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大学数学基礎解説
文献あり

楕円関数の黎明期の研究1:レムニスケート

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はじめに

楕円関数の黎明期の研究をいくつか読んだので、順番に解説します。ここでは ライプニッツ記法の正しい扱い方 で解説したdx,dyをわける微分法を使います。
追記:数式を修正しました。

三角関数と積分

dx1+x2という積分はx=tanθとおくことで解けることをみなさんご存知だと思います。しかしこれ、できすぎじゃないでしょうか。三角関数はもともと、円の弧長とその座標の関係を表す関数でした。曲線の孤長と座標の関係はそもそも積分であり、円の場合、arcsin(x)=dx1x2,arctan(x)=dx1+x2のように表されます。これは三角関数の定義そのものなので、三角関数で置換すれば解けるに決まってるのです。また円周率もπ=201dx1x2という定積分で表せます。

最終奥義「名付ける」

円の孤長と座標という代数を超越した関係に、最終奥義「名付ける」を使って生まれたものが三角関数と円周率です。三角関数が考案されなかった世界では三角関数の定理が以下のように述べられていたかもしれません。

  1. dx1+x2という積分はu=2x1x2と置換すると以下のようになる。
    2dx1+x2=du1+u2
  2. X=1x2,Y=1y2,Z=1z2として
    0xdxX+0ydyY=0zdzZ
    を満たすx,y,zの関係はZ=XYxyとなる。

Fagnanoの発見

これからオイラーの時代のレムニスケートの研究E252を紹介します。
レムニスケート : !FORMULA[13][1297673966][0] レムニスケート : (x2+y2)2=x2y2
上図はレムニスケートと呼ばれ、(x2+y2)2=x2y2という式で表されます。(0,0),(1,0)をそれぞれO,Cとします。またP,R,Qをレムニスケート上の点とします。まず以下の性質があります。

孤長の公式

OP=zとすると弧長OP
OP=dz1z4

証明

z2=x2+y2,z4=x2y2なので
x2=z2+z42y2=z2z42
微分して
dx=z+2z32xdzdy=z2z32ydz
よって
dx2+dy2=z2dz24((1+2z2)2x2+(12z2)2y2)=dz22((1+z2+z2)21+z2+(1z2z2)21z2)=dz22((1+z)2+2z2(1+z2)+z41+z2+(1z)22z2(1z2)+z41z2)=dz2(1+z41z4)=dz21z4

Fagnanoは以下のような性質を発見しました。

孤長の共役の公式

u=1z21+z2
と置くと、弦CQ=uに対する弧長CQCQ=OPをみたし
dz1z4+du1u4=0
となる。

証明

du=2zdz(1+z2)21+z21z2
また
1+u2=21+z21u2=2z21+z2
より
1u4=4z2(1+z2)2
よって
du1u4=1+z21z2dz1+z2=dz1z4

この結果はdz1z4+du1u4=0という微分方程式の解がu2z2+u2+z2=1になることを示しています。微分方程式を解くセオリーは変数分離してそれぞれの項を独立に積分するというものでした。このため項別の積分ができないと、それ以上先に進むことはできません。しかしFagnanoの研究はこの「解けないタイプ」の微分方程式を解く方法を示しており、この結果にオイラーはとても驚いたそうです。またFagnanoは弧長の2倍の公式も見つけました。

孤長の2倍の公式

u=2z1z41+z4
と置くと、弦OR=uに対する弧長OROR=2OPをみたし
du1u4=2dz1z4
となる。

証明

du=21z41+z4+2z1+z42z31z48z41z4(1+z4)2=2(1+z4)21z4((1z4)(1+z4)2z4(1+z4)4z4(1z4))=2(16z4+z8)(1+z4)21z4
また
1u2=12z2z41+z41+u2=1+2z2z41+z4
より
1u4=16z4+z8(1+z4)2
よって
du1u4=2dz1z4

オイラーの研究

Fagnanoの研究の続き

オイラーはFagnanoの研究を進め、試行錯誤により弧長の三倍の公式がu=z(36z4z8)1+6z43z8であることを突き止めました。その後、tanの加法定理に類似した以下の公式をみつけました。

孤長の加法定理

x=OP,y=OQとしx,yの共役をそれぞれX=1x21+x2,Y=1y21+y2とする。OR=OP+OQが成り立つようなz=OR
z=xY+Xy1xyXY

証明

P=xY,Q=Xyとおくと
z=P+Q1PQ
ここで
dz=dP+dQ1PQ+(P+Q)(PdQ+QdP)(1PQ)2=(P2+1)dQ+(Q2+1)dP(1PQ)2
また
1z4=1(P+Q)4(1PQ)4=((1PQ)2+(P+Q)2)((1PQ)2(P+Q)2)(1PQ)4=(1+P2)(1+Q2)((1P)2(1Q)24PQ)(1PQ)4
よって
dz1z4=(1+P2)dQ+(1+Q2)dP(1+P2)(1+Q2)((1Q2)(1P2)4PQ)=1+P21+Q2dQ+1+Q21+P2dP(1Q2)(1P2)4PQ
ここで
1+P2=1+x21y21+y2=1+x2+y2x2y21+y21+Q2=1+y21x21+x2=1+x2+y2x2y21+x21P2=1x21y21+y2=1x2+y2+x2y21+y21Q2=1y21x21+x2=1+x2y2+x2y21+x2
よって
1+P21+Q2=1+x21+y2(1P2)(1Q2)=(1x2+y2+x2y2)(1+x2y2+x2y2)(1+x2)(1+y2)=(1x4)(1y4)+4x2y2(1+x2)(1+y2)4PQ=4xy1x21+x21y21+y2
よって
(1Q2)(1P2)4PQ=((1x4)(1y4)2xy)2(1+x2)(1+y2)
よって
dz1z4=(1+x2)dQ+(1+y2)dP(1x4)(1y4)2xy
ここで
dX=d(1x21+x2)=11x42x1+x2dx
より
dP=Ydx+xdY=dx1y21+y22xy1y4dy1+y2dQ=Xdy+ydX=dy1x21+x22xy1x4dy1+x2
よって
(1+x2)dQ+(1+y2)dP=(dx1x4+dy1y4)((1x4)(1y4)2xy)
よって
dz1z4=dx1x4+dy1y4

ラグランジュの方法による加法定理の導出

ラグランジュ考案オイラー改の方法E506で加法定理を導出してみます。

導出

X=1x4,Y=1y4,Z=1z4とし
0xdxX+0ydyY=0zdzZ
となるx,y,zの代数的関係を求めます。
dxX+dyY=0
となり、x=zのときy=0となるように積分定数を定めます。
dxX=dyY=dt
と置きます。dtは微小定数とします。
dxdt=Xdydt=Y
p=x+y,q=xyとおくと
dpdt=XYdqdt=X+Y
よって
dpdqdt2=XY=(x4y4)=12pq(p2+q2)
また
dx2dt2=X=1x4dy2dt2=Y=1y4
dtは定数であること、d(dx2)=2d2xdxであることに注意してそれぞれ微分して
d2xdt2=2x3d2ydt2=2y3
よって
d2pdt2=2(x3+y3)=12p(p2+3q2)d2qdt2=2(x3y3)=12q(q2+3p2)
dpdq/dt2の式と組み合わせると
qd2pdt2dpdqdt2=pq3pd2qdt2dpdqdt2=p3q
qd2pdpdqq2dt2=d(dp/q)dt2=pqpd2qdpdqp2dt2=d(dq/p)dt2=pq
これよりd(dp/q)=d(dq/p)よって
dp/qdq/p=Cdt
Cは任意定数であり、微小量の次元を合わすためにdtを導入しました。dp/dt=XY,dq/dt=X+Yより
C=XYqX+Yp=(XY)(x+y)(X+Y)(xy)x2y2=2xYyXx2y2
x=z,y=0のときX=Z,Y=1なのでC=2z/z2=2/z
よって
z=x2y2xYyX
分母分子にxY+yXをかけて
z=xY+yX1+x2y2
lmaddx=1x21+x2,y=1y21+y2として
z=xy+xy1xyxy
というものでした。これといまの式が同値であることを示します。この式の分母分子に1+xyxyをかけて
z=(xy+xy)(1+xyxy)1(xyxy)2
ここで
1(xyxy)2=1x2y2(1x2)(1y2)(1+x2)(1+y2)=(1+x2y2)(1+x2+y2x2y2)(1+x2)(1+y2)
また
(xy+xy)(1+xyxy)=(1+xy(1x2)(1y2)(1+x2)(1+y2))(x1y21+y2+y1x21+x2)=x(1+y21x21+x2)1y21+y2+y(1+x21y21+y2)1x21+x2=(1+x2+y2x2y2)(x1+x21y21+y2+y1+y21x21+x2)=1+x2+y2x2y2(1+x2)(1+y2)(x1y4+y1x4)
よって
z=xY+yX1+x2y2
これにより
xy+xy1xyxy=xY+yX1+x2y2
つまり
x1y21+y2+y1x21+x21xy(1x2)(1y2)(1+x2)(1+y2)=x1y4+y1x41+x2y2
という恒等式が示されました。ラグランジュの方法は求める式を得たあとも、それが既知の式と同値であることを示すのが大変なことがあります。三角関数の加法定理のときも
cosacosbsinasinb=cos(a+b)1sin(a+b)
という式が得られ、これをよく知られた加法定理に直すのは大変でした。

レムニスケート関数

弦と弧長の関係としての三角関数

レムニスケートの性質は弦と弧長の関係であり、円弧と座標の関係である三角関数とは少し違うようにみえます。しかし匿(Tock)さんの記事tokで面白いものを見つけました。それは下図のように、弦と円弧の関係としてsinθ,cosθが定義できることです。中心(1/2,0)半径1/2の円弧について、円弧上の点をPとし、円弧がx軸と交わる(0,0),(1,0)をそれぞれO,Cとします。そのとき、θ=OPとするとOP=sinθとなり、θ=OCとするとOP=cosθとなります。
!FORMULA[121][1303906751][0] sinθ,cosθ
正弦、余弦という言葉通りの定義になっています。

レムニスケート関数sl θ,cl θ

同じようにレムニスケートでも三角関数と類似したものが定義できます。
!FORMULA[123][-1440955886][0] sl,cl
これを使うと弧長の公式は
0xdx1x4=arcsl x
と表され、孤長の共役の公式は
cl2θ=1sl2θ1+sl2θ
と表されます。また
x1dx1x4=arccl x
となります。
cos2θ+sin2θ=1に対応する式は
cl2θ+sl2θ+cl2θ sl2θ=1
となります。また円周率の対応物としてレムニスケート周率ϖが定義されます。
ϖ=201dx1x4
これよりcl(θ)=sl(ϖ/2θ)となります。また微分の法則は
d(slθ)=(1+sl2θ)clθdθd(clθ)=(1+cl2θ)slθdθ
となります。加法定理は以下のようになります。
sl(a+b)=sl(a) cl(b)+sl(b) cl(a)1sl(a) sl(b) cl(a) cl(b)
ここでtangent sum operator ab:=arctan(tana+tanb)を導入すると面白いです。
cl2 asl2 b=1
sl(a+b)=sl a cl bcl a sl b

級数展開

まず、 arcslの級数表示を得ます。ニュートンの一般二項定理で積分の中を展開します。
arcsl x=dx1x4=dx(1x4)1/2=dx(1+12x4+1324x8+135246x12+13572468x16+ ..)=x+12x55+1324x99+135246x1313+13572468x1717+ ..
ここで
A=125B=13249C=13524613D=1357246817 ..
とします。すると
arcsl x=x(1+Ax4+Bx8+Cx12+Dx16+ ..)
ここで
x=sl t=a+bt+ct2+dt3+ ..
とすると
x=a+bx(1+Ax4+Bx8+Cx12+ ..)+cx2(1+Ax4+Bx8+Cx12+ ..)2+dx3(1+Ax4+Bx8+Cx12+ ..)3+ ..
これから係数比較によりa,b,c, ..を求めることができます。まずただちにa=0,b=1が求まります。またx2,x3,x4の項はt2,t3,t4の項にしかないためc=0,d=0,e=0となります。このような議論によりarcslの級数の次数と同じ項以外0になることが分かります。このため係数を置きなおし sl t=t(1+at4+bt8+ ..)
とします。x4=sとおいて簡潔にし両辺をxで割ると以下のような式が得られます。
1=(1+As+Bs2+Cs3+ ..)+as(1+As+Bs2+Cs3+ ..)5+bs2(1+As+Bs2+Cs3+ ..)9+cs3(1+As+Bs2+Cs3+ ..)13+ ..
これより以下の漸化式が得られます。
0=A+a0=B+(51)aA+b0=C+(52)aA2+(51)aB+(91)bA+c..
これより
a=1/10b=1/120c=11/15600..
よって
sl x=xx5/10+x9/12011x13/15600+ ..
sl x=x(1as+bs2cs3+ ..)とおくと
slx=15as+9bs213cs3+ ..
sl2x=x2(1as+bs2cs3+ ..)2=x2(12as+(a2+2b)s2(2ab+2c)3+(b2+2ac+2d)s4 ..)
微分の公式slx=(1+sl2x)cl xよりcl xの級数展開を求めます。上の展開式をみるとxの偶数次の項しか存在しないので
cl x=α+βx2+γx4+δx6 ..
とおきます。係数比較より
α=1β=1γ=1/2δ=3/10ϵ=7/40..
よって
sl x=xx5/10+x9/12011x13/15600+ ..cl x=1x2+x4/23x6/10+7x8/40+ ..
他にもいろいろな性質が https://en.wikipedia.org/wiki/Lemniscate_elliptic_functions
にのっています。またgaussのp404にガウスの研究があります。

楕円関数論

このように、三角関数の対応物がレムニスケートにもあることが分かりました。このようなものが他の曲線にもあるとすると、数学の探索領域がいっきに広がることが分かります。オイラーの研究の後、このようなものを一般に扱う研究が発展し、いまの楕円関数論となりました。
ありがとうございました。

参考文献

投稿日:2024318
更新日:2024320
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17世紀の数学を学び始めました。 https://www.17centurymaths.com/ このサイト素晴らしい。

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  2. 三角関数と積分
  3. 最終奥義「名付ける」
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  5. オイラーの研究
  6. Fagnanoの研究の続き
  7. ラグランジュの方法による加法定理の導出
  8. レムニスケート関数
  9. 弦と弧長の関係としての三角関数
  10. レムニスケート関数sl θ,cl θ
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  12. 楕円関数論
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