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高校数学解説
文献あり

求角問題と外心3つ法と「外心10個法」(後編)

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  前編 をお読みくださった皆様、こんにちは。本記事では、前編で紹介した「外心10個法」を活用し、(おそらく)非常に難しい求角問題を初等幾何で解決してみます。

A Problematic Problem

 凸四角形ABCDの辺AB,CD上にそれぞれ点E,Fをとると、ABF=58,CBF=28,ECB=38,ECD=46,AFB=78,DEC=72が成立した。このときADEの大きさは度数法で整数値となるが、その値を求めなさい。


 前回定義した 二段整角四角形問題 そのものです。余程のこだわりがない限りは三角関数を利用しゴリゴリと計算するのがよいですけれども、ここは敢えて余程のこだわりを見せます。以前共同研究した某氏も「人々にとって初等幾何とエンジョイは同値」と仰っており、初等幾何解法の発見はきっと皆様のエンジョイにコミットできます。……できますよね?

Is the Elementary Solution Elementary?

折れ線10分クッキング

 外心10個法の初手は10個の外心をとることです。EBC,FBCの外心をO1,O2O1O2B,O1O2Cの外心をO3,O4ABF,DCEの外心をO5,O6O2O5B,O1O6Cの外心をO7,O8O2O3O7,O1O4O8の外心をO9,O10とします。BO1CO2O9O7およびBO2CO1O10O8が成立していたので、CO8O1O2XO9をみたす点XおよびBO7O2O1YO10をみたす点Yをとれば、XO2=YO1を導出できます(前編の この部分 を参照)。

 外心がつくる等長関係に注目し、O2XO9,O1YO10と合同な三角形をペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタと貼り付けます。すると下図のようにP0P36が定められ、本問は三十七角形P0P1P2P36に対する三十六等辺三十七角形問題に帰着されます。なお、P0P36のとり方は226通り存在し、下図はそのうちの一例に過ぎません。
 ここまでが下準備、外科手術でいうところの麻酔導入です。下準備で補助線57本と補助円10個?

 これまで呼吸のごとく「線分○○の偏角」と言ってきましたが、調べてみたところ偏角は複素数に対して定義されるものであり、線分や直線は普通に角度で表記する例が殆どでした。とはいえ、一々「線分○○と線分△△のなす角」と書くのも可読性を欠き、何よりも 外心3つ法の発案者が「折れ線の偏角」という語を用いている ことから、これ以降は明確な理由をもって「線分○○の偏角」と連呼することにします。厳密性重視派の方へ先に謝っておきます、申し訳ございません。

 いま、上図右において、線分Pn1Pnの偏角をanとすると、
{an}=278,334,266,210,290,346,278,222,322,266,198,254,342,38,242,186,86,30,354,298,62,330,286,18,42,134,178,86,98,6,142,50,150,58,14,106
が確認されます(画面幅の狭いデバイスで閲覧される方に配慮し適宜改行を挟みました)。サラッと書きましたが、この確認を手計算で行おうとすると20分は必要です。
 簡単のため、勝手に|P0P1|=1と仮定しましょう。角度は不変です。以下、zargz=1をみたす1の360乗根、すなわちz=exp(πi180)とします。このとき、|ζ|=1,argζ=mをみたす数ζζ=zmと表現できるため、線分P0P36の偏角はarg(k=136zak)に等しいです。可読性のために以下の関数Zを定義すると、この式はargZ({an})と書けます。

 N項からなる有限数列{Fn}において、Zx,y({Fn}),Z({Fn})
Zx,y({Fn})=k=xyzFk,Z({Fn})=k=1NzFk
と定める(ただしz=exp(πi180))。

 凄まじい観察眼を用いてエスパーする or 事前に三角関数などで計算しておくと、argZ({an})=16です。このことはz16Z({an})=Z({an+16})が実数であることと同値になるので、今からこれを代数的に確認します。


裏計算のお時間(読み飛ばし推奨)

 数列{a(0)n}a(0)n=(an+16)%360で定義すると(%は剰余演算子)、
{a(0)n}=294,350,282,226,306,2,294,238,338,282,214,270,358,54,258,202,102,46,10,314,78,346,302,34,58,150,194,102,114,22,158,66,166,74,30,122
です。z360=1ですから、Z({an+16})が実数Z({a(0)n})が実数、といえます。
 ここで、以下のような関数Mを考えます。

 有限数列{Fn}において、Mx,y({Fn})
Mx,y({Fn})=({Fn}の第x項から第y項までを逆順にした数列)
と定める。例えば、{Fn}=1,2,3のときM1,2({Fn})=2,1,3である。

 関数Mの果たす役割を説明します。いま、z250+z70はガウス平面上で原点対称な数の和ですから0と等しくなります。z20+z140+z260はガウス平面上で原点を中心とする正三角形の頂点の和であり、こちらも0です。ゆえに、
{Λn}=250,70,20,140,260
という数列を考えれば、自明にZ({Λn})=0です。
 それでは、こちらの数列{Λn}におけるZ({Λn})の値はいくらでしょうか。
{Λn}=20,70,140,250,260
 問うまでもありませんね。数列を構成する項がすべて対応するので、Z({Λn})=Z({Λn})=0です。これは「M1,3(M3,4({Λn})){Λn}とが一致するため、Z({Λn})=Z({Λn})=0」とも言い換えられます。
 有限数列に関する計算を行う際、このように関数Mを利用することで、視覚的に最も計算しやすい形へと数列が整理されます。それこそが関数Mの役割です。……「わざわざ順番を入れ替えなくても計算可能ではないか?」と思われたかもしれません。もっともなご意見ですが、数列の項数が10項、20項と増えていけば、いずれ我々の脳のキャパシティを超えた複雑さを抱くでしょう。その際にも、互いに打ち消しあう項の組を関数Mでまとめることで、計算が幾分か楽になります。加えて、数列の計算を初等幾何に還元する際、関数Mはある操作に対応するのです(後述)。初等幾何解法を創出するうえでキーとなるのが、この関数Mです。


 本題に戻ります。
{a(1)n}=M31,35(M28,30(M24,27(M19,20(M20,21(M12,17(M3,6({a(0)n}))))))){b(1)n}=M34,36(M20,22(M18,19(M17,18(M10,11(M7,8(M5,9({a(1)n}))))))))
と定義すれば、
{a(1)n}=294,350,2,306,226,282,294,238,338,282,214,102,202,258,54,358,270,46,78,10,314,346,302,194,150,58,34,22,114,102,30,74,166,66,158,122{b(1)n}=294,350,2,306,338,238,282,294,226,214,282,102,202,258,54,358,46,78,270,346,314,10,302,194,150,58,34,22,114,102,30,74,166,122,158,66であり、特にZ11,12({b(1)n})=z282+z102=0です。ゆえに、a(2)n={b(1)n(1n10)b(1)n+2(11n34)とおくとZ({a(2)n})=Z({b(1)n})(=Z({a(1)n})=Z({a(0)n}))が成立します。


 次の操作を行う前に、数列{μn}=30,74と数列{μn}=14,330,134,90を用意し、Z({μn})=Z({μn})を示しておきます。左辺にz180(=1)を掛け右辺に移項すると、以下の等式を示せばよいことになります。
z14+z330+z134+z90+z254+z210=0
 左辺をz90+z14で括れば(z90+z14)(z240+z120+z0)であり、z240+z120+z0=0なので証明完了です。
 {b(2)n}=M20,23(M7,14(M3,6({a(2)n})))とすれば、
{b(2)n}=294,350,238,338,306,2,358,54,258,202,214,226,294,282,46,78,270,346,314,150,194,302,10,58,34,22,114,102,30,74,166,122,158,66
ですね。Z29,30({b(2)n})=zμ1+zμ2=Z({μn})なので、a(3)n={b(2)n(1n28)μn28(29n32)b(2)n2(33n36)なる数列{a(3)n}において、Z({a(3)n})=Z({b(2)n})となります(行間注意)。


{b(3)n}=M32,33(M14,16(M12,13(M11,12(M9,14(M9,12({a(3)n}))))))
を定めれば、
{b(3)n}=294,350,238,338,306,2,358,54,282,294,202,214,258,78,46,226,270,346,314,150,194,302,10,58,34,22,114,102,14,330,134,166,90,122,158,66
をみたします。
{Z13,14({b(3)n})=z258+z78=0Z15,16({b(3)n})=z46+z226=0Z9,12({b(3)n})=zb(3)12+zb(3)11+zb(3)10+zb(3)9=Z25,28({b(3)n})Z17,21({b(3)n})=zb(3)21+zb(3)20+zb(3)19+zb(3)18+zb(3)17=Z29,33({b(3)n})
を簡単に確認できるので、すべて足し合わせてZ9,21({b(3)n})+Z25,33({b(3)n})=0です。ゆえに、c(3)n={b(3)n(1n8)b(3)n+13(9n11)b(3)n+22(12n14)という数列{c(3)n}に関しZ({c(3)n})=Z({b(3)n})です。数列の項数が22項も一気に減りました。
{c(3)n}=294,350,238,338,306,2,358,54,302,10,58,122,158,66


 いよいよ仕上げです。{d(3)n}=M10,11(M11,13(M9,11({c(3)n})))とすると、Z12,13({d(3)n})=z122+z302=0が成立します。すなわち、a(4)n={d(3)n(1n11)d(3)n+2(n=12)で数列{a(4)n}を作れば、これまで通りZ({a(4)n})=Z({d(3)n})が言えます。
{a(4)n}=294,350,238,338,306,2,358,54,58,158,10,66
 b(4)n=M5,10(M3,12(a(4)n))とおきましょう。
{b(4)n}=294,350,66,10,306,2,358,54,58,158,338,238
改めてz360=1を思い出すと、zb(4)3=zb(4)1,zb(4)4=zb(4)2,zb(4)7=zb(4)6,zb(4)8=zb(4)5に気づきますね。また、
Z9,12({b(4)n})=(z158+z58)(z180+1)=0
です。よって、
Z({b(4)n})=Z1,8({b(4)n})+Z9,12({b(4)n})=zb(4)1+zb(4)2+zb(4)1+zb(4)2+zb(4)5+zb(4)6+zb(4)6+zb(4)5+0=zb(4)1+zb(4)2+zb(4)5+zb(4)6+zb(4)1+zb(4)2+zb(4)5+zb(4)6=(実数)
を証明できます。これまでの操作を顧みればZ({a(0)n})=Z({b(4)n})ですから、Z({a(0)n})も実数である、つまりargZ({an})=16であることがやっと明かされました。


裏計算まとめ

{an}=278,334,266,210,290,346,278,222,322,266,198,254,342,38,242,186,86,30,354,298,62,330,286,18,42,134,178,86,98,6,142,50,150,58,14,106
において、定義2で定めた関数Mを利用し
a(0)n=(an+16)%360{a(1)n}=M31,35(M28,30(M24,27(M19,20(M20,21(M12,17(M3,6({a(0)n}))))))){b(1)n}=M34,36(M20,22(M18,19(M17,18(M10,11(M7,8(M5,9({a(1)n}))))))))a(2)n={b(1)n(1n10)b(1)n+2(11n34){b(2)n}=M20,23(M7,14(M3,6({a(2)n})))a(3)n={b(2)n(1n28)μn28(29n32)b(2)n2(33n36)({μn}=14,330,134,90){b(3)n}=M32,33(M14,16(M12,13(M11,12(M9,14(M9,12({a(3)n}))))))c(3)n={b(3)n(1n8)b(3)n+13(9n11)b(3)n+22(12n14){d(3)n}=M10,11(M11,13(M9,11({c(3)n})))a(4)n={d(3)n(1n11)d(3)n+2(n=12)b(4)n=M5,10(M3,12(a(4)n))
とすれば、Z({b(4)n})が実数となり、これはargZ({an})=16と同値です。

 裏計算が1枚で分かる表も掲載しておきます(最初にこの表を載せるべきでは?)。


計算を初等幾何へ反映させる

 待望の幾何セクションです。2点A,Dを結ぶ折れ線P0P1P2P36に再度注目します。

数列の和と折れ線の対応(独自の呼称)

 有限数列{Fn} (1nN)に対し、点列S0,S1,S2,,SN
{S0S1=S1S2==SN1SN(Si1Siの偏角)=Fi(1iN)
を満足するとき、S0,S1,S2,,SNをこの順に結んで得られる折れ線S=S0S1S2SNZ({Fn})に対応する折れ線であると考える。ただし、偏角の基準となる直線は事前に定まっているものとする。

 利便性のために定義を拵えました。具体例を挙げれば、本問の折れ線P0P1P2P36Z({an})に対応していますね。


 先程の裏計算で定義した関数Mを、幾何的にとらえてみましょう。いま、八角形P2P3P4P5P6Q1Q2Q3が点対称な図形となるように3点Q1,Q2,Q3をとります。すると、P2P3P3P4P4P5P5P6という経路とP2Q3Q3Q2Q2Q1Q1P6という経路は、始点と終点が一致し、通る線分の偏角も逆順に一致しています。つまり、折れ線P0P1P2P3P4P5P6P7P36Z({an})=zanの総和)が対応する事実より、折れ線P0P1P2Q3Q2Q1P6P7P36Z(M3,6({an}))が対応するのです(わずかな行間を読み取ってください)。関数Mは折れ線(の一部)の点対称移動を表していたのですね。
 これを踏まえ、Z({a(1)n})に対応する折れ線を作り出します。十二角形P11P12P13P14P15P16P17Q4Q5Q6Q7Q8、四角形P19P20P21Q9、四角形P18P19Q9Q10、八角形P23P24P25P26P27Q11Q12Q13、六角形P27P28P29P30Q14Q15、十角形P30P31P32P33P34P35Q16Q17Q18Q19がいずれも点対称な図形となるように、Q4Q19の16点を設けましょう(下図左)。

 新しく用意した多角形のそれぞれについて、折れ線が通る経路を入れ替えます(上図右)。そうすると、新たに生成される経路は
Z(M31,35(M28,30(M24,27(M19,20(M20,21(M12,17(M3,6({an}))))))))
に対応し、{a(0)n},{a(1)n}の定義からこれはZ({a(1)n16})に対応する折れ線です(かなりの行間を読み取ってください)。この折れ線を反時計回りに16回転させたものが、Z({a(1)n})に対応する折れ線といえます。


 この調子で、始点と終点を保ったまま折れ線を変形していきます。十角形Q2Q1P6P7P8P9Q20Q21Q22Q23、四角形Q22Q21Q20Q24、四角形P17P18Q26Q4、四角形Q26P10Q10Q25、六角形Q10Q9P21P22Q27Q28、六角形Q17Q16P35P36Q29Q30がいずれも点対称な図形となるように、Q20Q30の11点を設けましょう(下図左)。

 先程と同様に経路変換を行い、P9P10P10P11P11P8という経路をP9P8に直すと(四角形P9P10P11Q8は平行四辺形)折れ線は上図右のような形状になります。この折れ線がZ({a(2)n16})=z16Z({a(2)n})に対応することは、従前の議論と同じ道筋で判りますね。実際には{a(1)n}から{a(2)n}へ変形する手順をカンニングし、それを根拠に多角形を貼りつけているのですが。


 以下、多角形の名称を書き並べる気力が無くなったので、図から読み取ってください。原則点対称です。Q31Q43の13点を設けます。また、六角形P30Q19Q18Q44Q45Q46120回転で自身と重なる図形となるようにQ44Q46の3点を設けます(ただしQ19Q44<Q19Q18とする)。ここまでを行い、いつも通り経路を変換したものが下図です。これでz16Z({a(3)n})に対応する折れ線が作られます。


 {a(3)n}から{a(4)n}へ変形する手順を参考に、どんどん経路を変えていきます。点対称の原則を守りつつQ44Q55の12点を設け、経路変換と(同じ道を行って戻る経路の)削除を適宜行えば、下図のように折れ線が移ります。

 折れ線Q39Q53Q52Q54Q25と折れ線P30Q14Q15P27Q11は平行移動で重なるため(計算略)、Q39Q25=P30Q11です。また、折れ線Q25Q10Q28Q27Q43Q42と折れ線Q17Q55Q44Q45Q46P30も平行移動で重なり、Q25Q42=Q17P30を得ます(下図左)。ついでにQ42Q41//Q30Q17です。
 ということは、十角形Q39Q25Q42Q41Q12Q11P30Q17Q30Q56が点対称な図形となるように、点Q56をとることができますね。四角形Q56Q30Q29Q57がひし形となるような点Q57もとっておくと、長かった経路が下図右のように短縮されます。これがz16Z({a(4)n})に対応する折れ線です。


 あとはどうとでもなります。Q32Q22Q39が二等辺三角形であることに注目し、線分Q32Q39の偏角が16であると判ります。またP2Q32=Q57Q39かつP2Q32//Q57Q39から、線分P2Q57の偏角も16です。するとP1P2Q57=Q29Q57P2が成立し、四角形P0P2Q57P36P0P2=P36Q57の等脚台形といえます。以上より、線分P0P36の偏角、すなわち線分ADの偏角は16なのです。
 いま、線分EDの偏角は34ですから、最終的にADE=50が確定しました。


Frequently Asked Question

Q.数列の項の入れ替え方をどうやって思いつけば……
A.転倒数の考え方を用いましょう

 ここまで読んだ多くの読者は、各自で二段整角四角形問題を作り、経路変換を試みていることでしょう。しかしながら、ただ闇雲に折れ線の平行移動を繰り返すだけでは、図が複雑になっていくのみです。もっとシステマティックに変換しなければなりません。えっ、そもそも試みてなどいない? おかしいですね……。
 今からその手順をお伝えします。例として、以下の数列{ρn}を持ってきました。
{ρn}=82,30,18,142,22,54
 Z({ρn})が実数であることを確かめましょう。まず、
z30+z18+z54(z30+z18+z54)=z30+z18+z54+z150+z162+z126=(z150+z30+z90)+(z162+z90+z18+z54+z126)=0
より、z30+z18+z54は実数です。また、z142+z22+z98も実数ですから、
Z({ρn})=z82+z142+z22+(z30+z18+z54)=z82z98+(z142+z22+z98)+(実数)=z82+z82+(実数)+(実数)=(実数)
という風に確かめられました。よって、{ρn}の先頭に82,98を追加した数列{ρn}を用意し、
{ρn}=82,98,82,30,18,142,22,54
から(82,82),(98,142,22),(30,18,54)の形を見つけられるように関数Mを適用することが目標となります。


{ρn}=82,82,98,142,22,30,18,54
{ρn}の項を並べ替えた数列であり、かつ(82,82),(98,142,22),(30,18,54)の形が非常に見やすいです。
{ρn}=ρ1,ρ3,ρ2,ρ6,ρ7,ρ4,ρ5,ρ8
ですから、この添字だけを抽出した新たな数列{σn}{σn}=1,3,2,6,7,4,5,8となります。
 {σn}について転倒数(inversion number)を計算してみると、その値は5です。試しにM4,6({σn})という数列の転倒数も計算すると、その値は3になります。数列1,2,,8の転倒数は当然0ですから、{σn}M4,6({σn})を比較すれば、後者のほうが数列1,2,,8に「近い」といえますね。換言すると、{ρn}M4,6({ρn})では後者のほうが数列{ρn}=ρ1,ρ2,,ρ8に「近い」のです(行間……)。
 このように、「添字の転倒数を0に近づける」というコンセプトを抱きつつ関数Mを用いれば、有限回の関数合成で{ρn}{ρn}に変換されます。もとの数列の転倒数が0でない限り、転倒数が減少するような適用方法は必ず存在するためです(詳しくは「バブルソート 交換回数」などで検索してください)。今回であれば、M2,3(M5,7(M4,6({ρn})))と操作することで{ρn}と完全に一致させられます。


 問題1では、これと同じことを36項もの数列で行いました。ゴールとなる順序を仮定し、計算してみた添字の転倒数はなんと116(この値はゴール次第で変動します)。116回以内の関数合成で変換を終えられるという事実に大歓喜……できるわけもなく無事心が折れ、効率的に転倒数を減らす交換方法をPython先生へとお尋ねしました。やはり先生は優秀でして、ものの数秒で全探索を終え20回台の合成手順を提出されたのですが、幾何に還元した際の図の見やすさなども慮った結果、本記事に掲載したとおりの28回の交換(with 項の追加や除去)を採用するに至ったのです。実は28回でも結構削ったほうなのですよ……。


Impractical Practice Problems

 凸四角形ABCDの辺AB,CD上にそれぞれ点E,Fをとると、ABF=a,CBF=b,ECB=c,ECD=d,AFB=e,DEC=fが成立した。このときADEの大きさは度数法で整数値となるが、その値を求めなさい。
(1)(a,b,c,d,e,f)=(58,28,19,65,34,53)(2)(a,b,c,d,e,f)=(64,38,24,68,52,56)(3)(a,b,c,d,e,f)=(44,38,34,22,78,88)

 (1)は前回例示した二段整角四角形ですね。つまり、外心10個法などという煩雑極まりないメソッドに頼らずとも解けます。(3)は外心10個法以外の初等幾何解法を発見できていません(本記事投稿日現在)。


The Confused Conclusion


 お疲れ様でした。問題1の解答に用いた補助オブジェクトを上図にまとめたので、これで癒されてください。どことなくステンドグラスっぽくないですか?(主観)
 ちなみに、プログラムを組んで数えてみると、補助点が95個補助円が10個、そして補助線が176本でした。 前々回 の記録を早くも超えてしまいました……。


 さて、以上の議論によって二段整角四角形問題(当然のように連呼していますがあくまで独自の呼称です)を完全解決した次第ですが、実のところ、「外心10個法」にはある問題点があります。
 問題2へ果敢に挑んでくださった読者ならば、恐らくお気づきのことでしょう。そう、本メソッドに従って折れ線を描いたとき、P0P8の区間とP24P28の区間からそれぞれ1本ずつ選んだ線分の組で、ちょうど逆向きのものが少なくとも1組存在するのです。P8P12の区間とP28P36の区間にも、同様の組が必ず存在します。
 長さが等しく向きが逆のベクトルは相互に打ち消しあうので、何らかの手順を加えることにより、はじめから三十二等辺三十三角形として議論を開始できるはずなのです。現行の三十六等辺三十七角形は過剰な複雑さを有するといえます。つまるところ、手法が洗練されていなかったのです。


 だからこそ。この問題点を独力で解決できなかったからこそ、私は本記事を書き上げました。私よりも数学への造詣が深い読者から、ソリューションを与えていただくためです。
  aerile_re 氏が「 外心3つ法 」を発見したときも、もとは外心を2つしかとっていなかったそうです。しかしながら、2つの外心では(1組の線分が打ち消しあう)八等辺九角形が得られてしまい、それを解消すべく試行錯誤した結果、3つ目の外心を発見したといいます。帰納的に、私の提唱する「外心10個法」では、さらに1~2個の外心をどこかにとることで、真に洗練された三十二等辺三十三角形を得ると考えられます。本来「外心11個法」あるいは「外心12個法」であるべきなのでしょう。
 ですが、記事投稿日までの私には、それらの外心が見えませんでした。GeoGebraで数百個の外心を作図すれども、ただWindowsの挙動が遅くなるだけに終わりました。
 皆様、お力添えをいただけませんか?

【前編と後編のまとめ】

任意の二段整角四角形問題は「外心10個法」により初等的に解かれる
36本もの線分からなる経路を偏角が自明な経路に変換するのは非常に大変である
現行の「外心10個法」は粗削りであり改善を要する


It's Time for "Yodan"

 前編の投稿からわずか数時間で“ご本人”が降臨しました。解りますよ、自身で編み出した手法を別の誰かが語っていれば、内容云々の前に反応したくなるものです。私もレムニスケート関連で同様の経験が複数回あります。ですが流石に早すぎませんか?

 もう1件、 第4回匿式図形問題エスパー杯 の解説記事( 問題A~E 問題F )に2024年7月21日現在計12件の高評価をいただいております。誠にありがとうございます。今後とも変わらぬご愛顧を……。


 以上、独自研究の紹介&蛇足でした。今回は前後編合わせて約38,000文字(約58,000バイト)のHTMLコードを打ち込みました。
 感想・提案・質問・指摘・Xでのバズり方などはコメントにお願いします。それではこれにて。

参考文献

投稿日:2024721
更新日:2024722
OptHub AI Competition

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匿(Tock)
匿(Tock)
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主に初等幾何・レムニスケート。時々偏差値・多重根号。 「たとえ作曲家が忘れ去られた日であっても、彼の旋律が街並みを縫って美しく流れていますように。」

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