写像と集合演算について,
悪い人
さんの記事
数学初心者が写像について学びを深める……
を読んで興味深いと思ったので,自分用のメモとして二項関係の言葉を用いて書き直してみます.
二項関係
二項関係の定義
二項関係
集合と直積集合の部分集合の3つ組を,との間の二項関係という.
との間の二項関係とに対して,であることをとも書く.
合同式
以上の整数に対して
とおくと,はとの間の二項関係となる.
(普通はであることをと書く)
逆関係
逆関係
との間の二項関係に対して,との間の二項関係を
で定め,の逆関係という.
つまりについて
が成り立つ.
二項関係の像・逆像
本記事でも以前書いた記事
と, との包含関係
と同様に,矢印記法を使う(逆関係/逆写像と逆像の混乱を防ぐため).
また,集合の冪集合(の部分集合全体の集合)をで表す.
二項関係の像・逆像
集合およびとの間の二項関係に対して,2つの写像とを
で定義する.
逆関係の像・逆像
集合およびとの間の二項関係について,次のことが成り立つ.
を集合,をとの間の二項関係とし,, とする.
- のとき,である.
- .
- .
- のとき,である.
- .
- .
- のとき,の定義からを満たすが存在するが,よりでもあるのでとなる.
- とはどちらもに含まれるので,(1) よりかつ,つまりが成り立つ.
逆の包含を示すためとすると,の定義からを満たすが取れる.するとの場合はとなり,の場合はとなるので,いずれにしてもである. - とはどちらもを含むので,(1) よりかつ,つまりが成り立つ.
(4), (5), (6) は前命題と (1), (2), (3) から従う.
共通部分に関する (3), (6) では等号が成り立つとは限らないことに注意.
(後述の通り,(3), (6) で常に等号成立することは,の左一意性,右一意性にそれぞれ同値である)
集合およびとの間の二項関係に対して,次のことが成り立つことを示せ.
- ならば,である.
- ならば,である.
とについて,ととが互いに同値であることに注意.
- のとき,よりである.同様にであればとなるので,である.
- のとき,よりである.同様にであればとなるので,である.
二項関係の全域性・一意性
全域性・一意性
集合およびとの間の二項関係に対して,
- が左全域的であるとは,任意のに対してあるが存在してが成り立つことをいう.
- が右全域的であるとは,任意のに対してあるが存在してが成り立つことをいう.
- が左一意的であるとは,各に対して,を満たすが高々1つしかないことをいう.
- が右一意的であるとは,各に対して,を満たすが高々1つしかないことをいう.
写像
からへの写像とは,との間の左全域的かつ右一意的な二項関係のことだった.
写像とに対して,を満たす一意的なのことをと書く.
また,右全域的な写像は全射のことであり,左一意的な写像は単射のことである.
逆関係を考えれば,全域性や一意性の左右は容易に取り換えられる.
集合およびとの間の二項関係について,次のことが成り立つ.
- が左全域的であることと,が右全域的であることは同値である.
- が左一意的であることと,が右一意的であることは同値である.
逆写像
写像の逆関係がからへの写像であるための必要十分条件は,が右全域的かつ左一意的(つまり全単射)なことである.
このとき,写像をの逆写像というのだった.
と,との包含関係
以前書いた記事
と, との包含関係
と同様に,と,との包含関係について考える.
集合およびとの間の二項関係について,次の2条件は互いに同値である.
- は左全域的である.
- 任意のに対してが成り立つ.
- (1)(2):任意のに対して,の左全域性からを満たすが取れるが,このときよりとなる.
- (2)(1):任意のに対して,だからを満たすが取れる.
集合およびとの間の二項関係について,次の2条件は互いに同値である.
- は右全域的である.
- 任意のに対してが成り立つ.
集合およびとの間の二項関係について,次の3条件は互いに同値である.
- は左一意的である.
- 任意のに対してが成り立つ.
- 任意のに対してが成り立つ.
- (1)(2):任意のに対して,の定義からを満たすが取れて,の定義からを満たすが取れる.このときの左一意性よりとなるので,が成り立つ.
- (2)(3):逆の包含は常に成り立つから,を示せばよい.を任意に取ると,だからを満たすが存在し,だからを満たすが存在する.すると
よりとなり,が示された. - (3)(1):とがかつを満たすとする.このとき
であり,もしなら右辺が元を持つことになり矛盾する.よってであり,は左一意的である.
集合およびとの間の二項関係について,次の3条件は互いに同値である.
- は右一意的である.
- 任意のに対してが成り立つ.
- 任意のに対してが成り立つ.
これで,と,との包含関係と,の全域性・一意性が綺麗に対応していることがわかった.
これらの結果を写像・全射・単射に適用すれば,次の命題を得る.
集合とその間の写像について,次のことが成り立つ.
- 任意のに対してが成り立つ.
- 任意のに対してが成り立つ.
- 任意のに対してが成り立つ.
が単射の場合,(1) で常に等号が成り立ち,さらに任意のに対してが成り立つ.
が全射の場合,(2) で常に等号が成り立つ.