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大学数学基礎解説
文献あり

リー群・リー代数の初歩 2 四元数とSU(2)

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前回はリー群とリー代数について、複素数から構成される$\operatorname{U}(1)$を例に説明しました7shi-lie1。今回は四元数から$\operatorname{SU}(2)$を構成し、3次元回転の群$\operatorname{SO}(3)$との関係を見ていきます。

前提知識

前回の記事の内容を前提とします。要点をまとめます。

  • リー群は滑らかな構造を持つ群であり、単位元における接空間としてリー代数が得られる
  • リー代数から指数写像$\exp$を通してリー群の元が得られる
  • リー代数は積については閉じていないが、括弧積$[x,y]=xy-yx$について閉じている
  • 単位複素数全体はリー群$\operatorname{U}(1)$となり、そのリー代数は$\mathfrak{u}(1)=\{i\theta \mid \theta \in \mathbb{R}\}$
  • $\mathfrak{u}(1)$の括弧積は常に$0$であり、これは$\operatorname{U}(1)$が可換であることを反映する

また、四元数の基本的な知識を前提としますが、必要となる性質を以下にまとめます。

四元数

四元数は複素数を拡張した数体系で、1つの実部と3つの虚部を持ちます。四元数全体の集合は$\mathbb{H}$と表記されます。

$$ q = a + bi + cj + dk \quad (a,b,c,d \in \mathbb{R}) $$

$\mathbb{H}$

$\mathbb{H}$は四元数の発見者ハミルトン (Hamilton) に由来します。頭文字で$\mathbb{Q}$とすると有理数と被るためです。

3つの虚数単位$i,j,k$は以下の規則に従います。

$$ i^2 = j^2 = k^2 = -1 $$

$$ ij = -ji = k, \quad jk = -kj = i, \quad ki = -ik = j $$

$ij = -ji$を見れば分かるように、四元数の積は非可換です。ただし結合法則は成り立ちます。

共役と絶対値は複素数と同様に定義されます。

$$ q^* = a - bi - cj - dk, \quad |q|^2 = qq^* = a^2 + b^2 + c^2 + d^2 $$

絶対値について重要なのは、複素数と同様に乗法性が成り立つことです。

$$ |pq| = |p||q| $$

共役と積の順序

積の共役では因子の順序が反転します:$(pq)^* = q^*p^*$。複素数では積が可換なため順序を気にする必要がありませんでしたが、四元数では順序が重要になります。

単位四元数のリー群

$\operatorname{Sp}(1)$

前回、単位複素数全体がリー群$\operatorname{U}(1)$となることを見ました。同じ発想で、絶対値が$1$の四元数、すなわち単位四元数全体の集合を考えます。

$$ \operatorname{Sp}(1) = \{q \in \mathbb{H} \mid |q| = 1\} $$

「Sp」はシンプレクティック(symplectic)の頭文字です。直交群が実数$\mathbb{R}$、ユニタリ群が複素数$\mathbb{C}$に対応したように、シンプレクティック群は四元数$\mathbb{H}$に対応する系列です。この3つの系列は、リー群の分類において基本的な役割を果たします。$\operatorname{Sp}(1)$の行列表現は四元数を成分とする1×1行列ですが、1成分だけなので1個の四元数と同一視できます。

symplecticは、ラテン語由来の語complex(com-plexus、「共に編み合わされた」)を、同じ意味のギリシア語由来の要素(sym-plecticos)で置き換えた造語です(ワイルによる)。複素数(complex number)との混同を避けるための言い換えでした。語感からsimple「単純」を連想しそうになりますが、由来はその正反対のcomplexです。

図形として見ると、$|q| = 1$$a^2+b^2+c^2+d^2=1$を意味するため、$\operatorname{Sp}(1)$は4次元空間内の3次元球面$S^3$(超球面)です。$\operatorname{U}(1)$が複素平面上の単位円$S^1$だったことの類似です。球面には尖った点や不連続点がなく、どの点でも接空間が取れるため、$\operatorname{U}(1)$と同様に滑らかな構造を持ちます。

群構造

$\operatorname{Sp}(1)$が群になることは、前回の$\operatorname{U}(1)$と同じ議論で確認できます。

  • $p,q \in \operatorname{Sp}(1)$のとき、絶対値の乗法性より$|pq| = |p||q| = 1$となるため、積は閉じている
  • 単位元$1$は絶対値$1$なので含まれる
  • $|q| = 1$のとき$qq^* = |q|^2 = 1$より$q^{-1} = q^*$であり、$|q^*| = |q| = 1$なので逆元も含まれる

ただし$\operatorname{U}(1)$と決定的に違う点があります。四元数の積は非可換なので、$\operatorname{Sp}(1)$非可換な群です。この違いがリー代数にどう現れるかが、今回の中心的なテーマです。

オイラーの公式の四元数版

実部が$0$の四元数$v = xi + yj + zk$純虚四元数と呼びます。純虚四元数のうち絶対値が$1$単位純虚四元数$u$とすれば、$u^* = -u$$uu^* = |u|^2 = 1$より、次が成り立ちます。

$$ u^2 = -uu^* = -|u|^2 = -1 $$

つまり$u$は2乗すると$-1$になり、虚数単位$i$とまったく同じ役割を果たします。したがってオイラーの公式がそのまま成り立ちます。

$$ \exp(u\theta) = \cos\theta + u\sin\theta $$

任意の単位四元数$q$はこの形で表せます。$q$を実部$a$と虚部$v$に分けて$q = a + v$とすれば、$|q|^2 = a^2 + |v|^2 = 1$より$a = \cos\theta$$|v| = \sin\theta$と置けるため、$u = v/|v|$として$q = \cos\theta + u\sin\theta$となります。

単位円の束

方向$u$を1つ固定すれば、$\{\exp(u\theta) \mid \theta \in \mathbb{R}\}$$1$$u$が張る平面上の単位円、つまり$\operatorname{U}(1)$のコピーになります。$S^3$は、あらゆる方向$u$についてのこのような単位円が、単位元$1$を共有して束ねられたものと見ることができます。

なお、この描像はHopf ファイブレーション($S^1 \hookrightarrow S^3 \to S^2$)とは異なります。Hopf ファイブレーションのファイバーは互いに素な大円の族ですが、ここでの円はすべて単位元$1$を共有しており、ファイバー束の条件(各ファイバーが互いに交わらない)を満たしていません。

指数法則の崩れ

前回、$\operatorname{U}(1)$では指数法則が成り立つことが群構造の要でした。

$$ \exp(i\theta_1)\exp(i\theta_2) = \exp(i(\theta_1 + \theta_2)) $$

$\operatorname{Sp}(1)$でも、同じ方向$u$の元同士であれば指数法則が成り立ちます。しかし方向が異なると、一般には成り立ちません。

$$ \exp(u\theta_1)\exp(v\theta_2) \ne \exp(u\theta_1 + v\theta_2) $$

指数関数と積の非可換性

$\exp(i\pi/2) = i$$\exp(j\pi/2) = j$なので、左辺に相当する積は$ij = k = \exp(k\pi/2)$です。一方、右辺に相当する$\exp((i+j)\pi/2)$を計算するには、オイラーの公式$\exp(u\theta) = \cos\theta + u\sin\theta$を適用できるよう、引数を「単位純虚四元数 × 実数」の形に分解する必要があります。$i+j$の絶対値は$\sqrt{2}$なので、
$$ (i+j)\frac{\pi}{2} = \underbrace{\frac{i+j}{\sqrt{2}}}_{u}\cdot\underbrace{\frac{\sqrt{2}\,\pi}{2}}_{\theta} $$
となります。$u = (i+j)/\sqrt{2}$は単位純虚四元数なので公式を適用すれば
$$ \exp\!\left((i+j)\frac{\pi}{2}\right) = \cos\frac{\sqrt{2}\,\pi}{2} + \frac{i+j}{\sqrt{2}}\sin\frac{\sqrt{2}\,\pi}{2} $$
となり、$k$とは一致しません。このずれは積の非可換性に由来します。非可換性の情報は、次に見るリー代数の括弧積に集約されます。

リー代数 $\mathfrak{sp}(1)$

$\operatorname{U}(1)$のときと同様に、$\exp$の引数を取り出したものがリー代数です。単位四元数は$\exp(u\theta)$の形で表せたので、引数$u\theta$の全体、すなわち純虚四元数全体がリー代数$\mathfrak{sp}(1)$となります。

$$ \mathfrak{sp}(1) = \{xi + yj + zk \mid x,y,z \in \mathbb{R}\} $$

$\mathfrak{u}(1)$が1次元だったのに対して、$\mathfrak{sp}(1)$は3次元です。

基底

前回と同様に、単位元における接空間の方向を微分で調べます。

$$ \left.\frac{d}{d\theta}\exp(u\theta)\right|_{\theta=0} = u $$

$u$は接線方向(基底)を与え、リー代数の元は$u\theta$(基底の実数倍)となります。$\mathfrak{u}(1)$では基底が$i$の1種類だったのに対して、$u$は任意の単位純虚四元数を取れるため、独立な基底として$i, j, k$の3種類が存在し、単位元における接空間は純虚四元数の3次元空間全体となります。

前回、$\mathfrak{u}(1)$の元が$i\theta$のように必ず基底$i$を伴うことを強調し、「より高次元のリー代数では複数の基底が存在するため省略できない」と述べました。$\mathfrak{sp}(1)$はまさにその状況で、$xi + yj + zk$のように3つの基底によって表現されます。

接線から接空間へ

$\operatorname{U}(1)$は単位円だったため、接空間は1次元の「接線」でした。$\operatorname{Sp}(1)$$S^3$なので、各点での接空間は3次元になります。図形的な想像は難しくなりますが、「球面上の1点に接する平面」の次元が1つ上がったものと考えれば十分です。

括弧積

まず、純虚四元数が積について閉じていないことを確認します。2つの純虚四元数$p = p_1 i + p_2 j + p_3 k$$q = q_1 i + q_2 j + q_3 k$の積を展開して整理すれば、次のようになります。

$$ pq = -(p_1 q_1 + p_2 q_2 + p_3 q_3) + (p_2 q_3 - p_3 q_2)i + (p_3 q_1 - p_1 q_3)j + (p_1 q_2 - p_2 q_1)k $$

純虚四元数を3次元ベクトルと同一視すれば、実部にはベクトルの内積(の符号反転)、虚部には外積が現れています。

$$ pq = -\,p \cdot q + p \times q $$

歴史的には、内積と外積は四元数の積のこの分解から取り出されて生まれました。ギブスらがベクトル解析を整備したことで、現在の形が定着しました。

実部$-p \cdot q$が現れるため、積は純虚四元数の集合から外れてしまいます。これは$\mathfrak{u}(1)$で2つの元の積が実数になってしまったことの類似です。

そこで括弧積を計算します。内積は$p$$q$を交換しても変わらない(対称)ため打ち消され、外積は交換すると符号が反転する(反交換)ため2倍になって残ります。

$$ [p, q] = pq - qp = 2\,(p \times q) $$

外積の結果は3次元ベクトル、つまり純虚四元数なので、括弧積は$\mathfrak{sp}(1)$の中で閉じています。

基底同士の括弧積を計算してみます。

$$ [i, j] = ij - ji = k - (-k) = 2k $$

同様にして、巡回的な関係が得られます。

$$ [i, j] = 2k, \quad [j, k] = 2i, \quad [k, i] = 2j $$

前回の$\mathfrak{u}(1)$では括弧積はすべて$0$でした。$0$でない括弧積が現れるのはこれが初めてです。括弧積は積の交換によるずれ、つまり非可換性を測る量であり、$\operatorname{Sp}(1)$が非可換であることがリー代数のレベルではこの形で現れます。

構造定数

基底同士の括弧積を基底の線形結合で表したときの係数(ここでは$[i,j]=2k$$2$など)を構造定数と呼びます。リー代数の性質は構造定数によって完全に特徴付けられます。

行列表現と $\operatorname{SU}(2)$

前回、複素数を2×2実行列で表現することで$\operatorname{U}(1) \cong \operatorname{SO}(2)$を導きました。同じことを四元数で行います。複素数が実行列で表現できたように、四元数は2×2複素行列で表現できます。

四元数の行列表現

四元数$q = a + bi + cj + dk$を、複素数の組$z = a + bi$$w = c + di$に分割します。$cj + dk = (c + di)j$より、虚数単位$i$を四元数に持ち上げれば$q = z + wj$と書けます。ここで$q$の複素行列表現$Q$を定義します。

四元数の複素行列表現

$$ q = z + wj \quad \Leftrightarrow \quad Q = \begin{pmatrix} z & w \\ -w^* & z^* \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} a+bi & c+di \\ -c+di & a-bi \end{pmatrix} $$

行列表現には任意性があるため、文献によって異なる表現が使われます7shi-qmat。ここでは成分の見通しの良さを優先して、1行目に$(z\ w)$が現れる形を採用しました。

この表現から基底を取り出すと以下のようになります。

四元数の基底の行列表現

$$ 1 \Leftrightarrow \begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 1 \end{pmatrix}, \quad i \Leftrightarrow \begin{pmatrix} i & 0 \\ 0 & -i \end{pmatrix}, \quad j \Leftrightarrow \begin{pmatrix} 0 & 1 \\ -1 & 0 \end{pmatrix}, \quad k \Leftrightarrow \begin{pmatrix} 0 & i \\ i & 0 \end{pmatrix} $$

この表現は四元数の積を再現します。いくつか例を示します。

$$ \begin{aligned} ij&=k &&\Leftrightarrow& \begin{pmatrix} i & 0 \\ 0 & -i \end{pmatrix} \begin{pmatrix} 0 & 1 \\ -1 & 0 \end{pmatrix} &= \begin{pmatrix} 0 & i \\ i & 0 \end{pmatrix} \\ ji&=-k &&\Leftrightarrow& \begin{pmatrix} 0 & 1 \\ -1 & 0 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} i & 0 \\ 0 & -i \end{pmatrix} &= \begin{pmatrix} 0 & -i \\ -i & 0 \end{pmatrix} \end{aligned} $$

四元数の共役は、行列での共役転置(エルミート共役)に対応します。

$$ q^* = z^* - wj \quad \Leftrightarrow \quad \begin{pmatrix} z^* & -w \\ w^* & z \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} z^* & w^* \\ -w & z \end{pmatrix}^\mathsf{T} = \begin{pmatrix} z & w \\ -w^* & z^* \end{pmatrix}^\dagger = Q^\dagger $$

また、行列式は絶対値の2乗に対応します。前回の複素数と2×2実行列の関係とまったく同じ形です。

$$ \det\begin{pmatrix} z & w \\ -w^* & z^* \end{pmatrix} = zz^* + ww^* = |q|^2 $$

$\operatorname{SU}(2)$

単位四元数$|q| = 1$は行列式$1$に対応します。$q$に対応する行列を$Q$として、エルミート共役$Q^\dagger$との積を計算すれば、
$$ QQ^\dagger = (qq^*)I = |q|^2 I = I $$
となります。

行列式と$QQ^\dagger$がともに絶対値の2乗に行き着く背景は後述します。

$QQ^\dagger = I$より、エルミート共役$Q^\dagger$は逆行列$Q^{-1}$と一致します。また、この条件を満たす行列をユニタリ行列と呼びます。行列式が$1$の2×2ユニタリ行列によって構成される群が特殊ユニタリ群$\operatorname{SU}(2)$です。

$\operatorname{SU}(2)$のSはSpecial「特殊」、UはUnitary「単位的」の頭文字です。「特殊」は行列式が1であることを意味します。単位的とは、ユニタリ行列による変換(ユニタリ変換)が複素ベクトル$\mathbb{C}^2$のノルム(長さ)を保つことを意味します。

ここで、$\operatorname{SU}(2)$の元はすべて$Q$の形になることを確認します。$\operatorname{SU}(2)$の任意の元を
$$ U = \begin{pmatrix} z & w \\ x & y \end{pmatrix} $$
とおけば、$\det U = 1$より逆行列は
$$ U^{-1} = \begin{pmatrix} y & -w \\ -x & z \end{pmatrix} $$
となり、ユニタリ条件
$$ U^{-1} = U^\dagger = \begin{pmatrix} z^* & x^* \\ w^* & y^* \end{pmatrix} $$
と成分を比較すれば$x = -w^*,y = z^*$が得られます。

$$ U = \begin{pmatrix} z & w \\ -w^* & z^* \end{pmatrix} \quad (|z|^2+|w|^2=1) $$

$\operatorname{SU}(2)$の任意の元はこの形の行列に限られるため、
$$ \operatorname{Sp}(1) \cong \operatorname{SU}(2) $$
の同型が得られます。これは前回の$\operatorname{U}(1) \cong \operatorname{SO}(2)$に対応する結果です。単位複素数の群が2次元の回転を表したように、単位四元数の群は4次元の回転を表します。

ユニタリ変換と回転

$\operatorname{SU}(n)$のユニタリ変換は$\mathbb{C}^n$のノルムを保つため、単位球面$S^{2n-1}\subset\mathbb{C}^n$上の回転として作用します。$\operatorname{SU}(2)$$S^3$$\operatorname{SU}(3)$$S^5$が作用の舞台です。

$\operatorname{SU}(2)$の元全体は$S^3$と同型で、「作用する空間」と「元全体が描く形」が一致していますが、これは$\operatorname{SU}(2)$に固有の特殊性です。$\operatorname{SU}(3)$以上では群が単位球面上にさらなる構造(ファイバー束)を持ちます。

なお、$\operatorname{SU}(2)$による回転には、行列式が$1$であることに由来する制限があります。4次元空間を2つの直交する平面に分けて見ると、$\operatorname{SU}(2)$ではこの2つの平面は必ず同じ角度だけ回る等傾回転 (isoclinic rotation) に制限され、2つの平面が別々の角度で回る一般の4次元回転$\operatorname{SO}(4)$すべてを表せるわけではありません。

$\mathfrak{su}(2)$$\mathfrak{sp}(1)$

2×2複素行列$A$について、$\exp A$$\operatorname{SU}(2)$に属するための条件を調べれば$\mathfrak{su}(2)$が求まります。

$\operatorname{SU}(2)$の条件

$$ U U^\dagger = I, \quad \det U = 1 $$

$U = \exp(A)$に課します。

まずユニタリ条件です。指数写像では

$$ \begin{aligned} \exp(A)^\dagger &= \exp(A^\dagger) \\ \exp(A)^{-1} &= \exp(-A) \end{aligned} $$

が成り立つので、$UU^\dagger = I$$\exp(A^\dagger) = \exp(-A)$と同値です。これより

$$ A^\dagger = -A $$

が得られます。この性質を反エルミートと呼びます(エルミート共役により符号が転)。これは$\mathfrak{u}(1)$の元が$z^* = -z$の性質を持つ純虚数だったことの行列版です。

次に行列式の条件です。指数写像には

$$ \det \exp(A) = \exp(\operatorname{tr} A) $$

という関係があるので、$\det \exp(A) = 1$から

$$ \operatorname{tr} A = 0 $$

が得られます。「行列式$1$」のリー群条件が「トレース$0$」のリー代数条件に対応します。

まとめると、$\mathfrak{su}(2)$トレースが$0$の反エルミート行列全体です。この条件を満たす行列の一般形は、反エルミートより対角成分は純虚数で、トレース$0$より対角成分の和は$0$となります。非対角成分は、互いに符号を反転した共役になります。実数のパラメータ$x, y, z$を使えば、次の形にまとまります。

$$ A = \begin{pmatrix} ix & y + iz \\ -y + iz & -ix \end{pmatrix} $$

パラメータは3つなので$\mathfrak{su}(2)$は実3次元となり、$\mathfrak{sp}(1)$と次元が一致します。この行列をパラメータ$x, y, z$ごとに分解してみます。

$$ \begin{pmatrix} ix & y + iz \\ -y + iz & -ix \end{pmatrix} = x \begin{pmatrix} i & 0 \\ 0 & -i \end{pmatrix} + y \begin{pmatrix} 0 & 1 \\ -1 & 0 \end{pmatrix} + z \begin{pmatrix} 0 & i \\ i & 0 \end{pmatrix} $$

ここに現れた3つの行列は、四元数の基底$i, j, k$の行列表現そのものです。

$$ i \Leftrightarrow \begin{pmatrix} i & 0 \\ 0 & -i \end{pmatrix}, \quad j \Leftrightarrow \begin{pmatrix} 0 & 1 \\ -1 & 0 \end{pmatrix}, \quad k \Leftrightarrow \begin{pmatrix} 0 & i \\ i & 0 \end{pmatrix} $$

したがって$\mathfrak{su}(2)$の任意の元は$xi + yj + zk$と書けます。これは前節で定義した純虚四元数全体の集合

$$ \mathfrak{sp}(1) = \{xi + yj + zk \mid x,y,z \in \mathbb{R}\} $$

に他なりません。よって、リー群の同型$\operatorname{Sp}(1) \cong \operatorname{SU}(2)$に対応して、リー代数も$\mathfrak{sp}(1) \cong \mathfrak{su}(2)$となることが、行列の成分から直接確認できました。

リー群とリー代数の同居

$\operatorname{SU}(2)$では、リー群の元が「単位行列とリー代数の基底」の実線形結合で書けており、リー群とリー代数が同じ基底の張る空間に同居しています。実はこれは当たり前のことではなく、$\operatorname{SU}(2)$ならではの特殊な事情です。続編では、$\operatorname{SU}(3)$でこの同居が崩れる様子を見る予定です。

ユニタリ条件と行列式1の四元数的な意味

$\operatorname{SU}(2)$は「ユニタリ条件$UU^\dagger=I$」と「行列式$1$」という2つの条件で定義されていました。$\operatorname{Sp}(1) \cong \operatorname{SU}(2)$の同型を使えば、この2つの条件が四元数の言葉でどう表れるかが分かります。

まずユニタリ条件です。$Q^\dagger$は共役$q^*$に対応するので、

$$ QQ^\dagger = I \quad \Leftrightarrow \quad qq^* = 1 \quad \Leftrightarrow \quad |q|^2=1 $$

となり、ユニタリ条件はそのまま「絶対値$1$」、つまり単位四元数の条件に一致します。

次に行列式$1$の条件です。先に見た$\det Q = |q|^2$を使えば、

$$ \det Q = 1 \quad \Leftrightarrow \quad |q|^2 = 1 $$

となり、こちらも同じく「絶対値$1$」に帰着します。つまり、$\operatorname{SU}(2)$を定義する2つの条件(ユニタリ性と行列式$1$)は、四元数の言葉ではどちらも同一の条件$|q|=1$に還元されます。

一般の$\operatorname{U}(2)$の元は、行列式が単位円上の任意の値$e^{i\theta}$を取り得ます。ところが四元数の行列表現$Q$は、$z,w$がどんな複素数であっても$\det Q = zz^*+ww^*=|q|^2$という非負の実数にしか値を取り得ません。これは単位四元数に限らず、任意の四元数で成り立つ一般的な恒等式です。$\operatorname{U}(2)$$\operatorname{SU}(2)$の違いに相当する「行列式の位相の自由度」は、四元数の行列表現には存在しません。

この構造は、前回見た複素数の行列表現とまったく同じパターンです。複素数$z=a+ib$の実行列表現でも、

$$ |z|^2=\det\begin{pmatrix}a&-b\\b&a\end{pmatrix} $$

が成り立ち、絶対値$1$(直交条件$AA^\mathsf{T}=I$に相当)と行列式$1$は、どちらも同じ$|z|=1$に帰着します。$\operatorname{O}(2)$のうち行列式$1$$\operatorname{SO}(2)$の元だけが複素数の行列表現として現れ、行列式$-1$の元(鏡映)は現れなかったのと同様に、四元数の場合も$\operatorname{U}(2)$のうち行列式$1$$\operatorname{SU}(2)$の元だけが行列表現として現れます。

「絶対値」という四元数の演算が「ユニタリ条件」と「行列式$1$」の両方に同時に対応するという事情は、複素数の段階からすでに存在しており、四元数はその構造を複素行列という舞台へそのまま引き継いでいます。

ノルムの乗法性という共通の起源

この現象の背景には、絶対値の乗法性$|pq|=|p||q|$と行列式の乗法性$\det(AB)=\det(A)\det(B)$が、同じ写像(ノルムの2乗=行列式)を通じて一致しているという事実があります。$\mathbb{R}, \mathbb{C}, \mathbb{H}$がいずれもこの性質(合成代数、composition algebra)を持つため、実数から複素数、複素数から四元数へと数体系を拡張しても、「ノルム$1$の元=直交(ユニタリ)かつ行列式$1$の行列」という対応がそのまま保たれます。

$\operatorname{SO}(2)$の複素化としての$\operatorname{SU}(2)$

$\operatorname{SU}(2)$の元
$$ \begin{pmatrix} z & w \\ -w^* & z^* \end{pmatrix} \quad (|z|^2+|w|^2=1) $$
において、成分を$z=a,\ w=-b$$a,b\in\mathbb{R}$)と実数に制限してみます。$a,b$は実数なので共役の影響を受けず、$z^*=a,\ -w^*=b$となって、行列は実行列
$$ \begin{pmatrix} a & -b \\ b & a \end{pmatrix} \quad (a^2+b^2=1) $$
になります。これは前回見た複素数$a+bi$の行列表現、すなわち$\operatorname{SO}(2)$の元にほかなりません。逆に言えば$\operatorname{SU}(2)$は、$\operatorname{SO}(2)$の成分$a,b$をそれぞれ複素数$z,w$に置き換えて複素化したものと見ることができます。

$\operatorname{SO}(2)$の行列$\begin{pmatrix}a&-b\\b&a\end{pmatrix}$がベクトル$\begin{pmatrix}x\\y\end{pmatrix}$に作用するとき、回転の実体は$a,b$$x,y$の2成分を混ぜ合わせることに尽きます。$a,b$は単なる実数であり、それ自体が何かを回転させるわけではありません。これを成分間の回転と呼ぶことにします。

$\operatorname{SU}(2)$の行列$\begin{pmatrix}z&w\\-w^*&z^*\end{pmatrix}$がベクトル$\begin{pmatrix}r\\s\end{pmatrix}$に作用するときも、$z,w$$r,s$の2成分を混ぜ合わせるという構造自体は同じです。しかし$a,b$と違って$z,w$は複素数、すなわちそれ自体が前回見た「回転を表す対象」です。したがって$\operatorname{SU}(2)$には、成分間の回転に加えて、$z$自身・$w$自身が複素数として持つ回転、すなわち成分内の回転が新たに加わります。

行列表現の基底のうち、$i$$j$がこの2種類の回転をそれぞれ代表します。

$$ \underbrace{i \Leftrightarrow \begin{pmatrix} i & 0 \\ 0 & -i \end{pmatrix}}_{\text{成分内の回転}}, \quad \underbrace{j \Leftrightarrow \begin{pmatrix} 0 & 1 \\ -1 & 0 \end{pmatrix}}_{\text{成分間の回転}} $$

$i$は対角行列なのでベクトルの成分を混ぜ合わせず、$\begin{pmatrix}r\\s\end{pmatrix} \to \begin{pmatrix}e^{i\theta}\,r\\e^{-i\theta}\,s\end{pmatrix}$と、それぞれの成分内だけを回転させます。$r,s$はどちらも角度$\theta$(符号は逆)だけ回転しており、これは4次元空間における等傾回転になっています。

一方、$j$は非対角成分を持ち、ベクトルの成分を線形結合し直します。これが成分間の回転で、$\operatorname{SO}(2)$の構造をそのまま複素数に拡張したものです。

残る基底$k$は、$i,j$のどちらか一方には分類できません。四元数の規則$ij=k$が示す通り、$k$は成分内の回転$i$と成分間の回転$j$の積として現れる第3の生成子であり、両者が組み合わさって初めて生じます。

四元数の平面としての$z,w$

$q=z+wj$という分解を思い出すと、$z=a+bi$は基底$1,i$が張る平面、$w=c+di$は基底$j,k$が張る平面の座標でした。つまり$z,w$の内部構造は、もとの$\operatorname{SO}(2)$の回転をそのまま引き継いだものです。$\operatorname{SU}(2)$は、この「$\operatorname{SO}(2)$の2つのコピー」を成分間の回転で結び付けたものと見ることができます。

$\operatorname{SO}(3)$ との関係

$\operatorname{SU}(2)$は複素行列の群でしたが、3次元空間の回転群$\operatorname{SO}(3)$と密接な関係があります。四元数の方が表記がコンパクトなため、$\operatorname{SU}(2)$の計算は対応する四元数で行います。

等傾回転の相殺

回転を作る変換を、まず左右片側だけの掛け算から考えます。

$$ L_q(x) = qx, \quad R_{q^{-1}}(x) = xq^{-1} $$

これらは等傾回転ですが、回転方向に違いがあります。

$q=\exp(i\theta)$として、左作用$L_q(x)$は2つの平面$(1,i)$$(j,k)$も同じ向きに角度$\theta$だけ回転します。

$$ L_q(x) = qx = qz + qw\,j = \exp(i\theta)z + \exp(i\theta)w\,j $$

右作用$R_{q^{-1}}(x)=xq^{-1}$も等傾回転ですが、$(1,i)$平面では逆向きに角度$-\theta$で回転します。

$$ R_{q^{-1}}(x) = xq^{-1} = zq^{-1} + wjq^{-1} = \exp(-i\theta)z + \exp(i\theta)w\,j $$

この2つを合成すると$(L_q \circ R_{q^{-1}})(x) = qxq^{-1}$となり、平面ごとに角度が足し合わされます。

  • $(1,i)$平面: $\theta-\theta=0$
  • $(j,k)$平面: $\theta+\theta=2\theta$

このように左右で挟むことで、行列式$1$に由来する「両平面が同じ角度だけ回る」という制限は相殺され、実軸と$i$軸を固定した角度$2\theta$の回転が$(j,k)$平面に現れます。

$\operatorname{SO}(2)$の複素化としての$\operatorname{SU}(2)$」ではベクトルへの作用を想定していたことに注意が必要です。

$\exp(i\theta)$に対応するユニタリ行列がベクトル$(z,w)$に作用すれば、
$$ \begin{pmatrix} e^{i\theta} & 0 \\ 0 & e^{-i\theta} \end{pmatrix} \begin{pmatrix} z \\ w \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} ze^{i\theta} \\ we^{-i\theta} \end{pmatrix} $$
となり、互いに逆向きに回転します。

一方、同じ$\exp(i\theta)$を四元数$z+w\,j$に左から掛けると、
$$ \begin{aligned} \exp(i\theta)(z+w\,j) &= \exp(i\theta)z + \exp(i\theta)w\,j \\ \Leftrightarrow \quad \begin{pmatrix} e^{i\theta} & 0 \\ 0 & e^{-i\theta} \end{pmatrix} \begin{pmatrix} z & w \\ -w^* & z^* \end{pmatrix} &= \begin{pmatrix} e^{i\theta}z & e^{i\theta}w \\ -e^{-i\theta}w^* & e^{-i\theta}z^* \end{pmatrix} \end{aligned} $$
となり、互いに同じ向きに回転します。

このように、作用対象がベクトルか四元数(またはその行列表現)かによって、等傾回転の片側の向きが反転します。

共役作用による回転

上で見た$(L_q \circ R_{q^{-1}})(x) = qxq^{-1}$という形の変換を、一般の単位四元数$q$について考えます。四元数$x$を挟み込むこの変換を共役作用と呼び、ここでは$\rho_q$と表記します。

$$ \rho_q(x) = qxq^{-1} $$

Rotation「回転」の頭文字$R$は既に右作用を表すために使っているため、ギリシア文字の$\rho$を選択しました。

$x$として純虚四元数$v$を取ると、$\rho_q(v)$も純虚四元数になります。これは共役の性質$(pq)^* = q^* p^*$を使って確認できます。$q^{-1} = q^*$に注意すれば、

$$ (qvq^*)^* = qv^*q^* = q(-v)q^* = -qvq^* $$

となり、共役を取ると符号が反転すること、すなわち実部が$0$(純虚)であることが分かります。さらに絶対値の乗法性より

$$ |\rho_q(v)| = |q||v||q^{-1}| = |v| $$

となるため、長さも保たれます。よって$\rho_q$は、純虚四元数の3次元空間$(x,y,z)$の長さを保つ変換、すなわち3次元の回転を与えます。

前節の結果は、$L_q \circ R_{q^{-1}}$は位相$\theta$に対して$(j,k)$平面で$2\theta$回転するというものでした。そこで$(j,k)$平面の回転角を$\theta$と置きたい場合は、位相を半分の$\theta/2$に取り直せばよいことになります。実際に$q=\exp(i\theta/2)$として確認します。まず$i$$q$と可換なので不変です。

$$ \rho_q(i) = qiq^{-1} = i $$

次に$j$の行き先を計算します。$z = a + bi$に対して$ji = -ij$より$jz = z^* j$となることを使えば、

$$ \begin{aligned} \rho_q(j) &= \exp\left(i\frac{\theta}{2}\right)\,j\exp\left(-i\frac{\theta}{2}\right) \\ &= \exp\left(i\frac{\theta}{2}\right)\exp\left(i\frac{\theta}{2}\right)\,j \\ &= \exp(i\theta)\,j \\ &= j\cos\theta + k\sin\theta \end{aligned} $$

となり、同様に$\rho_q(k) = -j\sin\theta + k\cos\theta$となります。これは$i$軸を固定して$jk$平面を角度$\theta$だけ回す、$i$軸周りの角度$\theta$の回転です。

二重被覆

半角の関係からの重要な帰結として、$q$$-q$は同じ回転を与えることが導かれます。

$$ \rho_{-q}(x) = (-q)x(-q)^{-1} = qxq^{-1} = \rho_q(x) $$

実際、$q = \exp(i\theta/2)$で回転角$\theta$$0$から$2\pi$まで動かして回転を一周させても、$q$$\exp(i\pi) = -1$までしか進みません。$q$自身が$S^3$を一周して$1$に戻るには、回転角にして$4\pi$、つまり回転2周分が必要です。

このように、単位四元数から回転への対応$q \mapsto \rho_q$2対1です。この関係を、$\operatorname{SU}(2)$$\operatorname{SO}(3)$二重被覆であるといいます。

$$ \operatorname{SU}(2) \to \operatorname{SO}(3) \quad (2:1) $$

前回$\operatorname{U}(1) \cong \operatorname{SO}(2)$は同型、つまり1対1の対応でした。今回の$\operatorname{SU}(2)$$\operatorname{SO}(3)$は同型ではありませんが、局所的には同じ構造を持ちます。

スピンと720度

量子力学で電子のスピンは「360度回転しても元に戻らず、720度回転してはじめて元に戻る」と言われます。これはスピンの状態が$\operatorname{SO}(3)$ではなく、その二重被覆$\operatorname{SU}(2)$で変換されることに由来します。

リー代数の同型

「局所的には同じ構造」であることをリー代数で確認します。

$\operatorname{SO}(3)$のリー代数$\mathfrak{so}(3)$は、前回の$\mathfrak{so}(2)$と同様に反対称行列$A^\mathsf{T} = -A$)全体で、3×3の場合は3次元です。基底として、各軸周りの回転を生成する行列が取れます。

$$ J_x = \begin{pmatrix} 0 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & -1 \\ 0 & 1 & 0 \end{pmatrix}, \quad J_y = \begin{pmatrix} 0 & 0 & 1 \\ 0 & 0 & 0 \\ -1 & 0 & 0 \end{pmatrix}, \quad J_z = \begin{pmatrix} 0 & -1 & 0 \\ 1 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 \end{pmatrix} $$

ブロック構造

いずれも、$\mathfrak{so}(2)$の生成子$\begin{pmatrix} 0 & -1 \\ 1 & 0 \end{pmatrix}$を、3×3の中の2×2ブロック($J_z$は1・2行、$J_x$は2・3行、$J_y$は3・1行)に配置した形をしています。つまり3次元の回転の生成子は、座標平面ごとの2次元回転の生成子を束ねたものです。

括弧積を計算すれば、巡回的な関係が得られます。

$$ [J_x, J_y] = J_z, \quad [J_y, J_z] = J_x, \quad [J_z, J_x] = J_y $$

一方、$\mathfrak{sp}(1) \cong \mathfrak{su}(2)$側で基底を$i/2,\ j/2,\ k/2$に取り直すと、$[i,j] = 2k$などから、

$$ \left[\frac{i}{2}, \frac{j}{2}\right] = \frac{2k}{4} = \frac{k}{2} $$

となり、同じく巡回的な関係になります。つまり$i/2 \Leftrightarrow J_x,\ j/2 \Leftrightarrow J_y,\ k/2 \Leftrightarrow J_z$という対応で構造定数が一致するため、リー代数としては同型です。

$$ \mathfrak{su}(2) \cong \mathfrak{so}(3) $$

基底に付いた$1/2$は、共役作用の半角にほかなりません。$\exp(i\theta/2)$が角度$\theta$の回転$\exp(\theta J_x)$を与えるため、リー代数の対応では$i/2$$J_x$が組になります。

リー群としては2対1で異なるのに、リー代数としては同型になる——これはリー代数が単位元近傍の局所的な構造だけを見ており、「一周すると2対1になる」といった大域的な違いを区別できないことを意味します。リー代数はリー群の強力な道具ですが、すべてを捉えるわけではないことを示す好例です。

半角がそのまま基底に現れる

$q = \exp(i\theta/2)$は、$i\cdot(\theta/2)$ではなく$(i/2)\cdot\theta$と見ることもできます。こう括り直せば、回転角$\theta$そのものが$\exp$の係数となり、基底は$i/2$になります。半角という因子が、係数側ではなく基底側に移っただけとも言えます。

片側作用と両側作用

ここまで$\operatorname{SO}(3)$は生成子$J_x, J_y, J_z$のレベルで扱ってきましたが、群の元、つまり具体的な回転行列がどんな形かはまだ見ていませんでした。$\exp(\theta J_x)$を計算すると、おなじみの$x$軸周りの回転行列が得られます。

$$ \exp(\theta J_x) = \exp\begin{pmatrix} 0 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & -\theta \\ 0 & \theta & 0 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 1 & 0 & 0 \\ 0 & \cos\theta & -\sin\theta \\ 0 & \sin\theta & \cos\theta \end{pmatrix} $$

これは3次元ベクトル$x$に左から掛けるだけの$3\times3$行列で、$\exp(\theta J_x)x$という片側の積で回転が完結します。実際、前節で計算した$\rho_q(j) = j\cos\theta + k\sin\theta$$\rho_q(k) = -j\sin\theta + k\cos\theta$$i$軸周りの回転)と、$j,k$成分を並べた行列として一致します。

この半角は、作用のしかたの違いとも対応しています。$\operatorname{SO}(3)$の元は上のようにベクトルに左から一方的に作用する(片側作用)のに対し、$\operatorname{SU}(2)$の元$q$は共役作用$x \mapsto qxq^{-1}$のように左右から挟む(両側作用)という形を取ります。両側から半角$\theta/2$ずつの作用が合わさって角度$\theta$になる、という構造そのものが、基底に$1/2$が付く理由の背景です。

両側作用を片側に押し込む

四元数を実行列で表現すれば、共役作用$x \mapsto qxq^{-1}$のような両側からの作用も、左右それぞれの実行列を掛け合わせた1つの行列による片側作用として書き直せます。この行列を計算すると、まさに$\operatorname{SO}(3)$の回転行列が得られます。7shi-qrot

また、複素行列でのエルミート共役は、実行列表現では転置に対応することが確認できます。

まとめ

単位四元数全体はリー群$\operatorname{Sp}(1)$となり、図形としては3次元球面$S^3$です。行列表現を通して$\operatorname{Sp}(1) \cong \operatorname{SU}(2)$であり、そのリー代数$\mathfrak{sp}(1) \cong \mathfrak{su}(2)$は純虚四元数全体で、基底は$i, j, k$の3つです。

$\operatorname{U}(1)$との最大の違いは非可換性です。リー代数では$[i, j] = 2k$のように$0$でない括弧積として現れ、これは3次元ベクトルの外積と(2倍を除いて)一致します。また、指数法則$\exp(x)\exp(y) = \exp(x+y)$は方向の異なる元に対しては崩れます。

単位四元数の共役作用$x \mapsto qxq^{-1}$は3次元の回転を与えますが、$q$$-q$が同じ回転になるため対応は2対1です(二重被覆)。リー群として$\operatorname{SU}(2)$$\operatorname{SO}(3)$は同型ではありませんが、リー代数としては$\mathfrak{su}(2) \cong \mathfrak{so}(3)$と同型であり、リー代数が局所的な構造のみを捉えることの現れです。

参考文献

投稿日:8日前
更新日:18時間前
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