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環論を使って因数分解と素因数分解を俯瞰する話

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$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathrm{div}} \newcommand{division}[0]{÷} \newcommand{dps}[0]{\displaystyle} \newcommand{grad}[0]{\mathrm{grad}\ } \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{rot}[0]{\mathrm{rot}\ } \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

これは AMC2022 の23日目の記事です.
昨日の りぼーすさんの記事 はかなり競技数学で有用な面白い話でしたね. 自分も負けないように頑張ります.

と, 言いたいところですが受験でかなり忙しいので時間の許す限り書きます. なので, 網羅性は期待しないでください. あと, 受験で競技数学から離れているので例題のレパートリーが絶望的に不足しています$><$助けて ! (ひょっとしたら受験終わったら色々グレードアップして再投稿するかも?)
(この記事は競技数学徒のために環論とかを紹介する記事なので定理とかの新規性はほぼゼロです)
ひたすら言い訳をしたところで本題へ. まずはざっくりモチベーションを,

整数論と多項式論

数オリなどで整数や多項式を扱っているとたまに似た定理が出てきます. そこを見ていきます. 以下, $\mathbb Z$を整数全体の集合, $\mathbb R[x]$$x$を変数とする実数係数多項式全体の集合とします. 同様に$\mathbb C[x], \mathbb Q[x], \mathbb Z[x]$なども定義します. ($\mathbb{C, Q}$はそれぞれ複素数, 有理数全体の集合を表す)

$\mathbb Z, \mathbb R[x], \mathbb C[x], \mathbb Q[x]$では剰余の定理が成立する. また素因数分解(因数分解)が可能である.
一方$\mathbb Z[x]$では剰余の定理は成立しないが因数分解は可能である.

ここでいう因数分解は以下のようなものです. $4$つ目の式を$\mathbb Z[x]$での因数分解と考える時は$2,x+1,x-1$を因数として考えています. (煩雑になるのでここでは定義の形にはしません)

$6=2\cdot3,\ -58=-2\cdot29,\ x^2+2x-3=(x-1)(x+3),\ 4x^2-4=2^2(x-1)(x+1)$
また, $x^2+1$$2x+1$で割った余りを$\mathbb Z[x]$で考えることは出来ず, 剰余の定理が成立していない.

この定理は整数や多項式を考える上でなくてはならないものです. また, $\mathbb Z[x]$では剰余の定理が出来ないのに因数分解が出来ています. これはしばしば問題でも出てきます. 例えばISL2021N4です.

ISL2021N4(2022春P5)の本質部分

$n$を正整数とする.$$\sum_{i=1}^nr^{a_i}=\sum_{i=1}^{n-1}r^{b_i}$$を満たす整数$a_i, b_i$が存在するような$1$より大きい有理数$r$を全て求めよ.

(色々変な状況設定がありましたがあまり好きではないのでバッサリ消しました!!)
解答
とりあえず多項式を用いる方法を先に見ます. (こちらはどちらかというと別解)
$r^{-\min_i\{a_i,b_i\}}$を両辺にかけて, 右辺を左辺に移項すると$0$ではない整数係数多項式$f(x)$に対して$f(r)=0$という式が得られます. これでは$\sum$で足している個数に関する情報を反映できていません. そこで$f(1), f(-1)$を考えると$f(1)=1,\ 1\leq |f(-1)|\leq 2n-1$ という条件が得られます. 逆に$f(r)=0,\ f(1)=1,\ 1\leq |f(-1)|\leq 2n-1$が成立しているならその$r$に対する$a_i,b_i$が復元できそうです(気合いで厳密性は置いといて). そこでこの条件を考えます.

$f(r)=0$ということは$f$$ax-b$ (ここで$a,b$は互いに素な正整数で$r=\dfrac ba$)を因数に持ちます. $\mathbb Z[x]$では因数分解が出来るので, $\dfrac{f(x)}{ax-b}=g(x)\in\mathbb Z[x]$とできます. つまり, $f(x)=(ax-b)g(x)$とできます. ここで$f(1)=1,\ 1\leq |f(-1)|\leq 2n-1$を使うと, $g(\pm1)\in \mathbb Z$であるから$a-b=\pm m,\ |a+b|\leq2n-1$となる. $r>1$なので$b>a$である. これらの条件から$r=\dfrac{m+1}m\ (m=1,2,...,n-1)$がわかる. (構成は容易)

なお, 本解は$\bmod a-b$などを用いるものであり, 自分も春合宿のときはその方法で解きました.

暇だったら$r\leq1$の時どうなるかも考えるといいかも.

すぐ思いついたのが整数寄りの問題だったがもう少し多項式寄りの問題でも使えると思う. (todo:思いついたら何か書く) 整数係数範囲で議論できるのは嬉しいですね (不等式評価とかも出来るし). 素因数分解に関連してベズーの補題関連も整数と多項式に類似があります.

ベズーの補題

$a,b$$0$でない整数とし, $d$をその最大公約数とする.
このとき$\{ax+by|x,y\in\mathbb Z\}=\{dx|x\in\mathbb Z\}$. 特に$ax+by=d$なる整数$x,y$が存在する.

もっと特に$a,b$が互いに素なとき$ax+by=1$なる整数$x,y$が存在する.

これはユークリッドの互除法的に証明出来ます.

互いに素な場合は似たような事が多項式でも出来ます.

$f(x),g(x)\in\mathbb Z[x]$を互いに素な整数係数多項式とすると$a(x)f(x)+b(x)g(x)=c$なる整数係数多項式$a(x),b(x)$と正整数$c$が存在する.

この定理は多項式絡みの整数問題でかなりの頻度で使いますね. (私のmathlogの記事の 整数係数多項式とmodp 辺りを参考にしてください)

ここまで一般化出来そうな整数や多項式の性質を見てきました. 次は少しだけ合同式について見ていきます.

合同式

(この節の話はほとんど回収されません. 回収したい人は剰余環と検索してください())
整数論を学ぶ上での山場はやはり合同式だろう. $n$を正の整数とし, $a,b$$n$で割った余りが等しいとき$a\equiv b\pmod n$と書くのだった. 合同式の世界では足し算引き算かけ算は自然に可能だが割り算は少し注意が必要だった. 少しだけそれについて述べておく. 以下, 合同式の法は正整数であり文脈から明らかな時は省略する.

$a$$n$と互いに素なとき, $\bmod n$$a$による割り算が自然に行える.

これはベズーの補題によって示せます.

この$n$と互いに素な整数がどんな意味や構造を持つかについては群論のところで詳しくやります. (多分)

さて, 普通は整数の道具として合同式を使いますが多項式でも合同式は出来ます. 例えば次の問題です.

数値設定は適当

$f(x)$は二次多項式で$(x+1)^2$で割った余りが$2x-1$, $x+2$で割った余りが$-6$の時$f(x)$を求めてください.

解答
$f$は二次だから$f(x)=k(x+1)^2+2x-1$($k$は定数)とおける. $f(-2)=-6$より, $k-5=-6$. よって$k=-1$. よって$f(x)=-x^2-2$

ここでやっていることは$4$で割って$1$余り, $3$で割って$2$余る整数を求めているのと原理的には同じです. $f(-2)$を考えているのは$x+2$で割った余りを求めるためであるのでここはある意味合同式的な議論です.

少し上の問題を一般化しましょう. 整数の時の一般化は中国の剰余定理として知られていますね.

中国の剰余定理

$m,n$を互いに素な正整数とし$a,b$を整数とする.

このとき$x\equiv a\pmod m,\ x\equiv b\pmod n$をみたす整数$x$$\bmod ab$において一意的に存在する.

これを考えると次のような定理が成立しそうです.

多項式版中国の剰余定理

$f,g$を互いに素な多項式とし, $a,b$を多項式とする.

このとき$F\equiv a\pmod f,\ F\equiv b\pmod g$をみたす多項式$F$$\bmod fg$において一意的に存在する.

環, 体

以上のことを念頭にこの節から環や体について考えていきます.
合同式や, 多項式, 整数などを一般化したい (しかも多項式は有理係数や整数係数など自由に考えたい) とすると共通する性質は足し算, 引き算, かけ算でしょう. これらは環という概念に一般か出来ます. さらに実数全体や複素数全体, 有理数全体などは割り算も出来ます. このような集合はめちゃくちゃ扱いやすく便利なので体という名前がついています.

環, 体

$R$を二項演算$+, \cdot$が定義されている集合とする. このとき以下の条件$1$から$8$を満たすとき$R$を環といい, $9$も満たすとき可換環といい, $9, 10$も満たすとき体という.

$0,1\in R$という元が存在し, $a,b,c\in R$に対して

  1. $(a+b)+c=a+(b+c)$ (結合法則)

  2. $a+b=b+a$(交換法則)

  3. $a+0=0+a=a$ (零元の存在)

  4. $-a\in R$が存在して$a+(-a)=(-a)+a=0$ (加法逆元の存在)

  5. $(a\cdot b)\cdot c=a\cdot(b\cdot c)$ (結合法則)

  6. $a\cdot 1=1\cdot a=a$ (単位元の存在)

  7. $a\cdot(b+c)=a\cdot b+a\cdot c$ (分配法則)

  8. $(a+b)\cdot c=a\cdot c+b\cdot c$ (分配法則)

  9. $a\cdot b=b\cdot a$ (交換法則)

  10. $a\neq 0$であるとき$a^{-1}$が存在して$a\cdot a^{-1}=a^{-1}\cdot a=1$ (乗法逆元の存在)

正直, ここから扱うものは基本的に整数や多項式に準じるものなので上の形式的な定義にとらわれすぎないで欲しい (特に初学者は). 分配法則が地味に偉かったりするけど割愛. 名前からすぐ分かりそうな用語 (例えば逆数とか) はどんどん使うので知らない単語は適当に検索してください(). あとかけ算の記号は適当に省略したり普段通りな省略はします. 零環は見なかったことにします(え?). 例を見ていきます.

  • $\mathbb Q, \mathbb R, \mathbb C$は体である.
  • $\mathbb Z, \mathbb Z[x], \mathbb Q[x], \mathbb R[x], \mathbb C[x]$は可換環である.
  • $n$次正方行列全体の集合$M_n(\mathbb R)$は環だが($n>1$のとき)可換環ではない (この例は多くの環で成り立ちそうな性質の反例になる. 非可換だし零因子が沢山あるのでヤバい).
  • 四元数全体の集合$\mathbb H$は環だが可換環ではない. しかし逆元は存在する (こういうのを斜体とか言う). なお, 八元数$\mathbb O$とかは環ではない (かけ算の結合法則が成立しない).
  • $\bmod n$の集合$\mathbb Z/n\mathbb Z$は可換環である. もう少し厳密に書くと$\{0,1,...,n-1\}$に対し足し算, かけ算とかを演算して$n$で割った余りを取るみたいな感じに定義すれば可換環になる.
  • $\mathbb R$から$\mathbb R$への関数全体は可換環である. 関数全体が環になるとかそういうのはあるあるです. (暇だったら他の例も考えてみて)

非可換環はヤバいことがしばしばあるので以下, 環は可換環であるとします.
これを用いることで多項式という概念が簡単に一般化できます.

多項式環

$R$を環とする. ある非負整数$n$$a_0,a_1,...,a_n\in R$を用いて$P(x)=a_nx^n+...+a_1x+a_0$と表されるもの全体の集合は$R$における演算から自然に環をなす. これを$R[x]$と書く.

多項式環の多項式環$(R[x])[y]$とかは$R[x,y]$みたいに書いたり適当な略記をします.

対象を定義したら射を定義します (これは大学数学あるあるです). (合同式の話までいかないからあんま使わないけど)

準同型写像

$A,B$を環とする. 写像$\varphi:A\to B$が以下の条件を満たすとき$\varphi$を環準同型写像という. $A,B$がともに体なら体準同形写像という. $\varphi$が全単射なら同型写像という.

  1. $\varphi(a+b)=\varphi(a)+\varphi(b)$
  2. $\varphi(ab)=\varphi(a)\varphi(b)$
  3. $\varphi(0_A)=0_B$
  4. $\varphi(1_A)=1_B$

これを定義することによって$\mathbb Z$$\mathbb Z/n\mathbb Z$との関係とか環同士の関係を調べる事が出来ます.

部分環

$A$を環とする. $A$の部分集合$B$$A$での演算に関して環を成すとき$B$$A$の部分環という. (どっちも体なら部分体と呼ぶ)

$\mathbb Z$$\mathbb Q$の部分環. $\mathbb Q$$\mathbb R$の部分体 (当然部分環でもある). $\mathbb R$$\mathbb C$の部分体. $\mathbb C$$\mathbb C[x]$の部分環.

$R$を環とすると$R$$R[x]$の部分環.

零元, 乗法単位元, 加法逆元などの一意性を確認せよ.

昔見つけた好きな問題. ( ここ にある)

環の定義に加法の交換法則が不要である事を示せ.

次は圏論における普遍性に関する話題です. (これも回収するつもりだったけど出来なかった問題)

$R$を環とすると, 環準同型$\varphi:\mathbb Z\to R$が一意的に存在する事を示せ.

解答
$\varphi(0)=0$.
$n>0$なら
$\varphi(n)=1+1+...+1$($n$回足す).

$n<0$なら$\varphi(n)=-\varphi(-n)$とすればよい. (逆にこれらは準同型の定義から必要なので一意性もOK)

因数分解の拡張

ここからは上で導入した環を使って因数分解の拡張を試みてみる. まずは先に考えたくない対象を除くために整域を定義する. (ちなみに環は全て可換環だとしてます)

整域

$R$を環とする. 任意の$a,b\in R\backslash\{0\}$$ab\neq0$を満たすとき$R$を整域と呼ぶ.

例えば$\mathbb Z/6\mathbb Z$$2\cdot3=0$なので整域ではないです. 体や$\mathbb Z$とかは整域です. 整域じゃない対象では零因子($\mathbb Z/6\mathbb Z$での$2,3$みたいなやつ)が因数分解でキモい動きをすることは容易に想像できるので対象から除外した感じです.

とりあえず因数分解を拡張するためには一般の環で因数分解の拡張をする必要があります. それは一意分解整域という概念になります. そのためにはまず, 素数, 既約多項式に相当する概念が必要です. てかもっと戻れば割り切る, 割り切れるの概念も定義しなきゃ$><$.

整除関係

$R$を整域とし, $a,b\in R$とする. $a=bc$なる$c\in R$が存在するとき, $a$$b$で割り切れるといい, $b|a$と書く.

素数の定義は正の約数が$1$かそれ自身である数みたいな感じだが, 正の約数という概念はやりにくいので約数が$\pm1$倍を除いて$1$かそれ以外みたいにすればいいです. $\pm1$の一般化は単元というものになります.

単数

$x\in R$とする. $xy=1$なる$y\in R$が存在するとき$x$$R$の単数と呼ぶ.

$\mathbb Z$では$2$とかは単数ではないが$\mathbb Q$では単数であることに注意しておく.

既約元

$R$を整域とする. $x\in R$について$x$を割り切る元が単数$u$を用いて$u, xu$と表されるとき, $x$$R$の既約元と呼ぶ.

一意分解整域

$R$を整域とする. $R$の任意の元が既約元の積に(順序と単数倍の差を除いて)一意的に分解できるとき$R$を一意分解整域といい, 英語の頭文字を取ってUFDと略す.

まずは, 剰余の定理からユークリッドの互除法を用いて因数分解を考えるよくあるやり方を拡張してみよう. そのためには剰余の定理が可能な集合を定義する必要がある. これはユークリッド整域と呼ばれている.

ユークリッド整域

$R$を整域とし, 以下の条件を満たす関数$N:R\to \mathbb N\cup\{0\}$が存在するとする. このとき$R$をユークリッド整域と呼ぶ.

  1. $N(a)=0\Leftrightarrow a=0$
  2. $a,b\in R\backslash\{0\}$なら$N(ab)\geq N(a)$
  3. $a,b\in R\backslash\{0\}$に対し, $a=bq+r, N(r)< N(b)$なる元$q,r\in R$が存在する.

$N$は通常の絶対値や多項式の次数を取る$\mathrm{deg}$とかを想像すれば良いと思う. (多項式の次数は$0$の次数の関係で微妙な修正が必要だが気にしないでおけ)

ユークリッド整域$R$は一意分解整域である.

既約元分解が出来ること

$x\in R$とする. $N(x)$に関する無限降下法で示す. $x$を既約元分解できない$R$の元の中で$N(x)$が最小になるものとする.

$x$が単数, 既約元ならそれ自体が既約元分解になっている. $N(x)=0$なら$x=0$なのでよい.

$x$がそれらでないとすると$x=ab$かつ$a,b$が単数でも$x$の単数倍でもないものが存在する. $N(x)=N(ab)\geq N(a)$, $N(x)\geq N(b)$である. また, $N(x)>N(a)$かつ$N(x)>N(b)$のときは$N(x)$の最小性から$a,b$が既約元分解出来るため, $x$も既約元分解できる.

従って対称性より$N(x)=N(a)$のときを考えれば良い. ユークリッド整域の性質から$a=qx+r$かつ$N(a)=N(x)>N(r)$なる元が存在する. これを移項すれば$r=a(1-bq)$. よって$N(r)\geq N(a)$または$1-bq=0$. 前者は$N(a)=N(x)>N(r)$に矛盾. 後者は$qb=1$つまり$b$が単数となり, 矛盾.

$N(x)>N(b)$も同様に示されるので既約分解ができることが示された.

一意性

$x=p_1\cdots p_m=q_1\cdots q_n$と二通りに分解出来たとする. $\min\{m,n\}$で無限降下法をする.

$q_1\cdots q_n$$p_1$の倍数である. $q_1,...,q_n$のどれかは$p_1$の倍数であることが示せればよい. このためには$a,b$$p_1$で割り切れないなら$ab$$p_1$で割り切れないことを示せばよい. (演習:なぜ?)

このためには互いに素の概念の拡張が必要である. とりあえず以下の定理を認めよう:

ベズーの補題の一般化

$R$をユークリッド整域とし, $a,b\in R\backslash\{0\}$とする.
このとき$\{ax+by|x,y\in R\}=\{dx|x\in R\}$なる$d\in R$が存在する(それを最大公約数という).

定理6

$a,p_1$の最大公約数を$d$とすると$d|p_1$なので$d$は単数か$p_1$の単数倍である. 後者のときは$a$$p_1$の倍数となり, 矛盾. 前者の時は$ay+p_1z=u$なる$y,z$と単数$u$が存在する. 両辺に$bu^{-1}\in R$をかけると$b=p_1(yu^{-1}+zbu^{-1})$となり, $b$$p_1$の倍数になるので矛盾. よって一意性も示された.

ベズーの補題の一般化の証明

$N(aX+bY)$の($0$でない中での)最小値を取る$X,Y$を取り, $d=aX+bY$とする. $a=qd+r, N(r)< N(d)$とすると$r=a(1-qX)+b(-qY)$となるから$N(d)$の最小性から$N(r)=0$. よって$r=0$, つまり$a=qd$. 同様に$b=pd$とおける. よって$\{ax+by|x,y\in R\}=\{d(qx+py)|x,y\in R\}\subset\{dx|x\in R\}$. 逆に$\{ax+by|x,y\in R\}\supset\{k(aX+bY)|k\in R\}=\{dx|x\in R\}$. よって定理は示された.

実は$\{ax+by|x,y\in R\}$$\{dx|x\in R\}$はより一般の環でイデアルと呼ばれる重要なクラスになっている. それを導入することで因数分解についてより深く考えることが出来るがその前に例を見ておこう.

$K$を体とするとき$K[x]$$N(f)=\mathrm{deg}(f)+1$, ただし$\mathrm{deg}(0)=-1$とすれば$K[x]$はユークリッド整域になる. よって$K[x]$はUFDである.

$\mathbb Z[i]=\{a+bi|a,b\in \mathbb Z\}$は複素数の絶対値を用いることでユークリッド整域になる. よって$\mathbb Z[i]$で素因数分解が出来る.

2個目は代数体の整数環と呼ばれるものの例だが, 代数体の整数環はUFDとは限らない. (素イデアル分解というのは可能だったりする)

さて, 次は単項イデアル整域 (PID) がUFDであることを示そう. 単項イデアル整域は上のベズーの補題の一般化が成立する整域なので, 上の補題が一意分解性で重要な役割を果たしていたことを考えればPIDを考えるモチベーションは何となく分かるかもしれない. とりあえずイデアルの定義から始めよう. (また定義が沢山〜)

イデアル

$R$を環とする. $R$の部分集合$I$が以下の条件を満たすとき$I$$R$のイデアルという.

  1. $a, b\in I\Rightarrow a+b\in I$
  2. $a\in I$かつ$c\in R\Rightarrow ac\in R$

さすがに不親切なので例を,

イデアル
  • $R$を環とし, $a\in R$とするとき$aR=\{ax|x\in R\}$$R$のイデアルである. このような形で書けるイデアルを単項イデアルといい, 簡単に$(a)$と書く.

  • $\mathbb Z[x]$において$(2,x)=2\mathbb Z[x]+x\mathbb Z[x]=\{2f(x)+xg(x)|f(x),g(x)\in \mathbb Z[x]\}$$\mathbb Z[x]$のイデアルであるが, 単項イデアルではない.

  • $X$$R$の部分集合とするとき, $X$を含む最小のイデアルは$(X)=\{a_1x_1+\cdots a_nx_n|a_1\cdots,a_n\in R, x_1,\cdots,x_n\in X\}$であり, $X$で生成されるイデアルと呼ぶ.

  • $\varphi:A\to B$を環準同型とし, $I$$\mathbf{B}$のイデアルとすると, $\varphi^{-1}(I)=\{a\in A|\varphi(a)\in I\}$$I$のイデアルである. (演習: なぜ?)

  • 特に$\mathrm{Ker}(\varphi)=\varphi^{-1}((0))$はイデアルであり, これを$\varphi$の核と言う.

  • $I, J$$R$のイデアルとすると, $I+J=\{i+j|i\in I, j\in J\}$はイデアルである. $\{ij|i\in I, j\in J\}$はイデアルでないのでそれで生成されるイデアルを$IJ$と書く. $I\cap J$はイデアルである.

  • $IJ\subset I\cap J\subset I\subset I+J$を確認しておこう.

  • なお, 体のイデアルは$(0)$か全体集合である.

イデアルを定義することでべズーの補題の一般化は次のように書ける.

べズーの補題の一般化

$R$をユークリッド整域とすると任意の$a,b\in R$に対して$(a)+(b)=(d)$なる$d\in R$が存在する.

べズーの補題が成り立ってもう少し強い条件を課せばUFDになる (UFDの十分条件). それが単項イデアル整域である.

単項イデアル整域

$R$を整域とする. $R$の任意のイデアルが単項イデアルであるとき, $R$を単項イデアル整域(PID)と呼ぶ.

定義から明らかに次の性質が成り立ちます.

ベズーの補題の一般化

$R$を単項イデアル整域とすると任意の$a,b\in R$に対して$(a)+(b)=(d)$なる$d\in R$が存在する. ($d$を最大公約数ということも?)

(ベズーの補題が成り立つ整域をベズー整域とか言うらしいがあまり見たことがない. (なお, ベズー整域はPIDとは限らない. 少しだけ条件が足りないため反例が構成できちゃう.))

ユークリッド整域$R$はPIDである.

$I$$R$のイデアルとする. $I=(0)$ときは自明.

$I\neq(0)$なら$\{N(i)|i\in I\backslash\{0\}\}$に($0$でない)最小元が存在するので$N(i)$が最小となるとする. この時$I=(i)$であることを示したい. $x\in I$とすると$x=qi+r$かつ$N(r)< N(i)$なる$q, r$が存在する. 移項することで$r\in I$となるので$N(i)$の最小性から$r=0$. よって$I\subset (i)$. $I\supset (i)$は明らか. よって定理は示された.

PIDはUFDである.

既約元分解が出来ること

$x\in R\backslash \{0\}$とする. $x$は単元と既約元の積になるまで永遠に分解出来る(ユークリッド整域がUFDであることの証明と同様). 有限回分解したら既約元分解になれば良いが永遠に既約元分解にならない場合が問題である.

このために分解されてく様子を少し精密に見ていく.
$x$が既約元でも単数でもないなら$x=ab$と分解できて, $a,b$がどちらも既約元ならそれで話が終わって, そうじゃないなら(対称性より$a$が既約元ではないとして)$a=cd$と分解できて, $c,d$がどちらも既約元なら嬉しいけどそうじゃないなら...

結局$R$$0$や単数でない元の無限列$a_1,a_2,...$があって$x=a_1a_2a_3a_4...a_nb_n$みたいな感じに書ける($n$はいくらでも大きく取れる正整数). つまり$\dfrac{x}{a_1\cdots a_n}=b_n$は単元でも既約元でもない. ここで$\displaystyle\lim_{n\to\infty}(b_n)$(記号の乱用)について考える. もう少し厳密に書くと$X=\displaystyle\bigcup_{n=1}^\infty(b_n)$. これはイデアルになるので(演習: なぜ?)$X=bR$みたいに書ける. 一方, $b\in X$よりある$m$があって$b\in (b_m)$となる. よって$(b_1)\subset(b_2)\subset\cdots\subset(b_m)=(b_{m+1})\cdots=(b)$となってしまう. これだと$a_{m+1},a_{m+2},\cdots$が単数になって矛盾. (なお, ここの議論はPIDがネーター環であることを示すモチベーションだったりする)

一意性

$x=p_1\cdots p_m=q_1\cdots q_n$と二通りに分解出来たとする. $\min\{m,n\}$で無限降下法をする.

$q_1\cdots q_n$$p_1$の倍数である. $q_1,...,q_n$のどれかは$p_1$の倍数であることが示せればよい. このためには$a,b$$p_1$で割り切れないなら$ab$$p_1$で割り切れないことを示せばよい.

$a,p_1$の最大公約数を$d$とすると$d|p_1$なので$d$は単数か$p_1$の単数倍である. 後者のときは$a$$p_1$の倍数となり, 矛盾. 前者の時は$ay+p_1z=u$なる$y,z$と単数$u$が存在する. 両辺に$bu^{-1}\in R$をかけると$b=p_1(yu^{-1}+zbu^{-1})$となり, $b$$p_1$の倍数になるので矛盾. よって一意性も示された.

もう少しUFDを見ていこう. $\mathbb Z[x]$の仲間である.

$R$をUFDとすると$R[x]$もUFD.

これを示す流れを考えてみる. $\mathbb Z[x]$のときは一度$\mathbb Q[x]$で因数分解した後にガウスの補題を用いて$\mathbb Z[x]$での因数分解を復元した. 従って, $\mathbb Z[x]$のときと同様に$\mathbb Z$に対する$\mathbb Q$のような概念を導入した後, ガウスの補題を一般化する必要がある.

商体

$R$を整域とする. $R$の元$a,b\ (b\neq0)$を使って分数$\dfrac{a}b$と表される数全体の集合にいつもの和, 差, 積, 商を考えていつものように通分とか約分とかをしてあげればこれは体になる. これを$R$の商体という.

厳密には同値関係を用いて定義する. $R$$R\backslash\{0\}$の二つ組$(a,b)$全体の集合$X$に対して$(a,b)\sim(c,d)\Leftrightarrow ad=bc$として定義して, $K=X/\sim$において足し算とかけ算を$\overline{(a,b)}+\overline{(c,d)}=\overline{(ad+bc,bd)},\ \overline{(a,b)}\cdot\overline{(c,d)}=\overline{(ac,bd)}$と定義すればこれは体になるので, それを商体という.

$K$$R$の商体とすれば$K[x]$はユークリッド整域なのでUFDであり, 従って因数分解が出来る. 次は$K[x]$の分解を$R[x]$に復元する必要があります. $K[x]$$R[x]$の差ですぐ思いつくのは定数倍部分の因数分解でしょう. $2x$は有理数係数なら既約として良いですが整数係数なら$2\cdot x$なので可約です. 従ってまず$R[x]$係数多項式の係数の最大公約数で多項式を割ってしまって係数が全部互いに素な状態を考えましょう. これを原始多項式といいます. 少し定義を.

最大公約数, 最小公倍数

既約元分解を使えば最大公約数, 最小公倍数も(単数倍の差を除いて一意的に)定義できるのでそのうち一つを$\mathrm{gcd}, \mathrm{lcm}$とする. 必要なら単数倍をどのように取ったか言及する.

最大公約数が単数となるとき, その元の組が互いに素であるという.

原始多項式

$R$をUFDとする. $f\in R[x]$の係数が互いに素であるとき, $f$を原始多項式という.

次はガウスの補題です.

ガウスの補題

原始多項式の積は原始多項式である.

$f,g$を原始多項式とし, $fg$が原始多項式でないとし, 係数の最大公約数を割り切る既約元をとり, $p$とする. $f,g$は原始多項式なので$p$で割り切れない係数が存在する. そのうち次数が最小なものを$a_ix^i,b_ix^j$とすれば$a_ib_jx^{i+j}$によって$fg$$x^{i+j}$の係数が$p$で割り切れないことになり, 矛盾. よって示された.

$R$をUFDとすると$R[x]$もUFDである.

$f\in R[x]$とする. $f=df'$($d$$f$の係数の最大公約数)とすることで$f$は原始的であるとして良い. ($d$の既約元分解の可能性は微妙に非自明である. $d$$R$内で既約元分解した後で, 既約元が$R[x]$でも既約であることを確認する必要があるからである. (これを確認するのは容易(整域なので)))

ということで$f$を原始的多項式としてこれを$K[x]$$f=g_1\cdots g_n$と既約元分解する. $g_i\in K[x]$. ここで適当な定数$a_i\in K$をかければ$a_ig_i$$R[x]$の原始多項式となる (係数の分母の最小公倍数をかけて分子の最大公約数で割れば良い). $h_i=a_ig_i$とすると$h_1\cdots h_n$$f$の定数倍であり, ガウスの補題から原始的多項式である. 原始的多項式は単数倍の差を除いて一意なのだから$f$$R[x]$で既約元分解出来た. ($h_i$$R[x]$既約であることは確認すべきだがこれは明らか(可約だったら$K[x]$でも可約になるから))

これによって長い因数分解の旅が一段落ついた. 整数と多項式に共通する因数分解という概念は環論に一般化することで俯瞰することができた. ここから先も素イデアル分解や類数の有限性, 準素イデアル分解など楽しい話は沢山あるが受験生が書く余裕はない(). まあとりあえず数オリの多項式の問題と少し仲良くなって貰えたら幸いです(?)
合同式とか有限体の話も書きたかったけど許して><

投稿日:20221222

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