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応用数学解説
文献あり

ベクトルの幾何積と指数関数

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ベクトルの幾何積が内積と外積の和として2次元平面上の操作に帰着される仕組みを解き明かし、その構造がオイラーの公式を通じて指数関数で統一的に表現できることを示します。

改訂履歴
  • 2026.10.04 2次元の外積を符号付き面積として扱い、複素数との対応を四元数とそろえて$i\cong e_2e_1$に変更、回転子の説明と3次元の回転計算の誤記を修正、$p^2=-1$の証明を追加

概要

ベクトル空間において、通常のベクトルの内積はスカラーとなるため可逆な積を作れず、外積(3次元のクロス積)はベクトルになりますが結合法則を満たしません。これに対してクリフォード代数の幾何積は、内積と外積(ウェッジ積)を1つの積の中に統合した結合的な積です。ユークリッド計量では、非零ベクトル$a$は逆元$a^{-1}=a/|a|^2$を持ちます。

本記事では、幾何積の構造を2次元および3次元空間で具体的に計算し、次元に関わらず2本のベクトルがなす幾何積が本質的に2次元平面上の操作に帰着されることを解き明かします。さらに、単位面積に規格化した単純2ベクトル(向き付き面)の2乗が$-1$となることから、オイラーの公式を通じて幾何積が指数関数として簡潔に表現できること、そしてこの構造が2次元では複素数、3次元では四元数と自然に対応することを示します。

前提知識として、以下を仮定します。

  • 線形代数の初歩(ベクトルの内積、ノルム、回転行列)
  • オイラーの公式 $\exp(i\theta) = \cos\theta + i\sin\theta$
  • クリフォード代数による回転と鏡映の初歩。7shi-clrt7shi-mir

本記事は次のように進めます。

  1. 幾何積の定義:ユークリッド空間の基底ベクトルの反交換性から幾何積を定義し、内積と外積の和への分解を導きます。
  2. 2次元ベクトルの幾何積:2次元平面上で幾何積を計算し、直交回転を用いて内積・外積の幾何学的意味を確かめます。さらに2乗が$-1$となる2ベクトル$e_1e_2$によって指数関数表示を導き、複素数との対応を確認します。
  3. 3次元ベクトルの幾何積:3次元空間で幾何積を計算し、3軸の回転によって2本のベクトルを$xy$平面上に乗せることで、任意の幾何積が2次元の関係に帰着されることを証明します。
  4. 四元数との対応:3次元の偶数グレード部分(スカラーと2ベクトル)を取り出し、四元数の代数構造が幾何積の中に現れる仕組みを解明します。

本記事ではユークリッド計量を持つ2次元および3次元ベクトル空間の幾何積を扱い、ミンコフスキー計量(時空代数)や共形幾何代数(CGA)への一般化は扱いません。

幾何積の定義

ベクトル空間において、内積はスカラーを生じるため可逆な積を作れず、外積(クロス積)は3次元特有で結合法則を満たしません。そこで、非零ベクトルが逆元を持つ結合的な積として、内積と外積を併せ持つ積を要請します。

実ユークリッド空間の正規直交基底$e_i$について、単位元を持つ結合代数で、積は双線形に拡張するものとし、基底の積を次のように定義します。

基底の幾何積

$$ e_ie_j=\begin{cases} 1 & (i = j) \\ -e_je_i & (i \ne j) \end{cases} $$

このように定義されるクリフォード代数の積を幾何積と呼びます。この定義は以下の2つの重要な性質を示しています。

  1. 同じ基底ベクトルの積は1となる(ユークリッド空間の場合)
  2. 異なる基底ベクトルの積の順番を交換すれば、符号が反転する(反交換性)

この代数構造は、ベクトル空間の幾何学的性質を代数的に表現します。例えば、ベクトルの回転や鏡映などの操作を、この代数を用いて簡潔に表現できます。7shi-clrt7shi-mir

計量

同じ基底ベクトルの積の値は計量に依存します。ミンコフスキー空間では一部の基底で$-1$となります。本記事ではユークリッド空間に限定して、計量がすべて$1$のケースだけを扱います。

2次元ベクトルの幾何積

2次元のクリフォード代数において、基底ベクトル$e_1,e_2$は以下の性質を持ちます。

2次元基底の性質

$$ e_1^2 = e_2^2 = 1,\quad e_1e_2 = -e_2e_1 $$

クリフォード代数の元$a = a_1e_1 + a_2e_2$と$b = b_1e_1 + b_2e_2$の幾何積は次のように計算されます。

$$ \begin{aligned} ab &=(a_1e_1+a_2e_2)(b_1e_1+b_2e_2) \\ &= a_1b_1\underbrace{e_1e_1}_1 + a_1b_2e_1e_2 + a_2b_1\underbrace{e_2e_1}_{-e_1e_2} + a_2b_2\underbrace{e_2e_2}_1 \\ &= a_1b_1 + a_1b_2e_1e_2 - a_2b_1e_1e_2 + a_2b_2 \\ &= (a_1b_1 + a_2b_2) + (a_1b_2 - a_2b_1)e_1e_2 \end{aligned} $$

上記の結果から、クリフォード代数における内積と外積(ウェッジ積)を次のように定義します。

2次元の内積と外積

内積 $a \cdot b = a_1b_1 + a_2b_2$

外積 $a \wedge b = (a_1b_2 - a_2b_1)e_1e_2$

ベクトルの幾何積は、内積と外積の和として表現されます。

幾何積の分解

$$ ab = a \cdot b + a \wedge b $$

$ba=a\cdot b-a\wedge b$なので、内積と外積は積から次のように取り出せます。

$$ a\cdot b=\frac12(ab+ba),\quad a\wedge b=\frac12(ab-ba) $$

回転による内積・外積の幾何学的解釈

$a$と$b$の相対的な位置関係を確認します。以下では$a,b$は零ベクトルでないとします。$a$を基準として座標を表すため、$a$を$x$軸上に移動させる回転を考えます。

基底変換との関係

考え方としては基底の変換ですが、説明を単純化するため成分の変換として進めます。

ここではクリフォード代数での回転はまだ導入していないため、通常の回転行列で考えます。

2次元の回転行列

$$ R(\theta) = \begin{pmatrix}   \cos\theta & -\sin\theta \\   \sin\theta &  \cos\theta \end{pmatrix} $$

$a$の偏角を$\phi$として極座標表示します。

$$ \begin{pmatrix}a_1 \\ a_2\end{pmatrix} =|a|\begin{pmatrix}\cos\phi \\ \sin\phi\end{pmatrix} $$

ここで、各値は次の通りです。

$$ |a| = \sqrt{a_1^2+a_2^2}, \quad \cos\phi = \frac{a_1}{|a|}, \quad \sin\phi = \frac{a_2}{|a|} $$

$a$を$x$軸上に移動させる回転は角度$-\phi$で行われます。

$$ \begin{aligned} R(-\phi)\begin{pmatrix}a_1 \\ a_2\end{pmatrix} &=\begin{pmatrix}\cos\phi & \sin\phi \\ -\sin\phi & \cos\phi\end{pmatrix}   \begin{pmatrix}a_1 \\ a_2\end{pmatrix} \\ &=\begin{pmatrix}\frac{a_1}{|a|} & \frac{a_2}{|a|} \\ -\frac{a_2}{|a|} & \frac{a_1}{|a|}\end{pmatrix}   \begin{pmatrix}a_1 \\ a_2\end{pmatrix} \\ &=\frac1{|a|}   \begin{pmatrix}a_1 & a_2 \\ -a_2 & a_1\end{pmatrix}   \begin{pmatrix}a_1 \\ a_2\end{pmatrix} \\ &=\frac1{|a|}   \begin{pmatrix}a_1^2+a_2^2 \\ -a_2a_1+a_1a_2\end{pmatrix} \\ &=\begin{pmatrix}|a| \\ 0\end{pmatrix} \end{aligned} $$

この回転を$b$にも適用します。

$$ \begin{aligned} R(-\phi)\begin{pmatrix}b_1 \\ b_2\end{pmatrix} &=\frac1{|a|}   \begin{pmatrix}a_1 & a_2 \\ -a_2 & a_1\end{pmatrix}   \begin{pmatrix}b_1 \\ b_2\end{pmatrix} \\ &=\frac1{|a|}\begin{pmatrix}a_1b_1+a_2b_2 \\ -a_2b_1+a_1b_2\end{pmatrix} \end{aligned} $$

回転後の$b$の偏角を$\theta$とすれば、これは$a$と$b$の間の角度となります。$\theta$は$a$から$b$へ反時計回りに測った符号付きの角度で、$-\pi<\theta\le\pi$の範囲を動きます。$b$を極座標表示すれば、回転は長さを保存することより、次のようになります。

$$ |b|\begin{pmatrix}\cos\theta \\ \sin\theta\end{pmatrix} =\frac1{|a|}\begin{pmatrix}a_1b_1+a_2b_2 \\ a_1b_2-a_2b_1\end{pmatrix} $$

両辺に$|a|$を掛ければ、次の式が得られます。

$$ \begin{aligned} |a||b|\cos\theta &= a_1b_1 + a_2b_2 \\ |a||b|\sin\theta &= a_1b_2 - a_2b_1 \end{aligned} $$

これらの式は、内積と外積の幾何学的意味を明確に示します。

2次元の内積

$$ |a||b|\cos\theta = a_1b_1 + a_2b_2 = a \cdot b $$

これは内積の定義そのものです。幾何学的には、ベクトル$b$からベクトル$a$方向へ垂線を下ろして射影することで方向を揃え、$|a|$と、$a$の正方向を基準とした$b$の符号付き射影長$|b|\cos\theta$を掛けたものを表します。

2次元の外積

$$ a \wedge b = (a_1b_2 - a_2b_1)e_1e_2 = |a||b|\sin\theta\,e_1e_2 $$

係数$a_1b_2 - a_2b_1$は、$a$と$b$が張る平行四辺形の符号付き面積を表します。$a$から$b$へ反時計回りに回る場合($0<\theta<\pi$)は正、時計回りに回る場合($-\pi<\theta<0$)は負で、どちらを正とするかは$e_1e_2$($e_1$から$e_2$への向き)で決まります。

符号付き面積と面積の大きさ

面積の大きさは$|a \wedge b|=|a_1b_2 - a_2b_1|$です。係数をこれと等置すると$\sin\theta \ge 0$という制限が付き、$b$が$a$から時計回りの側にある場合を表せません。

2次元の幾何積

$$ \begin{aligned} ab &= a \cdot b + a \wedge b \\ &= (a_1b_1 + a_2b_2) + (a_1b_2 - a_2b_1)e_1e_2 \\ &= |a||b|(\cos\theta + \sin\theta\,e_1e_2) \end{aligned} $$

幾何積には内積と外積の両方が含まれることから、幾何学的な問題を代数的に扱うことができ、より高次元の空間や複雑な幾何学的操作を扱う際に有用です。

指数関数による表現

外積に現れる2次の基底$e_1e_2$の2乗を計算します。交換によって同じ基底を並べることで相殺させます。

$$ (e_1e_2)^2=e_1\underbrace{e_2e_1}_{-e_1e_2}e_2=-\underbrace{e_1e_1}_1\underbrace{e_2e_2}_1=-1 $$

このように2乗が$-1$になり、$e_1e_2$は虚数単位$i$と同じ性質を持ちます。符号を反転した$e_2e_1=-e_1e_2$も同様です。

複素数におけるオイラーの公式はクリフォード代数でも成り立ちます。

オイラーの公式

\begin{aligned} e^{i\theta} &= \cos\theta + i\sin\theta \\ e^{\theta\,e_1e_2} &= \cos\theta + \sin\theta\,e_1e_2 \end{aligned}

ベクトルの幾何積も、指数関数でまとめることが可能です。

幾何積と指数関数の関係

\begin{aligned} ab &= |a||b|(\cos\theta + \sin\theta\,e_1e_2) \\ &= |a||b|e^{\theta\,e_1e_2} \end{aligned}

複素数との対応

複素数との対応付け

$i \cong e_2e_1$

この対応付けは、より大きな代数$\operatorname{Cl}_{2,0}(\mathbb R)$の中では、虚数単位に対応する元を2本のベクトルの積$e_2e_1$として表せることを意味します。$e_1e_2$ではなく$e_2e_1$を選ぶのは、複素数で$i$を左から掛けると$1\mapsto i$となるのと同じく、$e_2e_1$を左から掛けると$e_1\mapsto e_2$となるためです。

$$ (e_2e_1)e_1=e_2,\qquad (e_1e_2)e_1=-e_2 $$

ベクトル$v=v_1e_1+v_2e_2$に右から$e_1$を掛けると$ve_1=v_1+v_2e_2e_1$となり、この対応で複素数$v_1+iv_2$に移ります。

この対応で内積と外積がそのまま実部と虚部に現れるのは、$ab$ではなく、順序を入れ替えた$ba$です。$b\wedge a=-a\wedge b$なので、$a\wedge b$の$e_1e_2$の係数は、$b\wedge a$では$e_2e_1$の係数になります。

$$ ba=a\cdot b+b\wedge a=(a_1b_1+a_2b_2)+(a_1b_2-a_2b_1)\,e_2e_1 $$

間に$e_1e_1(=1)$を挟むことで、複素数の計算に変換できます。複素共役を${}^*$で表せば、次のようになります。

$$ \begin{aligned} (b_1e_1+b_2e_2)(a_1e_1+a_2e_2) &=(b_1e_1+b_2e_2)e_1e_1(a_1e_1+a_2e_2) \\ &=(b_1e_1e_1+b_2e_2e_1)(a_1e_1e_1+a_2e_1e_2) \\ &=(b_1+b_2e_2e_1)(a_1-a_2e_2e_1) \\ &\cong(b_1+ib_2)(a_1-ia_2) \\ &=(a_1+ia_2)^*(b_1+ib_2) \end{aligned} $$

よって、複素数での左側の因子を複素共役とすれば、実部が内積、虚部が外積($a$から$b$への符号付き面積)となり、幾何積$ba$と同一の結果が得られます。

また、計算の途中でオイラーの公式を使うことにより、偏角の差が得られることも確認できます。$a,b$の偏角を$\alpha,\beta$とすれば、次のようになります。

$$ \begin{aligned} (a_1+ia_2)^*(b_1+ib_2) &=(a_1-ia_2)(b_1+ib_2) \\ &=|a|e^{-i\alpha}|b|e^{i\beta} \\ &=|a||b|e^{i(\beta-\alpha)} \end{aligned} $$

$a$から$b$への角$\theta$は、$\beta-\alpha$を$2\pi$を法として$-\pi<\theta\le\pi$の代表値に取ったものとします。$e^{i\theta}$は$2\pi$の差に依らないので、幾何積の側では次のようになります。

$$ ba=|a||b|e^{\theta\,e_2e_1}\cong|a||b|e^{i\theta} $$

$ba$は$ab=|a||b|e^{\theta\,e_1e_2}$の反転で、2ベクトルの符号だけが異なります。$(ba)a=|a|^2b$のように、$ba$は$a$に左から掛けると$b$の向きへ移す元です。$ab$が$a$から$b$への向き(符号付き面積)をそのまま$e_1e_2$で表すのに対し、$ba$はその向きに回す作用を$e_2e_1\cong i$で表しており、複素数の$a^*b$に対応するのはこちらです。

左から$e_1$を掛けて$e_1v=v_1+v_2e_1e_2$とし、$i\cong e_1e_2$と対応させることもできます。その場合は$ae_1=a_1-a_2e_1e_2\cong a_1-ia_2$、$e_1b\cong b_1+ib_2$なので、$ab=(ae_1)(e_1b)$がそのままの並びで$a^*b$に移ります。本記事では、後で見る四元数との対応とそろえるために$i\cong e_2e_1$を選びます。

回転子との関係

2本の単位ベクトル$m,n$の積から回転を作るときは、$ba$と同じ並びの$nm$を回転子とします。$m$から$n$への角度を$\theta$とすると、$nm$は$m$に左から掛けると$n$に移す元($(nm)m=n$)で、2次元では左から掛ける作用が$\theta$の回転を表します。一方、ベクトルを左右から挟む作用$v\mapsto(nm)\,v\,(nm)^{-1}$は$2\theta$の回転です。複素数では$nm$は$m^*n=e^{i\theta}$に対応し、前者は$z\mapsto e^{i\theta}z$、後者は$z\mapsto e^{2i\theta}z$にあたります。

このように2次元では、幾何積と同じ計算が複素数でも可能です。ただし、複素数とは異なり、クリフォード代数は基底を追加するだけで次元を上げることができます。

3次元ベクトルの幾何積

クリフォード代数は次元が上がっても幾何積の性質が変わらないことを、3次元を例に確認します。

3次元のクリフォード代数において、基底ベクトル$e_1,e_2,e_3$は以下の性質を持ちます。

3次元基底の性質

$$ \begin{aligned} &e_1^2 = e_2^2 = e_3^2 = 1 \\ &e_1e_2 = -e_2e_1,\quad e_2e_3 = -e_3e_2,\quad e_3e_1 = -e_1e_3 \end{aligned} $$

$a = a_1e_1 + a_2e_2 + a_3e_3$と$b = b_1e_1 + b_2e_2 + b_3e_3$の幾何積は次のように計算されます。

$$ \begin{aligned} &(a_1e_1 + a_2e_2 + a_3e_3)(b_1e_1 + b_2e_2 + b_3e_3) \\ &=(a_1b_1 + a_2b_2 + a_3b_3) + (a_1b_2 - a_2b_1)e_1e_2 + (a_2b_3 - a_3b_2)e_2e_3 + (a_3b_1 - a_1b_3)e_3e_1 \end{aligned} $$

この結果から、3次元クリフォード代数における内積と外積を次のように定義します。

3次元の内積と外積

内積 $a \cdot b = a_1b_1 + a_2b_2 + a_3b_3$

外積 $a \wedge b = (a_1b_2 - a_2b_1)e_1e_2 + (a_2b_3 - a_3b_2)e_2e_3 + (a_3b_1 - a_1b_3)e_3e_1$

クリフォード代数の積は、この内積と外積の和として表現されます。

$$ ab = a \cdot b + a \wedge b $$

回転による2次元への帰着

ベクトル空間の次元に関わらず、平行でない2本のベクトルは2次元の部分空間を張ります。回転によって2本のベクトル$a,b$を$xy$平面上に乗せることで、成分を確認します。

次元を削減するため、次のような順番で回転させます。

  1. $yz$平面上での角度$\theta_1$回転によって、$a$の$z$成分を$0$にする
  2. $xy$平面上での角度$\theta_2$回転によって、$a$の$y$成分を$0$にする
  3. $yz$平面上での角度$\theta_3$回転によって、$b$の$z$成分を$0$にする

2次元に帰着させるには$a,b$の$z$成分を$0$にすれば良いのですが、3番目の回転によって$a$の$z$成分が影響を受けないように、2番目の回転で$y$成分を$0$にします。

必要な回転行列を定義します。

3次元の回転行列

$$ R_{xy}(\theta) = \begin{pmatrix} \cos\theta & -\sin\theta & 0 \\ \sin\theta & \cos\theta & 0 \\ 0 & 0 & 1 \end{pmatrix}, \quad R_{yz}(\theta) = \begin{pmatrix} 1 & 0 & 0 \\ 0 & \cos\theta & -\sin\theta \\ 0 & \sin\theta & \cos\theta \end{pmatrix} $$

1. $yz$平面上での角度$\theta_1$回転

$a$の$y,z$成分を極座標で表現します。

$$ r_1 = \sqrt{a_2^2 + a_3^2}, \quad \cos\theta_1 = \frac{a_2}{r_1}, \quad \sin\theta_1 = \frac{a_3}{r_1} $$

$r_1=0$($a$がすでに$x$軸上にある)のときは第1回転を省略し、$\theta_1=0$とします。以下の$r_1$で割る式は$r_1\ne0$の場合です。

回転結果$\vec{a}',\vec{b}'$を計算します。

$$ \begin{alignedat}{2} \vec{a}' &= R_{yz}(-\theta_1)\vec{a} &&= \begin{pmatrix}   a_1 \\ r_1 \\ 0 \end{pmatrix}\\ \vec{b}' &= R_{yz}(-\theta_1)\vec{b} &&= \begin{pmatrix}   b_1 \\ \frac{a_2b_2 + a_3b_3}{r_1} \\ \frac{a_2b_3 - a_3b_2}{r_1} \end{pmatrix} \end{alignedat} $$

2. $xy$平面上での角度$\theta_2$回転

$\vec{a}'$の$x,y$成分を極座標で表現します。

$$ r_2 = \sqrt{a_1^2 + r_1^2}, \quad \cos\theta_2 = \frac{a_1}{r_2}, \quad \sin\theta_2 = \frac{r_1}{r_2} $$

回転結果$\vec{a}'',\vec{b}''$を計算します。

$$ \begin{alignedat}{2} \vec{a}'' &= R_{xy}(-\theta_2)\vec{a}' &&= \begin{pmatrix}   r_2 \\ 0 \\ 0 \end{pmatrix} \\ \vec{b}'' &= R_{xy}(-\theta_2)\vec{b}' &&= \begin{pmatrix}   \frac{a_1b_1 + a_2b_2 + a_3b_3}{r_2} \\   \frac{a_1(a_2b_2 + a_3b_3) - r_1^2b_1}{r_1r_2} \\   \frac{a_2b_3 - a_3b_2}{r_1} \end{pmatrix} \end{alignedat} $$

3. $yz$平面上での角度$\theta_3$回転

$\vec{a}''$の$y,z$成分が$0$であることから、$\vec{a}'''=\vec{a}''$となります。
$\vec{b}''$の$y,z$成分を極座標で表現します。

$$ r_3 = \sqrt{(b''_2)^2 + (b''_3)^2}, \quad \cos\theta_3 = \frac{b''_2}{r_3}, \quad \sin\theta_3 = \frac{b''_3}{r_3} $$

回転結果$\vec{b}'''$を計算します。

$$ \vec{b}''' = R_{yz}(-\theta_3)\vec{b}'' = \begin{pmatrix} \frac{a_1b_1 + a_2b_2 + a_3b_3}{r_2} \\ r_3 \\ 0 \end{pmatrix} $$

以上で、$\vec{a}''',\vec{b}'''$は$xy$平面上のベクトルとなり、2次元の関係に帰着しました。

$r_1,r_2,r_3$を展開して整理した結果を示します。

$$ \begin{aligned} \vec{a}''' &= \begin{pmatrix}   |a| \\ 0 \\ 0 \end{pmatrix} \\ \vec{b}''' &= \frac1{|a|}\begin{pmatrix}   a_1b_1 + a_2b_2 + a_3b_3 \\   \sqrt{(a_1b_2 - a_2b_1)^2 + (a_2b_3 - a_3b_2)^2 + (a_3b_1 - a_1b_3)^2} \\   0 \end{pmatrix} \end{aligned} $$

次元を上げても同様の手順で2次元の関係に帰着できます。$n$次元において、2つの基底が張る平面上での回転を、$a$を基準に$n-1$回、$b$を基準に$n-2$回行います。

内積・外積

$\vec{b}'''$を極座標表示すれば、偏角$\theta$は$a,b$間の角度となります。これによって3次元のクリフォード代数で計算した内積・外積が、2次元と同じ関係になることが確認できます(成分は異なります)。

3次元の内積と外積

内積 $a \cdot b = |a||b|\cos\theta = a_1b_1 + a_2b_2 + a_3b_3$

外積 $|a \wedge b| = |a||b|\sin\theta = \sqrt{(a_1b_2 - a_2b_1)^2 + (a_2b_3 - a_3b_2)^2 + (a_3b_1 - a_1b_3)^2}$

この結果は、3次元のクリフォード代数における内積と外積の幾何学的解釈が、2次元の場合と同様であることを示しています。

外積における角度の範囲

3次元では$a$と$b$が張る面がベクトルの組ごとに異なり、2次元の$e_1e_2$のように全体で共通する向きの基準がないため、平面の向きを別途選ばなければ、2次元と同じ意味での符号付き角度は定まりません。本記事では外積の大きさ$|a \wedge b| \ge 0$を取り、$b'''_2$が正となるように回転させます。このため$\theta$は$0\le\theta\le\pi$の範囲に取り、$\sin\theta \ge 0$となります。面の向きは、後で外積を規格化した2ベクトル$p$が担います。$p$を$-p$に取り替えることは、2次元で$\theta$を$-\theta$にすることに当たります。

なお、$a \wedge b$が3項あるのは、$a$と$b$が張る平行四辺形を$xy,yz,zx$の各平面上に射影した面積に対応しています。

$$ a \wedge b = (a_1b_2 - a_2b_1)e_1e_2 + (a_2b_3 - a_3b_2)e_2e_3 + (a_3b_1 - a_1b_3)e_3e_1 $$

外積は、$a$と$b$が張る平面の向きを表す単位2ベクトル$p$を使えば、1項で表現できます。$p$は外積の規格化(大きさを1にすること)で得られます。ただし、規格化できるのは$a,b$が平行でない場合に限ります。平行($\theta=0$)・反平行($\theta=\pi$)では$a \wedge b=0$で、幾何積はスカラー$\pm|a||b|$になり、規格化は不要です。指数関数表示を使うときは、両ベクトルを含む平面の単位2ベクトルを別に選びます。

単位2ベクトル

$$ \begin{aligned} p &= \frac{a \wedge b}{|a \wedge b|} \quad (a,b\text{は平行でない}) \\ a \wedge b &= |a||b|\sin\theta\,p \end{aligned} $$

規格化した$p$の2乗は$-1$になります。

単位2ベクトルの2乗

$$ p^2=-1 $$

$ab=a\cdot b+a\wedge b$、$ba=a\cdot b-a\wedge b$である。$a\cdot b$はスカラーで任意の元と可換なので、
$$ (ab)(ba)=(a\cdot b)^2-(a\wedge b)^2 $$
となる。一方、$bb=|b|^2$、$aa=|a|^2$より
$$ (ab)(ba)=a(bb)a=|a|^2|b|^2 $$
である。したがって
$$ (a\wedge b)^2=(a\cdot b)^2-|a|^2|b|^2=-|a|^2|b|^2\sin^2\theta=-|a\wedge b|^2 $$
を得る。$a\wedge b\ne0$なので、これを$|a\wedge b|^2$で割れば$p^2=-1$である。

指数関数

$p$によって幾何積を表現すれば、指数関数でも表現できます。指数関数を冪級数で定義すると、$p^2=-1$より偶数次の項は$\cos\theta$、奇数次の項は$\sin\theta\,p$の級数になるため、オイラーの公式と同様に$e^{\theta p}=\cos\theta+\sin\theta\,p$が成り立ちます。

任意次元の幾何積の指数関数表示

\begin{aligned} ab &= a \cdot b + a \wedge b \\ &= |a||b|(\cos\theta + \sin\theta\,p) \\ &= |a||b|e^{\theta\,p} \end{aligned}

四元数との対応

2次元のクリフォード代数の偶数グレードの部分(スカラーと2ベクトル)が複素数に対応したように、3次元では偶数グレードの部分が四元数に対応します。7shi-qcl

四元数との対応付け

$$ i \cong e_3e_2,\quad j \cong e_1e_3,\quad k \cong e_2e_1 $$

$k \cong e_2e_1$は、2次元の複素数の対応付け$i \cong e_2e_1$と同じ形です。$xy$平面の複素数は、四元数の$1,k$が張る平面として埋め込まれます。

対応関係は、幾何積の間に$-e_3e_2e_1e_3e_2e_1(=1)$を挟むことで得られます。

$$ \begin{aligned} &(a_1e_1 + a_2e_2 + a_3e_3)(b_1e_1 + b_2e_2 + b_3e_3) \\ &=(a_1e_1 + a_2e_2 + a_3e_3)(-e_3e_2e_1e_3e_2e_1)(b_1e_1 + b_2e_2 + b_3e_3) \\ &=-(a_1e_3e_2 + a_2e_1e_3 + a_3e_2e_1)(b_1e_3e_2 + b_2e_1e_3 + b_3e_2e_1) \\ &\cong-(a_1i+a_2j+a_3k)(b_1i+b_2j+b_3k) \\ &=(a_1b_1 + a_2b_2 + a_3b_3) - (a_1b_2 - a_2b_1)k - (a_2b_3 - a_3b_2)i - (a_3b_1 - a_1b_3)j \\ &\cong(a_1b_1 + a_2b_2 + a_3b_3) - (a_1b_2 - a_2b_1)e_2e_1 - (a_2b_3 - a_3b_2)e_3e_2 - (a_3b_1 - a_1b_3)e_1e_3 \\ &=(a_1b_1 + a_2b_2 + a_3b_3) + (a_1b_2 - a_2b_1)e_1e_2 + (a_2b_3 - a_3b_2)e_2e_3 + (a_3b_1 - a_1b_3)e_3e_1 \end{aligned} $$

挟んだ部分に由来するマイナスは、虚部のみの四元数の積から得られる内積が符号反転することに関連します。純虚四元数$A=a_1i+a_2j+a_3k$、$B=b_1i+b_2j+b_3k$の積は次のようになります。

純虚四元数の積の内積と外積

\begin{aligned} AB &= -(A \cdot B) + A \times B \\ &=-(a_1b_1 + a_2b_2 + a_3b_3) + (a_2b_3 - a_3b_2)i + (a_3b_1 - a_1b_3)j + (a_1b_2 - a_2b_1)k \\ \end{aligned}

外積

四元数の外積はウェッジ積ではなくベクトル積(クロス積)です。四元数の基底は反交換性を持つため、対応付けに複素数のような共役は現れません。

パウリ行列と双四元数

3次元のクリフォード代数を行列で表現したのがパウリ行列です。また、四元数の係数を複素化した双四元数によっても、対応付けが得られます。7shi-bq

まとめ

本記事では、2次元および3次元空間を題材として、ベクトルの幾何積が内積と外積の和として定義され、2次元平面上の操作に帰着される構造を明らかにしました。

平行でない2つのベクトルが張る部分空間は、周囲の空間の次元によらず2次元であり、適切な直交回転によって幾何積の計算は2次元平面に帰着されます。単位面積に規格化した単純2ベクトル(向き付き面)の2乗が$-1$となることから、オイラーの公式を通して幾何積は指数関数で表されます。

この構造により、偶数グレード部分を取り出すことで、2次元では複素数($i \cong e_2e_1$)、3次元では四元数($i \cong e_3e_2,\ j \cong e_1e_3,\ k \cong e_2e_1$)の代数構造が幾何積の中に現れることを確認しました。

幾何積の分解と指数関数表示

$\theta$をなす角、$p = \dfrac{a \wedge b}{|a \wedge b|}\ (p^2=-1)$とすると、次のようになる($a,b$が平行でない場合)。
$$ \begin{aligned} ab &= a \cdot b + a \wedge b \\ &= |a||b|(\cos\theta + \sin\theta\,p) \\ &= |a||b|e^{\theta\,p} \end{aligned} $$

参考文献

投稿日:2024年7月23日
更新日:1日前
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