1
大学数学基礎解説
文献あり

リー群・リー代数の初歩 2 四元数とSU(2)

143
0
$$$$

四元数から特殊ユニタリ群$\operatorname{SU}(2)$を構成し、3次元回転群$\operatorname{SO}(3)$との二重被覆関係およびリー代数の同型を導きます。

シリーズ: リー群・リー代数の初歩

改訂履歴
  • 2026.10.04 四元数の行列表現を、行列式が絶対値の2乗になる要請から導く形に変更し、パウリ行列との対応がそろう表現に統一

概要

前回の記事で扱った$\operatorname{U}(1)$は可換なリー群であり、リー代数の括弧積はすべて$0$でした。しかし、物理学や幾何学に現れる多くのリー群は非可換であり、積の順序の依存性が群や代数の構造に本質的な特徴を与えます。

本記事では、複素数を拡張した四元数を用いることで、もっとも基本的な非可換リー群である特殊ユニタリ群$\operatorname{SU}(2)$を構成します。さらに、単位四元数の共役作用を通して3次元回転群$\operatorname{SO}(3)$との関係を調べ、リー群の大域的な構造(二重被覆)と局所的な構造(リー代数の同型)の食い違いを解き明かします。

前提知識として、先行記事から以下を引き継ぎます。

  • リー群・リー代数の基本概念(滑らかな群構造、単位元における接空間としてのリー代数、指数写像、括弧積)。7shi-lie1
  • 四元数の行列表現の構成法。7shi-qp

また、四元数$\mathbb H$の基本的な乗法規則($i^2=j^2=k^2=-1,\ ij=-ji=k$など)、共役、および絶対値の乗法性($|pq|=|p||q|$)を用います。

本記事は次のように進めます。

  1. 単位四元数のリー群 $\operatorname{Sp}(1)$:単位四元数全体がなす3次元球面$S^3$に群構造を入れ、非可換性によって指数法則が崩れる様子を観察します。
  2. リー代数 $\mathfrak{sp}(1)$ と外積:単位元における接空間として3次元のリー代数を導き、基底の括弧積が3次元ベクトルの外積(の2倍)に一致することを見ます。
  3. 行列表現と $\operatorname{SU}(2)$:四元数の複素行列表現を通じて、リー群の同型$\operatorname{Sp}(1) \cong \operatorname{SU}(2)$およびリー代数の同型$\mathfrak{sp}(1) \cong \mathfrak{su}(2)$を確立します。
  4. 3次元回転群 $\operatorname{SO}(3)$ と二重被覆:単位四元数の共役作用$x \mapsto qxq^{-1}$が3次元回転を与えることを示し、$\operatorname{SU}(2) \to \operatorname{SO}(3)$が2対1の二重被覆であることを導きます。
  5. リー代数の同型:両者のリー代数が$\mathfrak{su}(2) \cong \mathfrak{so}(3)$と同型になることを確認し、局所構造と大域構造の違いを整理します。

本記事では$\operatorname{SU}(2)$と3次元回転群$\operatorname{SO}(3)$の関係を扱い、4次元回転群$\operatorname{SO}(4)$の詳しい構造や、高次の特殊ユニタリ群$\operatorname{SU}(n)$($n \ge 3$)への一般化は扱いません。

四元数の基本性質

四元数は複素数を拡張した数体系で、1つの実部と3つの虚部を持ちます。四元数全体の集合は$\mathbb{H}$と表記されます。

$$ q = a + bi + cj + dk \quad (a,b,c,d \in \mathbb{R}) $$

$\mathbb{H}$

$\mathbb{H}$は四元数の発見者ハミルトン (Hamilton) に由来します。頭文字で$\mathbb{Q}$とすると有理数と被るためです。

3つの虚数単位$i,j,k$は以下の規則に従います。

$$ i^2 = j^2 = k^2 = -1 $$

$$ ij = -ji = k, \quad jk = -kj = i, \quad ki = -ik = j $$

$ij = -ji$を見れば分かるように、四元数の積は非可換です。ただし結合法則は成り立ちます。

共役と絶対値は複素数と同様に定義されます。

$$ q^* = a - bi - cj - dk, \quad |q|^2 = qq^* = a^2 + b^2 + c^2 + d^2 $$

絶対値について重要なのは、複素数と同様に乗法性が成り立つことです。

$$ |pq| = |p||q| $$

共役と積の順序

積の共役では因子の順序が反転します:$(pq)^* = q^*p^*$。複素数では積が可換なため順序を気にする必要がありませんでしたが、四元数では順序が重要になります。

単位四元数のリー群

$\operatorname{Sp}(1)$

前回、単位複素数全体がリー群$\operatorname{U}(1)$となることを見ました。同じ発想で、絶対値が$1$の四元数、すなわち単位四元数全体の集合を考えます。

単位四元数のリー群 $\operatorname{Sp}(1)$

$$ \operatorname{Sp}(1) = \{q \in \mathbb{H} \mid |q| = 1\} $$

「Sp」はシンプレクティック(symplectic)の頭文字です。直交群が実数$\mathbb{R}$、ユニタリ群が複素数$\mathbb{C}$に対応したように、シンプレクティック群は四元数$\mathbb{H}$に対応する系列です。ここでいう$\operatorname{Sp}(n)$は四元数上のコンパクトシンプレクティック群で、実数上の$\operatorname{Sp}(2n,\mathbb{R})$などとは別物です。この3つの系列は、リー群の分類において基本的な役割を果たします。$\operatorname{Sp}(1)$の行列表現は四元数を成分とする1×1行列ですが、1成分だけなので1個の四元数と同一視できます。

symplecticの語源

symplecticは、ラテン語由来の語complex(com-plexus、「共に編み合わされた」)を、同じ意味のギリシア語由来の要素(sym-plecticos)で置き換えた造語です(ワイルによる)。複素数(complex number)との混同を避けるための言い換えでした。語感からsimple「単純」を連想しそうになりますが、由来はその正反対のcomplexです。

図形として見ると、$|q| = 1$は$a^2+b^2+c^2+d^2=1$を意味するため、$\operatorname{Sp}(1)$は4次元空間内の3次元球面$S^3$(超球面)です。$\operatorname{U}(1)$が複素平面上の単位円$S^1$だったことの類似です。球面には尖った点や不連続点がなく、どの点でも接空間が取れるため、$\operatorname{U}(1)$と同様に滑らかな構造を持ちます。

群構造

$\operatorname{Sp}(1)$が群になることは、前回の$\operatorname{U}(1)$と同じ議論で確認できます。

  • $p,q \in \operatorname{Sp}(1)$のとき、絶対値の乗法性より$|pq| = |p||q| = 1$となるため、積は閉じている
  • 単位元$1$は絶対値$1$なので含まれる
  • $|q| = 1$のとき$qq^* = |q|^2 = 1$より$q^{-1} = q^*$であり、$|q^*| = |q| = 1$なので逆元も含まれる

ただし$\operatorname{U}(1)$と決定的に違う点があります。四元数の積は非可換なので、$\operatorname{Sp}(1)$は非可換な群です。この違いがリー代数にどう現れるかが、今回の中心的なテーマです。

オイラーの公式の四元数版

実部が$0$の四元数$v = xi + yj + zk$を純虚四元数と呼びます。純虚四元数のうち絶対値が$1$の単位純虚四元数を$u$とすれば、$u^* = -u$と$uu^* = |u|^2 = 1$より、次が成り立ちます。

$$ u^2 = -uu^* = -|u|^2 = -1 $$

つまり$u$は2乗すると$-1$になり、虚数単位$i$とまったく同じ役割を果たします。四元数の指数関数も複素数と同じべき級数で定義すると、$\cos$と$\sin$の級数に分かれるため、オイラーの公式がそのまま成り立ちます。

四元数版オイラーの公式

$$ \exp(u\theta) = \cos\theta + u\sin\theta $$

任意の単位四元数$q$はこの形で表せます。$q$を実部$a$と虚部$v$に分けて$q = a + v$とします。$v \ne 0$のとき、$|q|^2 = a^2 + |v|^2 = 1$より$a = \cos\theta$、$|v| = \sin\theta$($0 < \theta < \pi$)と置けるため、$u = v/|v|$として$q = \cos\theta + u\sin\theta$となります。$q = \pm 1$のときは$u$を任意に選び、それぞれ$\theta = 0, \pi$とします。

単位円の束

方向$u$を1つ固定すれば、$\{\exp(u\theta) \mid \theta \in \mathbb{R}\}$は$1$と$u$が張る平面上の単位円、つまり$\operatorname{U}(1)$のコピーになります。$S^3$は、あらゆる方向$u$についてのこのような単位円が、単位元$1$を共有して束ねられたものと見ることができます。

なお、この描像はHopf ファイブレーション($S^1 \hookrightarrow S^3 \to S^2$)とは異なります。Hopf ファイブレーションのファイバーは互いに素な大円の族ですが、ここでの円はすべて単位元$1$を共有しており、ファイバー束の条件(各ファイバーが互いに交わらない)を満たしていません。

指数法則の崩れ

前回、$\operatorname{U}(1)$では指数法則が成り立つことが群構造の要でした。

$$ \exp(i\theta_1)\exp(i\theta_2) = \exp(i(\theta_1 + \theta_2)) $$

$\operatorname{Sp}(1)$でも、同じ方向$u$の元同士であれば指数法則が成り立ちます。しかし方向が異なると、一般には成り立ちません。

$$ \exp(u\theta_1)\exp(v\theta_2) \ne \exp(u\theta_1 + v\theta_2) $$

指数関数と積の非可換性

$\exp(i\pi/2) = i$、$\exp(j\pi/2) = j$なので、左辺に相当する積は$ij = k = \exp(k\pi/2)$である。一方、右辺に相当する$\exp((i+j)\pi/2)$を計算するには、オイラーの公式$\exp(u\theta) = \cos\theta + u\sin\theta$を適用できるよう、引数を「単位純虚四元数 × 実数」の形に分解する必要がある。$i+j$の絶対値は$\sqrt{2}$なので、
$$ (i+j)\frac{\pi}{2} = \underbrace{\frac{i+j}{\sqrt{2}}}_{u}\cdot\underbrace{\frac{\sqrt{2}\,\pi}{2}}_{\theta} $$
となる。$u = (i+j)/\sqrt{2}$は単位純虚四元数なので公式を適用すれば
$$ \exp\!\left((i+j)\frac{\pi}{2}\right) = \cos\frac{\sqrt{2}\,\pi}{2} + \frac{i+j}{\sqrt{2}}\sin\frac{\sqrt{2}\,\pi}{2} $$
となり、$k$とは一致しない。このずれは積の非可換性に由来する。非可換性の情報は、次に見るリー代数の括弧積に集約される。

リー代数 $\mathfrak{sp}(1)$

$\operatorname{U}(1)$のときと同様に、単位元における接線方向がリー代数です。単位四元数は$\exp(u\theta)$の形で表せたので、その引数$u\theta$の全体、すなわち純虚四元数全体がリー代数$\mathfrak{sp}(1)$となります。

リー代数 $\mathfrak{sp}(1)$

$$ \mathfrak{sp}(1) = \{xi + yj + zk \mid x,y,z \in \mathbb{R}\} $$

$\mathfrak{u}(1)$が1次元だったのに対して、$\mathfrak{sp}(1)$は3次元です。

基底

前回と同様に、単位元における接空間の方向を微分で調べます。

$$ \left.\frac{d}{d\theta}\exp(u\theta)\right|_{\theta=0} = u $$

$u$は接線方向を与え、リー代数の元は$u\theta$(方向の実数倍)となります。$\mathfrak{u}(1)$では基底が$i$の1種類だったのに対して、$u$は任意の単位純虚四元数を取れ、$i, j, k$は線形独立なので基底をなします。単位元における接空間は純虚四元数の3次元空間全体となります。

前回は、座標と元を区別するため、$\mathfrak{u}(1)$の元を$i\theta$のように基底$i$を明記して書きました。$\mathfrak{sp}(1)$の基底は複数の基底ベクトル$i, j, k$からなり、$xi + yj + zk$のように3つの実数の座標によって表現されます。

接線から接空間へ

$\operatorname{U}(1)$は単位円だったため、接空間は1次元の「接線」でした。$\operatorname{Sp}(1)$は$S^3$なので、各点での接空間は3次元になります。図形的な想像は難しくなりますが、「球面上の1点に接する平面」の次元が1つ上がったものと考えれば十分です。

括弧積

まず、純虚四元数が積について閉じていないことを確認します。2つの純虚四元数$p = p_1 i + p_2 j + p_3 k$と$q = q_1 i + q_2 j + q_3 k$の積を展開して整理すれば、次のようになります。

$$ pq = -(p_1 q_1 + p_2 q_2 + p_3 q_3) + (p_2 q_3 - p_3 q_2)i + (p_3 q_1 - p_1 q_3)j + (p_1 q_2 - p_2 q_1)k $$

純虚四元数を3次元ベクトルと同一視すれば、実部にはベクトルの内積(の符号反転)、虚部には外積が現れています。

$$ pq = -\,p \cdot q + p \times q $$

内積と外積の歴史

歴史的には、内積と外積は四元数の積のこの分解から取り出されて生まれました。ギブスらがベクトル解析を整備したことで、現在の形が定着しました。

実部$-p \cdot q$が現れるため、積は一般には純虚四元数の集合から外れます。これは$\mathfrak{u}(1)$で2つの元の積が実数になってしまったことの類似です。

そこで括弧積を計算します。内積は$p$と$q$を交換しても変わらない(対称)ため打ち消され、外積は交換すると符号が反転する(反交換)ため2倍になって残ります。

$$ [p, q] = pq - qp = 2\,(p \times q) $$

外積の結果は3次元ベクトル、つまり純虚四元数なので、括弧積は$\mathfrak{sp}(1)$の中で閉じています。

括弧積は積の交換によるずれ(差)として定義されましたが、四元数では外積という独立した積演算そのものに($2$倍を除いて)一致しました。括弧積が単なる差ではなく、それ自体が一種の積とみなせることが、ここで具体的な形をとって現れています。ただし、外積と同一視するにはこの$2$倍のスケール差がつきまとう点に注意が必要です。

基底同士の括弧積を計算してみます。

$$ [i, j] = ij - ji = k - (-k) = 2k $$

同様にして、巡回的な関係が得られます。

$$ [i, j] = 2k, \quad [j, k] = 2i, \quad [k, i] = 2j $$

前回の$\mathfrak{u}(1)$では括弧積はすべて$0$でした。$0$でない括弧積が現れるのはこれが初めてです。括弧積は積の交換によるずれ、つまり非可換性を測る量であり、$\operatorname{Sp}(1)$が非可換であることがリー代数のレベルではこの形で現れます。

構造定数

基底同士の括弧積を基底の線形結合で表したときの係数(ここでは$[i,j]=2k$の$2$など)を構造定数と呼びます。リー代数の性質は構造定数によって完全に特徴付けられます。

行列表現と $\operatorname{SU}(2)$

前回、複素数を2×2実行列で表現することで$\operatorname{U}(1) \cong \operatorname{SO}(2)$を導きました。同じことを四元数で行います。複素数が実行列で表現できたように、四元数は2×2複素行列で表現できます。

四元数の行列表現

前回、複素数$a+bi$を実行列$\begin{pmatrix}a&-b\\b&a\end{pmatrix}$で表すと、行列式が絶対値の2乗$a^2+b^2$になりました。四元数でも同じ性質を要請し、そこから行列の形を絞り込みます。

四元数$q=a+bi+cj+dk$の虚数単位$i,j,k$に2×2複素行列$I_H,J_H,K_H$を対応させ、$q$を次の行列で表します。

$$ Q=aI+bI_H+cJ_H+dK_H $$

記号

単純に大文字にすると$I$が単位行列と衝突するため、四元数全体の集合$\mathbb H$を添字にして$I_H$などと表記します。

この行列に、すべての実数$a,b,c,d$について、行列式が絶対値の2乗になることを要請します。

$$ \det Q=a^2+b^2+c^2+d^2 $$

2×2行列$X$について$\det(aI+X)=a^2+a\operatorname{tr}X+\det X$が成り立ちます。また、トレースが$0$の2×2行列は、ケイリー・ハミルトンの定理より$X^2=-(\det X)I$を満たします。これらを使うと、要請から次の性質が従います。

  • トレース:$a$との交差項が消えるので、$I_H,J_H,K_H$のトレースは$0$です。
  • 2乗:$b^2$などの係数が$1$なので$\det I_H=1$で、$I_H^2=-I$です。$J_H,K_H$も同様です。
  • 反交換:$bc$などの交差項が消えるので$\det(I_H+J_H)=2$で、$(I_H+J_H)^2=-2I$です。展開すると$I_HJ_H+J_HI_H=0$となります。

これは四元数の関係$i^2=j^2=k^2=-1$、$ij=-ji$などにほかなりません。$I,I_H,J_H,I_HJ_H$は2×2複素行列全体の複素基底をなすので、この基底で展開して$I_H,J_H$との反交換条件を課すと、$I_HJ_H$以外の係数は$0$になります。したがって$K_H=\lambda I_HJ_H$と書け、$\det K_H=1$と$\det(I_HJ_H)=1$より$\lambda=\pm1$、つまり$K_H=\pm I_HJ_H$です。ただし、どちらの符号になるかは行列式からは決まりません。$I_H$と$J_H$を入れ替えても行列式は変わらないためです。そこで$ij=k$に合わせて$K_H=I_HJ_H$とします。7shi-nonion

次に、具体的な形を1つ選びます。$q=(a+bi)+(c+di)j$のように複素数$a+bi$を係数とする形になぞらえ、まず$j$の表現$J_H$を、$J_H^2=-I$を満たす身近な行列として、前回の複素数$i$の行列表現に固定します。$J_H$は前回の$J$と同じ行列です。四元数では$jz=z^*j$より$j$は係数の$i$と反交換するため、$I_H$は$J_H$と反交換する行列として次に求めます。なお、行列の成分に現れる$i$は通常の複素数の虚数単位であり、四元数の$i$の像は$I_H$です。

$$ J_H=\begin{pmatrix}0&-1\\1&0\end{pmatrix} $$

$J_H$と反交換する行列は$\begin{pmatrix}\alpha&\beta\\\beta&-\alpha\end{pmatrix}$の形に限られ、$\det I_H=1$より$\alpha^2+\beta^2=-1$です。実数では満たせないため複素数で解き、対角成分を$0$とする最も単純な形を選べば$\beta=\pm i$となります。ここでは$\beta=-i$とします。

四元数の基底の行列表現

$$ I_H=\begin{pmatrix}0&-i\\-i&0\end{pmatrix},\quad J_H=\begin{pmatrix}0&-1\\1&0\end{pmatrix},\quad K_H=I_HJ_H=\begin{pmatrix}-i&0\\0&i\end{pmatrix} $$

符号の選び方

$\beta=i$としても、四元数の関係はすべて満たされます。$I_H,K_H$が同時に符号反転するだけで$J_H$は変わらず、基底の取り方の違いであって代数構造は同じです。本記事では、標準的なパウリ行列$\sigma_1,\sigma_2,\sigma_3$との対応が$I_H,J_H,K_H=-i\sigma_1,-i\sigma_2,-i\sigma_3$とそろうよう、$\beta=-i$を選びます。行列表現には他にも任意性があり、文献によって異なる表現が使われます。7shi-qp

四元数$q$に対応する行列は次のようになります。

四元数の複素行列表現

$$ q=a+bi+cj+dk \quad\Leftrightarrow\quad Q=\begin{pmatrix}a-di&-(c+bi)\\c-bi&a+di\end{pmatrix} $$

行列式を計算すると、確かに$\det Q=(a^2+d^2)+(b^2+c^2)$となります。成分を$z=a-di$、$w=-(c+bi)$とまとめれば、次の形に書けます。

$$ Q=\begin{pmatrix}z&w\\-w^*&z^*\end{pmatrix} $$

この表現は四元数の積を再現します。いくつか例を示します。

$$ \begin{aligned} ij&=k &&\Leftrightarrow& \begin{pmatrix} 0 & -i \\ -i & 0 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} 0 & -1 \\ 1 & 0 \end{pmatrix} &= \begin{pmatrix} -i & 0 \\ 0 & i \end{pmatrix} \\ ji&=-k &&\Leftrightarrow& \begin{pmatrix} 0 & -1 \\ 1 & 0 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} 0 & -i \\ -i & 0 \end{pmatrix} &= \begin{pmatrix} i & 0 \\ 0 & -i \end{pmatrix} \end{aligned} $$

四元数の共役$q^*=a-bi-cj-dk$は、行列での共役転置(エルミート共役)に対応します。

$$ q^* \quad \Leftrightarrow \quad \begin{pmatrix}a+di&c+bi\\-c+bi&a-di\end{pmatrix} = \begin{pmatrix}z^*&-w\\w^*&z\end{pmatrix} = \begin{pmatrix} z & w \\ -w^* & z^* \end{pmatrix}^\dagger = Q^\dagger $$

行列式は、要請したとおり絶対値の2乗です。前回の複素数と2×2実行列の関係とまったく同じ形です。

$$ \det\begin{pmatrix} z & w \\ -w^* & z^* \end{pmatrix} = zz^* + ww^* = |q|^2 $$

$\operatorname{SU}(2)$

単位四元数$|q| = 1$は行列式$1$に対応します。$q$に対応する行列を$Q$として、エルミート共役$Q^\dagger$との積を計算すれば、
$$ QQ^\dagger = (qq^*)I = |q|^2 I = I $$
となります。

行列式と絶対値の背景

行列式と$QQ^\dagger$がともに絶対値の2乗に行き着く背景は後述します。

$QQ^\dagger = I$より、エルミート共役$Q^\dagger$は逆行列$Q^{-1}$と一致します。また、この条件を満たす行列をユニタリ行列と呼びます。行列式が$1$の2×2ユニタリ行列によって構成される群が特殊ユニタリ群$\operatorname{SU}(2)$です。

特殊ユニタリ群の名称

$\operatorname{SU}(2)$のSはSpecial「特殊」、UはUnitary「単位的」の頭文字です。「特殊」は行列式が1であることを意味します。単位的とは、ユニタリ行列による変換(ユニタリ変換)が複素ベクトル$\mathbb{C}^2$のノルム(長さ)を保つことを意味します。

ここで、$\operatorname{SU}(2)$の元はすべて$Q$の形になることを確認します。$\operatorname{SU}(2)$の任意の元を
$$ U = \begin{pmatrix} z & w \\ x & y \end{pmatrix} $$
とおけば、$\det U = 1$より逆行列は
$$ U^{-1} = \begin{pmatrix} y & -w \\ -x & z \end{pmatrix} $$
となり、ユニタリ条件
$$ U^{-1} = U^\dagger = \begin{pmatrix} z^* & x^* \\ w^* & y^* \end{pmatrix} $$
と成分を比較すれば$x = -w^*,y = z^*$が得られます。

$$ U = \begin{pmatrix} z & w \\ -w^* & z^* \end{pmatrix} \quad (|z|^2+|w|^2=1) $$

$\operatorname{SU}(2)$の任意の元はこの形の行列に限られるため、
$$ \operatorname{Sp}(1) \cong \operatorname{SU}(2) $$
の同型が得られます。これは前回の$\operatorname{U}(1) \cong \operatorname{SO}(2)$に対応する結果です。単位複素数の群が2次元の回転を表したように、単位四元数の群は4次元の回転を表します。

ユニタリ変換と回転

$\operatorname{SU}(n)$のユニタリ変換は$\mathbb{C}^n$のノルムを保つため、単位球面$S^{2n-1}\subset\mathbb{C}^n$上の回転として作用します。$\operatorname{SU}(2)$は$S^3$、$\operatorname{SU}(3)$は$S^5$が作用の舞台です。

$\operatorname{SU}(2)$の元全体は$S^3$と同型で、「作用する空間」と「元全体が描く形」が一致していますが、これは$\operatorname{U}(1)$($S^1$)にも見られた性質で、一般のリー群には成り立ちません。$\operatorname{SU}(3)$以上では群が単位球面上にさらなる構造(ファイバー束)を持ちます。

なお、$\operatorname{SU}(2)$による回転には、複素行列式が$1$のユニタリ行列であることに由来する制限があります。適切な2つの直交する不変平面に分けて見ると、$\operatorname{SU}(2)$ではこの2つの平面は回転角の絶対値が等しい等傾回転 (isoclinic rotation) に制限され、2つの平面が別々の角度で回る一般の4次元回転$\operatorname{SO}(4)$すべてを表せるわけではありません。

$\mathfrak{su}(2)$ と $\mathfrak{sp}(1)$

2×2複素行列$A$について、すべての実数$t$で$\exp(tA)$が$\operatorname{SU}(2)$に属するための条件を調べれば$\mathfrak{su}(2)$が求まります。$\exp(tA)$は単位元を通る曲線であり、その$t = 0$における速度ベクトルが$A$だからです。

$\operatorname{SU}(2)$の条件

$$ \exp(tA)\exp(tA)^\dagger = I, \quad \det \exp(tA) = 1 $$

をすべての$t$について課し、$t = 0$で微分します。

まずユニタリ条件です。指数写像では

$$ \begin{aligned} \exp(tA)^\dagger &= \exp(tA^\dagger) \\ \exp(tA)^{-1} &= \exp(-tA) \end{aligned} $$

が成り立ちます。$\exp(tA)\exp(tA^\dagger) = I$の両辺を$t$で微分して$t = 0$と置けば、左辺は積の微分法則により$A + A^\dagger$、右辺は$0$となるので

$$ A^\dagger = -A $$

が得られます。この性質を反エルミートと呼びます(エルミート共役により符号が反転)。これは$\mathfrak{u}(1)$の元が$z^* = -z$の性質を持つ純虚数だったことの行列版です。

次に行列式の条件です。指数写像には

$$ \det \exp(tA) = \exp(t\operatorname{tr} A) $$

という関係があるので、$\det \exp(tA) = 1$の両辺を$t$で微分して$t = 0$と置けば

$$ \operatorname{tr} A = 0 $$

が得られます。「行列式$1$」のリー群条件が「トレース$0$」のリー代数条件に対応します。

逆に、$A^\dagger=-A$かつ$\operatorname{tr}A=0$ならば、$\exp(tA)^\dagger=\exp(-tA)=\exp(tA)^{-1}$、$\det\exp(tA)=\exp(t\operatorname{tr}A)=1$となり、すべての$t$で$\exp(tA)\in\operatorname{SU}(2)$です。

曲線として条件を課す理由

1点$\exp(A)$についての条件から、指数の中身を比較して条件を読み取ることはできません。$\exp$が単射ではないためです。例えば

$$ A = \begin{pmatrix} 2\pi i & 0 \\ 0 & 0 \end{pmatrix} $$

は$\exp(A) = I \in \operatorname{SU}(2)$を満たしますが、$\operatorname{tr} A = 2\pi i \ne 0$です。$\det\exp(A) = \exp(\operatorname{tr} A) = 1$から言えるのは$\operatorname{tr} A \in 2\pi i \mathbb{Z}$までで、$\operatorname{tr} A = 0$は従いません。

ユニタリ条件も同様です。$P = \begin{pmatrix} 1 & 1 \\ 0 & 1 \end{pmatrix}$として

$$ A = P \begin{pmatrix} 2\pi i & 0 \\ 0 & -2\pi i \end{pmatrix} P^{-1} = \begin{pmatrix} 2\pi i & -4\pi i \\ 0 & -2\pi i \end{pmatrix} $$

とすると$\exp(A) = P\,I\,P^{-1} = I$なので$\exp(A^\dagger) = \exp(A)^\dagger = I = \exp(-A)$が成り立ちますが、$A^\dagger \ne -A$です(反エルミート行列はユニタリ行列で対角化できるのに対し、この$A$は非ユニタリな$P$でしか対角化できません)。$A^\dagger$と$-A$の差が$\exp$に吸収されてしまうため、$\exp(A^\dagger) = \exp(-A)$は$A^\dagger = -A$と同値ではありません。

$\exp$が単射でないのは大域的な事情であり、単位元の近傍に限れば$\exp$は可逆です。条件を1点ではなく曲線$\exp(tA)$全体に課せば、上の反例は排除されます($A = \operatorname{diag}(2\pi i, 0)$なら$\det\exp(tA) = e^{2\pi i t}$は一般の$t$で$1$になりません)。その上で$t = 0$で微分すれば、単位元近傍の情報だけを使うことになり、正しい条件が得られます。

まとめると、$\mathfrak{su}(2)$はトレースが$0$の反エルミート行列全体です。この条件を満たす行列の一般形は、反エルミートより対角成分は純虚数で、トレース$0$より対角成分の和は$0$となります。非対角成分は、互いに符号を反転した共役になります。実数のパラメータ$x, y, z$を使えば、次の形にまとまります。

$$ A = \begin{pmatrix} -iz & -(y + ix) \\ y - ix & iz \end{pmatrix} $$

パラメータは3つなので$\mathfrak{su}(2)$は実3次元となり、$\mathfrak{sp}(1)$と次元が一致します。この行列をパラメータ$x, y, z$ごとに分解してみます。

$$ \begin{pmatrix} -iz & -(y + ix) \\ y - ix & iz \end{pmatrix} = x \begin{pmatrix} 0 & -i \\ -i & 0 \end{pmatrix} + y \begin{pmatrix} 0 & -1 \\ 1 & 0 \end{pmatrix} + z \begin{pmatrix} -i & 0 \\ 0 & i \end{pmatrix} $$

ここに現れた3つの行列は、四元数の基底$i, j, k$の行列表現$I_H,J_H,K_H$そのものです。

したがって$\mathfrak{su}(2)$の任意の元は$xI_H + yJ_H + zK_H$と書け、四元数の行列表現を通して$xi + yj + zk$に対応します。行列表現は積を保つので、括弧積も保たれます。これは前節で定義した純虚四元数全体の集合

$$ \mathfrak{sp}(1) = \{xi + yj + zk \mid x,y,z \in \mathbb{R}\} $$

に他なりません。よって、リー群の同型$\operatorname{Sp}(1) \cong \operatorname{SU}(2)$に対応して、リー代数も$\mathfrak{sp}(1) \cong \mathfrak{su}(2)$となることが、行列の成分から直接確認できました。

リー群とリー代数の同居

$\operatorname{SU}(2)$では、リー群の元が「単位行列とリー代数の基底」の実線形結合で書けており、リー群とリー代数が同じ基底の張る空間に同居しています。実はこれは当たり前のことではなく、$\operatorname{U}(1)$でも$\exp(\theta J)=I\cos\theta+J\sin\theta$と書けたように、$\operatorname{U}(1)$や$\operatorname{SU}(2)$では見られるものの、一般のリー群では成り立ちません。

ユニタリ条件と行列式1の四元数的な意味

$\operatorname{SU}(2)$は「ユニタリ条件$UU^\dagger=I$」と「行列式$1$」という2つの条件で定義されていました。$\operatorname{Sp}(1) \cong \operatorname{SU}(2)$の同型を使えば、この2つの条件が四元数の言葉でどう表れるかが分かります。

まずユニタリ条件です。$Q^\dagger$は共役$q^*$に対応するので、

$$ QQ^\dagger = I \quad \Leftrightarrow \quad qq^* = 1 \quad \Leftrightarrow \quad |q|^2=1 $$

となり、ユニタリ条件はそのまま「絶対値$1$」、つまり単位四元数の条件に一致します。

次に行列式$1$の条件です。先に見た$\det Q = |q|^2$を使えば、

$$ \det Q = 1 \quad \Leftrightarrow \quad |q|^2 = 1 $$

となり、こちらも同じく「絶対値$1$」に帰着します。つまり、$\operatorname{SU}(2)$を定義する2つの条件(ユニタリ性と行列式$1$)は、四元数の言葉ではどちらも同一の条件$|q|=1$に還元されます。

一般の$\operatorname{U}(2)$の元は、行列式が単位円上の任意の値$e^{i\theta}$を取り得ます。ところが四元数の行列表現$Q$は、$z,w$がどんな複素数であっても$\det Q = zz^*+ww^*=|q|^2$という非負の実数にしか値を取り得ません。これは単位四元数に限らず、任意の四元数で成り立つ一般的な恒等式です。$\operatorname{U}(2)$と$\operatorname{SU}(2)$の違いに相当する「行列式の位相の自由度」は、四元数の行列表現には存在しません。

この構造は、前回見た複素数の行列表現とまったく同じパターンです。複素数$z=a+ib$の実行列表現でも、

$$ |z|^2=\det\begin{pmatrix}a&-b\\b&a\end{pmatrix} $$

が成り立ち、絶対値$1$(直交条件$AA^\mathsf{T}=I$に相当)と行列式$1$は、どちらも同じ$|z|=1$に帰着します。$\operatorname{O}(2)$のうち行列式$1$の$\operatorname{SO}(2)$の元だけが複素数の行列表現として現れ、行列式$-1$の元(鏡映)は現れなかったのと同様に、四元数の場合も$\operatorname{U}(2)$のうち行列式$1$の$\operatorname{SU}(2)$の元だけが行列表現として現れます。

「絶対値」という四元数の演算が「ユニタリ条件」と「行列式$1$」の両方に同時に対応するという事情は、複素数の段階からすでに存在しており、四元数はその構造を複素行列という舞台へそのまま引き継いでいます。

ノルムの乗法性という共通の起源

この現象の背景には、絶対値の乗法性$|pq|=|p||q|$と行列式の乗法性$\det(AB)=\det(A)\det(B)$が、同じ写像(ノルムの2乗=行列式)を通じて一致しているという事実があります。本記事と前回で用いた$\mathbb{C}$と$\mathbb{H}$の行列表現では、ノルムの2乗が行列式に一致し、共役が転置または共役転置に対応します。そのため、「ノルム$1$の元=直交(ユニタリ)かつ行列式$1$の行列」という対応が成り立ちます。

$\operatorname{SO}(2)$の複素ユニタリ化としての$\operatorname{SU}(2)$

$\operatorname{SU}(2)$の元
$$ \begin{pmatrix} z & w \\ -w^* & z^* \end{pmatrix} \quad (|z|^2+|w|^2=1) $$
において、成分を$z=a,\ w=-b$($a,b\in\mathbb{R}$)と実数に制限してみます。$a,b$は実数なので共役の影響を受けず、$z^*=a,\ -w^*=b$となって、行列は実行列
$$ \begin{pmatrix} a & -b \\ b & a \end{pmatrix} \quad (a^2+b^2=1) $$
になります。これは前回見た複素数$a+bi$の行列表現、すなわち$\operatorname{SO}(2)$の元にほかなりません。逆に言えば$\operatorname{SU}(2)$は、$\operatorname{SO}(2)$の実行列という制約を外して成分$a,b$を複素数$z,w$に広げたものと見ることができます。ただし単に置き換えるだけではなく、下段に共役が入る形になり、$\operatorname{SO}(2)$の直交条件$A^\mathsf{T}A=I$の転置を、エルミート共役に読み替えています。この読み替えは次のように正当化できます。

  • 複素数$a+bi$は実行列$\begin{pmatrix}a&-b\\b&a\end{pmatrix}$で表され、その転置は共役$a-bi$に対応します。
  • 複素行列の各成分をこの$2\times2$実行列に置き換えると、実行列になります($2\times2$複素行列なら$4\times4$実行列)。その転置は、成分の並びの転置と各成分の転置(共役)を同時に行うことになり、元の複素行列のエルミート共役に対応します。

したがって、実行列として直交条件を課すことは、複素行列としてユニタリ条件$A^\dagger A=I$を課すことに当たります。これに行列式$1$の条件を合わせれば$\operatorname{SU}(2)$が得られます。ここでの行列式$1$は複素行列としての行列式です(実行列に直した$4\times4$行列の行列式は$|\det A|^2$になります)。

このように、成分を複素数に広げるとともに直交条件をユニタリ条件に読み替える操作を、本シリーズでは複素ユニタリ化と呼びます。

通常の意味での複素化

リー群論で$\operatorname{SO}(2)$の複素化と言う場合は、転置を読み替えず、条件$A^\mathsf{T}A=I,\ \det A=1$をそのまま複素行列に課します。得られる群$\operatorname{SO}(2,\mathbb{C})$は
$$ \begin{pmatrix}a&-b\\b&a\end{pmatrix} \quad (a,b\in\mathbb{C},\ a^2+b^2=1) $$
の形の行列からなり、可換で、有界ではありません。複素ユニタリ化という呼び名は、この通常の複素化と区別するためのものです。

$\operatorname{SO}(2)$の行列$\begin{pmatrix}a&-b\\b&a\end{pmatrix}$がベクトル$\begin{pmatrix}x\\y\end{pmatrix}$に作用するとき、回転の実体は$a,b$で$x,y$の2成分を混ぜ合わせることに尽きます。$a,b$は単なる実数であり、それ自体が何かを回転させるわけではありません。これを成分間の回転と呼ぶことにします。

$\operatorname{SU}(2)$の行列$\begin{pmatrix}z&w\\-w^*&z^*\end{pmatrix}$がベクトル$\begin{pmatrix}r\\s\end{pmatrix}$に作用するときも、$z,w$で$r,s$の2成分を混ぜ合わせるという構造自体は同じです。しかし$a,b$と違って$z,w$は複素数であり、0でなければ大きさと位相を持ちます。位相による回転の自由度が、成分間の回転に加えて、成分内の回転として新たに加わります。なお、この区別は選んだ複素座標に依存する見方であり、固有の分類ではありません。

行列表現の基底のうち、$k$と$j$がこの2種類の回転をそれぞれ代表します。

$$ \underbrace{k \Leftrightarrow \begin{pmatrix} -i & 0 \\ 0 & i \end{pmatrix}}_{\text{成分内の回転}}, \quad \underbrace{j \Leftrightarrow \begin{pmatrix} 0 & -1 \\ 1 & 0 \end{pmatrix}}_{\text{成分間の回転}} $$

$k$は対角行列なのでベクトルの成分を混ぜ合わせず、$\exp(k\theta)$は$\begin{pmatrix}r\\s\end{pmatrix} \to \begin{pmatrix}e^{-i\theta}\,r\\e^{i\theta}\,s\end{pmatrix}$と、それぞれの成分内だけを回転させます。$r,s$はどちらも角度$\theta$(符号は逆)だけ回転しており、これは4次元空間における等傾回転になっています。

一方、$j$は非対角成分を持ち、ベクトルの成分を線形結合し直します。これが成分間の回転で、$\operatorname{SO}(2)$の構造をそのまま複素数に拡張したものです。実際、$j$の行列は前回の複素数$i$の行列表現そのものです。

残る基底$i$は、$j,k$のどちらか一方には分類できません。括弧積$[j,k]=2i$が示す通り、$i$は成分間の回転$j$と成分内の回転$k$の組み合わせから現れる第3の生成子です。

四元数の平面としての$z,w$

行列の成分$z=a-di$、$w=-(c+bi)$は、それぞれ基底$1,k$が張る平面、基底$i,j$が張る平面の座標です。つまり$z,w$の内部構造は、もとの$\operatorname{SO}(2)$の回転をそのまま引き継いだものです。座標上の直観としては、$\operatorname{SU}(2)$は「$\operatorname{SO}(2)$の2つのコピー」を成分間の回転で結び付けたものと見ることもできます。ただし、独立な2つの回転群の直積を意味するものではありません。

$\operatorname{SO}(3)$ との関係

$\operatorname{SU}(2)$は複素行列の群でしたが、3次元空間の回転群$\operatorname{SO}(3)$と密接な関係があります。四元数の方が表記がコンパクトなため、$\operatorname{SU}(2)$の計算は対応する四元数で行います。

等傾回転の相殺

回転を作る変換を、まず左右片側だけの掛け算から考えます。

$$ L_q(x) = qx, \quad R_{q^{-1}}(x) = xq^{-1} $$

これらは等傾回転ですが、回転方向に違いがあります。

四元数$x$を、$1,i$で張られる複素数$u,v$を用いて$x=u+vj$と分けます($cj+dk=(c+di)j$より)。$q=\exp(i\theta)$として、左作用$L_q(x)$は2つの平面$(1,i)$も$(j,k)$も同じ向きに角度$\theta$だけ回転します。

$$ L_q(x) = qx = qu + qv\,j = \exp(i\theta)u + \exp(i\theta)v\,j $$

右作用$R_{q^{-1}}(x)=xq^{-1}$も等傾回転ですが、$(1,i)$平面では逆向きに角度$-\theta$で回転します。

$$ R_{q^{-1}}(x) = xq^{-1} = uq^{-1} + vjq^{-1} = \exp(-i\theta)u + \exp(i\theta)v\,j $$

この2つを合成すると$(L_q \circ R_{q^{-1}})(x) = qxq^{-1}$となり、平面ごとに角度が足し合わされます。

  • $(1,i)$平面 $\theta-\theta=0$
  • $(j,k)$平面 $\theta+\theta=2\theta$

このように左右で挟むことで、行列式$1$に由来する「両平面が同じ角度だけ回る」という制限は相殺され、実軸と$i$軸を固定した角度$2\theta$の回転が$(j,k)$平面に現れます。

座標の取り方による回転方向の見え方

「$\operatorname{SO}(2)$の複素ユニタリ化としての$\operatorname{SU}(2)$」ではベクトルへの作用を想定していたことに注意が必要です。そこで対角行列で表される$\exp(k\theta)$を例に比べます。

$\exp(k\theta)$に対応するユニタリ行列がベクトル$(r,s)$に作用すれば、
$$ \begin{pmatrix} e^{-i\theta} & 0 \\ 0 & e^{i\theta} \end{pmatrix} \begin{pmatrix} r \\ s \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} e^{-i\theta}r \\ e^{i\theta}s \end{pmatrix} $$
となり、互いに逆向きに回転します。

一方、同じ$\exp(k\theta)$を四元数に左から掛けると、その行列表現$Q$には左から掛かります。
$$ \begin{pmatrix} e^{-i\theta} & 0 \\ 0 & e^{i\theta} \end{pmatrix} \begin{pmatrix} z & w \\ -w^* & z^* \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} e^{-i\theta}z & e^{-i\theta}w \\ -e^{i\theta}w^* & e^{i\theta}z^* \end{pmatrix} $$
となり、四元数の座標$z,w$は互いに同じ向きに回転します。

このように、四元数の座標$(z,w)$では$z,w$が同じ向きに回転するのに対し、ベクトル$(r,s)$の2成分は逆向きに回転して見えます。これは作用対象の違いではなく、座標の取り方の違いです。行列表現$Q$の第1列$F(x)=\begin{pmatrix}z\\-w^*\end{pmatrix}$を複素2成分の座標に取れば$F(qx)=Q(q)F(x)$であり、四元数への左作用はベクトルへの作用とそのまま一致します。$(z,w)$と$(z,-w^*)$では第2成分に共役が入るため、対応する平面の向きが逆になります。

共役作用による回転

上で見た$(L_q \circ R_{q^{-1}})(x) = qxq^{-1}$という形の変換を、一般の単位四元数$q$について考えます。四元数$x$を挟み込むこの変換を共役作用と呼び、ここでは$\rho_q$と表記します。

共役作用による回転

$$ \rho_q(x) = qxq^{-1} $$

記号ρの選択

Rotation「回転」の頭文字$R$は既に右作用を表すために使っているため、ギリシア文字の$\rho$を選択しました。

$x$として純虚四元数$v$を取ると、$\rho_q(v)$も純虚四元数になります。これは共役の性質$(pq)^* = q^* p^*$を使って確認できます。$q^{-1} = q^*$に注意すれば、

$$ (qvq^*)^* = qv^*q^* = q(-v)q^* = -qvq^* $$

となり、共役を取ると符号が反転すること、すなわち実部が$0$(純虚)であることが分かります。さらに絶対値の乗法性より

$$ |\rho_q(v)| = |q||v||q^{-1}| = |v| $$

となるため、長さも保たれます。$\rho_q$は実線形で長さを保つので、純虚四元数の3次元空間$(x,y,z)$の直交変換です。さらに、$\operatorname{Sp}(1)=S^3$は連結で、$\det\rho_q\in\{1,-1\}$は$q$に連続に依存します。$\rho_1$は恒等変換で行列式が$1$なので、すべての$q$について$\det\rho_q=1$です。よって$\rho_q$は3次元の回転を与えます。

前節の結果は、$L_q \circ R_{q^{-1}}$は位相$\theta$に対して$(j,k)$平面で$2\theta$回転するというものでした。そこで$(j,k)$平面の回転角を$\theta$と置きたい場合は、位相を半分の$\theta/2$に取り直せばよいことになります。実際に$q=\exp(i\theta/2)$として確認します。まず$i$は$q$と可換なので不変です。

$$ \rho_q(i) = qiq^{-1} = i $$

次に$j$の行き先を計算します。$z = a + bi$に対して$ji = -ij$より$jz = z^* j$となることを使えば、

$$ \begin{aligned} \rho_q(j) &= \exp\left(i\frac{\theta}{2}\right)\,j\exp\left(-i\frac{\theta}{2}\right) \\ &= \exp\left(i\frac{\theta}{2}\right)\exp\left(i\frac{\theta}{2}\right)\,j \\ &= \exp(i\theta)\,j \\ &= j\cos\theta + k\sin\theta \end{aligned} $$

となり、同様に$\rho_q(k) = -j\sin\theta + k\cos\theta$となります。これは$i$軸を固定して$jk$平面を角度$\theta$だけ回す、$i$軸周りの角度$\theta$の回転です。

二重被覆

半角の関係からの重要な帰結として、$q$と$-q$は同じ回転を与えることが導かれます。

$$ \rho_{-q}(x) = (-q)x(-q)^{-1} = qxq^{-1} = \rho_q(x) $$

実際、$q = \exp(i\theta/2)$で回転角$\theta$を$0$から$2\pi$まで動かして回転を一周させても、$q$は$\exp(i\pi) = -1$までしか進みません。$q$が$1$と$i$の張る平面内の単位円を一周して$1$に戻るには、回転角にして$4\pi$、つまり回転2周分が必要です。

このように、単位四元数から回転への対応$q \mapsto \rho_q$は2対1です。厳密には次のようにまとめられます。

二重被覆

写像$\operatorname{Sp}(1) \to \operatorname{SO}(3),\ q \mapsto \rho_q$は全射な準同型で、核は$\{1,-1\}$である。したがって、各回転にはちょうど2つの単位四元数が対応する。

準同型性:$\rho_{pq}(x)=pqx(pq)^{-1}=p(qxq^{-1})p^{-1}$より$\rho_{pq}=\rho_p\circ\rho_q$である。

核:$\rho_q$が恒等変換なら、$q$は$i,j,k$のすべてと可換なので実数である。$|q|=1$より$q=\pm1$である。逆に$\rho_{\pm1}$は恒等変換である。

全射性:任意の3次元回転は、軸の単位ベクトルと角度$\theta$で定まる。軸に対応する単位純虚四元数$u$と、$u$に垂直な単位純虚四元数$v$をとり、$w=uv$とおくと、$(u,v,w)$は$(i,j,k)$と同じ乗法規則を満たす。したがって$i$軸の場合と同じ計算により、$q=\exp(u\theta/2)$について$\rho_q$は$u$軸周りの角度$\theta$の回転である。

この関係を、$\operatorname{SU}(2)$は$\operatorname{SO}(3)$の二重被覆であるといいます(局所的に同型であること、つまり被覆であることは、後のリー代数の節で確認します)。

$$ \operatorname{SU}(2) \to \operatorname{SO}(3) \quad (2:1) $$

前回$\operatorname{U}(1) \cong \operatorname{SO}(2)$は同型、つまり1対1の対応でした。今回の$\operatorname{SU}(2)$と$\operatorname{SO}(3)$は同型ではありませんが、局所的には同じ構造を持ちます。

スピンと720度

量子力学で電子のスピンは「360度回転しても元に戻らず、720度回転してはじめて元に戻る」と言われます。これはスピンを表すスピノルが$\operatorname{SO}(3)$ではなく、その二重被覆$\operatorname{SU}(2)$で変換されることに由来します。360度回転でスピノルは符号が反転しますが、全体位相を同一視した量子状態としては同じです。

リー代数の同型

「局所的には同じ構造」であることをリー代数で確認します。

$\operatorname{SO}(3)$のリー代数$\mathfrak{so}(3)$は、前回の$\mathfrak{so}(2)$と同様に反対称行列($A^\mathsf{T} = -A$)全体で、3×3の場合は3次元です。基底として、各軸周りの回転を生成する行列が取れます。

$$ J_x = \begin{pmatrix} 0 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & -1 \\ 0 & 1 & 0 \end{pmatrix}, \quad J_y = \begin{pmatrix} 0 & 0 & 1 \\ 0 & 0 & 0 \\ -1 & 0 & 0 \end{pmatrix}, \quad J_z = \begin{pmatrix} 0 & -1 & 0 \\ 1 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 \end{pmatrix} $$

ブロック構造

いずれも、$\mathfrak{so}(2)$の生成子$\begin{pmatrix} 0 & -1 \\ 1 & 0 \end{pmatrix}$を、3×3の中の2×2ブロック($J_z$は1・2行、$J_x$は2・3行、$J_y$は3・1行)に配置した形をしています。つまり3次元の回転の生成子は、座標平面ごとの2次元回転の生成子を束ねたものです。

括弧積を計算すれば、巡回的な関係が得られます。

$$ [J_x, J_y] = J_z, \quad [J_y, J_z] = J_x, \quad [J_z, J_x] = J_y $$

一方、$\mathfrak{sp}(1) \cong \mathfrak{su}(2)$側で基底を$i/2,\ j/2,\ k/2$に取り直すと、$[i,j] = 2k$などから、

$$ \left[\frac{i}{2}, \frac{j}{2}\right] = \frac{2k}{4} = \frac{k}{2} $$

となり、同じく巡回的な関係になります。つまり$i/2 \Leftrightarrow J_x,\ j/2 \Leftrightarrow J_y,\ k/2 \Leftrightarrow J_z$という対応で構造定数が一致するため、リー代数としては同型です。

$$ \mathfrak{su}(2) \cong \mathfrak{so}(3) $$

基底に付いた$1/2$は、共役作用の半角にほかなりません。$\exp(i\theta/2)$が角度$\theta$の回転$\exp(\theta J_x)$を与えるため、リー代数の対応では$i/2$と$J_x$が組になります。

この対応は、$\rho$の単位元での微分が$\mathfrak{su}(2)$から$\mathfrak{so}(3)$への線形同型になること($\rho_{\exp(i\theta/2)}=\exp(\theta J_x)$の微分)を意味します。したがって$\rho$は局所的に微分同相であり、2対1であることと合わせて二重被覆であることが確認できます。

リー群としては2対1で異なるのに、リー代数としては同型になります。これはリー代数が単位元近傍の局所的な構造だけを見ており、「一周すると2対1になる」といった大域的な違いを区別できないことを意味します。リー代数はリー群の強力な道具ですが、すべてを捉えるわけではないことを示す好例です。

半角がそのまま基底に現れる

$q = \exp(i\theta/2)$は、$i\cdot(\theta/2)$ではなく$(i/2)\cdot\theta$と見ることもできます。こう括り直せば、回転角$\theta$そのものが$\exp$の係数となり、基底は$i/2$になります。半角という因子が、係数側ではなく基底側に移っただけとも言えます。

片側作用と両側作用

ここまで$\operatorname{SO}(3)$は生成子$J_x, J_y, J_z$のレベルで扱ってきましたが、群の元、つまり具体的な回転行列がどんな形かはまだ見ていませんでした。$\exp(\theta J_x)$を計算すると、おなじみの$x$軸周りの回転行列が得られます。

$$ \exp(\theta J_x) = \exp\begin{pmatrix} 0 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & -\theta \\ 0 & \theta & 0 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 1 & 0 & 0 \\ 0 & \cos\theta & -\sin\theta \\ 0 & \sin\theta & \cos\theta \end{pmatrix} $$

これは3次元ベクトル$x$に左から掛けるだけの$3\times3$行列で、$\exp(\theta J_x)x$という片側の積で回転が完結します。実際、前節で計算した$\rho_q(j) = j\cos\theta + k\sin\theta$、$\rho_q(k) = -j\sin\theta + k\cos\theta$($i$軸周りの回転)と、$j,k$成分を並べた行列として一致します。

この半角は、作用のしかたの違いとも対応しています。$\operatorname{SO}(3)$の元は上のようにベクトルに左から一方的に作用する(片側作用)のに対し、$\operatorname{SU}(2)$の元$q$は共役作用$x \mapsto qxq^{-1}$のように左右から挟む(両側作用)という形を取ります。両側から半角$\theta/2$ずつの作用が合わさって角度$\theta$になる、という構造そのものが、基底に$1/2$が付く理由の背景です。

両側作用を片側に押し込む

四元数を実行列で表現すれば、共役作用$x \mapsto qxq^{-1}$のような両側からの作用も、左右それぞれの実行列を掛け合わせた1つの行列による片側作用として書き直せます。四元数全体への作用としてはまず$4\times4$の$\operatorname{diag}(1,R)$となり、純虚部分への制限が$\operatorname{SO}(3)$の回転行列$R$です。7shi-qrot

まとめ

単位四元数全体はリー群$\operatorname{Sp}(1)$となり、図形としては3次元球面$S^3$です。行列表現を通して$\operatorname{Sp}(1) \cong \operatorname{SU}(2)$であり、そのリー代数$\mathfrak{sp}(1) \cong \mathfrak{su}(2)$は純虚四元数全体で、基底は$i, j, k$の3つです。

$\operatorname{U}(1)$との最大の違いは非可換性です。リー代数では$[i, j] = 2k$のように$0$でない括弧積として現れ、これは3次元ベクトルの外積と(2倍を除いて)一致します。また、指数法則$\exp(x)\exp(y) = \exp(x+y)$は方向の異なる元に対しては一般には成り立ちません。

単位四元数の共役作用$x \mapsto qxq^{-1}$は3次元の回転を与えますが、$q$と$-q$が同じ回転になるため対応は2対1です(二重被覆)。リー群として$\operatorname{SU}(2)$と$\operatorname{SO}(3)$は同型ではありませんが、リー代数としては$\mathfrak{su}(2) \cong \mathfrak{so}(3)$と同型であり、リー代数が局所的な構造のみを捉えることの現れです。

参考文献

投稿日:7月9日
更新日:17時間前
数学の力で現場を変える アルゴリズムエンジニア募集 - Mathlog served by OptHub

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。

投稿者

7shi
7shi
52
16121

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中