_2\left (\tau \right )&=-\frac {6\tau i}\pi \end {aligned} $$
より
$$ \begin {aligned} E_2\left (\frac {i}{\sqrt 7}\right )+7E_2\left (i\sqrt 7\right )&=\frac {6\sqrt 7}\pi \end {aligned} $$
なので、$E_2\left (\frac{i}{\sqrt 7}\right)$を消去して
$$ \begin {aligned} E_2\left (i\sqrt 7\right )&=\frac {27}{16\sqrt 7}A+\frac {3}{\sqrt 7\pi } \end {aligned} $$
であり、$E_2\left(i\sqrt 7\right)$を消去して
$$ \begin {aligned} A+3B&=\frac {9}{14}A+\frac {8}{7\pi } \\ 5A+42B&=\frac {16}\pi \end {aligned} $$
これが示すべきことでした。(証明終)

おわりに

後半の議論において、$x=\sqrt 3$とすれば$k=\frac{\sqrt 3 -1}{2\sqrt 2},z=\frac{2-\sqrt 3}4,4z(1-z)=\frac{1}4$となり、
$$ \begin {aligned} \frac{4}{\pi}&=\sum _{n=0}^\infty \frac {((2n)!)^3}{(n!)^6}\frac {6n+1}{4^{4n}} \end {aligned} $$
も示すことができます。二項係数を用いれば
$$ \begin {aligned} \frac {1}\pi &=\sum _{n=0}^\infty \binom {2n}n^3\frac {6n+1}{4^{4n+1}}\\ \frac {1}\pi &=\sum _{n=0}^\infty \binom {2n}n^3\frac {42n+5}{4^{6n+2}} \end {aligned} $$
と表すことができます。
今回は、第一種完全楕円積分とデデキントのイータ関数の関係から産み出される円周率公式について解説しましたが、より一般的な超幾何関数とモジュラー形式に関係があるらしいです。 こちらの論文 がなんか凄そうだったんですが、僕には理解できませんでした。有名な円周率公式にも、いつか挑戦してみたいと思います。

参考文献

[4]
Baruah, N.D., Berndt, B.C., Chan, H.H, Ramanujan’s series for 1/π: A survey, Pi: The Next Generation. Springer, Cham, 2009, pp.303-325
[5]
S. Ramanujan, Modular equations and approximations to π, Quarterly Journal of Mathematics, 1914, pp.350-372
[6]
Angelica Babei ,Lea Beneish, Manami Roy, Holly Swisher, Bella Tobin and Fang-Ting Tu, Generalized Ramanujan-Sato Series Arising from Modular Forms, unpublished
[7]
Guillera, J, A method for proving Ramanujan series for 1/π, Ramanujan J 52, 2020, pp.421-431
投稿日:202298
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