この記事では 前回の記事 に引き続きまた別の論文Chan, Tanigawa, Yang, Zudilin(2011) (長いので以下[CTYZ]と書く)を読んでいきます。
前回の記事
では漸化式
によって定まる数列
を満たすような保型形式と保型関数の組
という形の円周率公式が得られる。ということを紹介したのであった。
となるとそのような関数
実は
のモノドロミーというものを調べることで保型形式を構成することができる。そのことについてはこの記事で解説している。その記事によるとこの微分方程式のある基本解
とおくと上手い具合に保型形式が構成できるのであった。
いまこの微分方程式は
変形できるのでこれは
という形の基本解が取れることがわかる。
またこれは
のように変換されるので
とおくといい感じになることが予想される。
このとき
と展開でき、これによって
と展開することができる。
あとはこの
Indeed, after some trial, we find that the function
has the same starting q-expansion as X, while the modular form
has the same starting q-expansion as Z, ...
としか説明されていない。このような明示形を導出する方法は今では確立されているのだろうか。
最後に上のような明示形が予想されたとして、それが上のように構成した
ひとまず[CTYZ]で提示されている具体例について見ていこう。
[CTYZ]では
の満たす微分方程式としてChan, Cooperでは現れなかったタイプのもの
を考えている。
この方程式の特異点
あとは上のように
とにらめっこすることで
といった明示形が浮かび上がるらしい。
ちなみにこの結果に対してChan, Chan, Liuの手法を用いることで例えば
といった円周率公式(
しかしこのように保型形式によって解けるかもわからない微分方程式に対して一々モノドロミーを調べ、
前回の記事
を書いている時点ではラマヌジャン・佐藤級数を誘導する関係式の数々は「係数となる数列の明示形が先に考えられて、それが誘導する微分方程式に保型形式による解が与えられた」ものだと考えていたがどうやら「よい性質を持つ保型形式や保型関数が先に考えられて、それが満たす微分方程式に(たまたま(?))明示的に表せる級数解が与えられた」という色が強いようにも思えてきた。
どちらの方が理に適っているのかはまだ理解していないが、ひとまず[CTYZ]で紹介されているよい性質を持つ保型形式や保型関数の取り方について簡単に紹介しておこう。
商空間
によって定める。このとき任意の重さ
いま
例えば上で出てきた関数
は
は
の対数微分
いまレベル6のHauptmodul
と表せることが知られている。これに対して
とおいたとき以下のような関係式が得られる([CTYZ]によるとこれは偶然発見したものらしい)。
および
とおいたとき
が成り立つ。
またこれはChan, Cooperによる関係式
によって変形することができ、特に
とおいたとき
が成り立つことから以下の関係式が得られる。
とおくと
が成り立つ。
こうしてみるとこのような関数
のような関係式が構成できるのではないかと期待されるが、どうなのだろうか。
最後にどのような
実のところChan, Lang(1998)によって
表の
のことを表している(互いに素なホール因子