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凸関数がほとんど至るところ2回微分可能であることの証明①

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私は随分昔ですが凸関数のなめらかさについて考察したことがあります。その時に得られた結論とは「凸関数$f: \mathbb{R}$$ \rightarrow $$\mathbb{R} $はほとんど至る所で2回微分可能である」(より厳密な主張はのちに述べます)ということです。当時自分が与えた証明が正しかったのかを確認するという意味も込めて、数回の記事に分けて改めて証明をします。必要とする前提知識は、微分積分学や測度論の基礎あたりだと思います。この問題に取り組み始めた当時は、私はまだ測度論の学びたてだった記憶があるので、証明に使われる手法一つ一つは比較的簡単なものになっていると思います。ただし、補助定理を幾つも必要とするものになっているので、読み応えはあるかもしれません(補助定理一つ一つもまた奥が深く興味深いものなので、証明は追わずとも定理の内容を確認するだけでも面白いと思います)。なお、この主張が実際に役に立つことは少ないかもしれないと思いますので、興味本位で見てもらうと良いと思います。


記事一覧:
(1) 凸関数がほとんど至るところ2回微分可能であることの証明①
(2) 凸関数がほとんど至るところ2回微分可能であることの証明②
(3) 凸関数がほとんど至るところ2回微分可能であることの証明③
(4) 凸関数がほとんど至るところ2回微分可能であることの証明④
(5) 凸関数がほとんど至るところ2回微分可能であることの証明⑤
(6) 凸関数がほとんど至るところ2回微分可能であることの証明⑥
(7) 凸関数がほとんど至るところ2回微分可能であることの証明⑦

目次

  1. 定義
  2. 定理
  3. 証明全体の概要

定義

示したい主張に関する諸定義を確認する。

凸関数

関数$f:\mathbb{R}\rightarrow\mathbb{R}$が凸関数であるとは、任意の$x,y\in\mathbb{R}$$\lambda\in(0,1)$に対して、
$$ f(\lambda x+(1-\lambda)y)\leq\lambda f(x)+(1-\lambda)f(y) $$
が成り立つことをいう。

関数の微分可能性

関数$f:\mathbb{R}\rightarrow\mathbb{R}$$a\in\mathbb{R}$で微分可能であるとは、
$$\lim_{h \to 0}\frac{f(a+h)-f(a)-bh}{h}=0$$となる$b\in\mathbb{R}$が存在することをいう。このような$b$は存在すれば一意であり、$f'(a)=b$と表すことがある。

関数の2回微分可能性

関数$f:\mathbb{R}\rightarrow\mathbb{R}$$a\in\mathbb{R}$で2回微分可能であるとは、
$$\lim_{h \to 0}\frac{f(a+h)-f(a)-bh-ch^2}{h^2}=0$$となる$b,c\in\mathbb{R}$が存在することをいう。

多くの微分積分学の入門書における定義では、関数$f:\mathbb{R}\rightarrow\mathbb{R}$$a\in\mathbb{R}$で2回微分可能となるためには、$f$$a$のある近傍の各点において微分可能であることが要請される。しかし、定義3では必ずしもそのような要請は必要ではない。

$n\in\mathbb{N}_{\geq2}$に対して関数$f_n:\mathbb{R}\rightarrow\mathbb{R}$
$$f_n(x)= \begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} 0 \quad \left(\left|x-\frac{1}{n}\right|>\frac{1}{n^3}\right) \\ \frac{1}{n^3}-\left|x-\frac{1}{n}\right| \quad \left(\left|x-\frac{1}{n}\right|\leq\frac{1}{n^3}\right) \end{array} \right. \end{eqnarray}$$
と定め、$f=\sum_{n=2}^{\infty}f_n$とする。このとき、$f$は少なくとも$x=\frac{1}{n}(n=2,3,...)$では微分可能でないが、$x=0$で2回微分可能である。

ほとんど至るところ

$(X,\Sigma,\nu)$を測度空間とし、各$x\in X$に対して命題$\alpha(x)$が定められているとする。$A\in\Sigma$とするとき、$A$上ほとんど至るところで$\alpha$が成り立つとは、$$\{x\in A|\lnot \alpha(x)\}$$が零集合となることをいう。このことを$\alpha(x), \nu$-a.e.$x\in A$と表すことがある。特に$A=X$のとき、$\alpha,\nu$-a.e.とも表すことがある。

定理

以下、$\mu$を1次元Lebesgue測度、$\mathscr{L}$$\mathbb{R}$のLebesgue可測な部分集合全体を表すことにする。
次が示したい主張である。

凸関数の2回微分可能性

凸関数$f:\mathbb{R}\rightarrow\mathbb{R}$$\mu$-a.e.で2回微分可能である。

定理1の証明は全7回の記事に分けて行う予定であり、第7回( 凸関数がほとんど至るところ2回微分可能であることの証明⑦ )にて完結される。第2回から第6回では以下の定理2〜8を証明する。

単調関数の微分可能性

単調増大関数$\mathbb{R}\rightarrow\mathbb{R}$$\mu$-a.e.で微分可能である。

$(\mathbb{R},\mathscr{L},\mu)$上の局所可積分関数$f$を任意にとる。そこで
$$F(x):=\int_0^xf(y)dy(x\in\mathbb{R})$$
と定めると、
$$\lim_{h\to 0}\cfrac{F(x+h)-F(x)}{h}=f(x)$$
$\mu$-a.e.$x\in\mathbb{R}$で成り立つ。

定理2の証明に次の定理を用いる。(ただし証明には定理3が必要である)

Lipschitz連続な関数の微分可能性

関数$f:\mathbb{R}\rightarrow\mathbb{R}$が局所Lipschitz連続ならば、$f$$\mu$-a.e.で微分可能である。

定理3の証明には以降の定理を用いる。

$\mu$は正則である。

測度の正則性の定義は Lebesgue測度の構成と正則性定理 を参照。

$(\mathbb{R},\mathscr{L},\mu)$の可積分関数$f$をとり$f^*$$f$の極大関数とする。このとき任意の$\alpha>0$に対して、
$$\mu(\{x\in\mathbb{R}|f^*(x)>\alpha\})\leq\frac{5}{\alpha}\int_\mathbb{R}|f(y)|dy$$
となる。

可積分関数の極大関数の定義は 凸関数がほとんど至るところ2回微分可能であることの証明② を参照。

Markovの不等式

測度空間$(X,\Sigma,\nu)$上の可積分関数$f$$\alpha>0$に対して、
$$\nu(\{x\in X\mid|f(x)|\geq\alpha\})\leq\frac{1}{\alpha}\int_X|f(y)|d\nu(y)$$
となる。

$(\mathbb{R},\mathscr{L},\mu)$上の局所可積分関数$f$に対して、
$$\lim_{s,t\to +0}\frac{1}{s+t}\int_{x-s}^{x+t}f(y)dy=f(x)$$
$\mu$-a.e.$x\in\mathbb{R}$で成り立つ。

わかりやすく図にすると以下の順番で定理を示す。

$ \left. \begin{array}{l} \quad\quad\quad\quad\quad(定理3\rightarrow)&定理4\rightarrow &定理2 \\ \left. \begin{array}{l} 定理5\rightarrow &定理6\\ &定理7 \end{array} \right\}\rightarrow &定理8\rightarrow &定理3 \end{array} \right\}\rightarrow定理1 $

記事名と証明する定理番号をリンクさせた表が次である。気になる定理があれば以下の表を参照すると良い。

証明全体の概要

 証明全体の外観をかなり直感的に述べる。
 $f$を凸関数とするとき、比較的容易に分かるが、$f$はある零集合$N$を除いた$\mathbb{R}\setminus N$の各点で微分可能であり、その導関数$f':\mathbb{R}\setminus N\rightarrow\mathbb{R}$は単調増加である。そこで$f$の2回微分可能性について調べるために、$f'$の微分可能性(定理2)について考察をすることは有効であるように思われる。というのは、$f$$f'$の関係を表す式として次のような等式が予想されるからである。
$$f(x)-f(0)=\int_0^xf'(y)dy。\tag{1}\label{1}$$
ただし$f'(x)=0(x\in N)$とする。実際にこの等式が正しいことは後に証明する(単に$\mu$-a.e.で微分可能な関数$f$に対しては(\ref{1})は一般には不成立であるため、(\ref{1})の証明には凸関数の性質を用いる必要がある)。定理3が成り立つことはこの等式が成り立つための必要条件となっている。
 (\ref{1})を認めると以下に見るように直ちに定理1が証明される。まず、各$x\in\mathbb{R}$に対して(\ref{1})より、
 $$f(x+h)-f(x)-f'(x)h-\frac{f''(x)}{2}h^2=\int_x^{x+h}(f'(y)-f'(x)-f''(x)(y-x))dy\quad(h\in\mathbb{R})$$
となる。特に、$f,f'$が共に微分可能であるような$x\in\mathbb{R}$に対しては、$h\to 0$とした時のこの右辺を適切に評価すれば
$$\lim_{h\to 0}\frac{f(x+h)-f(x)-f'(x)-\frac{f''(x)}{2}h^2}{h^2}=0$$
を得るので、$f$$x$で2回微分可能である。


今回は終わり。
次回の記事では先の定理6の証明を行う。

次回: 凸関数がほとんど至るところ2回微分可能であることの証明②

投稿日:202348

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