この記事では二階線形微分方程式
$$\frac{d^2u}{dz^2}+P(z)\frac{du}{dz}+Q(z)u=0$$
の保型形式による解について解説していきます。
前回の記事
では$P,Q$が領域$D$において正則であれば$D$の普遍被覆面$\D$上で正則な解$\tilde{u}=p^*u$が取れることを紹介したのであった。
いまある基本解$\u_1,\u_2$に関するモノドロミー群$\G$が$SL(2,\R)$の離散部分群で商空間$\G\backslash\H$を体積有限とするもの、つまり
第一種のFuchs群
であるものとする。このとき$\D$上の有理型関数$\tau:\D\to D'$を
$$\tau=\frac{\u_1(\z)}{\u_2(\z)}$$
によって定めると、これは被覆変換$\g$の作用によって
$$\g^*\tau=\frac{a\u_1+b\u_2}{c\u_1+d\u_2}=\frac{a\tau+b}{c\tau+d}$$
と変換される。したがって$D'$は$\G$の作用に対して不変となる(参考文献ではこのことから$D'$は上半平面か下半平面となることがわかるらしいが、そのことは簡単に示せるのだろうか)。
ここで簡単のため$D'=\H$および$\tau:\D\to\H$は全単射であるものと仮定する。このとき$\tau$の逆像$F:\H\to\D$と被覆写像$p:\D\to D$の合成を$f=p\circ F$とおくと$f(\tau)=f(\g*\tau)=p(\z)$よりこれは
$$f\l(\frac{a\tau+b}{c\tau+d}\r)=f(\tau)$$
を満たす、つまり$\G$-保型関数となることがわかる。
また$\z=F(\tau)$とおいて$\u_2$を$\tau$についての関数とみなすと、これは
$$\u_2(\g^*\tau)=c\u_1+d\u_2=(c\tau+d)\u_2(\tau)$$
を満たす、つまり重さ$1$の$\G$-保型形式となることがわかる。
例えば超幾何微分方程式
$$z(1-z)\frac{d^2u}{dz^2}+(1-2z)\frac{du}{dz}-\frac14u=0$$
の基本解として
$$u_1=\F{\frac12}{\frac12}1{1-z},\quad u_2=\F{\frac12}{\frac12}1z$$
を取ったとき
$$\tau=\frac{iu_1(z)}{u_2(z)}$$
とおくと
$$z=\frac{\t_2(\tau)^4}{\t_3(\tau)^4},\quad u_2=\t_3(\tau)^2$$
が成り立つことが知られている。ただし
$$\t_2(\tau)=\sum^\infty_{n=-\infty}q^{(n+\frac12)^2},\quad
\t_3(\tau)=\sum^\infty_{n=-\infty}q^{n^2}\qquad(q=e^{\pi i\tau})$$
とした(この公式については
この記事
にて証明している)。
また例えば超幾何微分方程式
$$z(1-z)\frac{d^2u}{dz^2}+(1-2z)\frac{du}{dz}-\frac29u=0$$
の基本解として
$$u_1=\F{\frac13}{\frac23}1{1-z},\quad u_2=\F{\frac13}{\frac23}1z$$
を取ったとき
$$\tau=\frac2{\sqrt3}\frac{iu_1(z)}{u_2(z)}$$
とおくと
$$z=\frac{c(\tau)^3}{a(\tau)^3},\quad u_2=a(\tau)$$
が成り立つことが知られている。ただし
\begin{align*}
a(\tau)&=\sum^\infty_{m,n=-\infty}q^{m^2+mn+n^2}\\
c(\tau)&=\sum^\infty_{m,n=-\infty}q^{(m+\frac13)^2+(m+\frac13)(n+\frac13)+(n+\frac13)^2}
\qquad(q=e^{\pi i\tau})
\end{align*}
とした(この公式については
この記事
にて紹介している。ただし上の式とは$q$の置き方が異なることに注意する)。
ちなみにラマヌジャンは超幾何関数
$$F_s(z)=\F{\frac1s}{1-\frac1s}1z\qquad(s=2,3,4,6)$$
に対し
$$\tau=\frac1{\sin\frac\pi s}\frac{iF_s(1-z)}{F_s(z)}$$
および$q=e^{\pi i\tau}$とおくといい感じの理論が展開できることを予想していたが、実際それは上のような理論によって裏付けられることがわかる。