交代形式
線型空間上の重線型形式について
が成り立つとき,を上の次交代形式という.上の次交代形式全体のなす線型空間をで表わす.
重線型形式全体のなす集合への次対称群による作用を
で定める(cf. action例10,例11).この作用による不動点を次対称形式という.
互換に対して
が成り立つことを示せばよい.そこでとすると,の交代性より,
が成り立つ.
の基底を取り,重線型形式を
で定める.(は,個の線型形式の“楔積”に他ならない.)
- とし,とする.このとき
となるので,
が成り立つ.よってである. - 定義より
が成り立つ.したがってである.
とする.このときの交代性より
となるので,
が成り立つ.
次元線型空間の任意の基底に対して,次交代形式は
を満たすの基底であり,任意のに対して
が成り立つ.
をの基底とし,とする.
- が線型独立である(したがって基底である)ならば,base-of-altより,
が成り立つので,
を得る. - 逆にが線型従属であるとき,とであって
を満たすものが存在するので,の交代性より,
が成り立つ.
とし,基底を取る.このときに対してであって
なるものがただ一つ存在し,任意のに対して
が成り立つ.よって
が逆写像を与える.
線型変換のトレース
とする.このとき,任意の重線型形式に対して,写像を
で定めると,これは重線型形式である.この対応は線型写像
を定める:
とし,とする.このとき,の交代性とskew-symより,
が成り立つ.したがって,写像
が定まる.の線型性は明らか.
以下,を次元線型空間とする.また,をの基底とし,をその双対基底とする.
とする.このとき,任意のに対して
が成り立つので,
を得る.同様に,任意のに対して
が成り立つ.
可逆な線型変換全体のなす集合をとおく:
は写像の合成を積として群をなす.また,作用
が定まる.
線型変換を
で定めると,はの基底である.したがってが成り立つ.
- とする.このとき,任意のに対して
が成り立つので,
を得る. - とする.このとき,各に対して,
より
が成り立つので,
を得る.
線型写像を
で定める.
- とする.このとき,
より,
が成り立つ. - とする.このとき,
より,
が成り立つので,
を得る.
とし,とおく:
定義よりであり,
であるから,あとはであることを示せばよい.
- 任意のに対して
が成り立つ. - 仮定より,
が成り立つので,
を得る. - tr-nondegの証明中で見たように
であるから,
が成り立つ.
任意のに対して,のトレースはその転置写像のトレースに等しい:
附:テンソル積を介したトレースの特徴づけ
を線型空間とする.このとき,写像
は双線型写像なので,線型写像
であって
を満たすものがただ一つ存在する:
の基底を取り,その双対基底をとおく.このとき,線型写像
を
で定めると,
および
が成り立つ.はそれぞれ
で生成されるので,
が成り立つ.
写像
は双線型写像なので,線型写像
であって
を満たすものがただ一つ存在する:
線型変換のディターミナント
とする.このとき,任意の重線型形式に対して,写像を
で定めると,これは重線型形式である.この対応は線型写像
を定める:
以下,を次元線型空間とする.
明らかに
が成り立つ.一般に,に対してを
で定めると,
より,
が成り立つ.
(i)(ii)
仮定より,であってなるものが存在する.よって
となるので,を得る.
(ii)(i)
をの基底とする.このとき
となるので,lin-indepよりは線型独立である.よってであるから,となる.
とする.について
が成り立つとき,をの固有値といい,各を固有値に属するの固有ベクトルという.
- 任意のに対して
が成り立つので,の相異なる固有値は高々個である. - がの固有ベクトルからなる基底を持つとすると,より,
が成り立つ.
正方行列のトレースとディターミナント
正方行列のトレース
としをの基底とする.このときrep-mat-trより
が成り立つ.したがって,線型変換のトレースはその表現行列のトレースに等しい.とくに,次正方行列に対して
が成り立つ.
任意の次正方行列に対して,commより,
が成り立つ.よって,任意のに対して
が成り立つ.
(同じことの繰り返しになるけれど)
を行列単位という:
線型写像を
で定める.
- とする.このとき,
より,
が成り立つ. - とする.このとき,
より,
が成り立つ.
とし,とおく:
定義よりであるから,あとはであることを示せばよい.
行列単位に対して
が成り立つので,仮定より
が成り立つことがわかる.よって
となるので,が成り立つ.
Frobenius inner product
写像
は正定値対称双線型形式,すなわち上の内積である.実際,
- 双線型性は明らか.
- 任意のに対して,
が成り立つ. - 一般に
であるから,任意のに対して
が成り立つ.よって,
が成り立つ.
とくにのとき,
となる.
同様にして,
が上のHermite内積であることがわかる.
正方行列のディターミナント
としをの基底とする.このときrep-mat-detより
が成り立つ.したがって,線型変換のディターミナントはその表現行列のディターミナントに等しい.とくに,次正方行列に対して
が成り立つ.たとえば:
の定義より,
が成り立つ.とくに,からへの基底変換行列について
となるので,base-of-altより,
が成り立つ.ところで,からへの基底変換行列についてが成り立つので,上の等式は
とも書ける.
次正方行列を対角に並べた正方行列
のディターミナントについて,
が成り立つ.
の場合に示せば十分である.
- 重線型形式を
で定める.明らかにであるから,
が成り立つ. - 同様に,
が成り立つ. - ところで
が成り立つ.
以上より
を得る.
ディターミナントランク
とし,単調増加写像の像をそれぞれとおく.合成写像
をの小行列といいで表わす.
とし,とおく.このときであって
なるものが存在する.したがって行列についてが成り立つので,であって
なるものが存在する.
なることは既に見た.一方,とおくと,であってなるものが存在する.そこでとおくと,より,
が成り立つので,を得る.
任意の行列に対して
が成り立つ.実際,det-rankよりがしたがい,rankと同様にして(の対偶)が成り立つことがわかる.
ディターミナントの連続性と上例より
は閉集合であり,したがって
は開集合である.
交代行列のパフィアン
を次元線型空間とし,を上の対称双線型形式または交代双線型形式とする.このとき次は同値である:
- は非退化である,すなわち線型写像
は全単射である; - の任意の基底に対して,正方行列は可逆である;
- の基底であって,正方行列が可逆となるようなものが存在する.
仮定より
が成り立つことに注意する.
(i)(ii)
をの基底とし,とおく.このとき,に対して
が成り立つ.ただしとおいた.よって
が成り立つので,を得る.したがっては可逆である.
(ii)(iii)
明らか.
(iii)(i)
のある基底に対して,が可逆であるとする.このとき
が成り立つので,を得る.いまであるから,は全単射である.
定義と例
以下,を標数の体とする.
次正方行列について,となるとき,を交代行列という.
とする.このとき,任意のに対して
が成り立つ.
- のとき,
であり,に対して
が成り立つので,
となる. - 逆に,のとき,明らかにが成り立つ.
を交代行列とする.このとき,重線型形式を
で定めると,これは交代形式である.
(は個の交代双線型形式の“楔積”に他ならない.)
任意の互換に対して
が成り立つ.よってのとき
より
が成り立つので,は交代形式である.
任意の交代行列に対して,
が成り立つ.ただし
である.
Step 0.
の定義より
となる.
Step 1.
部分群
によるへの積作用を考える.
- の生成元は互いに可換な位数の元なので,である.
- が交代行列であることより,任意のに対して
が成り立つ. - 各軌道は,であって
を満たすものをただ一つ含むので,このような元からなるの完全代表系が取れる.
よって,
が成り立つ.
Step 2.
を
なるの元と見做してで表わす.この同一視の下で,作用
が定まり,の完全代表系としてが取れる.各は偶置換であり,任意のに対して
が成り立つ.よって
が成り立つ.
- 交代行列
に対して,より,
が成り立つ. - 交代行列
に対して,より,
が成り立つ. - 次交代行列
に対して,
が成り立つ. - 交代行列とスカラーとに対して,
が成り立つ.とくに
が成り立つ.
パフィアンとディターミナント
任意の交代行列と正方行列とに対して,は交代行列であり,そのパフィアンについて
が成り立つ.
Step 0.
の交代性より
となるので,は交代行列である.
Step 1.
が成り立つ:
Step 2.
が成り立つ:
Step 3.
よってbase-of-altより
となるので,
が成り立つ.(を用いてもよい.)
Step 0.
のとき,pf-expansionより
が成り立つ.
Step 1.
以下,とする.このとき,であって
なるものが存在する.したがってであるから,非自明な部分空間であって
を満たすものが存在する.
- を取る.このとき,よりであって
なるものが存在するので,であってを満たすものが得られる. - そこで
とおくと,
が成り立つ:
- とすると,
より,が成り立つ. - 任意のに対して,
が成り立つ.
よって
が成り立つ.
- とすると,が取れるが,このとき,よりであって
なるものが存在するので,であってを満たすものが得られる. - そこで
とおくと,同様にして
が成り立つことがわかる.
よって
が成り立つ.以下,これを繰り返すことで,線型独立なベクトルであって,
を満たすものが存在することがわかる.よって,の基底であって,
なるものが存在する.を行列と見做すと,この等式は
を意味する.実際,pf-transposeの証明より,
が成り立つ.
Step 2.
det-of-matよりであるから,とおくと,
が成り立つ.よって,det-of-mat,pf-transposeより,
が成り立つ.
Step 2-1.
のとき,det-diag,det-2,pf-exより
となるので,
が成り立つ.
Step 2-2.
のとき,の多重線型性とpf-exより
となるので,
が成り立つ.
上の証明から次が得られる:
任意の交代行列に対して,可逆行列であって
を満たすものが存在する.
有限次元線型空間上の非退化交代双線型形式を上のシンプレクティック形式といい,組をシンプレクティック線型空間という.シンプレクティック線型空間に対して,pf-detの証明と同様の議論を行なうことで,基底であって
を満たすものが存在することがわかる.とくにシンプレクティック線型空間は偶数次元である(nondeg,det-of-odd-altからもわかる).
より,交代行列は可逆であるから,は上のシンプレクティック形式である.
正方行列について
が成り立つとき,を(シンプレクティック形式に関する)シンプレクティック行列といい,で表わす.たとえばである.ところで,
であったから,
が成り立つ.
- pf-exよりであるから,任意のに対して,pf-transposeより,
が成り立つ.したがっては行列の積に関して(の部分)群をなす:
- ;
- .
- であるから,となる.
- 任意のに対して,より
となるので,が成り立つ. - 可逆行列に対して,
が成り立つので,ととは群同型である:
- 可逆行列を
によって定める(cf. det-of-mat).さらに,次交代行列を
で定める.このとき
より,,したがってとなる.群のことをシンプレクティック群といい,とくにで表わす. - 単にシンプレクティック群(resp. シンプレクティック行列)といった場合,(resp. の元)のことを指すっぽい.
補遺:双対空間について
双対空間
線型空間に対して,線型空間
をの双対空間という.各に対して
とおく.
とし,をその基底とする.このとき,線型写像を
で定めると,はの基底となる.これをの双対基底という.とくにである.
- とする.このとき,任意のに対して
が成り立つので,
を得る. - とする.このとき,任意のに対して
が成り立つ.
の基底を取り,をその双対基底とする.dual-baseより
であるから,が単射であることを示せばよい.そこでとすると,任意のに対して
が成り立つので,
を得る.
零化空間
線型空間の部分空間に対して,双対空間の部分空間
をの零化空間という.
を有限次元線型空間とする.このとき,任意の部分空間に対して
が成り立つ.さらに,同一視の下で
が成り立つ.
- の基底を延長して得られるの基底をとし,その双対基底をとする.このとき
より,
が成り立つ.よって
を得る. - 明らかに
が成り立つ.また,前段より
が成り立つので,
を得る.
転置写像とそのランク
線型写像に対して,線型写像
をの転置写像,双対写像などといいで表わす:
を有限次元線型空間とし,を線型写像とする.このとき,
が成り立つ.
転置写像の定義より
が成り立つ.よって,annより
を得るので,annと次元定理より,
が成り立つ.
補遺:表現行列について
矩形行列
- を集合としを線型空間とする.このとき,写像集合
は
により線型空間の構造を持つ. - 正整数に対して,線型空間の元を(矩形)行列という.
- とくになるとき,(次)正方行列という.
- 行列に対して,をその成分という.また,
なる行列をと書く. - 行列に対して,その転置行列を
で定める.
- 線型空間の元を
で定めると,はの基底をなす.これをの標準基底という. - 行列に対して,線型写像が
により定まる.対応
は線型写像であり,
が逆写像を与える.
- 恒等写像に対応する行列を単位行列といいで表わす.
- 零写像に対応する行列を零行列といいで表わす.また,とおく.
- 行列の積を
で定める.したがって,定義により
である.線型写像の定義より
となるので,積の成分は
で与えられる. - 大抵の場合,行列に対応する線型写像も同じ記号で表わす.
線型写像の表現行列
- とする.このとき,
- の任意の基底に対して,線型写像
は全単射である. - 逆に,任意の線型同型写像に対して,はの基底である.
- とし,をそれぞれの基底とする.線型写像に対して,行列
を,のに関する表現行列といいで表わす:
等式をしばしば
と表わす.ところで,表現行列の成分は
で与えられる.したがって上の等式表記は“行列”間の等式として正当化される.
- とする.このとき,線型写像のに関する表現行列についての上の等式は(左辺の括弧を省いて)
と書ける.“縦ベクトル”を,のに関する座標,成分などという. - ベクトルの座標について,より,
が成り立つ. - 転置写像の表現行列について,
より,
が成り立つ. - 行列に対応する線型写像のに関する表現行列はに等しい:
したがってのに関する表現行列はであるから,rank-of-dual-mapより
が成り立つ.
- 恒等変換のに関する表現行列をからへの基底変換行列といいで表わす:
- 等式は
と書ける. - ベクトルの座標について,より,
が成り立つ. - 線型変換をで定めると,より,
が成り立つ. - であるから,
が成り立つ.
- 表現行列と基底変換行列との間の関係は下図のようになる:
- 作用が
により定まる.
- この作用により上の同値関係が定まる.
- 線型写像の表現行列は互いに同値である:
- 逆に,の表現行列と同値な行列はまたの表現行列である.実際,に対して,の基底をそれぞれ
で定めると,以下の可換図式が得られる:
- ところで,とすると,次元定理よりの基底であって
となるものが存在する.とくに,のとき,から定まる可逆行列をとすると,
が成り立つ.
線型変換の表現行列
- をの基底とする.線型変換のに関する表現行列を,のに関する表現行列という.
- 作用が
により定まる.
- この作用により上の同値関係(相似関係)が定まる.
- 線型変換の表現行列は互いに相似である:
- 逆に,の表現行列と相似な行列はまたの表現行列である.実際,に対して,の基底を
で定めると,以下の可換図式が得られる:
- 線型変換にとっての“よい基底”を見つけることは,行列の相似関係の下での“標準形”を見つけることに他ならない.
双線型形式の表現行列
- をの基底とする.双線型形式に対して,行列を,のに関する表現行列という.
- 作用が
により定まる.
- この作用により上の同値関係が定まる.
- 双線型形式の表現行列は互いに同値である.実際,とおくと,
より,
が成り立つ. - 逆に,の表現行列と同値な行列はまたの表現行列である.実際,に対して,の基底をそれぞれ
で定めると,
が成り立つ.
- をの基底とする.双線型形式のに関する表現行列を,のに関する表現行列という.
- 作用が
により定まる.
- この作用により上の同値関係(合同関係)が定まる.
- 双線型形式の表現行列は互いに合同である:
- 逆に,の表現行列と合同な行列はまたの表現行列である.実際,に対して,の基底を
で定めると,
が成り立つ. - 双線型形式にとっての“よい基底”を見つけることは,行列の合同関係の下での“標準形”を見つけることに他ならない.
更新履歴
- 2024/12/09:「補遺:表現行列について」に加筆しました.