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大学数学基礎解説
文献あり

楕円積分の特殊値を求める

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はじめに

 この記事では楕円積分K(k)に対して
K(kN)K(kN)=N
が成り立つときのK(kN)の値について解説していきます。
  前回の記事 ではLattice SumのL関数への分解
m,n1(m2+Nn2)s=2dNL±dL4N/d
を考えることでラマヌジャンの不変量GN,gNを求めたのでした。
 実はこの公式からはラマヌジャンの不変量だけでなくτ=Nにおける
K=π2θ3(τ)2
の値を求めることもできます。万能かよ。

アイゼンシュタイン級数とクロネッカーの極限公式

m,n1(m2+Nn2)s=2dNL±dL4N/d
といった分解公式を考えていたZuckerやGlasserらはこの左辺の級数をLattice Sumと呼んでおり、一般に正定値の二次形式Q=ax2+bxy+cy2に対し
ζQ(s)=m,n1Q(m,n)s
という級数のL関数への分解を考えていました。この関数はEpsteinのゼータ関数とも呼ばれます。
 Qは正定値であることからD=b24ac<0なのでこれは
Q=a(m+b+D2an)(m+bD2an)=a|m+nτ|2
ただし
τ=b+D2a
と変形することができ、Epsteinのゼータ関数は
ζQ(s)=m,n1as|mτ+n|2s
と表すことができます。
 一般にτHとしてasおよびys=Im(τ)sを乗じたもの
E(τ,s)=m,nys|mτ+n|2s
実解析的アイゼンシュタイン級数と呼びます。流儀によってはこれを2ζ(2s)で除したもの
E(τ,s)=12gcd(m,n)=1ys|mτ+n|2s
も実解析的アイゼンシュタイン級数と言いますが、この記事では扱いません。
 さてLattice Sumを一般化した実解析的アイゼンシュタイン級数には次のような公式があります。

クロネッカーの極限公式

 ηをデデキントのイータ関数
η(τ)=q112n=1(1q2n)(q=eiπτ)
とすると
lims1(E(τ,s)πs1)=2π(γlog2log(y|η(τ)|2))
が成り立つ。

イータ関数の特殊値

 クロネッカーの極限公式については証明しませんが、このτ=Nの場合を考えることで以下の公式が得られます。

lims1(Nπm,n1(m2+Nn2)s1s1)=2(γlog212logNlogη(N)2)
が成り立つ。

lims1(m,nNs2(m2+Nn2)sπs1)=lims1((m,nN(m2+Nn2)sπs1)Ns2N12+πs1(Ns2N121))=lims1(m,nN(m2+Nn2)sπs1)+π2logN
に注意するとわかる。

 ここで 前回の記事 の定理5を思い出しましょう。

 (an)をクロネッカー記号とし
Ld(s)=n=1(dn)1ns
とおく。このときN3(mod4)なる平方因子を持たない便利数N1に対してその素因数p3の個数をrとおくと
m,n1(m+Nn)s=12r12dNL±dL4N/d
が成り立つ。ただし符号は±d1(mod4)となるように取るものとした。

 この公式とクロネッカーの極限公式を合わせることで以下のようにη(N)を計算することができます。

 定理2の条件下で
logη(N)2=12r+1n=14N(4Nn)logΓ(n4N)N2rπ2dNd1L±d(1)L4N/d(1)12log8πN
が成り立つ。

 この証明は後半に回すとして、まずこの公式の効力を見ていきましょう。
 Γ関数の倍数公式
Γ(nz)=nnz12(2π)n12k=0n1Γ(z+kn)
から得られる等式
n=1(n,4N)=14NlogΓ(n4N)=φ(4N)2log2π(N2)
(これも後半で証明する)を用いて定理3式を整理すると
logη(N)2=12rn=1(n,4N)=14N1+(4N|n)2logΓ(n4N)N2rπ2dNd1L±d(1)L4N/d(1)12log8πNφ(4N)2r+2log2π
となり、さらに
MD={hDlogεDD>02hD/wDD<0
とおくと二次体の類数公式から次のように整理できます。

logη(N)2=12rn=1(n,4N)=14N1+(4N|n)2logΓ(n4N)12r2dNd1M±dM4N/d12log8πNφ(4N)2r+2log2π

となりまず。
 例えばN=5,13(r=1)の場合を考えると
logη(5)2=12log(Γ(120)Γ(320)Γ(720)Γ(920))14log5+1212log40πlog2πη(5)2=1π(5+12)14(Γ(120)Γ(320)Γ(720)Γ(920)160π)12logη(13)2=12aAlogΓ(a52)14log13+3212log104π3log2πη(13)2=1π(13+32)14(aAΓ(a52)6656π5)12(A={1,7,9,11,15,17,19,25,29,31,47,49})
と計算できるわけです。やば。

楕円積分の特殊値

 そしてイータ関数の特殊値とラマヌジャンの不変量
f(τ)=q124n=1(1+q2n1)(q=eπiτ)GN=214f(N)
を用いると この記事 の定理3の証明からτ=Nにおいて
K(kN)=π2θ32=π2η(N)2f(N)4=πη(N)2GN4
と楕円積分の特殊値を求めることができます。
 例えばN=5,13の場合を考えると
G54=5+12,G134=13+32
であったので上の結果から
K(k5)=(5+2)14(Γ(120)Γ(320)Γ(720)Γ(920)160π)12K(k13)=(513+18)14(Γ(152)Γ(752)Γ(952)Γ(1152)Γ(1552)Γ(1752)Γ(1952)Γ(2552)Γ(2952)Γ(3152)Γ(4752)Γ(4952)6656π5)12
と計算できます。なんてこった。
 ここでは紹介しませんが他の便利数Nに対しても同様にη(N)およびK(kN)を求めることができます(ただNが偶数のときのGNの値は 前回の記事 とは別の方法で求めておく必要があります)。またいくつかのNに対するK(kN)の値については Wolfram MathWorld に列記されています。

定理3の証明

 クロネッカーの極限公式および定理2より
4logη(N)=2γlog4Nlims1(N2r1πζ(s)L4N(s)1s1)N2r1π2dNd1L±d(1)LN/d(1)
が成り立つので、 前回の記事 での議論から
L4N(1)=2r1πN
であったことに注意すると以下の等式を示せばよい。

lims1(ζ(s)L4N(s)L4N(1)1s1)=2γ+log2π12rn=14N(4Nn)logΓ(n4N)
が成り立つ。

lims1(ζ(s)1s1)=γ
であることが知られている(後述)ので
lims1(ζ(s)L4N(s)L4N(1)1s1)=lims1((ζ(s)1s1)L4N(s)L4N(1)+1s1(L4N(s)L4N(1)1))=γ+L4N(1)L4N(1)
が成り立つ。
 また虚二次体の判別式Dに対してクロネッカー記号(D|n)は法Dの原始的奇ディリクレ指標を定めることが知られており、そのガウス和の符号は
τ((D))=n=1|D|(Dn)ζDn=D
と決定されるらしいので この記事 より
L4N(1)L4N(1)=γ+log2ππiτ((4N|))L4N(1)n=14N(4Nn)logΓ(n4N)=γ+log2ππ14NN2r1πn=14N(4Nn)logΓ(n4N)=γ+log2π12rn=14N(4Nn)logΓ(n4N)
が成り立ち、主張を得る。

おまけ

lims1(ζ(s)1s1)=γ
が成り立つ。

 リーマンゼータ関数の関数等式
ζ(s)=2sπs1sin(πs2)Γ(1s)ζ(1s)
においてs1の挙動を考えると
Γ(1s)=Γ(2s)1s=Γ(1)Γ(1)(s1)1s+O(s1)=11sγ+O(s1)
なので
f(s)=2sπs1sin(πs2)ζ(1s)
とおくとf(1)=1より
lims1(ζ(s)1s1)=lims1((Γ(s)+1s1)f(s)f(1)+1s1(f(s)f(1)1))=γ+f(1)f(1)=γ+log2πζ(0)ζ(0)=γ
とわかる(最後の等号については昔の記事のコピペを貼っておきます)。

ζ(0)ζ(0)=log2πの証明

η(x)=(121s)ζ(s)=n=11ns2n=11(2n)s=n=1(1)n1ns
とおくとこれはRe(s)>0で収束するが、
2η(s)=n=1(1)n1ns+(1n=1(1)n1(n+1)s)=1+n=1(1)n1(1ns1(n+1)s)
と変形すればRe(s)>1で収束することになる。

収束性について

|n=1(1)n1(1ns1(n+1)s)|=|n=1((1(2n1)s1(2n)s)(1(2n)s1(2n+1)s))|=|n=1s(2n12ndxxs+12n12ndx(x+1)s1)|=|n=1s(s+1)2n12nxx+11ys+2dydx||s(s+1)|n=11(2n1)Re(s)+2<
とわかる。



 またその項別微分
2η(s)=n=1(1)n(lognnslog(n+1)ns)
Re(s)>1で収束するのでs=0を代入することで
2η(0)=n=1((log(2n1)log(2n))+(log(2n)log(2n+1)))=log(n=1(2n)2(2n1)(2n+1))=logπ2
を得る。ここで
sinπ2=π2n=1(11(2n)2)=π2n=1(2n1)(2n+1)(2n)2=1
であること(ウォリスの公式)を用いた。

 いま
2η(s)=2((121s)ζ(s))=21s(log2)2ζ(s)+2(121s)ζ(s)
であったのでζ(0)=12に注意してs=0を代入することで
2η(0)=2log22ζ(0)=logπ2
すなわち
ζ(0)=12log2π
ひいては
ζ(0)ζ(0)=log2π
を得る。

logΓ(n/4N)の計算

 nが素数べきpeのとき
k=1(k,n)=1nlogΓ(kn)=φ(n)2log2π12logp
 nが二つ以上の素因数を持つとき
k=1(k,n)=1nlogΓ(kn)=φ(n)2log2π
が成り立つ。

 求める式をanとおくと
d|nad=d|nan/d=d|nk=1(k,n/d)=1n/dlogΓ(dkn)=d|nk=1(k,n)=dn/dlogΓ(kn)=k=1nlogΓ(kn)
が成り立つ。これはガンマ関数の倍数公式
Γ(nz)=nnz12(2π)n12k=0n1Γ(z+kn)
においてz=1/nを代入することで
k=1nlogΓ(kn)=n12log2π12logn
と計算できるのでメビウスの反転公式より
an=d|nμ(nd)(d12log2π12logd)
を得る。また
d|nμ(d)=0(n>1)d|nμ(nd)d=φ(n)
より
an=φ(n)2log2π12d|nμ(nd)logd
と計算できる。
 ここで
logbn=d|nμ(nd)logd
とおくとメビウスの反転公式より
n=d|nbd
が成り立ち、ここからb1=1およびbpe=pがわかる。また
n=pnpep
と素因数分解したとき、
p|ne=1epbpe=n
となることに注意すると数学的帰納法よりnが二つ以上の素因数を持つときはbn=1となることがわかる。
 以上より主張を得る。

参考文献

[1]
J. M. Borwein, P. B. Borwein, Pi and the AGM: A Study in Analytic Number Theory and Computational Complexity, Wiley-Interscience, 1987, pp. 296-298
投稿日:2023215
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子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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  6. $\sum\log\G(n/4N)$の計算
  7. 参考文献