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大学数学基礎解説
文献あり

無限積の積分

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僕はこの分野に関してド素人です。

無限積の入った積分について紹介します。まずは具体例を見てみましょう:
01n=1(1q24n)dq=π26301n=1(1q4n)6dq=Γ(14)425π2
このような積分が、馴染み深い値で書けるというのは不思議な感じがします。僕が知る限りにおいて、この積分は保型L関数超幾何関数と非常に密接な関係があります。

L関数としての側面

まずはゼータ関数との関係性が分かりやすいシンプルな例から始めます。
01n=1(1q8n)(1+q8n)2dq=π28
これを理解するために、 ヤコビの三重積 を思い出しましょう:

ヤコビの三重積

nZqn2zn=n=1(1q2n)(1+q2n1z)(1+q2n1z1)

qq4,zq4として、以下を得ます:
nZq4n2+4n=2n=1(1q8n)(1+q8n)2
したがって
01n=1(1q8n)(1+q8n)2dq=1201nZq4n2+4ndq=12nZ14n2+4n+1=12nZ1(2n+1)2=n=01(2n+1)2=π28
と計算することができました!これは別の言い方をすれば、数列{an}
qn=1(1q8n)(1+q8n)2=n=1anqn
によって定めたときの
n=1ann
の値を求めたということになります。したがってこれはL関数の特殊値になっているわけです。
同様の議論によって
01n=1(1q24n)dq=π263
を得ることもできます:
オイラーの五角数定理 より
n=1(1q24n)=nZ(1)nq12n(3n1)
ですから、
01n=1(1q24n)dq=01nZ(1)nq36n212ndq=nZ(1)n(6n1)2=π263
です。最後の級数はフルヴイッツのゼータ関数の特殊値から計算することができます。

超幾何関数としての側面

被積分関数の無限積はモジュラー形式によって記述することができますが、このことに焦点を当ててみます。
第一種完全楕円積分と、ヤコビのテータ関数およびデデキントのイータ関数に関する この記事 の内容を使います。第一種完全楕円積分とモジュラー形式の関係から、モジュラー形式を含む積分を第一種完全楕円積分を含む積分に書き換えることができる場合があります。そしてその値は時に超幾何関数を用いて表すことができるのです!
01n=1(1q4n)6dq=Γ(14)425π2
がちょうどその例になっています。早速示してみましょう。
q=exp(πx/2)の変数変換を行います。
01n=1(1q4n)6dq=π20eπ2xn=1(1q2πnx)6dx=π20η6(ix)dx
これにより、被積分関数をモジュラー形式で記述することができました。次はx=K/Kによる変数変換を行います。
η(iKK)=2kk6Kπ
および
dxdk=π2kk2K2
に注意して
π20η6(ix)dx=π201(2kk6Kπ)6π2kk2K2dk=12π01Kkdk
となり、第一種完全楕円積分に関する積分に帰着されました。そして、この積分は超幾何関数で書くことができ、 こちらの記事 で解説されている通りDixonの恒等式によりガンマ関数で書けるため、
01n=1(1q4n)6dq=Γ(14)425π2
であることが分かりました。
逆向きの議論もできます。
つまり、第一種完全楕円積分を含む積分を、モジュラー形式によって書き表すことによって計算することもできるのです。
僕が面白いと思った例をひとつ紹介して、この記事を終わりたいと思います。
紹介するのは こちらの論文 にある次の結果です:
01K(k)3dk=Γ8(14)128π2
デデキントのイータ関数の積分に変換され、保型L関数の特殊値として記述され、最終的にアイゼンシュタイン級数の特殊値に帰着されるようです。
はい、ということで積分の話に見せかけて結局モジュラー形式がすごいというお話でした。

参考文献

投稿日:2022108
OptHub AI Competition

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便利
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引き算が苦手です

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  1. L関数としての側面
  2. 超幾何関数としての側面
  3. 参考文献