スピン幾何における解析学
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convention
$E:M$上のユークリッドまたはエルミーとベクトル束
$\langle\cdot,\cdot\rangle_E:E$のファイバー内積
$\Gamma(E):E$の滑らかな切断
$C^s(E):E$の$C^s$級の切断
$D_k(E,F):\Gamma(E)$から$\Gamma(F)$への$k$階の微分作用素
多様体上の解析学において非常に重要なベクトル束の切断の作るSobolev空間を解説します。
まずはHilbert空間から述べます。
コンパクトなsuppを持つ$E$の切断を$\Gamma_c(E)$とする。このとき$L^2$内積を
$$
(u,v)_{L^2}:=\int_M\langle u,v\rangle dv,\ u,v\in\Gamma_c(E)
$$
と定義する。このとき$L^2$ノルムは
$$
||u||_{L^2}:=\sqrt{(u,u)_{L^2}}
$$
で与えられる。
この$L^2$ノルムで完備化してHilbert空間を作ります。
$\Gamma_c(E)$を$L^2$ノルムで完備化した空間を$L^2(E)$と書く。
$$
L^2(E):=\overline{\Gamma_c(E)}^{||\cdot||_{L^2}}
$$
次にSobolev空間を定義します。以下$M$はコンパクトリーマン多様体とします。
$E$の接続$\nabla$を1つ任意に取る。非負整数$s$に対して、$s$次のSobolevノルムを
$$
||u||_{H^s}:=\sum_{k=0}^s||\nabla^ku||^2_{L^2}
$$
と定義する。このノルムで完備化した空間
$$
H^s(E):=\overline{\Gamma(E)}^{||\cdot||_{H^s}}
$$
を$s$次Sobolev空間という。
上の定義のSobolevノルムは接続$\nabla$の取り方には依存しません。また局所的にフーリエ級数を使って定義し、1の分割で多様体全体で足し合わせて定義する方法もよく使われます。この2つの方法で定義されるSobolev空間は同値なものになります。ただし$M$がコンパクトでない場合、例え$L^2$ノルムが有限、あるいは1の分割に関する足し上げが有限の場合でも完備化で得られるSobolev空間は一意的ではないことが知られているようです。(私はこの辺のことをよく知りません)
$C^s$ノルムは次のように与えられます。
$u\in\Gamma(E)$に対して、$C^s$ノルムを
$$
||u||_{C^s}:=\max_{k\le s}\max_{p\in M}||\nabla^ku||_{L^2}
$$
と定義する。
この$C^s$ノルムは$C^s(E)$において完備です。従って
$$
C^s(E)=\overline{\Gamma(E)}^{||\cdot||_{C^s}}
$$
となります。定義より明らかに、$s$と$n=dim M$に依存した定数$C(n,s)$が存在して、
$$
||u||_{H^s}\le C(n,s)||u||_{C^s}
$$
が成り立ちます。従って、埋め込み写像
$$
C^s(E)\hookrightarrow H^s(E)
$$
は連続であることが分かります。一方、Sobolev空間から$C^s(E)$への埋め込みについては次のSobolevの埋め込み定理があります。
自然数$s,l$が$s>l+\frac{n}{2}$を満たすとする。このとき、$n,s,l$に依存した定数$C(n,s,l)$により
$$
||u||_{C^l}\le C(n,s,l)||u||_{H^s},\ u\in H^s
$$
が成り立つ。従って埋め込み
$$
H^s(E)\hookrightarrow C^l(E)
$$
は連続である。
もう一つの重要な定理がRellichの埋め込み定理です。
$s_1< s_2$を非負整数とする。このとき埋め込み
$$
H^{s_2}\hookrightarrow H^{s_1}
$$
はコンパクト作用素である。すなわち、$H^{s_2}$の任意の有界な点列は$H^{s_1}$において収束する部分列を持つ。
Rellich埋め込み定理の応用の一つとしてある作用素がコンパクト作用素であることを示せることがあります。例えばある作用素$A$に対して、$u\in dom(A),\ Au\in H^{s_2}$であることが言えれば、$A:dom(A)\to H^{s_1}$がコンパクト作用素であることが分かります。コンパクト作用素に対して色々良い性質が成り立つのである作用素がコンパクトであるかどうかは重要な問題となります。
これら2つの定理の証明はフーリエ級数でSobolevノルムを定義して行いますが、ここでは省略します。以降はこの2つの定理を使って得られるいくつかの命題について述べます。
まず弱収束の定義は以下です。
Hilbert空間$(H,(,))$の点列$\{u_n\}$が$u\in H$に弱収束するとは
$$
(u_n,v)\to (u,v),\ {}^\forall v\in H
$$
が成り立つことである。このとき、
$$
u_n \rightharpoonup u
$$
と書く。
弱収束の基本的な性質は以下です。
(i) 弱収束先は一意的である。
(ii) $u_n\to u$ならば$u_n \rightharpoonup u$である(無限次元の場合、逆はなりたたない)。
(iii) $A:H_1\to H_2$が有界線形作用素であるならば、$u_n \rightharpoonup u$のとき、$Au_n \rightharpoonup Au$である。
(iv) Hilbert空間の有界列は弱収束する部分列を持つ。
以上より次の系が得られます。
$s_1< s_2$を非負整数とする。$H^{s_2}$の有界列$\{u_n\}$に対して、
\begin{align}
u_n\rightharpoonup u\in H^{s_2}\\
u_n\to u\in H^{s_1}\\
\end{align}
が成り立つ。
$u_n\rightharpoonup u\in H^{s_2}\subset H^{s_1}$は明らか。Rellichの定理より$u_n\to v\in H^{s_1}$であるから、$u_n\rightharpoonup v\in H^{s_1}$であり、弱収束の一意性より$u=v$である。
またSobolevの定理とRellichの定理を使えばただちに次が分かります。
$s>l+\frac{n}{2}$のとき、埋め込み$H^{s}(E)\hookrightarrow C^l(E)$はコンパクト作用素である。
また$P\in D_k(E,F)$の作用については次が成り立ちます。
$M$をコンパクト多様体とする。$P\in D_k(E,F)$は
\begin{align}
C^{l+k}(E)\to C^l(E)\\
H^{s+k}(E)\to H^s(E)
\end{align}
という有界線形作用素へ一意的に拡張される。
$M$にリーマン計量とリーマン接続$\nabla$を定める。
$u\in\Gamma(E)$に対して、$\nabla^j u\in \Gamma(T^*M^{\otimes j}\otimes E)$であるから、適当な$A_j\in\Gamma(Hom(T^*M^{\otimes j}\otimes E,F))$により
$$
P=\sum_{j=0}^k A_j\nabla^j
$$
と表される。
$$
||Pu||_{C^l}=||\sum_{j=0}^k A_j\nabla^j||_{C^l}\le \sum_{j=0}^k|| A_j\nabla^j||_{C^l}
$$
であり、$\nu=0,1,\cdots,l,j=0,1,\cdots,k$に対して、
\begin{align}
|\nabla^\nu(A_j\nabla^ju)|\le \sum_{\mu=0}^\nu |\nabla^\mu A_j\nabla^{\nu-\mu+j}u|\le C_1 \sum_{\mu=0}^\nu |\nabla^{\nu-\mu+j}u|\\
\le \sum_{\mu=0}^\nu C_1||u||_{C^{\nu-\mu+j}}
\le C_2 ||u||_{C^{k+l}}
\end{align}
であるから、$||Pu||_{C^l}\le C||u||_{C^{k+l}}$となり、$\Gamma(E)$は$C^{k+l}(E)$の中でdenseであるから、一意的に拡張される。
$H^{s+k}(E)$についても同様である。