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応用数学解説
文献あり

四元数とホップファイブレーション 2 スピノルのテンソル積

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前回7shi-h、四元数の回転でホップファイブレーションを導出しました。その続きとして、具体的に成分を計算します。

シリーズ: ホップファイブレーション

改訂履歴:

  • 2026.07.14 回転子の定義を調整、内積・外積を削除、スピノルを補足説明、基準依存性を追記

パラメーターの調整

単位四元数による回転子$ω$$q$を定義します。

単位四元数による回転子

$$\begin{aligned} ω&=(α_0\mathbf{k}+α_1)+\mathbf{j}(β_0\mathbf{k}+β_1)&&(α_0^2+α_1^2+β_0^2+β_1^2=1) \\ q&=u+v\mathbf{k}&&(u^2+v^2=1) \end{aligned}$$

$q\mathbf kq^*=\mathbf k$より、$q$$\mathbf k$を固定するファイバーを構成するため、

$$ (ωq)\mathbf k(ωq)^*=ω\mathbf kω^* $$

となります。この自由度を使って、$ω$$\mathbf k$の項を消去した標準形を作ります。

$ωq$を計算します。

$$\begin{aligned} ωq&=\{(α_0\mathbf{k}+α_1)+\mathbf{j}(β_0\mathbf{k}+β_1)\}(u+v\mathbf{k}) \\ &=(α_0\mathbf{k}+α_1)(u+v\mathbf{k})+\mathbf{j}(β_0\mathbf{k}+β_1)(u+v\mathbf{k}) \end{aligned}$$

$u,v$を調整すれば、$\mathbf k$を消すことができます。

$$\begin{aligned} α_0\mathbf{k}+α_1&=γ(α_0'\mathbf{k}+α_1')&&(α_0'^2+α_1'^2=1) \\ u+v\mathbf{k}&=-α_0'\mathbf{k}+α_1' \end{aligned}$$
$$\begin{aligned} ωq&=γ(α_0'\mathbf{k}+α_1')(-α_0'\mathbf{k}+α_1')+\mathbf{j}(β_0\mathbf{k}+β_1)(-α_0'\mathbf{k}+α_1') \\   &=γ(α_0'^2+α_1'^2)+\mathbf{j}\{(β_0α_0'+β_1α_1')+(β_0α_1'-β_1α_0')\mathbf{k}\} \\   &=γ+(β_0α_0'+β_1α_1')\mathbf{j}+(β_0α_1'-β_1α_0')\mathbf{i} \\ \end{aligned}$$

つまり$ω$と同じ回転を表す$ωq$のうち、$\mathbf k$の項がないものが存在します。

三角関数表示

成分計算だけではイメージが湧きにくいため、三角関数でパラメーター表示します。7shi-coord

回転子の三角関数表示

$$ \begin{aligned} ω&=\cosθ\,(\sin a\,\mathbf{k}+\cos a)+\sinθ\,\mathbf{j}(\sin b\,\mathbf{k}+\cos b) \\  &=\cosθ\,e^{a\,\mathbf{k}}+\sinθ\,\mathbf{j}\,e^{b\,\mathbf{k}} \\ q&=\cos c+\sin c\,\mathbf{k} \\  &=e^{c\,\mathbf{k}} \end{aligned} $$

$ωq$を計算します。

$$ \begin{aligned} ωq&=(\cosθ\,e^{a\,\mathbf{k}}+\sinθ\,\mathbf{j}\,e^{b\,\mathbf{k}})e^{c\,\mathbf{k}} \\   &=\cosθ\,e^{(a+c)\,\mathbf{k}}+\sinθ\,\mathbf{j}\,e^{(b+c)\,\mathbf{k}} \end{aligned} $$

$c=-a$のとき

$$\begin{aligned} ωq&=\cosθ+\sinθ\,\mathbf{j}\,e^{(b-a)\,\mathbf{k}} \\   &=\cosθ+\sinθ\,\mathbf{j}\left\{\cos(b-a)+\sin(b-a)\,\mathbf{k}\right\} \\   &=\cosθ+\sinθ\left\{\cos(b-a)\,\mathbf{j}+\sin(b-a)\,\mathbf{i}\right\} \end{aligned}$$

よって、$q$$e^{a\,\mathbf{k}}$を打ち消すとき、$\mathbf k$の項が消えます。これを$ω'$とします。

k のない回転子

$$ \begin{aligned} ω'&=\cosθ+\sinθ\,\mathbf{j}\,e^{(b-a)\,\mathbf{k}} \\ \end{aligned} $$

回転角の調整

$ω'$$\mathbf k$を回転させます。

$$\begin{aligned} ω'\mathbf kω'^* &=(\cosθ+\sinθ\,\mathbf{j}\,e^{(b-a)\,\mathbf{k}})\mathbf{k}(\cosθ+\sinθ\,\mathbf{j}\,e^{(b-a)\,\mathbf{k}})^* \\ &=(\cosθ+\sinθ\,\mathbf{j}\,e^{(b-a)\,\mathbf{k}})\mathbf{k}(\cosθ-\sinθ\,\mathbf{j}\,e^{(b-a)\,\mathbf{k}}) \\ &=(\cosθ+\sinθ\,\mathbf{j}\,e^{(b-a)\,\mathbf{k}})^2\,\mathbf{k} \\ &=(\cos^2θ+2\cosθ\sinθ\,\mathbf{j}\,e^{(b-a)\,\mathbf{k}}   +\sin^2θ\,\mathbf{j}\,e^{(b-a)\,\mathbf{k}}\,\mathbf{j}\,e^{(b-a)\,\mathbf{k}})\mathbf{k} \\ &=(\cos^2θ+2\cosθ\sinθ\,\mathbf{j}\,e^{(b-a)\,\mathbf{k}}   +\sin^2θ\,\mathbf{j}^2\,e^{-(b-a)\,\mathbf{k}}e^{(b-a)\,\mathbf{k}})\mathbf{k} \\ &=2\cosθ\sinθ\,\mathbf{i}\left\{\cos(b-a)+\sin(b-a)\mathbf{k}\right\}   +(\cos^2θ-\sin^2θ)\mathbf{k} \\ &=\sin2θ\left\{\cos(b-a)\mathbf{i}-\sin(b-a)\mathbf{j}\right\}+\cos2θ\,\mathbf{k} \\ \end{aligned}$$

左右から回転子で挟むため、回転角$θ$が2倍の$2θ$になります。

最終的に得られる回転角が$θ$になるように、以降では回転子の側で角度を半分にして、回転角が$θ$となるように調整します。

$$ ω''=\cos\fracθ2+\sin\fracθ2\,\mathbf{j}\,e^{(a-b)\,\mathbf{k}} $$

ここでは敢えて、理由を説明する前に天下りで導入するのを避けました。

状態ベクトルとパウリ行列

同じことを状態ベクトルとパウリ行列で計算します。この複素ベクトルはスピノルとも呼ばれます。

$$\begin{aligned} \Psi&=\begin{pmatrix}α\\β\end{pmatrix}   =\begin{pmatrix}α_0+iα_1\\β_0+iβ_1\end{pmatrix}   =\begin{pmatrix}\cos\fracθ2\,e^{ia} \\ \sin\fracθ2\,e^{ib}\end{pmatrix}   =e^{ia}\begin{pmatrix}\cos\fracθ2 \\ \sin\fracθ2\,e^{i(b-a)}\end{pmatrix} \\ q&=e^{-ia} \\ \Psi q&=\begin{pmatrix}\cos\fracθ2 \\ \sin\fracθ2\,e^{i(b-a)}\end{pmatrix}=:\Psi' \end{aligned}$$

$\Psi q$は括り出した係数の消去に相当することが、形式的な操作から浮き彫りになります。

パウリ行列でブロッホ球上の座標に変換します。

$$\begin{aligned} \Psi'^\dagger \sigma_x \Psi' &=\begin{pmatrix}\cos\fracθ2 & \sin\fracθ2\,e^{-i(b-a)}\end{pmatrix}\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}\begin{pmatrix}\cos\fracθ2 \\ \sin\fracθ2\,e^{i(b-a)}\end{pmatrix} \\ &=\begin{pmatrix}\cos\fracθ2 & \sin\fracθ2\,e^{-i(b-a)}\end{pmatrix}\begin{pmatrix}\sin\fracθ2\,e^{i(b-a)} \\ \cos\fracθ2\end{pmatrix} \\ &=\cos\fracθ2\sin\fracθ2\,e^{i(b-a)} + \sin\fracθ2\,e^{-i(b-a)}\cos\fracθ2 \\ &=\cos\fracθ2\sin\fracθ2\,(e^{i(b-a)}+e^{-i(b-a)}) \\ &=\cos\fracθ2\sin\fracθ2\left\{\cos(b-a)+i\sin(b-a)+\cos(b-a)-i\sin(b-a)\right\} \\ &=2\cos\fracθ2\sin\fracθ2\cos(b-a) \\ &=\sinθ\cos(b-a) \\ \Psi'^\dagger \sigma_y \Psi' &=\begin{pmatrix}\cos\fracθ2 & \sin\fracθ2\,e^{-i(b-a)}\end{pmatrix}\begin{pmatrix}0&-i\\i&0\end{pmatrix}\begin{pmatrix}\cos\fracθ2 \\ \sin\fracθ2\,e^{i(b-a)}\end{pmatrix} \\ &=\begin{pmatrix}\cos\fracθ2 & \sin\fracθ2\,e^{-i(b-a)}\end{pmatrix}\begin{pmatrix}-i\sin\fracθ2\,e^{i(b-a)} \\ i\cos\fracθ2\end{pmatrix} \\ &=-i\cos\fracθ2\sin\fracθ2\,e^{i(b-a)} + i\sin\fracθ2\,e^{-i(b-a)}\cos\fracθ2 \\ &=-i\cos\fracθ2\sin\fracθ2\,(e^{i(b-a)}-e^{-i(b-a)}) \\ &=-i\cos\fracθ2\sin\fracθ2\left\{\cos(b-a)+i\sin(b-a)-\cos(b-a)+i\sin(b-a)\right\} \\ &=2\cos\fracθ2\sin\fracθ2\sin(b-a) \\ &=\sinθ\sin(b-a) \\ \Psi'^\dagger \sigma_z \Psi' &=\begin{pmatrix}\cos\fracθ2 & \sin\fracθ2\,e^{-i(b-a)}\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1&0\\0&-1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}\cos\fracθ2 \\ \sin\fracθ2\,e^{i(b-a)}\end{pmatrix} \\ &=\begin{pmatrix}\cos\fracθ2 & \sin\fracθ2\,e^{-i(b-a)}\end{pmatrix}\begin{pmatrix}\cos\fracθ2 \\ -\sin\fracθ2\,e^{i(b-a)}\end{pmatrix} \\ &=\cos^2\fracθ2-\sin^2\fracθ2\,e^{-i(b-a)}e^{i(b-a)} \\ &=\cosθ \end{aligned}$$

四元数は全成分を一度に計算するためごちゃごちゃしますが、こちらは成分ごとに計算するため冗長になります。どちらが簡単だとは一概には言えませんが、結果だけまとめるのにベクトルはシンプルです。

$$\begin{aligned} \Psi'&=\begin{pmatrix}\cos\fracθ2 \\ \sin\fracθ2\,e^{i(b-a)}\end{pmatrix} \mapsto\begin{pmatrix}\sinθ\cos(b-a) \\ \sinθ\sin(b-a) \\ \cosθ\end{pmatrix} \end{aligned}$$

$θ$が2倍になって、指数関数が表す$\cos$$\sin$が別成分に分離されました。これをブロッホベクトルと呼びます。

$\Psi$を計算しても同じ結果になります。

$$\begin{aligned} \Psi&=\begin{pmatrix}\cos\fracθ2\,e^{ia} \\ \sin\fracθ2\,e^{ib}\end{pmatrix} \mapsto\begin{pmatrix}\sinθ\cos(b-a) \\ \sinθ\sin(b-a) \\ \cosθ\end{pmatrix} \end{aligned}$$

このように、ブロッホベクトルには$a,b$個々の位相ではなく、位相差$b-a$だけが現れます。量子情報では位相差だけが観測されるという重要な事実を反映しています。

全体位相とファイバー

状態ベクトル全体に位相$e^{iφ}$を掛けると、

$$ e^{iφ}\Psi=\begin{pmatrix}\cos\fracθ2\,e^{i(a+φ)} \\ \sin\fracθ2\,e^{i(b+φ)}\end{pmatrix} $$

となり、$a,b$がともに$φ$だけ動きます。位相差$b-a$は変わらないため、ブロッホベクトルも変わりません。

これは$\Psi q$におけるファイバー自由度$q$に対応します。つまり状態ベクトルに全体位相を掛ける操作は、ホップファイブレーションのファイバーに沿って点を動かす操作に対応します。ブロッホベクトルがこの操作で変わらないのは、ファイバー上の点$\Psi q$$q$を動かして得られる各点)がすべて同じ$S^2$上の点に写ることの表れです。

「ファイバー」という用語は、ホップファイブレーションの構造として抽象的に円周$S^1$を指す場合と、$S^3$内に埋め込まれた具体的な部分集合$\{\Psi q:q\in S^1\}$を指す場合の両方に使われます。$q$$S^1$上を動くパラメーターで、$\Psi q$$S^3$上の点です。

まとめて計算

ここまでは成分ごとに座標を求めましたが、パウリ行列を使えば全成分をまとめて計算することもできます。この計算は、テンソル積(外積)によってスピノル$\Psi$からベクトル(ブロッホベクトル)を作り出す操作になっています。

$A,B$を複素ベクトルとして、$A^\dagger B$は内積となります。エルミート共役を逆にした$AB^\dagger$は外積と呼ばれます。

外積7shi-p

ベクトル解析で一般的なベクトル積(クロス積)や、ウェッジ積とは別の外積で、テンソル積(クロネッカー積)の特殊な場合です。ややこしいですが、英語では区別があります。

英語日本語備考
outer product
tensor direct product
外積
直積wiki-dphyodo-dp
テンソル積(クロネッカー積)の特殊な場合
直積も他の用法と紛らわしくマイナー
exterior product
wedge product
外積、外部積
ウェッジ積、楔積
外積代数で使用、次元に依存しない
3次元ではベクトル積のホッジ双対

vector product
cross product
外積
ベクトル積
クロス積
ベクトル解析で使用
次元に依存する(3次元と7次元)
四元数・八元数の積の虚部から得られる

(テンソル積の意味での)外積はベクトルから行列を作る計算で、自身との外積は複素共役との積を列挙したものとなります。

$$\begin{aligned} \Psi&=\begin{pmatrix}α\\β\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}\cos\fracθ2\,e^{ia} \\ \sin\fracθ2\,e^{ib}\end{pmatrix} \\ \Psi\Psi^\dagger &=\begin{pmatrix}α\\β\end{pmatrix}\begin{pmatrix}α^*&β^*\end{pmatrix} \\ &=\begin{pmatrix}αα^*&αβ^*\\βα^*&ββ^*\end{pmatrix} \\ &=\begin{pmatrix}   \cos\fracθ2\,e^{ia}\cos\fracθ2\,e^{-ia} & \cos\fracθ2\,e^{ia}\sin\fracθ2\,e^{-ib} \\   \sin\fracθ2\,e^{ib}\cos\fracθ2\,e^{-ia} & \sin\fracθ2\,e^{ib}\sin\fracθ2\,e^{-ib}\end{pmatrix} \\ &=\begin{pmatrix}   \cos^2\fracθ2 & \cos\fracθ2\sin\fracθ2\,e^{-i(b-a)} \\   \cos\fracθ2\sin\fracθ2\,e^{i(b-a)} & \sin^2\fracθ2\end{pmatrix} \end{aligned}$$

成分に見覚えのある形が現れています。半角公式halfなどを使って計算を進めます。

$$\begin{aligned} \Psi\Psi^\dagger &=\frac12\begin{pmatrix}   1+\cosθ & \sinθ\left\{\cos(b-a)-i\sin(b-a)\right\} \\   \sinθ\left\{\cos(b-a)+i\sin(b-a)\right\} & 1-\cosθ\end{pmatrix} \end{aligned}$$

対角成分と非対角成分で、それぞれ符号が異なる項が現れています。これらを分離すれば、パウリ行列の線形結合が現れます。

$$\begin{aligned} \Psi\Psi^\dagger &=\frac12\left\{   \begin{pmatrix}1&0 \\ 0&1\end{pmatrix} \\   +\sinθ\cos(b-a)\begin{pmatrix}0&1 \\ 1&0\end{pmatrix} \\   +\sinθ\sin(b-a)\begin{pmatrix}0&-i \\ i&0\end{pmatrix} \\   +\cosθ\begin{pmatrix}1&0 \\ 0&-1\end{pmatrix}\right\} \\ &=\frac12\left\{ \mathrm{I} + \sinθ\cos(b-a)\sigma_x + \sinθ\sin(b-a)\sigma_y + \cosθ\,\sigma_z \right\} \end{aligned}$$

これは密度行列と呼ばれます。スケールを$2$倍してパウリ行列の係数を抜き出せば、ブロッホベクトルと一致します。

$$\begin{aligned} \Psi&=\begin{pmatrix}\cos\fracθ2\,e^{ia} \\ \sin\fracθ2\,e^{ib}\end{pmatrix} \mapsto\begin{pmatrix}\sinθ\cos(b-a) \\ \sinθ\sin(b-a) \\ \cosθ\end{pmatrix} \end{aligned}$$

始点

四元数による回転の始点を$\mathbf k$としたのは、外積から計算される成分と一致させるためです。

$\Psi\Psi^\dagger$は密度行列という形を取っていますが、中身はスケールの違いを除けばブロッホベクトルと同じ情報です。つまりテンソル積$\Psi\Psi^\dagger$は、ベクトルの別の表現に過ぎません。

この見方に立つと、ベクトルはスピノルのテンソル積として得られる派生的な対象であり、スピノル$\Psi$の方がより基本的な対象だと言えます。実際、$\Psi$に全体位相$e^{iφ}$を掛けても$\Psi\Psi^\dagger$は変わらないため、$\Psi$はブロッホベクトルよりも多くの情報(全体位相)を持っています。逆にブロッホベクトルからスピノルを復元しようとしても、全体位相の分だけ情報が不足していて一意に定まりません。

密度行列の状態

スピノルを変換した密度行列は1つのブロッホベクトルの情報しか含まないため、純粋状態と呼ばれます。それに対して、複数のブロッホベクトルに対応する密度行列を重み付けして足し合わせたものは、混合状態と呼ばれます。

純粋状態の密度行列に対応するブロッホベクトルはブロッホ球の表面を指しますが、混合状態ではブロッホ球の内部を指します。quantumuniverse

全体位相の基準依存性

ホップファイブレーションが定める束$S^1\hookrightarrow S^3\xrightarrow{H}S^2$は、単純な直積$S^2\times S^1$ではありません。任意の「$S^3$上の点」を「$S^2$上の点」と「$S^1$上の位相」の組に一意に分解できないためです。具体的に確認します。

先ほど見た通り、状態ベクトルから位相を括り出すことで、片方の成分を実数にできます。

$$ \Psi =\begin{pmatrix}\cos\fracθ2\,e^{ia} \\ \sin\fracθ2\,e^{ib}\end{pmatrix} =e^{ia}\begin{pmatrix}\cos\fracθ2\\ \sin\fracθ2\,e^{i(b-a)}\end{pmatrix} =e^{ib}\begin{pmatrix}\cos\fracθ2\,e^{-i(b-a)}\\ \sin\fracθ2\end{pmatrix} $$

ただし、$\Psi$の第1成分が$0$になるとき、$e^{ia}$は不明のため括り出すことはできません。同様に、$\Psi$の第2成分が$0$になるとき、$e^{ib}$を括り出すことはできません。これらを踏まえて定義域から除外した上で、括り出したベクトルに名前を付けます。

北側・南側の基準ベクトル

$0 \le θ/2 < 2π$より$0 \le θ < 4π$とします。
$$ \begin{aligned} χ_N&=\begin{pmatrix}\cos\fracθ2\\ \sin\fracθ2\,e^{i(b-a)}\end{pmatrix} && (θ \ne π,3π) \\ χ_S&=\begin{pmatrix}\cos\fracθ2\,e^{-i(b-a)}\\ \sin\fracθ2\end{pmatrix} && (θ \ne 0,2π) \end{aligned} $$

全体位相の括り出しに、基準依存性があるということです。また、$a$だけでは南極($θ=π,3π$)が、$b$だけでは北極($θ=0,2π$)が定義域から抜けるため、単一の基準では$S^2$全体を覆えません。

両方の定義域が重なる領域($θ\neq0,π,2π,3π$)では、$χ_N,χ_S$の定義を見比べると

$$ χ_N=e^{i(b-a)}χ_S $$

という関係があります。つまり$b-a$は、南側の位相$b$から北側の位相$a$へ乗り換えるときに掛かる補正(位相のずれ)です。この補正が何を表すかは、ブロッホベクトルの成分から分かります。

$$ \begin{pmatrix}\sinθ\cos(b-a) \\ \sinθ\sin(b-a) \\ \cosθ\end{pmatrix} $$

これは天頂角$θ$、方位角$b-a$による極座標表示なので、補正$b-a$はブロッホベクトルの方位角と一致します。

方位角は点によって値が変わります。たとえば方位角が$0$の点では補正は$0$ですが、方位角が$π$の点では補正は$π$になり、南北の基準がちょうど逆転します。このように、南北の位相の基準を一定の補正だけで揃えることはできず、位置ごとに異なる補正が必要になります。

単一の基準では特異点のため$S^2$全体を覆えず、複数の基準を組み合わせても位相を一意に揃えることはできません。これが「$S^3$$S^2\times S^1$という単純な直積とみなせない」ことの具体的な中身です。

まとめ

四元数の回転子$ω$はファイバー方向の自由度$q$を持ち、この自由度を使って$\mathbf k$の項を持たない標準形$ω'$を示しました。$q$による$ωq$の調整は、状態ベクトルから全体位相$e^{iφ}$を括り出す操作と同じ構造であり、標準形$ω'$は状態ベクトル$(\cos\fracθ2,\ \sin\fracθ2\,e^{i(b-a)})$と一致します。パウリ行列によってブロッホベクトルへ変換すると、四元数による回転と状態ベクトルによる記述が同じ数学的構造を共有していることが分かります。

成分ごとの計算とテンソル積$\Psi\Psi^\dagger$による一括計算の両方を行い、後者が密度行列の形を与え、スケールを除けばブロッホベクトルと一致することを確認しました。ここから、ベクトル(ブロッホベクトル)はスピノル$\Psi$のテンソル積として得られる派生的な対象であり、全体位相の情報を保持するスピノルの方がより基本的な対象であることが分かりました。

さらに全体位相の括り出しには基準依存性があり、北側・南側いずれの基準も球面上の一点(それぞれ南極・北極)では定義できないこと、両者を結ぶ補正がブロッホベクトルの方位角そのものであることを示しました。これは、ホップファイブレーションが与える束$S^1\hookrightarrow S^3\to S^2$が単純な直積$S^2\times S^1$にはならないという事実の、具体的な現れです。

このように、四元数での回転によるモデルを導入して、線形代数でその結果を利用する流れを示しました。量子情報への導入とすることを意図しています。

参考文献

投稿日:2024524
更新日:1日前
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