1
大学数学基礎解説
文献あり

凸関数がほとんど至るところ2回微分可能であることの証明 ③

32
0
$$$$

前々回: 凸関数がほとんど至るところ2回微分可能であることの証明①
前回: 凸関数がほとんど至るところ2回微分可能であることの証明②

この記事は「$\mathbb{R}$上の凸関数はほとんど至るところ2回微分可能である」ことを示すためのものである。今回は前回の結果とMarkovの不等式を用いて、1つの定理を証明する。

目次

1.定義
2.準備
3.定理の証明

定義

1次元Lebesgue測度を$\mu$$\mathbb{R}$のLebesgue可測な部分集合全体を$\mathscr{L}$と表す。今回は次の定理を示すことを目標とする。

$(\mathbb{R},\mathscr{L},\mu)$の局所可積分関数$f$に対して、
$$\lim_{s,t\to +0}\frac{1}{s+t}\int_{x-s}^{x+t}f(y)dy=f(x)$$
$\mu$-a.e.$x\in\mathbb{R}$で成り立つ。

ただし可測関数の局所可積分性は次のように定義される。

局所可積分

$(X,\mathscr{O})$を位相空間、$(X,\Sigma,\nu)$$\mathscr{O}\subset\Sigma$となるような測度空間とし、$f:X\rightarrow\mathbb{R}$をその可測関数とする。このとき$f$が局所可積分であるとは、任意の$x\in X$に対してその近傍$U_x$が存在して、$f \cdot \mathbb{1}_{U_x}$が可積分となることをいう。ただし、$A\in\Sigma$に対して
$$\mathbb{1}_A(x):= \begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} 1 \quad(x\in A) \\ 0\quad(x\notin A) \end{array} \right. \end{eqnarray}$$
と定義する。このとき任意のコンパクト集合$K$に対して$f\cdot\mathbb{1}_K$は可積分である。

準備

証明には次の3つの事実を使う。

Markovの不等式

測度空間$(X,\Sigma,\nu)$の可積分関数$f$$\alpha>0$に対して、
$$\nu(\{x\in X\mid|f(x)|\geq\alpha\})\leq\frac{1}{\alpha}\int_X|f(y)|d\nu(y)$$
となる。

極大関数を用いた測度評価

$(\mathbb{R},\mathscr{L},\mu)$の可積分関数$f$をとり$f^*$$f$の極大関数とする。すなわち任意の$z\in\mathbb{R},r>0$に対して$B(z,r)=(z-r,z+r)$とするとき
$$f^*(x):=\sup_{z\in\mathbb{R},r>0,\\x\in B(z,r)}\frac{1}{\mu(B(z,r))}\int_{B(z,r)}|f(y)|dy\quad(x\in\mathbb{R})$$
によって$f^*:\mathbb{R}\rightarrow\overline{\mathbb{R}}$を定める。このとき任意の$\alpha>0$に対して、
$$\mu(\{x\in\mathbb{R}|f^*(x)>\alpha\})\leq\frac{5}{\alpha}\int_\mathbb{R}|f(y)|dy$$
となる。

次の事実は相川弘明・小林政晴『ルベーグ積分 要点と演習』定理3.8からの引用である。

Lebesgue可積分関数の近似

$f$$\mathbb{R}^d$のLebesgue可積分関数とする。任意の$\varepsilon>0$に対して、
$$\int_{\mathbb{R}^d}|f(x)-g(x)|dx<\varepsilon$$
となる$g\in C_0(\mathbb{R}^d)$が存在する。

ただし、$d\in\mathbb{N}$であり、
$$C_0(\mathbb{R}^d)=\left\{g:\mathbb{R}^d\rightarrow\mathbb{R}\mid gは連続,\left\{x\in\mathbb{R}^d\mid g(x)\neq 0\right\}は有界\right\}$$
である。
定理3の証明は 凸関数がほとんど至るところ2回微分可能であることの証明② を参照。命題4の証明は[1]を参照。ここでは定理2の証明をする。

定理2の証明

測度空間$(X,\Sigma,\nu)$の可積分関数$f$$\alpha>0$に対して、$$E=\{x\in X\mid |f(x)|\geq\alpha\}$$と定めると、
$$\int_X|f(x)|d\nu(x)\geq\int_K|f(x)|d\nu(x)\geq\int_K\alpha d\nu(x)=\alpha\nu(K)。$$

定理の証明

定理1の証明をする。

定理1の証明

$(\mathbb{R},\mathscr{L},\mu)$の局所可積分関数$f$をとる。

(1)$f$が可積分である場合を考える。
$$A=\mathbb{R}\setminus\left\{x\in\mathbb{R}\mid \lim_{s,t\to +0}\frac{1}{s+t}\int_{x-s}^{x+t}f(y)dy= f(x)\right\},$$
$$A_n=\left\{x\in\mathbb{R}\mid \limsup_{s,t\to +0}\left|\frac{1}{s+t}\int_{x-s}^{x+t}f(y)dy-f(x)\right|>\frac{1}{n}\right\}(n\in\mathbb{N})$$
と定める。このとき$A=\bigcup_{n\in\mathbb{N}}A_n$である。よって$\mu(A)=0$を示すには$\mu(A_n)=0(n\in\mathbb{N})$を示せば良い。

  • $\textbf{連続関数で近似}$
    任意に$n\in\mathbb{N}$をとり$\mu(A_n)=0$を示す。そのためには任意に$\varepsilon>0$をとり、$\mu(A_n)<\varepsilon$となることを示せば良い。命題4より
    $$\int_\mathbb{R}|f(x)-h(x)|<\frac{\varepsilon}{24n}$$
    となるような$h\in C_0(\mathbb{R})$をとることができる。

 

  • $\textbf{測度評価できる形を作る}$
    $h$は一様連続であるから
    $$|x-y|<\delta\Rightarrow|h(x)-h(y)|<\frac{1}{2n}$$
    となるような$\delta>0$をとることができる。このとき任意の$x\in A_n$に対して$s,t\in(0,\delta)$が存在して、
    $$\left|\frac{1}{s+t}\int_{x-s}^{x+t}f(y)dy-f(x)\right|>\frac{1}{n}$$
    となる。この$s,t$に対して次が成り立つ。
    • $\displaystyle\left|\frac{1}{s+t}\int_{x-s}^{x+t}(f(y)-h(y))dy\right|\leq (f-h)^*(x)\quad(\because(f-h)^*の定義),$
    • $\displaystyle\left|\frac{1}{s+t}\int_{x-s}^{x+t}(h(y)-h(x))dy\right|\leq\frac{1}{2n}\quad\left(\because |h(y)-h(x)|<\frac{1}{2n},y\in(x-\delta,x+\delta)\right)。 $

よって、同様の$s,t$に対して
$$\frac{1}{n}<\left|\frac{1}{s+t}\int_{x-s}^{x+t}f(y)dy-f(x)\right|$$$$ \leq\left|\frac{1}{s+t}\int_{x-s}^{x+t}(f(y)-h(y))dy\right| +\left|\frac{1}{s+t}\int_{x-s}^{x+t}(h(y)-h(x))dy\right|+|h(x)-f(x)|$$$$ \leq (f-h)^*(x)+\frac{1}{2n}+|f(x)-h(x)|$$
となるので、$(f-h)^*(x)>\frac{1}{4n}$$|f(x)-h(x)|>\frac{1}{4n}$のいずれかが成り立つ。従って、
$$A_n\subset\left\{x\in\mathbb{R}\mid(f-h)^*(x)>\frac{1}{4n}\right\}\cup\left\{x\in\mathbb{R}\mid|f(x)-h(x)|>\frac{1}{4n}\right\}$$
である。

  • $\textbf{測度評価}$
    定理3より
    $$\mu\left(\left\{x\in\mathbb{R}\mid(f-h)^*(x)>\frac{1}{4n}\right\}\right)\leq 20n\int_{\mathbb{R}}|f(y)-h(y)|dy<\frac{20\varepsilon}{24}$$
    であり、定理2より
    $$\mu\left(\left\{x\in\mathbb{R}\mid|f(x)-h(x)|>\frac{1}{4n}\right\}\right)\leq 4n\int_{\mathbb{R}}|f(y)-h(y)|dy<\frac{4\varepsilon}{24}$$
    である。よって
    $$\mu(A_n)<\frac{20\varepsilon}{24}+\frac{4\varepsilon}{24}=\varepsilon$$
    である。以上より$\mu(A)=0$

(2)一般の場合。

$$B=\mathbb{R}\setminus\left\{x\in\mathbb{R}\mid \lim_{s,t\to +0}\frac{1}{s+t}\int_{x-s}^{x+t}f(y)dy= f(x)\right\},$$$$ B_n=B\cap(-n,n)\quad(n\in\mathbb{N})$$
と定める。このとき$B=\bigcup_{n\in\mathbb{N}}B_n$である。よって$\mu(B)=0$を示すには$\mu(B_n)=0(n\in\mathbb{N})$を示せば良い。そこで任意に$n\in\mathbb{N}$をとる。$g=f\cdot\mathbb{1}_{[-n,n]}$とすると、$f$が局所可積分であることから$g$は可積分である。(1)での議論から
$$\mu\left(\mathbb{R}\setminus\left\{x\in\mathbb{R}\mid \lim_{s,t\to +0}\frac{1}{s+t}\int_{x-s}^{x+t}g(y)dy= g(x)\right\}\right)=0$$
である。一方、$(-n,n)$上で$f$$g$は一致するので
$$B_n=(-n,n)\setminus\left\{x\in\mathbb{R}\mid \lim_{s,t\to +0}\frac{1}{s+t}\int_{x-s}^{x+t}g(y)dy= g(x)\right\}$$
である。右辺は零集合であるから左辺もそうである。

今回は終わり。
次回: 凸関数がほとんど至るところ2回微分可能であることの証明④

参考文献

[1]
相川弘明・小林政晴, ルベーグ積分 要点と演習, 共立出版, 2018, p.92
投稿日:202349
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。

投稿者

On
10
2076
指摘・コメントなどあればよろしくお願いします

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中