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大学数学基礎解説
文献あり

インスタントンとトンネル効果 (3) : ゼロモードの除去、トンネル効果によるエネルギーシフト

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※本記事は
インスタントンとトンネル効果 (1): 経路積分とWKB近似
インスタントンとトンネル効果 (2) : 二重井戸型ポテンシャルにおけるインスタントン
の続きです。


今回はWKB近似を用いて二重井戸型ポテンシャルの基底状態のエネルギーE0を計算します。以下に記す公式1を用いて公式2のAを計算することが主な目標です。そのために以下を行います:

  • インスタントン解における公式1の演算子Mからゼロモードを分離し、発散を正則化する
  • Fredholm行列式を計算することでAを求める

本記事もRef.[1]を基にしています。同様の問題を扱っているRef.[2][3]も参考文献として載せておきます。

ゼロモードの取り扱い

前々回・前回の結論のなかで、今回の記事に必要なものを記しておきます:

次の量子系
ST=0TLdt,   L=12q˙2V(q)
をEuclid化した理論におけるFeynman核は、WKB近似において以下で表される:
ψq0(q,β)eSβcl/(detM)1/2,  M:=τ2+V^
ここでSβclは作用に古典解を代入したもの、V^はポテンシャルの二階微分に古典解を代入したもの、β:=iTは虚時間積分の上限である。

二重井戸型ポテンシャルの基底状態のエネルギーE0は、g0でのWKB近似において希薄ガス近似によりインスタントンペアの効果を足し上げることで計算すると
(1)E0=ω2limβ1βln(exp(A)+exp(A)),  A:=(1I)Dxexp[0βdτL](0)Dxexp[0βdτL]
となる。分子はインスタントンが1つあるときの分配関数、分母はインスタントンなしの分配関数(安定点に留まる解の分配関数)。

以下WKB近似により公式2のAを計算することでE0を計算します。

Aを計算するのに公式1を用いるのですが、問題はインスタントン解におけるMにはゼロ固有値が存在することです。行列式は行列の固有値の積なので、Mがゼロ固有値を持つ時(detM)1/2はill definendです。これを処理しなければならないのですが、結論から言うと、Eq.(1)limβの中の1/βとゼロ固有値の寄与が打ち消し合うことでwell definedになります。

まずはインスタントン解におけるMがゼロ固有値を持つことを示します。これは簡単です。前回示したインスタントンのEoM
x¨+Ux=0
τで微分すると
x+2Ux2x˙=0[2τ2+2Ux2]x˙=0
を得ます。2/τ2+2U/x2は公式1のMです。ゆえにインスタントン解にはMに関するゼロモードが存在します。

このゼロ固有値は、インスタントン解が系の時間並進不変性をもつことに起因します。以下ゼロモードの影響を、時間の並進不変性の反映であるインスタントンのパラメータτ0の積分としてfactorizeします。

ゼロモードの分離

ここではインスタントン解のMからゼロモードを分離します。

WKB法においてインスタントンxI(ττ0)のまわりの量子ゆらぎの効果を取り入れるには、経路積分の座標x(τ)
(2)x(τ)=xI(ττ0)+gξ(ττ0)
のように展開し、ξ(τ)で汎関数積分を行えばよいです。このξを、インスタントンに関するMの完全系ψn:
(3)[2τ2+2Ux2]ψn=Enψn
を用いて以下のように展開します:
x(τ)=xI(ττ0)+gnψn(ττ0)ξn
そしてξ(ττ0)の汎関数積分を、展開係数ξnの積分で置き換えます。
Dξ(τ)ndξn
こうすると経路積分に関するゼロモードの寄与が分離できて
ndξn=dξ0n0dξn
と書けます。

Eq.(3)ψnはインスタントン解に関するMを対角化する基底です。これを用い、Aの分子に現れる経路積分を公式1を使ってWKB近似で表した式
(1I)Dx(τ)expexp[0βdτL]eS0/Dξ(τ)exp[12ξT(τ2+V^)ξ]
を書き直すと以下のようになります:
=eS0/idξi2πexp[12nEnξn2]
こうすればゼロモードは分離できて
(4)=eS0/dξ02πi0dξi2πexp[12n0Enξn2]
となります。

ξ0τ0との関係

ここでは次の事実を示します:

WKB近似の下では、Eq.(4)において
dξ02πS02πdτ0
のように置き換えられる。S0は作用にインスタントン解を入れた値、τ0はインスタントンがもつパラメータである。

ψ0x˙Iに比例する。規格化定数をαとすると、dτψ02=1より
α=1dτx˙I2
である。ここでxI=atanh(ω/2(ττ0))よりx˙I2/2=U(xI)が成立するので
12dτx˙I2=dτU(xI)
を得る。よって
(5)S0=1g2dτ[12x˙I2+U(xI)]=1g2dτx˙I2=(1gα)2
ゆえに
α=1gS0
以上からψ0
ψ0=x˙IgS0
となる。

Eq.(2)ψ0の具体形を代入し、ゼロモード部分を分離すると以下のようになる:
x(τ)=xI(ττ0)+gnψn(ττ0)ξn=xI(ττ0)+1S0x˙I(ττ0)ξ0+gn0ψn(ττ0)ξn
ここで1/S0はEq.(5)よりO(g)なので、WKB近似すなわちO(g)の範囲では以下が成立する:
x(τ)=xI(ττ0+1S0ξ0)+gn0ψn(ττ0+1S0ξ0)ξn
これはすなわち、この近似の範囲では、τ0の変化はξ0/S0の変化で置き換えられることを意味する。よって
dξ02π=S02πdτ0
としてよい。

この事実を用いれば
Eq.(4)=eS0/0βS02πdτ0i0dξi2πexp[12n0Enξn2]=eS0/S02πβi0dξi2πexp[12n0Enξn2]=eS0/S02πβ[det(2τ2+UI)]1/2
が成立することがわかります。ここでdetはゼロモードを除いた行列式、UI:=2U/x2|x=xIを表します。

行列式の比の評価

WKB近似&希薄ガス近似におけるAの表式

x=aに留まる解に関してはx˙=0,U(x=a)=0,U(x=a)=ω2だから、Aの分母はWKB近似の下、公式1より
Dxexp[1g20βdτ(12x˙2+U(x))][det(2τ2+ω2)]1/2
になります。以上よりAはWKB近似で
AβeS0S02π[detH^0detH^]1/2,(6){H^:=2τ2+UIH^0:=2τ2+ω2
となります。

ここでdetH^=n0Enであり、En (n0)の無限積は発散するのでill definedに思えます。しかし
UI(x)=ω2
であることから、十分高いエネルギー状態(nの大きい状態)では、H^のエネルギーはH^0のエネルギーとほぼ等しくなります。よってEq.(6)detH^0/detH^=nEn(0)/n0Enは、nが大きいところでは固有値の比が1となり、結果適切に正則化されます。

Fredholm行列式の漸近形とAの評価

ここではRef.[1]に習い(いや他の場所もこの教科書に習っているのですが...)、Fredholm行列式を用いてEq.(6)の行列式の比を計算します。

Fledholm行列式とはEをパラメータとする以下の行列式です:
Δ(E):=det(EH^)det(EH^0)=n(EnE)n(En0E)
これを用いると、Aの行列式の比は以下のように求められます:
(detH^0detH^)1/2=limE0(EΔ(E))1/2=(1Δ(0))1/2
そこで以下Δ(0)を求めます。そのために改めて
(7)[τ2+UI(τ)]ψ(τ)=Eψ(τ)
の解に関して考察します。

ここでf±(τ,E)を、Eq.(7)の解であり、かつ
(8a)limτ±f±(τ,E)=e±ikτ
という遠方での振る舞いを持つ解とします。さらに反対方向の漸近形を
(8b)limτf±(τ,E)=eikτA±(E)+e±ikτF±(E)
とします。

まず次の公式を証明します:

F+(E)=F(E)

次のロンスキアンを定義する:
W[f+(τ,E+),f(τ,E)]:=f+(τ,E+)f˙(τ,E)f(τ,E)f˙+(τ,E+)
ここでドットはτ微分を表す。Eq.(7)を用いてW˙を計算すると
W˙=τ(f+f˙ff˙+)=f+f¨ff¨+=(UIE)f+f(UIE+)f+f=(E+E)f+f
よってE+=E=EとすればW˙(f+(τ,E),f(τ,E))=0。ゆえにW(f+(τ,E),f(τ,E))τ-independentなので
W[f+(τ,E),f(τ,E)]=limτ±W[f+(τ,E),f(τ,E)]
lim+の極限を考えると、Eq.(8a),(8b)より
limτ+W=limτ+[f+f˙ff˙+]=eikτ(ikeikτAikeikτF)(eikτA+eikτF)(ik)eikτ=2ikF(E)
同様にlimτの極限を考えると
limτW=2ikF+(E)
これらはどちらもWであるから
F+(E)=F(E)
を得る。

以下ではF+(E)=F(E)=F(E)と記します。

次に以下のGreen関数を導入します:

オペレータH^EのGreen関数
G(τ,τ;E)=τ|1H^E|τ

(9)G(τ,τ;E)=if+(τ>,E)f(τ<,E)2kF(E)
と書け、このG
(τ2+UI(τ)E)G(τ,τ;E)=δ(ττ)
を満たす。ただしτ>,τ<は以下:
{τ>τのとき τ>=τ,τ<=ττ<τのとき τ>=τ,τ<=τ

τ>τおよびτ<τのとき、Eq.(9)
(τ2+UI(τ)E)G(τ,τ;E)=0
を満たすことはすぐに示せる。
τに関して(τ2+UI(τ)E)G(τ,τ;E)τϵからτ+ϵまで積分しlimϵ+0の極限をとる:
τϵτ+ϵdτ(τ2+UI(τ)E)G(τ,τ;E)=[τG]τϵτ+ϵ+τϵτ+ϵdτ(UI(τ)E)G
ここで
τG(τ,τ;E)|τ=τ+ϵ=if(τ,E)2kF(E)τf+(τ,E)|τ=τ+ϵ=if(τ,E)2kF(E)τf+(τ,E)|τ=τ+O(ϵ)
また
τG(τ,τ;E)|τ=τϵ=if+(τ,E)2kF(E)τf(τ,E)|τ=τϵ=if+(τ,E)2kF(E)τf(τ,E)|τ=τ+O(ϵ)
よってlimϵ0の極限で
[τG]τϵτ+ϵ=if(τ,E)2kF(E)τf+(τ,E)|τ=τ+if+(τ,E)2kF(E)τf(τ,E)|τ=τ=i2kF(E)(f+(τ,E)f˙(τ,E)f(τ,E)f˙+(τ,E))=i2kF(E)W[f+(τ,E),f(τ,E)]=1    (公式4の証明よりW[f+(τ,E),f(τ,E)]=2kiF(E))
を得る。τϵτ+ϵdτ(UI(τ)E)Gは明らかにO(ϵ)なので、結局
limϵ+0τϵτ+ϵdτ(τ2+UI(τ)E)G(τ,τ;E)=1
以上より
(τ2+UI(τ)E)G(τ,τ;E)=δ(ττ)
が示された。


さて、実はFredholm行列式と波動関数の漸近形によって定まるF(E)は等しいことが示せます。

Δ(E)=F(E)

ElnΔ(E)=E(trLn(EH^)trLn(EH^0))=tr1EH^tr1EH^0=dτ[τ|1H^E|ττ|1H^0E|τ]=dτ(G(τ,τ;E)G0(τ,τ;E))
ここで前に示したように
W˙[f+(τ,E+),f(τ,E)]=(E+E)f+f
である。また定理2より
G(τ,τ;E)=if+(τ,E)f(τ,E)2kF(E)
であるから、
G(τ,τ;E)=limEEiEEW˙[f+(τ,E),f(τ,E)]2kF(E)
が成立する。またH^0は自由粒子のHamiltonianであり(U(x=a)=ω2)、F=1,f+=eikτ,f=eikτなので
G0(τ,τ;E)=limEEiEEW˙[eikτ,eikτ]2k
である。以上から
dτ(G(τ,τ;E)G0(τ,τ;E))=dτlimEEiEE12kF(E){W˙[f+(τ,E),f(τ,E)]W˙[eikτ,eikτ]F(E)}(10)=limEEiEE12kF(E)[W[f+(τ,E),f(τ,E)]W[eikτ,eikτ]F(E)]ττ
以降、エネルギーに依存する量で、Eに依存する量にはチルダをつける。Eに依存する量には何もつけないことにする。例えばf(τ,E), f(τ,E)はそれぞれf,f~を表す。W[f+,f~]=f+f~˙f~f˙+を計算すると
τ+:W[f+,f~]i(kk~)ei(k+k~)τA~i(k+k~)ei(kk~)τF~τ:W[f+,f~]i(kk~)ei(k+k~)τA+i(k+k~)ei(kk~)τF
(F+=F=F)
となる。k~=k(EE)k, F~=F(EE)Fを用いれば(k,FのプライムはEによる微分を表す)、Eq.(10)
=14k2Flimτe2ikτ(A+A+)+F/F
となることがわかる。インスタントンのような束縛状態のエネルギーに対しkは純虚数なのでlimτ+e2ikτ0より初項はゼロ。以上まとめると
(lnΔ(E))=F/F=(lnF)Δ=αF   (αは定数)
Δ(E)Δ(E)=1Fτでのeikτの係数であり、高エネルギー極限では自由場として振る舞うのでこれも1。よって係数αは1であり、結局
Δ(E)=F(E)
である。よって、Δ(0)F(0)、すなわちτでの波動関数の振る舞いにより表されることがわかる。


最後に目的の(Δ(0))1/2を求めます。

Δ(0)は以下のように表せる:
(Δ(0))1/2=2ωS0K
ただしKqI(τ)=xI(τ)/gの漸近形
qI(τ)=1gxI(τ)τagKωeωτ
で定義される(★脚注)。

今考察している系におけるF(E)を計算する。公式7の最後の式より
q˙I(τ)/Kτeωτ
である。q˙I(τ)/KE=0の解でありEq.(8a)(8b)の境界条件を満たすので
f±(τ,E=0)=q˙IK
である。ところで
2EτW(f+(τ,E),f(0))|E=0
はEoMを用いると
=E{Ef+(E)f(0)}|E=0=f+(0)f(0)
となる。
f+(τ,0)f(τ,0)=q˙I2K2
であるから
2EτW(f+(τ,E),f(0))|E=0=q˙I2K2
である。τに関しからの範囲で積分する。計算すると左辺は
2ωEF(E)|E=0
となる。よって
2ωEF(E)|E=0=dτq˙I2K2
dτq˙I2=S0を用いれば
Δ(0)=S02ωK2(Δ(0))1/2=2ωS0K
を得る。

以上から、A
AβeS0S02π[detH^0detH^]=βeS0ωπK
公式7より基底状態のエネルギーを計算すれば
E0=ω2limβ1βln(exp(A)+exp(A))=ω2limβ1βlnexp(A)=ω2KωπeS0
となります。

一連の記事のまとめ

前の2つの記事

および本記事において、以下の内容を説明しました:

  • 経路積分形式におけるWKB近似
  • 二重井戸型ポテンシャルにおけるインスタントン
  • 希薄ガス近似におけるインスタントンペアの足し上げによる分配関数の計算、基底状態のエネルギーE0の表式
  • インスタントン分配関数に現れるゼロモードの処理。Fredholm行列式を用いたE0の実際の計算

結論だけまとめると以下のようになります:

二重井戸型ポテンシャルの系
L=12q˙2V(q),   V(q)=1g2U(gq)U(x)=ω28a2(x2a2)2
の基底状態のエネルギーE0を、gに関するWKB近似及び希薄ガス近似におけるインスタントンペアの寄与の足し上げにより計算すると
E0=ω2KωπeS0
となる。ここでS0はインスタントン解
qI(τ)=xI(τ)/g=agtanh(ω2(ττ0))
を作用に代入したもの、KqIの漸近形によって定義される以下の値である:
qI(τ)τagKωeωτ


余談ですが、インスタントンは場の量子論にも現れ、非可換ゲージ理論において特に重要な役割を持ちます。 この記事 では、非可換ゲージ理論におけるカイラルアノマリーとインスタントンの関係を議論しています。

おしまい。



(★脚注) 一見Kτ0依存性が含まれるように思えますが、境界条件より
q˙I(τ)Kτ±exp(ω|τ|)
を満たさないといけないことからτ0=0でありK=g/(2ωa)となってτ0依存性はなくなります(たぶん。Ref.[1]にそのような説明はないので、間違ってたらすみません)。


参考文献

[1]
崎田文二、吉川圭二, 経路積分による 多自由度の量子力学, 物理学選書, 岩波書店, 1986
[2]
Coleman, S., Aspects of Symmetry, Selected Erice Lectures of Sydney Coleman, Cambridge University Press, 1985, 265-
[3]
ABC of instantons, Vainstein AI, Zakharov VI, Novikov VA, Shifman MA , Sov. Phys. Usp., 1982
投稿日:20231017
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  1. ゼロモードの取り扱い
  2. ゼロモードの分離
  3. ξ0τ0との関係
  4. 行列式の比の評価
  5. WKB近似&希薄ガス近似におけるAの表式
  6. Fredholm行列式の漸近形とAの評価
  7. 一連の記事のまとめ
  8. 参考文献