SkyrmionはWess-Zumino-Witten項(WZW項)
と深い関係をもちます。Skyrme模型・非線形シグマ模型に量子アノマリーの効果を取り入れるにはWZW項が必要です。QCDのアノマリーによるメソンの崩壊過程は、WZW項によりこれらの模型に取り入れられますMathlog1。またSkyrme模型のトポロジカル不変量がバリオン荷であることは、WZW項のゲージ化を通じて理解できますMathlog1。
ところでSkyrmionが核子であるというなら、それはフェルミオンであるはずです。ここでフェルミオンとは空間の回転に対して状態・波動関数にの位相がつくオブジェクトのことです。しかしSkyrmionはボソンのソリトンです。有限個のボソンからフェルミオンを作ることは不可能なので、Skyrmionもフェルミオンになることはないように思えます。ところが本記事で示すように、Wess-Zumino-Witten項を通じてSkyrmionがフェルミオンであることがわかります。
以下の説明はRef.Zahed1986に則していますが、この議論はWittenの論文Witten1983Bに基づいています。Skyrme模型、WZW項の基礎に関してはMathlog記事Mathlog2Mathlog3Mathlog1をご参照ください。
回転に対するWess-Zumino-Witten項の位相への寄与
次の問題を考えます:
断熱的な回転に対するSkyrmionの位相
Skyrmionが以下の2つの状況にある場合を考えます。
(a) 時刻からまでSkyrmionが静止している
(b) からまで、Skyrmionが非常にゆっくり(=断熱的に)一周回転する
過程(a)と(b)の図
このとき両者の状態にはどのような位相がつくか?
(a)は簡単で、Skyrmionの質量(エネルギー)をとすると、この過程に対応する作用をとすると位相は
となります。
次に(b)の場合を考えます。ところが、通常のSkyrme模型の作用
では、(a)と(b)の過程に関して区別がつきません。なぜならEq.(1)の時間微分を含む項は時間微分の2乗の項だからです。例えばEq.(1)の第1項の時間微分を含む項の時間積分は
です。ここでゆっくり回転することからとします。と変数変換すれば
となります。をが一定になるように大きくとれば、この積分はでゼロになります。
ところがWZW項は時間の微分をひとつだけ持ちます。上の議論からわかるように、時間微分が1つの項はその時間積分がでも有限で残ります。つまり(a)に対する(b)の相対位相はWZW項のみからもたらされます。よって(b)の過程の位相は以下のように与えられます:
ここでは境界が空間であるような5次元の領域です(
この記事
参照のこと)。
Eq.(2)のWZW項の寄与を計算したいのですが、そのためにはSkyrme解を上に拡張しなければなりません。その際以下が重要です:
- Skyrmionの配位がflavorに関しSU(3)ならばでありWZW項はノンゼロだが、SU(2)だとなのでWZW項はゼロになる。よってSU(3)で考えなければならない。
- Skyrmionでは空間の回転はアイソスピン空間の回転に相当する(Skyrme解はのように、空間とアイソスピンのベクトルの内積を含む)
- WZW項の被積分関数はexactなので、5次元への拡張の詳細に依らず、境界条件を適切に満たす連続的なならばどのように拡張してもよい
1.よりSU(3)で考えます。を
とします。これはSU(2)のSkyrme解をSU(3)の左上に埋め込んだものです。Skyrme解に関しては
この記事
をご参照ください。
2.より、Skyrmionの空間回転をアイソスピンでの回転に焼き直します。を
で定義します。これはアイソスピンの第3方向を軸とした回転であり、軸まわりの回転と同等です。がからまで進むと1回転します(※脚注)。これを少し変形しておきます:
次にの5次元への拡張を考えます。5次元目の座標をとすると、5次元へ拡張されたSkyrmionは境界条件として
を満たすようにすればよいです。改めて、に依存する
を定義します。そして以下のを採用します:
ここではの範囲のパラメータとします。がのとき通常の回転となります。はであり、disc部分がで構成されます。パラメータの範囲はそれぞれとなっています。これはを動径方向、を角度方向とした2次元の極座標に対応します。
及び時間と5次元目の座標から構成されるdisc
以上から
として、計算すべき量は
です。このとき状態につく位相はです。
具体的な計算
Eq.(3)の積分は以下のようになります:
は以下で与えられる:
ここではQCDにおけるカラー数、はバリオン数(整数)であり
である。
はの完全反対称性よりのいづれかである。ここでを、を空間のインデックスとする。そしてをとに分離すると
となる(Appendix参照)。これは
と書けるが、このうち部分のは(がんばって)計算すると以下のようになる:
はの単位行列。以上より
である。これは
となる。Eq.(5)の第1項は
第2項は
である。ここで第2項の積分への寄与は、以下のようにゼロである:
ゆえにWZW項Eq.(1)はEq.(5)の第1項からもたらされる:
ここでSkyrmionのバリオン数は
この記事
より
である。を使ってEq.(6)を整理すれば、最終的に
を得る。
カラー数と統計性の関係
ということで、断熱的な回転によりもたらされる(a)との相対位相は
となります。
核子はであるので、が奇数ならフェルミオン(の位相がつく)、偶数ならボソン(位相はつかない)になることがわかります。現実はなのでSkyrmionはフェルミオンとなり、「Skyrmion=核子」の描像と整合的です。前の記事で、WZW項の係数がであれば、Skyrme模型・非線形シグマ模型がQCDの低エネルギー有効理論として整合的になることを述べましたMathlog1。そして本記事の例でもまたその整合性が確認できます。
まとめ
本記事ではSkyrmionがフェルミオンであることを示しました。断熱的なSkyrmionの空間回転に関する位相はWess-Zumino-Witten項のみからもたらされます。その位相を計算すると、が奇数ならSkyrmionはフェルミオン、偶数ならボソンとなることがわかります。このように、WZW項は非常に巧妙な形でSkyrmionにフェルミオンとしての性質をもたらします。
本記事ではflavorがSU(3)のSkyrmionに関して議論しました。SU(2)の場合はWZW項がゼロになるので本記事の議論を適用することはできません。これに関してはまた他の記事で書こうと思います。
おしまい。
(※脚注) で一周するのは、前の議論におけるの定数をにした場合に対応します。このときでであり、十分ゆっくり回転していることになります。
Appendix
WZW項の被積分関数はになることを示します(: のインデックス、:のインデックス)。
まずをに書きなおします。このとき部分は
- とが隣り合うものをの中で巡回したもの
- を1つはさんでとが隣り合うものをの中で巡回したもの
の2つの場合に分けることができます。すなわち
と書けます。ここで最後の行の第2項は(がんばって)計算するとゼロになります。
ゆえに
になります。