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競技数学解説
文献あり

求角問題における外心の更なる有用性 with 第5回匿式図形問題エスパー杯 (T-GUESS Cup 5) 問題Fの解説

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 挨拶は省略します。タイトルの通り、求角問題(角度に関する諸々の情報が与えられたときに、ある未知の角度を求める問題の総称)を解くにあたって外心に注目することの意義を、自作問題の解説とあわせて執筆しました。スタートとゴールだけ先にお見せするので、ここから先へ読み進めるか否かの判断材料としてください。


導入パート

 初等幾何の歴史の中で、求角問題というジャンルは長きにわたり注目されてきました。特に、 ラングレーの問題 (Langley's Adventitious Angles)を端緒とする「整角四角形」という問題群は、単純ながらも2015年まで初等幾何による完全解決が得られない難問を、極めて多く含むグループでした。このあたりの歴史は以前の記事『 求角問題と外心3つ法と「外心10個法」(前編) 』にやや詳しく記しているので、本記事では核心の部分のみ記します。先にいくらか定義を述べます。

整角四角形 (adventitious quadrangle)

 凸四角形ABCDにおいて、ABD,CBD,ACB,ACDの大きさが判明しているならば、ADBの大きさは一意に決定される。これら5つの角度がすべて(度数法で)整数値であるとき、四角形ABCD整角四角形と呼ばれる。

整角三角形 (adventitious triangle)

 ABCにおいて、A,B,Cの角度がすべて(度数法で)整数値であるとき、ABC整角三角形と呼ばれる。

整角ベクトル、整角単位ベクトル(独自呼称)

 z=exp(iπ180)とする。整数nを用いてznと表せる360種類のベクトルを整角単位ベクトルと呼ぶことにする。また、整角単位ベクトルの実数倍として表せるベクトルを整角ベクトルと呼ぶことにする。つまり、偏角が180,179,,179のベクトルに便宜上名前を付与しただけである。


外心3つ法

  aerile_re 氏が2015年に発表した「外心3つ法」は、整角四角形の初等的考察に終止符を打つものでした。

整角四角形の初等的可解性

 整角四角形ABCDにおいて、ABD,CBD,ACB,ACDの大きさが判明しているならば、ADBの大きさを初等的に求められる。

 定理1を証明します。外心3つ法を用いれば、点Aから点Dまでの経路を、長さが等しい6本のベクトルの合成に対応させられます(手順省略)。これら6本のベクトルの偏角はすべて整数値であり、合成した偏角も整数値です。ゆえに、6本のベクトルを直線ADで折り返せば、適当な拡大縮小により整角単位ベクトル12本で構成された閉路(始点と終点が一致する経路)が得られ、結局以下の定理2を示せばよいことになります。

整角単位ベクトルからなる閉路の分割

 整角単位ベクトル複数本で構成された経路pが閉路であるとき、pに含まれるベクトルを以下の自明な閉路の和に分割できる。
① 点対称な図形(二角形を含む)の各辺を構成するベクトル
② 正三角形の各辺を構成するベクトル
③ 正五角形(あるいは五芒星)の各辺を構成するベクトル
 逆に、①・②・③の和で表せる経路は明らかに閉路である。

 定理2と同値な主張が 外心3つ法発案者の記事 にて証明されているため、定理1が示されました。いきなり他力本願ですね。なお、 だま氏様の記事 でさらに詳細な計算方法が書かれており、大学数学をまともに学んだ方ならばこちらも参考になさるようお願いします。


本質の抽出

 外心3つ法を軽くおさらいしましたが、その本質は何であったかを考えてみましょう。すると、「既知の偏角をもつ整角単位ベクトルで経路を構成する」ことが本質である旨を見抜けますね。ここから、次のようなモチベーションが湧いてまいります。
「同じことを、他の求角問題で使えないかな?」
 このモチベーションをもとに執筆したのが、昨年7月の『 求角問題と外心3つ法と「外心10個法」(前編) 』および『 求角問題と外心3つ法と「外心10個法」(後編) 』です。これらでは、整角四角形を二段重ねたような形状の求角問題に同様のメソッドを用い、36本の整角単位ベクトルで経路メイキングを行いました。
 今回の記事では、同じ本質を抱きつつ、以前とは違った方向に外心3つ法を拡張していこうと思います。以後、整角ベクトルの経路が頻出するので、利便性を考え名前を付けてあげましょう。

整角n等辺経路(独自呼称)

 長さの等しい整角ベクトルn本で構成される経路を整角n等辺経路と呼ぶことにする。例えば、経路ABCDが整角三等辺経路であるならば「AB,BC,CDの偏角が整数度であり、かつ|AB|=|BC|=|CD|」が成立する。

 外心3つ法により、ADが何らかの整角六等辺経路に変換されることをご理解いただければ、次のパートに進みます。なお、ADの偏角をargADとも表します。


紹介パート

最初の拡張

 整角四角形において、対角線AC,BDの交点をPとすると、3点の組(A,P,C),(B,P,D)はいずれも同一直線上に存在します。自明ですね。
 いま、この点Pを任意に動かすことを考えましょう。すなわち、前述の共線を取り除き、図の自由度を上げるのです。そうすると、以下の問題が現れます。

4つの整角三角形からなる図形

 凸四角形ABCDとその内部の点Pにおいて、ABP,BCP,CDPがすべて整角三角形をなし、その内角が既知であるとする。このとき、ADPの大きさは一意に決定されるが、それが(度数法で)整数値であることが保証されるとき、ADPを初等的に求めなさい。

 この問題も、「既知の偏角をもつ整角n等辺経路を構成する」が使えます。点Aから点Dまでに、そのようなパスウェイを設けてあげればよいです。どのように設けるかを軽く解説します。

 ABP,CDP,BCPの外心をそれぞれO1,O2,O3とし、O1O3P,O2O3Pの外心をそれぞれO4,O5O4O5Pの外心をO6とします。PO1O4AO1Q2PO2O5DO2Q12をみたす点Q2,Q12をとり、PO4O6AQ2Q1Q2O1Q3O1O4Q5PO5O6O5O2Q9O2Q12Q11Q12DQ13をみたす点Q1,Q3,Q5,Q9,Q11,Q13を拵えます(複数の拵え方が考えられますが、どう拵えても大丈夫です)。ここでO1=Q4,O4=Q6,O6=Q7,O5=Q8,O2=Q10と別名を付ければ、経路AQ1Q2Q13Dが整角十四等辺経路になるのです。なぜならば、簡単な計算(まあまあ大変)からPO4O6,PO5O6は整角三角形であること、直線BCを基準とした6本のベクトルAQ2,Q2Q4,Q4Q6,Q8Q10,Q10Q12,Q12Dの偏角もすべて整数度になることを、各々証明できるから、ということになります。問題1は、14本の整角単位ベクトルの合成として解釈できるのですね。執筆してから気づきましたが、問題1が初等的に解ける旨は だま氏様の記事 で既に言及されております。つまりここまでは周知の事実といっても過言ではありませんね。


次なる拡張

 さて、先ほどは点P(四角形ABCDの対角線の交点)に関する拡張を考えました。他に拡張できるところは無いでしょうか。色々と思考を巡らせてみます。すると、従来の外心3つ法の本質である「線分ADを整角単位ベクトルの合成に変換する」という発想から、次のアイデアが浮かんできます。
「四角形の他の辺を、整角n等辺経路に置き換えることができるかも?」
 ということで、以下の問題が現れます。

1辺を基準とした4つの整角n等辺経路からなる図形

 凸四角形ABCDにおいて、BCの偏角を0とし、整角nAB等辺経路ABnAB本の等長な整角ベクトルを含む。以下同様)、整角nCD等辺経路CD、整角nAC等辺経路AC、整角nBD等辺経路BDが与えられる。このときargADは一意に決定されるが、それが(度数法で)整数値であることが保証されるとき、argADを初等的に求めなさい。

 この問題で外心3つ法を用いようとすると躓きます。というのも、ABC,BCDの各辺の偏角が整数度とは限らないため、外心から各頂点に向かう線分の偏角も整数値で表せない可能性が出てくるからです。整角単位ベクトルのみを含む経路でなければ定理2を用いることができません。要するに解けません。どうしましょうか。


 まず考えるべきことは、ABCの外心OについてargOAを求めることです。いま、ABCの垂心をHとすれば、有名性質よりOHABCについて等角共役ですから、
argOA+argHA=argBA+argCAargOA=argAB+argCAargBC±90と求められます(複号は点の位置関係により変動します)。この事実をもとに、以下の重要な補題を示します。

整角三角形の1辺が整角n等辺経路に置換された場合の経路構成

 整角nAB等辺経路AB、整角nBC等辺経路BC、整角nCA等辺経路CAが与えられる。ABCの外心をOとしたとき、Oから点A,B,Cに向かう整角nABnBCnCA等辺経路OA,OB,OCであり、経路全体の長さもすべて等しいものが存在する。具体的には、
経路OA「線分OA,ABが重なるように経路ABを相似拡大・回転・平行移動した経路」の各辺とBCがそれぞれ重なるように経路BCの鏡像を相似拡大・回転・平行移動した経路」の各辺とCAがそれぞれ重なるように経路CAを相似拡大・回転・平行移動した経路」
経路OB「線分OA,ABが重なるように経路ABを相似拡大・回転・平行移動した経路」の各辺とBCがそれぞれ重なるように経路BCを相似拡大・回転・平行移動した経路」の各辺とCAがそれぞれ重なるように経路CAの鏡像を相似拡大・回転・平行移動した経路」
経路OC「線分OA,ABが重なるように経路ABの鏡像を相似拡大・回転・平行移動した経路」の各辺とBCがそれぞれ重なるように経路BCを相似拡大・回転・平行移動した経路」の各辺とCAがそれぞれ重なるように経路CAを相似拡大・回転・平行移動した経路」
とすればよい。

 argBC=(Na+da),argCA=(Nb+db),argAB=(Nc+dc)と表します(ただしNa,Nb,Ncは整数、0da<1,0db<1,0dc<1)。また、経路ABAの次に通る頂点をA1、経路BCBの次に通る頂点をB1、経路CACの次に通る頂点をC1と名付けます。このときBB1,CC1,AA1の偏角は明らかに整数度ですから、整数Ma,Mb,Mcを用いてargBB1=Ma,argCC1=Mb,argAA1=Mcと表せますね。したがって、CBB1=(MaNada),ACC1=(MbNbdb),BAA1=(McNcdc)です( 有向角 を表す記号)。
 「線分OA,ABが重なるように経路ABを相似拡大・回転・平行移動した経路」を描き、A1の移る点をA2とします。AOA2=BAA1より、
argOA2=argOA+AOA2=argAB+argCAargBC±90+BAA1=(Nb+db)+(Nc+dc)(Na+da)+(McNcdc)±90=(Na+Nbda+db+Mc±90)のように計算できました。
 今度は「線分OA2,BCが重なるように経路BCの鏡像を相似拡大・回転・平行移動した経路」を描き、B1の移る点をB2とします。A2OB2=CBB1より、
argOB2=argOA2+A2OB2=(Nb+dbMa+Mc±90)です。引き続き「線分OB2,CAが重なるように経路CAを相似拡大・回転・平行移動した経路」を描き、C1の移る点をC2とします。B2OC2=ACC1より、
argOC2=argOB2+B2OC2=(Ma+Mb+Mc±90)ですね。もう一度言います、argOC2=(Ma+Mb+Mc±90)です。気づきましたね。Ma,Mb,Mcは整数ですから、OC2は整角ベクトルなのです。経路OAの他のベクトルについても同様の計算を行うことで、最終的にすべてのベクトルが整角ベクトルであることを示せます。これらのベクトルの長さはいずれも明らかに等しいですね。さらに経路OB,OCについても同じことがいえるため、補題3の主張を確かめられました。


 問題2に戻ります。ABC,BCDの外心を各々O1,O2とし、O1O2Cの外心をO3とします(外心3つ法と一緒です)。たった今証明した補題3から、点O1を始点とし点A,B,Cを終点とする整角nABnAC等辺経路O1A,O1B,O1Cの存在が確定します(辺BCを整角一等辺経路とみなしました)。同じく、点O2を始点とし点B,C,Dを終点とする整角nCDnBD等辺経路O2B,O2C,O2Dの存在が言えますね。さらにO1O2BCより、O1O2Cにも補題3を使えるのです。実際に使ってみますと、点O3を始点とし点O1,O2,Cを終点とする整角nABnCDnACnBD等辺経路O3O1,O3O2を構成できます。
 CO3O1APO1,CO3O2DQO2となる点P,Qをとり、補題3を示したときと同様の議論(角度の小数部分に注目する)を行うことで、
経路AP「線分AP,ABが重なるように経路ABを相似拡大・回転・平行移動した経路」の各辺とCDがそれぞれ重なるように経路CDを相似拡大・回転・平行移動した経路」の各辺とACがそれぞれ重なるように経路ACを相似拡大・回転・平行移動した経路」の各辺とBDがそれぞれ重なるように経路BDの鏡像を相似拡大・回転・平行移動した経路」
経路PO1「線分PO1,ABが重なるように経路ABを相似拡大・回転・平行移動した経路」の各辺とCDがそれぞれ重なるように経路CDの鏡像を相似拡大・回転・平行移動した経路」の各辺とACがそれぞれ重なるように経路ACを相似拡大・回転・平行移動した経路」の各辺とBDがそれぞれ重なるように経路BDを相似拡大・回転・平行移動した経路」
経路O2Q「線分O2Q,ABが重なるように経路ABを相似拡大・回転・平行移動した経路」の各辺とCDがそれぞれ重なるように経路CDを相似拡大・回転・平行移動した経路」の各辺とACがそれぞれ重なるように経路ACの鏡像を相似拡大・回転・平行移動した経路」の各辺とBDがそれぞれ重なるように経路BDを相似拡大・回転・平行移動した経路」
経路QD「線分O2Q,ABが重なるように経路ABの鏡像を相似拡大・回転・平行移動した経路」の各辺とCDがそれぞれ重なるように経路CDを相似拡大・回転・平行移動した経路」の各辺とACがそれぞれ重なるように経路ACを相似拡大・回転・平行移動した経路」の各辺とBDがそれぞれ重なるように経路BDを相似拡大・回転・平行移動した経路」
がすべて整角nABnCDnACnBD等辺経路になることを簡単に計算(誰がどう考えても超大変)できます。各経路の1辺の長さは明らかに等しく、また事前に作っておいた経路O1O3,O3O2の1辺も同じ長さになりますから、これら6つの経路を結ぶことにより整角6nABnCDnACnBD等辺経路APO1O3O2QDが完成します。ごり押しにも程がありますが、なんとか点Aと点Dを経路で結ぶことに成功し、問題2が解けました。


拡張の統合

 さて。さて、整角四角形に対する2種類の拡張を初等的に解決しました。折角なので、これら2種類をうまく混ぜ合わせることができないかを考えます。いえ、考えるまでもなく、問題1に現れる各線分を経路に変えれば統合できそうですね。最終的に以下の問題となります。

1辺を基準とした6つの整角n等辺経路からなる図形

 凸四角形ABCDとその内部の点Pにおいて、BCの偏角を0とし、整角nAB等辺経路AB、整角nCD等辺経路CD、整角nAP等辺経路AP、整角nBP等辺経路BP、整角nCP等辺経路CP、整角nDP等辺経路DPが与えられる。このときargADは一意に決定されるが、それが(度数法で)整数値であることが保証されるとき、argADを初等的に求めなさい。

 問題3の詳細な解法は記しませんが、従来の考え方をそのまま用いれば整角14nABnCDnAPnBPnCPnDP等辺経路を構成できます。非人道的ですね。例えばnAB=nCD=nAP=nBP=nCP=nDP=3のとき(AB,CD,AP,BP,CP,DPの偏角がいずれも有理数度とならない可能性がある最小のケース)、14×36=10206より整角一万二百六等辺経路を考えることになります。これ以上はやめましょう。

なぜ辺BCを経路に変えないのか

 問題2問題3で、他の辺は容赦なく整角n等辺経路へと置換していくのに、なぜ辺BCはそのまま残したのか、と訝った読者がいらっしゃるかもしれません。こちらにはちゃんと理由がございます。仮に辺BCも整角nBC等辺経路BCとした場合、他の経路の各辺とBCがそれぞれ重なるように経路BCをペタペタ貼りつけると、新しく描かれた経路の各辺について、BCを基準としたときの偏角が整数度になるのです。すなわち、BからCまで一本線、他の辺は整角n等辺経路、と既に考察した事項の焼き増しにしかなりません。解ける問題の範囲が変わらないのに余計な煩雑さをもたらしてしまうため、辺BCだけは一切弄らなかったのですね。


実演パート

 とはいえ、存在性だけ示して放置という選択は、あまりにも数学者らしすぎます(偏見)。少しは実体験を積みたいですね。そこで、問題3においてnAB=nCD=3,nAP=nBP=nCP=nDP=1とした比較的易しめの問題を解いてみることにしましょう。易しめと言いつつ、工夫せずに解くと百二十六等辺百二十七角形が現れてしまうのですが……。

コンテスト

 2025年5月3日~5月11日にかけて『 第5回匿式図形問題エスパー杯 (T-GUESS Cup 5: Tock's Geometry "Using Extra-Sensory Solutions" Cup The 5th)』を開催しました。ご参加くださった皆様、ありがとうございました。どうして急にコンテストの話を、とお思いかもしれませんが、当該コンテストの問題Fにて、まさに先述の「実体験」ができる問題を出したのです。それがこちら。

問題F

 九角形ABCDEFGHIAB=BC=CD,DE=FG,GH=HI=IAおよびAE//CD,AF//HGをみたします。ABC=162,BCD=150,CDE=96,FGH=108,GHI=156,HIA=150,EAF=60のとき、AEFの大きさを求めてください。

 一瞬見ただけでは、これが問題3に由来することを見抜けないかと思われます。事実、問題3の結果を用いない別解も指摘されています(後述)。ですが、導入パートを読破してしまった以上、ひとまず問題3らしい解き方を試したくなるのが一般的感性というものでしょう。
 ということで解きます。紙とペンとGeoGebraを十分に確保してください。

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補助折れ線

 五角形ABCDE,AFGHIをそれぞれ線分AE,AFの垂直二等分線について対称移動し、五角形EBCDA,AGHIFを作ります。するとADGAD=AGの二等辺三角形になり、ADG=AGD=18となります。GDの偏角を0と定めると、折れ線FIHG,DCBEは整角三等辺経路になるので、四角形FGDEと点Aについて問題3が使えるのですね。分かりやすいように、ここからはGDが右向きとなるように図を回転させます。
 AFG,AED,AGDの外心を各々O1,O2,O3とし、AO1O3,AO2O3の外心を各々O4,O5AO4O5の外心をO6とします。補題3の要領で、経路GHIAと相似な整角三等辺経路O1P1P2A,O4R1R2Aを、経路ABCDと相似な整角三等辺経路AQ1Q2O2,AS1S2O5を、それぞれ図のように描いていくことが可能です。描き終えたところで、argO1R1=0,argR1R2=24,argR2A=54,argAS1=48,argS1S2=30,argS2O5=0を算出しておきましょう。

 AO4O5補題3を用います。経路O4R1R2Aと正の向きに相似な経路AX3X6O6,O4Y3Y6O6および負の向きに相似な経路O5Z3Z6O6を描き、経路AS1S2O5と正の向きに相似な経路X3X22X1A,X3X4X5X6,O6X8X7X6,O5Z1Z2Z3,Z6Z5Z4Z3,O6Z8Z7Z6および負の向きに相似な経路Y3Y2Y1O4,Y3Y4Y5Y6,O6Y8Y7Y6を設けます。補題3より点A,O4,O5から点O6に向かう各々の経路は整角九等辺経路となるので、O4A,AO5整角ベクトル18本の合成として表すことができるのですね。整角九等辺経路の各辺の偏角を具体的に計算し、
argAO6=arg(k=90,120,138,114,96,66,36,66,84zk)argO4O6=arg(k=90,60,42,18,36,66,36,6,12zk)argO5O6=arg(k=90,120,138,162,144,114,168,174,144zk)と表せます(ただしz=exp(iπ180)です)。


時短の方略

 この要領で経路をペタペタ貼り付ければ先述の通り整角百二十六等辺経路を得ることになりますが、手計算で解く以上は少し楽をしたいです。よって、O4A,AO5に相当する整角十八等辺経路を予め整理し、可能な限り短い経路に変えておきます。以降、角度計算の省略が著しいので、図をうまく用いつつどうにか解読してください。
 点対称な十角形Y5Y6Y7Y8O6X8X7X6J1J2を描けば、X6X5J1は正三角形となります。平行四辺形Y1Y2Y3J3、反時計回りの正五角形J2J1J4J5J6、平行四辺形Y5J2J6J7を順に作図すると、X5X4//J1J4,Y3J3//Y5J7を確かめられるので、J4X4=J1X5、また点対称な六角形J3Y3Y4Y5J7J8を描くことが可能です。反時計回りの正三角形J6J7J9、平行四辺形J8J7J9J10、点対称な六角形X1X2X3X4J11J12を描けば、ここまでの計算から経路Y1J3J8J10J9J4X4J11J12X1は整角九等辺経路となるので、O4Y1//AX1より点対称な二十角形Y1J3J8J10J9J4X4J11J12X1AU17U16U15U14U13U12U11U10O4を描くことにより、点O4と点Aを結ぶ整角九等辺経路O4U10U11U17Aを完成させられました(この経路の各辺は元の整角十八等辺経路のそれと明らかに等長です)。

 AO5側も大筋は一緒です。X8O6Z8が正三角形であることを確かめたのち、平行四辺形X3X4X5J13,X8Z8Z7J14、点対称な六角形X6X7X8J14J15J16、反時計回りの正三角形Z7Z6J17を順に描きます。点対称な六角形J17Z6Z8Z4J18J19,J14Z7J17J19J20J21を用意し、点対称な十六角形J13X5X6J16J15J14J21J20J19J18J22J23J24J25J26J27を描きましょう(途中でJ13X5//J18J19を用いました)。X3J13J27=J13J27J26=108より、正五角形X3J13J27J26J28を作れます。平行四辺形J24J23J22J29、点対称な八角形J24J25J26J28X3J30J31J32を描き、経路AX1X2X3,O5Z1Z2Z3が平行移動のみで重なることに注意すると、点対称な二十角形AX3J30J31J32J24J29J22J18Z4Z3O5V8V7V6V5V4V3V2V1が描けて、経路AV1V2V8O5が点Aと点O5を結ぶ整角九等辺経路になるのです。元々十八等辺だったものが両方九等辺になったので、単純に考えて計算量が(ほぼ)半減しました。


 点O4について点Aを反時計回りに36回転させれば点O1と重なるため、点O4について経路O4U10U11U17Aを反時計回りに36回転させた整角九等辺経路O4U8U7U1O1を作れます。同様に、点O5について経路AV1V2V8O5を時計回りに36回転させた整角九等辺経路O2V17V16V10O5を作れます。O4=U9,O5=V9と別名を付ければ、整角十八等辺経路O1U1U2U17A,AV1V2V17O2の完成です。これらの経路も、先程と同じく簡略化してみましょう。
 平行四辺形U1U2U3J33を描くと正五角形U3J33U1J34J35が描けるので、反時計回りの正三角形U3J35J36,U1J34J37、平行四辺形J34J35J36J38、点対称な六角形U5U6U7U8J39J40、平行四辺形U11U10U9J41を順に描いていきます。U8U9J41は正三角形ですから、正五角形J39U8J41J42J43、平行四辺形U11J41J42J44を描けて、さらにJ43J42J44も正三角形です。U3U4//J43J39より、点対称な八角形U3U4U5J40J39J43J45J46が作れて、点対称な六角形J43J44U13U14J47J48,J47U14U15U16U20U19、平行四辺形U19J47J48J49、反時計回りの正五角形J49U19U18J51J50も順に作れますね。するとU1J37//U18J51からU1U18=J37J51が成立し、経路O1U1U18U19U20U16U17Aが整角七等辺経路となるとなるのです。今更ながら、詳細な偏角計算を省くことに罪悪感が湧いてきました。頑張ってついてきてください。

 反対側です。平行四辺形V9V8V7J52を描くと正五角形V9V10V11V7J52が現れ、正五角形V7V6V5J53J54を描くと点対称な八角形V5J53J54V7V11V12V13J55を拵えられます。正五角形V3V4V5J56J57を描くことで、点対称な八角形J57J56V5J55V13V14V15J58、平行四辺形V3J57J58J59、点対称な八角形J59J58V15V16V17J60J61J62を順に描いていけます。すると2つの正三角形V2V3J59,V17O2J60ができますから、平行四辺形J61J60O2J63ののちに点対称な十四角形AV1V2J59J62J61J63O2V23V22V21V20V19V18を用意できて、整角七等辺経路AV18V19V23O2を作れるのです。これでO1A,AO2の両方を整角ベクトル7本の合成に対応させられました。


 次のサブセクションに行く前に、少しだけ考察を加えます。AEFの外心をOとすると、明らかにAFOO1,AEOO2です。簡単な偏角計算からAFU18O1,AEV22O2なので、3点の組(O,O1,U18),(O,V22,O2)はいずれも同一直線上に存在しますね。このことを覚えておきましょう。


対称性の妙

 経路U18U19U20U16U17Aを直線OO1で対称移動させます。前述した考察より、こうして作られる経路の始点はU18、終点はFとなるので、作られた経路はU18W4W3W2W1Fと表せて、これもまた各辺の偏角が整数度です(直線OO1の偏角が整数度であるため)。同様に経路AV18V19V20V21V22を直線OO2で対称移動移動させた経路EW19W18W17W16V22も設けてあげます。U18=W5,U19=W6,U20=W7,U16=W8,U17=W9,A=W10,V18=W11,V19=W12,V20=W13,V21=W14,V22=W15と別名を付けると、整角二十等辺経路FW1W2W19Eが完成し、問題4の解決まであと一息となります。今までの地道な計算のおかげで、百二十六等辺を二十等辺まで削減できたのです。やる気がみなぎりますね。

 一気に駆け抜けます。点対称な六角形W2W3W4W5J64J65、正方形W6W7J66J67、平行四辺形W10W11W12J68、点対称な十角形J66W7W8W9W10J68W12J69J70J71を描けば、W5W6J67は正三角形です。五芒星J70J71J66J72J73、反時計回りの正五角形J65J64J74J75J76、平行四辺形W2J65J76J77,J77J76J75J78,J72J73J70J79,J79J70J69J80,W14W15W16J81を順に描き加えれば、随所の平行に着目し点対称な十角形J79J80J69W12W13W14J81J82J83J84、点対称な八角形J81W16W17W18W19W27J85J82を拵えられます。J75J74//W27J85を用いて点対称な十四角形J75J74J72J79J84J83J82J85W27W26W25J86J87J88を用意すると、J78J75J88が正三角形となるため、点対称な十二角形W2J77J78J88J87J86W25W24W23W22W21W20の作図とともに整角十二等辺経路FW1W2W20W21W22W23W24W25W26W27W19Eが顕現します(この経路をρとします)。


 ρの各辺の偏角を順に書き並べると以下の通りです。
66,72,78,72,6,0,54,18,6,12,12,60 これらを3ずつ時計回りに回転させてみましょう。
69,75,75,69,3,3,57,15,9,9,15,57 第1~4項、第5~6項、第7~12項に分けて考えると、対称性からこれらの偏角の合成は明らかに0です。ということは、回転前の偏角を合成すれば3となるため、argFE=3なのです。やっと、やっとFEの偏角に到達しました。最後の力を振り絞り計算すればargAE=66となるため、AEF=63が本問の答えです。実演も一苦労ですね……。


解答の強調

問題F 63

 想定解における補助点は190個、補助線は304本でした(うち補助円は6個)。 こちら から、上記の解説図をGeoGebraで開くことができます。読み込みに10秒ほどかかるため、覚悟を決めてから開いてください。


余談パート

別解が優秀

 問題4には別解が存在します。角度設定がたまたま都合のよいものであったため、はじめから整角二十四等辺経路を構成できてしまうのです。この事実は 立見鶏 氏に指摘されました。以下、氏による別解となります(筆者多忙につき答案画像をそのまま用いております、申し訳ございません)。

 筆者が点の名前を指定せず出題したため、少々変更されております。角度計算と正弦定理により、円BB4B1と円CC1C4の半径が一致します。

 先程の図の点Xを直線B4O1で対称移動し、点B5を作ります。またY=C5と別名を付ければ、O1XB4B1,O2C5C1C4より、B4B5O1,C4C5O2の内角が判ります。

 頂角162の二等辺三角形O1O3B4と頂角150の二等辺三角形C4O4O2をもとに、上図のような折れ線を作ることで、整角二十四等辺経路が完成します。

 ここの行間が広いですが、実演パートで行ったように正多角形構成と平行移動をうまく活用すればP12P0P24=63が導出され、解答完了です。コンテストのラスボスとしての難しさは健在ですが、想定解よりは結構ナーフされました(ほか、三角関数の和積・積和変換で解き切った猛者もいらっしゃいます)。


主催者の声

 第5回匿式図形問題エスパー杯の各問題の感想を、主催者の視点で述べていきます。まず、第3回・第4回では、邪悪な曲線ことレムニスケートに関連した出題もございましたが、今年は不作であり落ち着いた問題セットとなりました。深刻な問題飢饉のなかで得られた少数の幾何をさらに厳選し、下記6問をご覧いただいた次第です。

 問題Aは、上質な作問で知られる 翔子さん 様に提供していただきました。後述の問題Dを事前に作っていたため、有難い反面「図の見た目が被ったな……」と感じたものですけれども、本問の集客効果は凄まじく、コンテスト参加者の多くはAから順に解答されていました。やはりbasic(幾何力の礎となる、的なニュアンスで)な問題は良いですね。
 問題Bは筆者の自作です。「未知の長さを文字で置く」という基本操作が重要な問題であり、どちらかといえば代数らしい雰囲気が出ていたかもしれません。ちなみに、正方形を面積36の任意の長方形に変えても答えは不変です。お気づきでしたか?
 続く問題Cは、様々な数学コンの受賞歴をもつ nmoon 様からのご提供です。相変わらず人々は綺麗な問題を作ってきますね(本音)。本質的には余弦定理一発なのですが、意外と見えづらい円周角で参加者の得点を阻みました。この問題におけるEAF+BPD=180を構図として覚えておけば、いずれ良いことがあるはずです。
 そして問題D。中受典型として知られる ヒポクラテスの三日月 の、筆者による拡張です。流行れ(本音再び)。D以降の問題は、初見での「これ求められるの?」感を基準に仕上げました。求められます。これを。実は。
 問題E。筆者オリジナルの中で特にオススメの一作です。辺の三等分という、求角問題との相性が一見最悪の設定に、初等幾何学最高の美しさとも讃えられる フランク・モーリーの定理 を込めました。こちらも一部参加者から別解をいただいております。
 トリを飾った問題Fにつきましては、考察含め作問に2か月近く(正味で約120時間)かかった難産っ子です。元々は後述する問題5のようなモンスターを出題予定であったものの、非本質部分が多すぎるということで現行の九角形へと差し替えました。なお、上記解説図を描くだけでも10時間以上かかったという裏話があり、「そんなものをコンテストに出すな」と各所より非難が湧き上がるのを肌に感じております。
 6問を通じ、作問難易度>>>>>解答難易度であったと自負します。例えば問題Bは、参加者平均得点率が70%を超える易問ですが、一方で本問をゼロから思いつける参加者が70%もいらっしゃるかと問われれば首を縦に振れません(多めに見積もっても40%くらいかと考えます)。事実、主催者にとっては初等幾何研究歴7年弱にして漸く到達した性質です。9日間のコンテストにはあまりにも過剰な労力です。当然ながら、他の設問の作問コスパも同様に散々なものでございまして、コスパの上げ方を誰かご存じでしょうか……と途方に暮れる主催者がいます。哀れですね。


有用性とは

 このセクションまで辿り着けた皆様であれば、外心の威力がどれほどのものであるか、よく理解されていると思われます。偏角が整数度の場合に限って記しましたが、これを偏角が有理数度の場合にも拡張できることは言うまでもないでしょう。今や皆様は、有限個の整角n等辺経路により描かれうる任意の図形について、各部分の偏角を(有理数度であれば)初等的に求められるのです。例えば、こういった問題を解けます。

エスパー杯の没案

 四角形ABCDの辺AB,BC,CD,DA上にそれぞれ点E,F,G,Hをとり、四角形EFGHの内部に点Pをとる。CFG,GFP,PFE,APB,BPF,FPC,CPD,BAP,PDCの大きさがすべて整数度で与えられ、EH//FGが成立したとき、EHGの大きさを補題3の手法で求めるためには整角u等辺経路を考える必要がある。u107520を示しなさい。(以下に問題の一例を示します。)

 整角十万七千五百二十等辺経路。頑張れば手計算できますね。さあ、精々頑張りましょう……とは流石に言えなかったので、問題5の代わりに問題4を採用しました。ほか、ここまで複雑化すると三角関数解法のほうが遥かに美しくなってしまうため、という理由もあります。そして何より、万が一にも想定解通りに十万七千五百二十等辺十万七千五百二十一角形を描いてきた聡明な参加者がいらっしゃった場合を考えてみてください。採点者たる私に待ち受けている未来とは何か。死です。偏角をただ書き並べるだけでも推定500キロバイトに及び、しかもそれが経路変換のたびに何度もリライトされるのです。107520項の数列の転倒数は平均107520×10751942.9×109ですから、仮に平行四辺形の構成のみで答案が書かれたならば、(行間の記述抜きで)推定1.4テラバイトの答案を採点することになります。比較として、地デジで1週間連続録画したときの容量が大体1.4テラバイトだそうです。どうして存命中に採点を終えられましょうか、いや終えられません。無理です。かくして問題5のお蔵入りに至り、contestantsとwin-winなrelationをbuildいたしました。


メッセージ

本記事のまとめ

・整角n等辺経路で構成される求角問題には軒並み外心が使える
補題3を用いれば、外心と各点の間に整角n等辺経路を設けられる
・採点時のこともよく考えて出題しようね

 以上です。今回も約34,000字ほど書かせていただき、また問題4では120,000字以上のTikZコードに相当する解説図をお見せしました(GeoGebra全機能版でエクスポートした際の文字数)。読者に対する配慮がないのかと問われれば、なくはないです。ただ題材が重すぎるだけです。削れるだけ削った結果の34,000字といえます。例を挙げますと、もしも問題4の経路構成・変換に何の創意工夫も凝らさなければ、整角百二十六等辺経路の平均バブルソート回数をもとに概算し、補助点を3,800点ほど要していたはずなので。工夫で3,800点を190点に減らしました。これが筆者なりの配慮です。
 ご感想・ご指摘・巧妙な解法・作業速度の上げ方などがございましたら、是非ともコメントに残していってください。ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


参考文献

投稿日:31日前
更新日:31日前
OptHub AI Competition

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投稿者

匿(Tock)
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主に初等幾何・レムニスケート。時々偏差値・多重根号。 「たとえ作曲家が忘れ去られた日であっても、彼の旋律が街並みを縫って美しく流れていますように。」

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  1. 導入パート
  2. 外心3つ法
  3. 本質の抽出
  4. 紹介パート
  5. 最初の拡張
  6. 次なる拡張
  7. 拡張の統合
  8. 実演パート
  9. コンテスト
  10. 補助折れ線
  11. 時短の方略
  12. 対称性の妙
  13. 解答の強調
  14. 余談パート
  15. 別解が優秀
  16. 主催者の声
  17. 有用性とは
  18. メッセージ
  19. 参考文献