こんにちは,ロダンです.最近動画も出してなければmathlogも書いておらず,そろそろなにかしないとまずいような気がしているので記事を1本書きたいと思います.
今回もマルコフ数に関する話題です.マルコフ数については先日tsujimotterさんが 動画をあげてくださり ,以前と比べて知名度も上がっているのではないでしょうか.ということで,皆さんの関心が高まっているこのタイミングでこの整数たちについてもう少し掘り下げた現象を紹介したいと思います.まずはマルコフ数を定義することにしましょう.
マルコフ数とは,マルコフのディオファントス方程式
の正整数解
さて,上記の動画やmathlog記事では,正整数解の挙動がマルコフの方程式に似ている方程式として
という方程式が紹介されています.こちらの方程式の正整数解に現れる整数をここでは擬似マルコフ数と呼ぶことにしましょう.例えば,
さて,この記事のメインテーマは,このマルコフ数や擬似マルコフ数を,「既約分数から(組み合わせの数を用いて)取り出す」ことです.背景説明や細かい証明なんかをやってるとキリがなくなってしまうので現象だけの紹介に留めますが,非常に興味深い理論が背後にあります.ここで紹介する方法は,Esther Banaian氏の博士論文[1]に記述されている方法をアレンジしたものですので,詳しい証明などはこの論文を参照してください(インターネット上で公開されているので,タイトルで検索をかけたりすれば引っ掛かります).
この節では正の既約分数を使ってマルコフ数を取り出す方法について説明していきます.まず既約分数の定義について確認しておきます.ここでは以下のように定義します.
さらに
この定義によれば,通常で既約分数と呼ばれる分数の他に
さて,正の既約分数を1つ取りましょう.ここでは例として
既約分数3/2に対応する格子
この格子と線分を使ってマルコフ数を取り出してみましょう.まず,全ての格子に線分と交わるような対角線を引きます(図は
既約分数3/2に対応する斜線格子
次に,線分が交わる各三角形に対して次のルールで
三角形と符号の対応
上の図の意味を正確に述べることにしましょう.まず三角形が線分が格子点と交わっている,一番上の行の場合については三角形に与えられる符号は
符号付き斜線格子
そして,この符号を線分が通る順番に列挙します.
さて,この数列が
となります.あるいは,
としても良いです.どの場合も,(既約表示の)分子の値が同じであることがわかると思います.この分子の値を,既約分数
既約分数
例えば,上記の例で計算された
既約分数5/3の例
このとき,符号の列は
ところで,マルコフ数は
Farey規則
でつながっているとする.このような樹形図を,Fareyトリプルツリーという(ただし,
このツリーの最初の方はこんな感じになってます.
Fareyトリプルツリー
ここに現れる分数は全て既約分数であることが知られています.このツリーにも興味深い性質が色々ありますが,ここではその話は割愛します(例えば
このシリーズ
辺りに色々書いてあります).さてこのとき,次の定理が成り立ちます.
Fareyトリプルツリーの頂点
特に,Fareyトリプルツリーの頂点の既約分数を全て
拡張されたマルコフの木
ところで,正の既約分数からマルコフ数を構成する方法は上記の通りなわけですが,逆にマルコフ数が与えられた時に対応する正の既約分数はどうなっているのでしょうか?まずわかることは,1つのマルコフ数
マルコフ数
そして,この予想はマルコフの単一性予想(この予想については ここ を参照)に同値となっています.
さて,次は正の既約分数から擬似マルコフ数を取り出してみましょう.手順は既約分数を傾きとする線分から格子を構成して,格子に対角線を引いて三角形の集まりとするところまではマルコフ数の場合と全く同様です(既約分数
三角形と線分に交わる辺と符号の対応
左半分の三角形に与える符号についてはマルコフの場合と同じです.右半分の,線分と交わる辺に与える符号のルールについて説明します.まず,三角形の辺のちょうど中央を線分が通過する場合,与える符号は
符号付き斜線格子
マルコフの場合にはなかった符号を黄緑色で表しています.あとの手順はマルコフの場合と一緒で,この符号を線分が通る順番に列挙し,この符号の列から同じ符号が連続する数を使って数列を作り,連分数を計算します.上で挙げた
既約分数
例えば,上記の例で計算された
既約分数5/3の例
したがって,符号の列は
擬似マルコフ数の方も,やはりFareyトリプルツリーとの対応があることがわかります.
Fareyトリプルツリーの頂点
特に,Fareyトリプルツリーの頂点の既約分数を全て
拡張された擬似マルコフの木
こちらについても,やはりマルコフの場合と同様の予想が立ちます.
擬似マルコフ数
ちなみに,現状ではマルコフの場合にわかっていないが擬似マルコフの場合にわかっている定理などはまだ1つもない状況です.挑戦者求む!
マルコフのディオファントス方程式・マルコフ数にはさらなる一般化があるという話を この記事 でしているのですが,現状では今回紹介したような既約分数から連分数を使って解を取り出せる方程式はこの記事で扱った2つの場合以外については見つかっていません.でももしかしたら僕が気づいてないだけで,他にもあるのかもしれないので探してみてください.と言うことで,今回の記事はここまでにしたいと思います.ここまで読んでくださってありがとうございました.