僕はこの分野に関してド素人です。
無限積の入った積分について紹介します。まずは具体例を見てみましょう:
$$
\begin {aligned}
\int _{0}^{1}\prod _{n=1}^{\infty }(1-q^{24n})dq&=\frac {\pi ^{2}}{6\sqrt 3}\\
\int _{0}^{1}\prod _{n=1}^{\infty }(1-q^{4n})^6dq&=\frac {\Gamma \left (\frac {1}4\right )^4}{2^{5}\pi ^{2}}
\end {aligned}
$$
このような積分が、馴染み深い値で書けるというのは不思議な感じがします。僕が知る限りにおいて、この積分は保型L関数や超幾何関数と非常に密接な関係があります。
まずはゼータ関数との関係性が分かりやすいシンプルな例から始めます。
$$
\begin {aligned}
\int _{0}^{1}\prod _{n=1}^\infty (1-q^{8n})(1+q^{8n})^2dq&=\frac {\pi ^{2}}8
\end {aligned}
$$
これを理解するために、
ヤコビの三重積
を思い出しましょう:
$$ \begin {aligned} \sum_{n \in \mathbb Z}q^{n^2}z^n&=\prod _{n=1}^\infty (1-q^{2n})(1+q^{2n-1}z)(1+q^{2n-1}z^{-1}) \end {aligned} $$
$q\mapsto q^4,z\mapsto q^4$として、以下を得ます:
$$
\begin {aligned}
\sum_{n \in \mathbb Z}q^{4n^2+4n}&=2\prod _{n=1}^\infty (1-q^{8n})(1+q^{8n})^2
\end {aligned}
$$
したがって
$$
\begin {aligned}
\int _{0}^{1}\prod _{n=1}^\infty (1-q^{8n})(1+q^{8n})^2dq&=\frac {1}2\int _{0}^{1}\sum_{n \in \mathbb Z}q^{4n^{2}+4n}dq\\
&=\frac {1}2\sum_{n \in \mathbb Z}\frac {1}{4n^{2}+4n+1}\\
&=\frac {1}2\sum_{n \in \mathbb Z}\frac {1}{(2n+1)^{2}}\\
&=\sum _{n=0}^\infty \frac {1}{(2n+1)^{2}}\\
&=\frac {\pi ^{2}}8
\end {aligned}
$$
と計算することができました!これは別の言い方をすれば、数列$\{a_n\}$を
$$
\begin {aligned}
q\prod _{n=1}^\infty (1-q^{8n})(1+q^{8n})^2
&=\sum _{n=1}^\infty a_n q^n
\end {aligned}
$$
によって定めたときの
$$
\begin {aligned}
\sum _{n=1}^\infty \frac {a_n}n
\end {aligned}
$$
の値を求めたということになります。したがってこれはL関数の特殊値になっているわけです。
同様の議論によって
$$
\begin {aligned}
\int _{0}^{1}\prod _{n=1}^{\infty }(1-q^{24n})dq&=\frac {\pi ^{2}}{6\sqrt 3}
\end{aligned}
$$
を得ることもできます:
オイラーの五角数定理
より
$$
\begin {aligned}
\prod _{n=1}^\infty (1-q^{24n})&=\sum_{n \in \mathbb Z}(-1)^{n}q^{12n(3n-1)}
\end {aligned}
$$
ですから、
$$
\begin {aligned}
\int _{0}^{1}\prod _{n=1}^\infty (1-q^{24n})dq&=\int _{0}^{1}\sum_{n \in \mathbb Z}(-1)^{n}q^{36n^{2}-12n}dq\\
&=\sum_{n \in \mathbb Z}\frac {(-1)^n}{(6n-1)^2}\\
&=\frac {\pi ^{2}}{6\sqrt 3}
\end {aligned}
$$
です。最後の級数はフルヴイッツのゼータ関数の特殊値から計算することができます。
被積分関数の無限積はモジュラー形式によって記述することができますが、このことに焦点を当ててみます。
第一種完全楕円積分と、ヤコビのテータ関数およびデデキントのイータ関数に関する
この記事
の内容を使います。第一種完全楕円積分とモジュラー形式の関係から、モジュラー形式を含む積分を第一種完全楕円積分を含む積分に書き換えることができる場合があります。そしてその値は時に超幾何関数を用いて表すことができるのです!
$$
\begin {aligned}
\int _{0}^{1}\prod _{n=1}^\infty (1-q^{4n})^6dq&=\frac {\Gamma \left (\frac {1}4\right )^4}{2^5\pi ^{2}}
\end {aligned}
$$
がちょうどその例になっています。早速示してみましょう。
$q=\exp(-\pi x/2)$の変数変換を行います。
$$
\begin {aligned}
\int _{0}^1\prod _{n=1}^\infty (1-q^{4n})^{6}dq
&=\frac {\pi }2\int _{0}^{\infty }e^{-\frac {\pi}2 x}\prod _{n=1}^\infty \left (1-q^{-2\pi nx}\right )^6dx\\
&=\frac {\pi }2\int _{0}^{\infty }\eta^6(ix)dx
\end {aligned}
$$
これにより、被積分関数をモジュラー形式で記述することができました。次は$x=K'/K$による変数変換を行います。
$$
\begin {aligned}
\eta\left (i\frac {K'}{K}\right )&=\sqrt [6]{2kk'}\sqrt {\frac {K}\pi }
\end {aligned}
$$
および
$$
\begin {aligned}
\frac {dx}{dk}&=-\frac {\pi }{2kk'^2K^2}
\end {aligned}
$$
に注意して
$$
\begin {aligned}
\frac {\pi }2\int _{0}^{\infty }\eta^6(ix)dx
&=\frac {\pi }2\int _{0}^{1}\left (\sqrt[6]{2kk'}\sqrt {\frac {K}{\pi }}\right )^6\cdot \frac {\pi }{2kk'^2K^2}dk\\
&=\frac {1}{2\pi }\int _0^1\frac {K}{k'}dk
\end {aligned}
$$
となり、第一種完全楕円積分に関する積分に帰着されました。そして、この積分は超幾何関数で書くことができ、
こちらの記事
で解説されている通りDixonの恒等式によりガンマ関数で書けるため、
$$
\begin {aligned}
\int _{0}^{1}\prod _{n=1}^\infty (1-q^{4n})^6dq&=\frac {\Gamma \left (\frac {1}4\right )^4}{2^5\pi ^{2}}
\end {aligned}
$$
であることが分かりました。
逆向きの議論もできます。
つまり、第一種完全楕円積分を含む積分を、モジュラー形式によって書き表すことによって計算することもできるのです。
僕が面白いと思った例をひとつ紹介して、この記事を終わりたいと思います。
紹介するのは
こちらの論文
にある次の結果です:
$$
\begin {aligned}
\int _{0}^{1}K'(k)^3\mathrm d k&=\frac {\Gamma ^8\left (\frac {1}4\right )}{128\pi ^{2}}
\end {aligned}
$$
デデキントのイータ関数の積分に変換され、保型L関数の特殊値として記述され、最終的にアイゼンシュタイン級数の特殊値に帰着されるようです。
はい、ということで積分の話に見せかけて結局モジュラー形式がすごいというお話でした。