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大学数学基礎解説
文献あり

石鹸膜の幾何学入門(4): Bernsteinの定理

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前回 は第一変分公式から導かれる極小曲面の幾何学的性質について扱いました.
今回は, 第一回 で扱った極小曲面のグラフについて再び考えます. 目標は次のBernsteinの定理の証明です.

Bernsteinの定理

関数u:R2Rが極小曲面方程式を満たすならば, uはaffine関数でなければならない. すなわち, uはある実数a, b, cを用いてu=ax+by+cで表される.

この定理の S. Bernstein さんは, 集合論で有名な F. Bernstein さんとは別人です.

すなわち, 平面全体で定義されたグラフ極小曲面は平面しかありません. 複素解析のLiouvilleの定理とよく似ていますが, あちらと違って有界性の仮定は不要です. 線形方程式の場合とは異なる振る舞いという意味で, 極小曲面方程式の非線形性が反映されている結果の一つと言えるでしょう.

  • N: 曲面Σの単位法ベクトル場.
  • A: 曲面Σの第二基本形式.
  • S: 曲面Σのシェイプ作用素.
  • {ej}j=12: 曲面Σ上のフレーム.
  • Σ: 曲面Σ上の接続.
  • Lip0(Σ): Σ上のコンパクト台を持つLipschitz関数全体のなす空間.
  • Graphu: 関数uのグラフ.

極小曲面のGauss写像

本題に入る前に, 極小曲面の曲率の満たす基本的な性質について見ていきます.

Gauss写像

曲面Σに対し, 各点xΣにおける単位法ベクトルN(x)を単位球面S2の元と思うことで得られる連続写像N:ΣS2R3Gauss写像と呼ぶ.

Weingartenの公式によれば, Gauss写像Nの微分はフレーム{ej}j=12を用いて
dN(ei),ej=S(ei),ej=N,eiej=Aij
と計算できたのでした.
ここで点pΣを固定し, Σ上のフレームとしてpにおいてSを対角化するようなものを考えます. STpΣ上の対称作用素ですから, このようなフレームは各点においては必ず存在し, かつその固有値は実数になります. こうして得られるSの固有値κ1, κ2を, pにおけるΣ主曲率と言い, 対応する固有ベクトルe1, e2pにおける主方向と言います.

極小曲面の場合, trS=2H=0となることから, κ1+κ2=0を得ます. 主方向{ej}j=12に関してGauss写像Nの微分を計算すると,
dN=(κ100κ2)=(κ100κ1)
となります. 特に, 極小曲面のGauss写像は(概)反共形写像(anti-conformal map)になります.

第二基本形式のノルムを
|A|2=i,j|A(ei,ej)|2
で定義すると,
|dN|2=|A|2=κ12+κ22=(κ1+κ2)22κ1κ2=2KΣ=2detdN
が成り立ちます. ここで, KΣ=detSΣGauss曲率です.
上記の関係式は後で用いるので公式の形でまとめておきましょう.

極小曲面のGauss曲率

|dN|2=|A|2=2KΣ

特に, 極小曲面のGauss曲率は至る所非正(non-positive)になります.

最後に, グラフ曲面の曲率の満たす評価式を紹介します. この公式は, 極小曲面の局所的な解析にもしばしば用いられます.

第二基本形式のノルムとhessian

関数uのグラフの曲率について, 次が成り立つ:
|Hessu|2(1+|u|2)3|A|2|Hessu|21+|u|2

関数uのグラフの第一基本形式gおよび第二基本形式Aはそれぞれ
g=(1+ux2uxuyuxuy1+uy2),A=11+|u|2(uxxuxyuxyuyy)
となる. 特に, gの固有値は11+|u|2となる.
一般に, |A|2=AijAklgikgjlとなるので, g1の固有値λ1, λ2を用いて計算すると,
|A|2=λ12A112+2λ1λ2A122+λ22A222
となるから, 固有値評価(1+|u|2)1λi1を用いて求める評価を得る.

グラフ極小曲面の面積最小性

続いて, ΩR2の有界領域とし, uをその上の関数で, 極小曲面方程式
div(u1+|u|2)=0
を満たすものとします. 初回 でこれが面積汎関数のEuler-Lagrange方程式であること, すなわち面積汎関数の臨界点であることを示しましたが, これは実際に次の意味で面積最小の曲面になります.

グラフ極小曲面の面積最小性

u:ΩRが極小曲面方程式を満たすとし, ΣΩ×RΣ=Graphuを満たす任意の曲面とする. このとき,
Area(Graphu)Area(Σ).

曲面Graphu上の法ベクトル場Nを, 平行移動で空間Ω×R上に拡張しておき, Ω×R2次微分形式ωを,
ω(X,Y)=det(X,Y,N)
で定義する. 法ベクトル場N
N=(ux,uy,1)1+|u|2
で与えられることを用いて計算すると,
ω=dxdyuxdydzuxdzdx1+|u|2
となるから,
dω=(ux1+|u|2)x(uy1+|u|2)y=2H=0,
すなわちωは閉形式. さらに, 構成から任意のX,YS2に対してω(X,Y)1であり, 等号成立はX,YGraphuの接ベクトルとなるときである.

いま, 2つの曲面GraphuΣはhomologousだから, Stokesの定理により,
Graphuω=Σω
となるので,
Area(Graphu)=Graphuω=ΣωArea(Σ).

以下, DrR2で原点中心半径r>0の円板, BrR3で原点中心半径r>0の球体を表すものとします. グラフ極小曲面の面積最小性の系として, 次のような面積増大度の評価を得ます.

u:ΩRが極小曲面方程式を満たすとし, DrΩとすると,
Area(BrGraphu)2πr2.

球面Brは曲線BrGraphuによって二つの連結成分に分けられる. 二つの成分の内, 少なくとも一方の面積は半球面の面積Area(S2)r2/2=2πr2以下でなければならないから, 面積最小性より不等式が成立する.

Bernsteinの定理

表題のBernsteinの定理を証明します. 以下の曲率評価が証明の鍵となります.

重み付きPoincaré型不等式

u:ΩRは極小曲面方程式を満たすとし, Σ=Graphuとおく. このとき, ある定数C>0が存在し, 任意のηLip0(Σ)に対し,
Σ|A|2η2CΣ|Ση|2

ωS2上の面積要素とする. 上半球面は可縮なことに注意すると, Poincaréの補題から半球面上のある1形式αが存在して, ω=dαとできる.

次に, ΣのGauss写像Nによる像が上半球面に含まれることに注意して, 面積要素ωNで引き戻すことで
|A|2dΣ=2KΣdΣ=2Nω=2Ndα=2d(Nα)
を得る. ここで, dΣΣの面積要素を表す.
Cα=sup|α|とおくと,
|Nα|Cα|dN|=Cα|A|
となる.

ここで, Stokesの定理により,
Ση2|A|2dΣ=2Ση2d(Nα)=4ΣηdηNα4CαΣ|η||dη||A|dΣ4Cα(Ση2|A|2dΣ)12(Σ|Ση|2dΣ)12.
最後の不等式を得るのにCauchy-Schwarzの不等式を用いた. したがって,
Ση2|A|2dΣ16Cα2Σ|Ση|2dΣ
を得る.

この不等式と, いわゆるlogarithmic cutoff trick( この記事 の「ついでに」の節を参照)とを併用することで次が示せます.

グラフ極小曲面の全曲率評価

u:ΩRは極小曲面方程式を満たすとし, Σ=Graphuとおく. また, κ>eを定数とし, あるR>0に対してDκRΩとなっていたとする. このとき, κ及びR依存しないある定数C>0があって
BκRΣ|A|2Clogκ
が成り立つ.

関数ηLip0(Ω)
η(x)={1if |x|2κR2,22log(|x|R1)/logκif κR2<|x|2κ2R2,0if |x|2>κ2R2.
で定義する. |Σ|x||||x||=1に注意すると,
|Ση|2|x|logκ
となる. したがって, 補題3より,
BκRΣ|A|2Ση2|A|2CΣ|Ση|24C(logκ)2BκRBκRΣ|x|2.
ここで, n=logκ/2, N=logκとおき, 積分範囲を
BκRBκRl=n+1N(BelRBel1R)(BκRBeNR)
と分割すると, 定理2の系1より
BκRBκRΣ|x|2l=n+1NBelRBel1RΣ|x|2+BκRBeNRΣ|x|22πl=n+1Ne2l+2R2e2lR2+2πe2NR2κ2R22πe2(Nn+1)2πe2(logκ2+2)5πe2logκ
となる. したがって,
BκRΣ|A|220Cπe2logκ.

Bernsteinの定理の証明

補題4より, 十分大きな任意のR>1に対し,
BRΣ|A|2ClogR
となるから, Rとすることで|A|=0を得る.
したがって, 公式2よりuxx=uxy=uyy=0となるから, ある実数a,b,cRを用いてu=ax+by+cとなる.

おわりに

今回は極小曲面論の重要な結果の一つであるBernsteinの定理について紹介しました. 「高次元の場合でもグラフ極小曲面は平面に限るか」という問題はBernstein問題と呼ばれています. この問題は8次元以下の場合は肯定的に, 9次元以上の場合には否定的に解決されました. この辺りの歴史については[2]によくまとめられていますので, ぜひ参照なさってください.
現在もなお, 空間や余次元を変更したり, 安定性の意味で一般化したりと, 拡張されたBernstain問題は極小曲面論の中心的な課題の一つとして研究され続けています.

次回はいよいよ, 本シリーズのメインテーマである, 極小曲面の安定性について触れたいと思います.

参考文献

[1]
T.H. Colding and W. P. Minicozzi Ⅱ, A Course in Minimal Surfaces, GSM 121, American Mathematical Society, 2011
[2]
宮岡礼子, 極小曲面, 現代数学の潮流, 共立出版, 2022
投稿日:2024510
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Torte
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数理系博士課程在籍. 幾何学や解析学が好きです. 多分大学数学メイン?

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