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大学数学基礎解説
文献あり

引き戻しと逆像

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概要

  • 本稿では、引き戻しの重要な基本命題と逆像を紹介する。
  • 引き戻しには「monicや同型射を引き戻す」という重要な性質があるが、ところで部分対象とはmonicの同型類として定義されるから、引き戻しは部分対象系の間に写像を誘導する。これが逆像である。
  • 集合論にも写像が誘導する逆像が出てくるが、これが圏論的な逆像と同一視できることを最後に確かめる。

引き戻し

二項積、イコライザ、引き戻し、終対象

引き戻し

$f\colon A \to C, g\colon B \to C$ の引き戻しとは、$A,B$ 上の2-table $(P;l,r)$ のうち次を満たすもののことをいう。

引き戻しの普遍性 引き戻しの普遍性

n-table、二項積、イコライザ、終対象の定義はこちらの記事を参照してもらいたい。

https://mathlog.info/articles/vzYaB1kj0PB0ChQkkLfU

二項積、イコライザと引き戻し、終対象の間に成り立つ関係を示していこう。

有限積、イコライザを持つ圏は、引き戻しと終対象をも持つ。

終対象とは0項関係の最大元の表示のことであったが、それはつまり0項積のことである。

引き戻しの存在について。射$f\colon A \to C,g\colon B\to C$が任意に与えられたとする。$(E;e)$$f\circ \pi_A,g\circ \pi_B$のイコライザとするとき、次の図式の $(E;\pi_A\circ e,\pi_B \circ e)$ は引き戻しである。
引き戻しを構成 引き戻しを構成

実際、$A,B$ 上の任意の2-span $(X;x,y)$$f \circ x = g \circ y$ を満たすものは、$f \circ \pi_A \circ \langle x,y \rangle = g \circ \pi_B \circ \langle x,y \rangle$ をも満たすので、イコライザの普遍性より次が成り立つ。
二項積とイコライザの併せ技で引き戻しの普遍性を錬成 二項積とイコライザの併せ技で引き戻しの普遍性を錬成

イコライザの普遍性が、引き戻しの普遍性を与える。

引き戻しと終対象を持つ圏は、有限積とイコライザを持つ。

引き戻しと終対象を持つ圏を任意に考える。

まず有限積について、0項積とは終対象のことであるから、仮定より0項積は存在している。また対象 $A$ の1項積とは、$A$ 上の1項関係(つまり $A$ の部分対象)の最大元の表示であるから、$(A;1_A)$ が標準的に与えられる。よって1項積は存在している。

$n \geq 2$ を満たす任意の自然数 $n$ に対し、$A_1,A_2,\cdots,A_n$$n$ 項積とは、2項積を $n-1$ 回繰り返した $(\cdots((A_1\times A_2)\times A_3) \times \cdots )\times A_n$ によって与えられるから、2項積の存在を示せば有限積の存在が言えたことになる。そして2項積は次の図のように構成できる。
二項積の構成 二項積の構成

実際、$A,B$ 上の任意のspan $(X;x,y)$ に対し、終対象の普遍性から $p_A \circ x = p_B \circ y$ が成り立つから、$(X;x,y)$ から $p_A,p_B$ の引き戻しに対してspanの射が一意に取れる。これは $p_A,p_B$ の引き戻しが積の普遍性を満たすことを示している。

次にイコライザについて。次の図式の $(P;l)$$f,g$ のイコライザである。
イコライザの構成 イコライザの構成

実際、$\pi_A \circ \langle 1_A,f \rangle \circ l = \pi_A \circ \langle 1_A,g \rangle\circ r$ より $l = r$ が成立し、$\pi_B \circ \langle 1_A,f \rangle\circ l = \pi_B \circ \langle 1_A,g \rangle \circ r$ より $f \circ l = g \circ r = g \circ l$、よって $f \circ l = g \circ l$。引き戻しの普遍性が、イコライザの普遍性を与える。

引き戻しの基本命題

引き戻しを活用する上で次の命題は非常に重宝する。

pasting lemma

次の図式に於いて、$(P_1;l,r)$$g,h$ の引き戻しとする。このとき、$(P_2;\lambda,\rho)$$f,l$ の引き戻しであることは、$(P_2;\lambda,r \circ \rho)$$g \circ f,h$ の引き戻しであることと同値。
pasting lemma pasting lemma

こちらの記事を参照してもらいたい。

https://mathlog.info/articles/LTGQvlzdOlJQTLskshmK

引き戻しはmonicを引き戻す。つまり、$(P;l,r)$$f,g$ の引き戻しとするとき、$f$ がmonicならば $r$ もmonic。

次が成り立つ。
画像の名前 画像の名前

$\theta,\theta'\colon X \to P$ を任意に取り、$r \circ \theta = r \circ \theta'$ と仮定。このとき $g \circ r \circ \theta = g \circ r \circ \theta'$ より、$f \circ l \circ \theta = f \circ l \circ \theta'$$f$ はmonicと仮定したので、$l\circ \theta = l \circ \theta'$。よって引き戻しの普遍性より、$\theta = \theta'$ であり、$r$ はmonicの定義を満たす。

monicかつ分裂epicならば同型射。

$f\colon A \to B,g\colon B \to A$$g \circ f = 1_A$ を満たすとする。さらに $g$ がmonicだとすると、$g \circ f \circ g = 1_A \circ g = g \circ 1_B$ より $f \circ g = 1_B$ が従う。よって $f,g$ は互いに逆射であり、$g$ は同型射。

引き戻しは同型射を引き戻す。つまり、$(P;l,r)$$f,g$ の引き戻しだとして、$f$ が同型射ならば $r$ は同型射。

$(P;l,r)$$f\colon A \to C,g\colon B \to C$ の引き戻しとする。次が成り立つ。
引き戻しは同型を引き戻す 引き戻しは同型を引き戻す

同型射はmonicであるから、pullbackOfmonicより、$r$ はmonic。また、$1_B = r \circ \theta$ より、$r$ は分裂epicであるから、monicandsplitepiより $r$ は同型射。

任意の圏にて、対象$B,A,C$で二項積$B\times A,B \times C$が定義されるとき、次の図式は引き戻し四角形である。
積の射影と引き戻し 積の射影と引き戻し

ただし $1_B \times f\colon B \times A \to B \times C$ とは、$B,C$ 上のspan $(B \times A;\pi_B,f \circ \pi_A)$ と普遍性で対応する射。
積の間の射 積の間の射

単純計算により普遍性が確かめられる。

なお、終対象 $1$ を持つ圏ならば次の図式が成り立つ。
右側に図式を隣接させる 右側に図式を隣接させる

$1$ に向かう射同士の引き戻しは二項積と一致したので、大外の長方形図式と右側の四角形図式が引き戻しであるから、pasting lemmaより左側の四角形図式も引き戻しである。

逆像

pullbackOfmonicで、引き戻しはmonicを引き戻すことを証明した。すると、引き戻しを持つ圏では、射 $f \colon A \to B$$B$ に向かうmonicを $A$ に向かうmonicへと写すことができる。これにより、$B$ の部分対象系から $A$ への部分対象系への写像が得られることを見ていこう。

逆像

monic $m \colon M \to B$ と射 $f \colon A \to B$ が引き戻しを持つとき、$B$ 上の1-table $(M;m)$$f$ による 逆像 とは、これらの引き戻し $(P;l,r)$ が与える $A$ 上の1-table $(P;r)$ のことをいう。
monicを引き戻す monicを引き戻す

$(M;m)$$f$による逆像を便宜上 $(f^{*}M;f^{*}m)$ と書くことにする。

pullbackOfisomより、1-tableの同型は逆像によって保存されることが言える。

逆像は1-tableの同型を保存し、したがって部分対象系上の写像を与える。

$m\colon M \to B,m'\colon M' \to B$ をそれぞれmonicとし、$(M;m)\simeq (M';m')$、則ちある $\theta \colon M \overset{\sim}{\to} M'$$m = m'\circ \theta$ を満たすものが存在すると仮定する。$\theta,m'$ の各々を引き戻して、pasting lemmaを用いる。このとき次の図式が成り立つ。
1-table間の同型をも引き戻す 1-table間の同型をも引き戻す

$\theta$ が同型であるから、pullbackOfisomより $l^*\theta$ は同型射。$f^{*}m = f^{*}m' \circ l^* \theta$ かつ $l^*\theta$ は同型射なので、$(f^{*}M;f^{*}m)\simeq (f^{*}M';f^{*}m')$ が成立。したがって逆像は1-tableの同型を保存し、部分対象系の間の写像を与える。

$$ f^{*} \colon \mathrm{Sub}(B) \to \mathrm{Sub}(A),\quad [(M;m)] \mapsto [(f^{*}M;f^{*}m)] $$

pullbackOfmonicより、引き戻しはmonicを引き戻すので、今の証明と全く同様にして次が示せる。

逆像は部分対象の包含関係を保存し、したがって部分対象系上の順序保存写像である。
1-table間の包含前順序を保存する 1-table間の包含前順序を保存する

部分対象系 $\mathrm{Sub}(A)$ とは、$A$ 上の1-table(つまり $A$ に向かうmonic)の同型類のクラスのことであった。引き戻しは、$A$ に向かうmonicの間に二項演算を与える。

intersection

引き戻しを持つ圏では、任意の対象 $A$ の部分対象系 $\mathrm{Sub}(A)$ 上に intersection という二項演算が定義できる。
部分対象のintersection 部分対象のintersection

引き戻しの普遍性が、$[(M\cap M';m \circ m^{*}m')]$$[(M;m)],[(M';m')]$ の最大下界足らしめる。

部分対象系 $\mathrm{Sub}(A)$ は、常に最大元 $[(A;1_A)]$ を持つ。引き戻しを持つ圏では、$(\mathrm{Sub}(A),[(A;1_A)],\cap)$ はmeet半束を成す。

次に示すように、逆像はintersectionを保存する。

引き戻しを持つ圏では、逆像はintersectionを保存する。つまり、$f \colon A \to B$$[(M;m)],[(N;n)],[(M \cap N;\mu)] \in \mathrm{Sub}(B)$ に対し、$f^{*}[(M \cap N;\mu)] = [(f^{*}M ; f^{*}m)] \cap [(f^{*}N; f^{*}n)]$ が成り立つ。

まず、$[(f^{*}(M \cap N) ; f^*\mu)] \subseteq [(f^{*}M;f^{*}m)] \cap [(f^{*}N;f^{*}n)]$ は直ちに従う。実際、$[(M \cap N; \mu)] \subseteq [(M;m)]$ かつ $[(M \cap N;\mu)] \subseteq [(N;n)]$ であるから、preservationorder及び最大下界性より成立。

逆向きの包含関係について。まず次の図式が成り立つ。
pasting lemmaが使えそうで使えない pasting lemmaが使えそうで使えない

この図式から引き戻しの普遍性を読み取って、ある $\theta \colon f^{*}M \cap f^{*} N \to M \cap N$ が存在して次が成り立つ。
!FORMULA[121][1647250783][0]から!FORMULA[122][-913211593][0]への射 $f^*M \cap f^*N$から$M\cap N$への射

したがって次が成立する。
!FORMULA[123][1904813194][0] $(f^* M \cap f^* N; f^*\mu \circ \eta) \sqsubseteq (f^*(M \cap N);f^* \mu)$

$f^{*}\mu \circ \eta$ がmonicなので、$\eta$ はmonic。したがって、$[(f^{*}M \cap f^{*}N ; f^{*}\mu \circ \eta)] \subseteq [(f^{*}(M\cap N); f^{*}\mu)]$ が成立。

集合論で出てくる逆像との関係

集合論でも、写像の逆像という概念があった。写像 $f \colon A \to B$ と任意の $M \subseteq B$ に対し、

$$ f^{-1}M \overset{\mathrm{def}}{=} \{ a \in A \mid f(a) \in M \} $$

という $A$ の部分集合を $f$ による $M$ の逆像と定義した。この逆像が集合と写像の圏に於ける逆像と一致することを示して終わりにしよう。

まず、集合と写像の圏は引き戻しを持つことを確かめる。

集合と写像の圏は有限積とイコライザを持ち、したがって引き戻しを持つ。

集合論の直積集合が圏論的な二項積を与えることは直ちに確かめられるし、終対象としては一元集合$\{\emptyset\}$が存在するから、有限積が存在している。また、写像 $f,g\colon A \to B$ に対し集合 $E \overset{\mathrm{def}}{=} \{ a \in A \mid f(a) = g(a) \}$ を与えると、包含写像 $e\colon E \hookrightarrow A$ とセットで $A$ 上の1-table $(E;e)$$f,g$ のイコライザであることを確かめるのは容易い。

さて、写像 $f \colon A \to B$$M \subseteq B$ が任意に与えられたとする。集合論的な逆像 $f^{-1}M$ が、圏論的な逆像の表示(のapex)を与えることを示そう。

射のグラフの知識が必要ならば以下の記事を参照してもらいたい。

https://mathlog.info/articles/0b02EV0SJMQal8HLLaTh

写像 $f$ のグラフを $G_f = \{ (a,b) \in A \times B \mid b = f(a) \}$ として、射のグラフ $(G_f;f_1,f_2):f = f_2 \circ f_1^{-1}$ を構成する($f_1,f_2$ はそれぞれ第一成分、第二成分に関する射影を $G_f$ に制限したもの)。このとき、

$$ \begin{aligned} f^{-1}M &= \{ a \in A \mid f(a) \in M \} \\ &\simeq \{ (a,f(a)) \in A \times B \mid f(a) \in M \} \\ &= (A \times M) \cap G_f \end{aligned} $$

が成り立つ。そして、包含写像 $i \colon M \hookrightarrow B$ に対して次が成り立つ。
!FORMULA[150][37794][0]を分解して引き戻しを取る $f$を分解して引き戻しを取る

一番下の四角形はcomonadpullbackより引き戻しであり、中段の四角形はintersection。一番上の四角形が引き戻しであることを確かめるのは容易い。

pasting lemmaを繰り返し適用して、次が成立。
集合論的な逆像と圏論的な逆像の同型 集合論的な逆像と圏論的な逆像の同型

$\theta$ はspanの同型を与えるから、$(f^{-1}M;\pi_M \circ l \circ \theta, f_1\circ r \circ \theta)$$i,f$ の引き戻しである。

$\pi_M \circ l \circ \theta$ は、$a \in f^{-1}M$ に対し、$a \overset{\theta}{\mapsto} (a,f(a)) \overset{l}{\mapsto} (a,f(a)) \overset{\pi_M}{\mapsto} f(a)$ であるから、$f\colon A \to B$ の定義域を $f^{-1}(M)$ に制限し、終域を $M$ に指定した写像に等しい。

また $f_1 \circ r \circ \theta$ は、$a \overset{\theta}{\mapsto} (a,f(a)) \overset{r}{\mapsto} (a,f(a)) \overset{f_1}{\mapsto} a$ であるから、包含写像 $f^{-1}M \hookrightarrow A$ に等しい。

参考文献

[1]
Freyd, Peter J. and Scedrov, Andre, Categories,Allegories, North-Holand Mathematical Library, North-Holand, 1990
投稿日:23時間前
更新日:19時間前
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Mt.Fuji
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