3
現代数学解説
文献あり

ラマヌジャン・佐藤級数を理解したい(その5、まとめ)

151
0

はじめに

 この記事では 前回の記事 に引き続きラマヌジャン・佐藤級数について勉強していきます。
 と言ってもとりあえず読もうと思っていた論文
その1:Chan, Chan, Liu (2004)
その2:Chan, Cooper (2012)
その3:Chan, Tanigawa, Yang, Zudilin (2011)
その4:Chan, Cooper (2012)の続き
については一通り目を通せたので一旦今回の記事でこれまでの内容を、次回の記事で具体的な公式の一覧をまとめておこうと思います。続きの記事については今のところ書く予定はありませんが、次回の記事で色々な結果をまとめているうちに何か発見したことがあればまた考察を続けるかもしれません。
 またこのシリーズではモジュラー形式を用いた手法について解説してきましたが、どうやらもう一つのアプローチとして微分演算子を用いた手法(Almkvist (2012))とやらがあるらしく、少し気になってはいます。が、軽く読んでみても今一ピンと来なかったのでよほど気が向かない限りこれについての記事を書く予定もありません。

ラマヌジャン・佐藤級数の生成公式

 ラマヌジャン・佐藤級数を構成するにはある整数sに対して
Z(τ+1)=Z(τ),Z(1sτ)=±sτ2Z(τ)
を満たすような重さ2のモジュラー形式Zであって、あるモジュラー関数Xによって
Z(τ)=n=0AnX(τ)n
と級数展開できるものがあれば十分なのであった。
 このときq=e2πiτについて
qddqlogX=UZqddqlogZ=ES(τ)=1Z(E12πIm(τ))
とおくとChan, Chan, Liuの手法から次のような生成公式が得られる。

12πIm(τ)=n=0An(UnS)Xn

U,S,Xの特殊値

 またU,S,XτN=N/sにおける値、より一般に二次無理数
τcm=q+N/sp
における特殊値についてはそれぞれの保型性
U(1sτ)=U(τ)E(1sτ)=sτ2E(τ)+sτπiX(1sτ)=X(τ)
および次の命題を用いることで求めることができる。

 非負整数Nに対してX(τ/N)およびU(τ)X(τ)の(C上の)代数関数として表せる。

MN(τ)=Z(τ)Z(τ/N)RN(τ)=NE(τ)E(τ/N)Z(τ)Z(τ/N)=NS(τ)MNS(τ/N)MN1
とおいたとき
1MN(τ)=NU(τ)X(τ)U(τ/N)X(τ/N)dX(τ/N)dXRN(τ)=NUXMNddXlogMN
が成り立つ。
 特にMN,RNX(τ),X(τ/N)についての、ひいては単にX(τ)についての代数関数として表せる。

 実際これらの関係がQ代数的であれば以下の命題が成り立つ。

 X(τcm),U(τcm),MN(τcm),RN(τcm)は代数的数となる。また
S(τN)=RN(τN)2NS(τcm)=pS(τN)MpRpMN(τ=q+N/s)
と求まる。

z,xの構成

 上のような性質を持つ関数の組Z,Xを構成するにはZ,Xの満たすべき微分方程式を考えるのが有効であり、特にまず二階のFuchs型微分方程式
d2zdx2+p(x)dzdx+q(x)z=0
から
z=n=0snxn
なる重さ1のモジュラー形式zとモジュラー関数xを構成するとよいのであった。
 またその2その4での考察からそのようなz,xは次のような性質を持つのであった。

 f,g,hxについての多項式(f(0)0)とすると微分方程式
f(x)ϑ2z=x(g(x)ϑz+h(x)z)
を考える。ただしϑ=xddxとした。
 この微分方程式はx=0周りにおいて
z0(x)=n=0snxn(s0=1)z1(x)=z0(x)(logx+n=1anxn)
なる級数解を一意的に定める。

 上のような解z0,z1に対し
τ=12πiz1(x)z0(x)
とおくと
12πiddτlogx=z0(x)2exp(0xg(t)f(t)dt)
が成り立つ。

 上の微分方程式がFuchs型であり、そのモノドロミー群がモジュラー群をなすときz=z0(τ),x=x(τ)はそれぞれ重さ1のモジュラー形式およびモジュラー関数となり、特にq=e2πiτとおくとz,x
z=1+n=1bnqn,x=q+n=2cnqn
のようなq-展開を持つ。

Z,Xの構成

 上のようなz,xを用いて適当なZ,Xを構成する方法は大きく2つある。

素朴な方法

 まず素朴な方法としてZ=z2,X=xとおくことが考えられる。
 このとき展開係数Ansnが明示的に求まるとき
Z=n=0(k=0nsksnk)Xn
によって、そうでないときは(ϑ2+pϑ+q)z=0から誘導される微分方程式
(ϑ3+3pϑ2+(2p2+Xp+4q)ϑ+(4pq+2Xq))Z=0
から漸化式を立てることで求めることができる。
 新たに少し考察してみたところ漸化式を立て直す手法は
p=f(x)2f(x)
のように表せなければあまり美味しくない(Anの漸化式が煩雑になる)ことがわかった。

 微分方程式
2f(x)ϑ2z=x(f(x)ϑz+g(x)z)
の解zに対してZ=z2,X=xとおくと、これは
2f(X)ϑ3Z=X(3f(X)ϑ2Z+G(X)ϑZ+2H(X)Z)
を満たす。ただし
G(X)=f(X)+Xf(X)+4Xg(X)H(X)=g(X)+Xg(X)
とした。

 [CTYZ]で考察した微分方程式
(112x64x2)ϑ2zx(6+64x)ϑzx(1+15x)z=0
は本来は
(112X64X2)ϑ3Z3X(6+64X)ϑ2ZX(10+188X)ϑZ2X(1+30X)Z=0
であり、これにより
Z=n=0(k=0n(nk)4)Xn
という関係式が得られるのであった。

 また超幾何関数型の関係式
Z=3F2(12,1s,11s1,1;X)

z=2F1(12s,12(11s)1;4x(1x))
の二乗を取ることで得られるのであった(ただしX=4x(1x))。
 この場合もzの満たす微分方程式は
(1X)ϑ2zX2ϑzX4s(11s)z=0
と条件を満たしていることがわかる。

 またこのときf(0)=1とすると
qddqlogX=z2exp(0Xf(x)2f(x)dx)=f(X)Z
つまりU=f(X)が成り立つことにも注意したい。

Clausenの公式の類似

 2つ目の方法はClausenの公式の類似を考えることである。
 Chan, Cooperによると以下が成り立つのであった。

 数列{sn},{tn}s1=t1=0,s0=t0=1および
(n+1)2sn+1=(an2+an+b)sn+cn2sn1(n+1)3tn+1=(2n+1)(an2+an+a2b)tn(4c+a2)n3tn1
によって定める。このとき
(1+cx2)(n=0snxn)2=n=0(2nn)sn(x(1axcx2)(1+cx2)2)n(1axcx2)(n=0snxn)2=n=0tn(x1axcx2)n
が成り立つ。

 このとき
z=n=0snxn
の満たす微分方程式は
(1axcx2)ϑ2zx(a+2cx)ϑzx(b+cx)z=0
と表せるので以下の主張が成り立つ。

qddqlogx=(1axcx2)z2
が成り立つ。特に
Z1=(1+cx2)z2,X=x(1axcx2)(1+cx2)2Z2=(1axcx2)z2,Y=x1axcx2
とおいたとき
qddqlogX=14aX16cX2Z1qddqlogY=(1+aY)2+4cY2Z2
が成り立つ。

 ついでに
Z1=qddqlogY,Z2=qddqlogx
が成り立つことにも注意したい。

円周率公式

 以上の議論を組み表せることで、素朴な方法でZ,Xを構成した場合
12πIm(τ)=n=0An(f(X)nS)Xn
という形の円周率公式が、そしてClausenの公式の類似によって構成した場合

Chan-Cooperの公式

 ある関数λ(τ),μ(τ)が存在して
12πIm(τ)=14aX16cX2n=0(2nn)sn(n+12+λ)Xn=(1+aY)2+4cY2n=0tn(n+12+μ)Yn
が成り立つ。特にこれらは
X=Y(1+aY)2+4cY2λ=μ(1+aY)2+4cY21(a2+4c)Y2
および
Y=12aX14aX16cX22X(a2+4c)μ=λ14aX16X2
という関係によって写り合う。

という形の円周率公式が得られることとなる。

これからの課題

 以上がこれまで考察してきたことでした。
 しかしまだまだ残された謎は多いままなので個人的な疑問も一旦ここにまとめておこうと思います。

z,xの構成について

z=n=0snxn
を満たすようなモジュラー形式とモジュラー関数の組z,xを構成する一般的な手法はあるのだろうか。

 次回の記事でも提示するように、このシリーズでは展開係数sn,tn,Anやモジュラー形式z,xの明示形をいくつか紹介してきた。またそれらの数列と関数とを結びつけるには漸化式や微分方程式を考える必要があるのであった。しかし一般の漸化式は明示的に解けるとは限らないし、一般の微分方程式はモジュラー形式によって解けるとは限らない。
 つまり当てずっぽうで数列やモジュラー形式を持ってきても、そこからいい感じ関係式が得られるとは限らないのだ。ではこのシリーズで見てきた実例は一体何をどう考えて見出されたものなのだろうか、そしてこういった関係式を生み出す一般論は存在するのだろうか、という疑問が生じるわけである。
 まだ法則性や一般論を見出すには実例に乏しいだけな気がしてきた。次回の記事で具体例をまとめているうちに何か見出せるかもしれない。

Clausenの公式の類似について

 Chan, Coperにて提示された公式
(1+cx2)(n=0snxn)2=n=0(2nn)sn(x(1axcx2)(1+cx2)2)n(1axcx2)(n=0snxn)2=n=0tn(x1axcx2)n
はどうやって導かれたのか。また一般の数列snに対してもこのような変換公式は考えられるのだろうか。

 これについてはAlmkvist, Straten, Zudilinの"Generalizations of Clausen's Formula and algebraic transformations of Calabi–Yau differential equations"にヒント、あるいは答えとなるようなことが書いてあると思っているがまだ読めていない。
 やはり実例に乏しいだけで、これも次回の記事でいくつかの文献を渡り歩いているうちに何か見出せるかもしれない。

参考文献

[1]
H. H. Chan, S. H. Chan, Z. Liu, Domb's numbers and Ramanujan–Sato type series for 1/π, Advances in Mathematics, 2004, 396-410
[2]
H. H. Chan, Y. Tanigawa, Y. Yang, W. Zudilin, New analogues of Clausen’s identities arising from the theory of modular forms, Advances in Mathematics, 2011, 1294-1314
[3]
H. H. Chan, S. Cooper, Rational analogues of Ramanujan’s series for 1/π, Math. Proc. Cambridge Phil. Soc., 2012, 361-383
投稿日:20231224
更新日:2024414
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

子葉
子葉
1066
259867
主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中
  1. はじめに
  2. ラマヌジャン・佐藤級数の生成公式
  3. U,S,Xの特殊値
  4. z,xの構成
  5. Z,Xの構成
  6. 素朴な方法
  7. Clausenの公式の類似
  8. 円周率公式
  9. これからの課題
  10. 参考文献