※本記事は
インスタントンとトンネル効果 (1): 経路積分とWKB近似
インスタントンとトンネル効果 (2) : 二重井戸型ポテンシャルにおけるインスタントン
の続きです。
今回はWKB近似を用いて二重井戸型ポテンシャルの基底状態のエネルギー$E_0$を計算します。以下に記す公式1を用いて公式2の$A$を計算することが主な目標です。そのために以下を行います:
本記事もRef.Sakitaを基にしています。同様の問題を扱っているRef.ColemanVainsteinも参考文献として載せておきます。
前々回・前回の結論のなかで、今回の記事に必要なものを記しておきます:
次の量子系
\begin{align}
S_T=\int_0^TLdt, \ \ \ L=\frac{1}{2}\dot q^2-V(q)
\end{align}
をEuclid化した理論におけるFeynman核は、WKB近似において以下で表される:
\begin{align}
\psi_{q_0}(q,\beta)\simeq e^{S_\beta^{cl}/\hbar}(\det M)^{-1/2}, \ \
M:=-\partial^2_\tau+\hat V''
\end{align}
ここで$S_\beta^{\rm cl}$は作用に古典解を代入したもの、$\hat V''$はポテンシャルの二階微分に古典解を代入したもの、$\beta:=iT$は虚時間積分の上限である。
二重井戸型ポテンシャルの基底状態のエネルギー$E_0$は、$g\to 0$でのWKB近似において希薄ガス近似によりインスタントンペアの効果を足し上げることで計算すると
\begin{align}
E_0=\frac{\omega}{2}-\lim_{\beta\to\infty}\frac{1}{\beta}
\ln(\exp(A)+\exp(-A)),\ \
A:=
\frac{\displaystyle\int_{(1I)}{\cal D}x\exp\left[
-\int_0^\beta d\tau L
\right]}{\displaystyle\int_{(0)}{\cal D}x\exp\left[
-\int_0^\beta d\tau L\tag{1}\label{fml2}
\right]}
\end{align}
となる。分子はインスタントンが1つあるときの分配関数、分母はインスタントンなしの分配関数(安定点に留まる解の分配関数)。
以下WKB近似により公式2の$A$を計算することで$E_0$を計算します。
$A$を計算するのに公式1を用いるのですが、問題はインスタントン解における$M$にはゼロ固有値が存在することです。行列式は行列の固有値の積なので、$M$がゼロ固有値を持つ時$(\det M)^{-1/2}$はill definendです。これを処理しなければならないのですが、結論から言うと、Eq.\eqref{fml2}の$\lim_{\beta\to\infty}$の中の$1/\beta$とゼロ固有値の寄与が打ち消し合うことでwell definedになります。
まずはインスタントン解における$M$がゼロ固有値を持つことを示します。これは簡単です。前回示したインスタントンのEoM
\begin{align}
-\ddot x+\frac{\partial U}{\partial x}=0
\end{align}
を$\tau$で微分すると
\begin{align}
&-\dddot x+\frac{\partial^2 U}{\partial x^2}\dot x=0 \\
\therefore &\left[-\frac{\partial^2}{\partial \tau^2}+\frac{\partial^2 U}{\partial x^2}\right]\dot x=0
\end{align}
を得ます。$-\partial^2/\partial\tau^2+\partial^2U/\partial x^2$は公式1の$M$です。ゆえにインスタントン解には$M$に関するゼロモードが存在します。
このゼロ固有値は、インスタントン解が系の時間並進不変性をもつことに起因します。以下ゼロモードの影響を、時間の並進不変性の反映であるインスタントンのパラメータ$\tau_0$の積分としてfactorizeします。
ここではインスタントン解の$M$からゼロモードを分離します。
WKB法においてインスタントン$x_I(\tau-\tau_0)$のまわりの量子ゆらぎの効果を取り入れるには、経路積分の座標$x(\tau)$を
\begin{align}
x(\tau)=x_I(\tau-\tau_0)+g\xi(\tau-\tau_0)\tag{2}\label{x}
\end{align}
のように展開し、$\xi(\tau)$で汎関数積分を行えばよいです。この$\xi$を、インスタントンに関する$M$の完全系$\psi_n$:
\begin{align}
\left[-\frac{\partial^2}{\partial\tau^2}+\frac{\partial^2 U}{\partial x^2}\right]\psi_n=E_n\psi_n \tag{3}\label{normalmode}
\end{align}
を用いて以下のように展開します:
\begin{align}
x(\tau)=x_I(\tau-\tau_0)+g\sum_n\psi_n(\tau-\tau_0)\xi_n
\end{align}
そして$\xi(\tau-\tau_0)$の汎関数積分を、展開係数$\xi_n$の積分で置き換えます。
\begin{align}
\int {\cal D}\xi(\tau)\to \prod_n\int d\xi_n
\end{align}
こうすると経路積分に関するゼロモードの寄与が分離できて
\begin{align}
\prod_n d\xi_n=d\xi_0 \prod_{n\neq 0}d\xi_n
\end{align}
と書けます。
Eq.\eqref{normalmode}の$\psi_n$はインスタントン解に関する$M$を対角化する基底です。これを用い、$A$の分子に現れる経路積分を公式1を使ってWKB近似で表した式
\begin{align}
\int_{(1I)}{\cal D}x(\tau)\exp
\exp\left[
-\int_0^\beta d\tau L
\right]
\sim
e^{-S_0/\hbar}
\int {\cal D}\xi(\tau)
\exp\left[
-\frac{1}{2}\xi^T(-\partial_\tau^2+\hat V'')\xi
\right]
\end{align}
を書き直すと以下のようになります:
\begin{align}
=e^{-S_0/\hbar}
\prod_i\int \frac{d\xi_i}{\sqrt{2\pi}}
\exp\left[
-\frac{1}{2}
\sum_n E_n \xi_n^2
\right]
\end{align}
こうすればゼロモードは分離できて
\begin{align}
=e^{-S_0/\hbar}
\int \frac{d\xi_0}{\sqrt{2\pi}}
\prod_{i\neq 0}\int \frac{d\xi_i}{\sqrt{2\pi}}
\exp\left[
-\frac{1}{2}
\sum_{n\neq 0} E_n \xi_n^2
\right]\tag{4}\label{denominator}
\end{align}
となります。
ここでは次の事実を示します:
WKB近似の下では、Eq.\eqref{denominator}において
\begin{align}
\frac{d\xi_0}{\sqrt{2\pi}}\to\sqrt{\frac{S_0}{2\pi}}d\tau_0
\end{align}
のように置き換えられる。$S_0$は作用にインスタントン解を入れた値、$\tau_0$はインスタントンがもつパラメータである。
$\psi_0$は$\dot x_I$に比例する。規格化定数を$\alpha$とすると、$\int d\tau\psi_0^2=1$より
\begin{align}
\alpha=\frac{1}{\displaystyle\sqrt{\int d\tau \dot x_I^2}}
\end{align}
である。ここで$x_I=a\tanh(\omega/2(\tau-\tau_0))$より$\dot x_I^2/2=U(x_I)$が成立するので
\begin{align}
\frac{1}{2}\int d\tau \dot x^2_I=\int d\tau U(x_I)
\end{align}
を得る。よって
\begin{align}
S_0=\frac{1}{g^2}\int d\tau\left[ \frac{1}{2}\dot x_I^2+U(x_I)\right]=\frac{1}{g^2}\int d\tau \dot x_I^2=\left(\frac{1}{g\alpha}\right)^2\tag{5}\label{S0}
\end{align}
ゆえに
\begin{align}
\alpha=\frac{1}{g\sqrt{S_0}}
\end{align}
以上から$\psi_0$は
\begin{align}
\psi_0=\frac{\dot x_I}{g\sqrt{S_0}}
\end{align}
となる。
Eq.\eqref{x}に$\psi_0$の具体形を代入し、ゼロモード部分を分離すると以下のようになる:
\begin{align}
x(\tau)&=x_I(\tau-\tau_0)+g\sum_n\psi_n(\tau-\tau_0)\xi_n\\
&=x_I(\tau-\tau_0)+\frac{1}{\sqrt{S_0}}\dot x_I(\tau-\tau_0)\xi_0
+g\sum_{n\neq 0}
\psi_n(\tau-\tau_0)\xi_n
\end{align}
ここで$1/\sqrt{S_0}$はEq.\eqref{S0}より${\cal O}(g)$なので、WKB近似すなわち${\cal O}(g)$の範囲では以下が成立する:
\begin{align}
x(\tau)=x_I(\tau-\tau_0+\frac{1}{\sqrt{S_0}}\xi_0)
+g\sum_{n\neq 0}\psi_n(\tau-\tau_0+\frac{1}{\sqrt{S_0}}\xi_0)\xi_n
\end{align}
これはすなわち、この近似の範囲では、$\tau_0$の変化は$\xi_0/\sqrt{S_0}$の変化で置き換えられることを意味する。よって
\begin{align}
\frac{d\xi_0}{\sqrt{2\pi}}=\sqrt{\frac{S_0}{2\pi}}d\tau_0
\end{align}
としてよい。${}_\blacksquare$
この事実を用いれば
\begin{align}
{\rm Eq.}\eqref{denominator}
&=e^{-S_0/\hbar}
\int_0^\beta \sqrt{\frac{S_0}{2\pi}}d\tau_0
\prod_{i\neq 0}\int \frac{d\xi_i}{\sqrt{2\pi}}
\exp\left[
-\frac{1}{2}
\sum_{n\neq 0} E_n \xi_n^2
\right]\\
&=e^{-S_0/\hbar}
\sqrt{\frac{S_0}{2\pi}}\beta
\prod_{i\neq 0}\int \frac{d\xi_i}{\sqrt{2\pi}}
\exp\left[
-\frac{1}{2}
\sum_{n\neq 0} E_n \xi_n^2
\right]\\
&=e^{-S_0/\hbar}
\sqrt{\frac{S_0}{2\pi}}\beta
\left[\det'\left(-\frac{\partial^2}{\partial\tau^2}+U''_I\right)\right]^{-1/2}
\end{align}
が成立することがわかります。ここで$\det'$はゼロモードを除いた行列式、$U''_I:=\partial^2 U/\partial x^2|_{x=x_I}$を表します。
$x=a$に留まる解に関しては$\dot x=0, U(x=a)=0, U''(x=a)=\omega^2$だから、$A$の分母はWKB近似の下、公式1より
\begin{align}
\int {\cal D}x\exp\left[
-\frac{1}{g^2}\int_0^\beta d\tau\left(
\frac{1}{2}\dot x^2+U(x)
\right)
\right]
\sim
\left[\det (-\frac{\partial^2}{\partial\tau^2}+\omega^2)\right]^{-1/2}
\end{align}
になります。以上より$A$はWKB近似で
\begin{align}
A&\sim \beta e^{-S_0}\sqrt{\frac{S_0}{2\pi}}
\left[
\frac{\det \hat H_0}{\det'\hat H}
\right]^{1/2},\\
&\begin{cases}
\displaystyle \hat H:=-\frac{\partial^2}{\partial\tau^2}+U''_I\\
\displaystyle \hat H_0:=-\frac{\partial^2}{\partial\tau^2}+\omega^2
\end{cases}
\tag{6}\label{A}
\end{align}
となります。
ここで$\det'\hat H=\prod_{n\neq 0}E_n$であり、$E_n \ (n\neq 0)$の無限積は発散するのでill definedに思えます。しかし
\begin{align}
U_I''(x\to \infty)=\omega^2
\end{align}
であることから、十分高いエネルギー状態($n$の大きい状態)では、$\hat H$のエネルギーは$\hat H_0$のエネルギーとほぼ等しくなります。よってEq.\eqref{A}の$\det\hat H_0/\det\hat H =\prod_n E^{(0)}_n/\prod_{n\neq 0} E_n$は、$n$が大きいところでは固有値の比が1となり、結果適切に正則化されます。
ここではRef.Sakitaに習い(いや他の場所もこの教科書に習っているのですが...)、Fredholm行列式を用いてEq.\eqref{A}の行列式の比を計算します。
Fledholm行列式とは$E$をパラメータとする以下の行列式です:
\begin{align}
\Delta(E):=\frac{\det(E-\hat H)}{\det(E-\hat H_0)}
=\frac{\prod_n (E_n-E)}{\prod_n(E_n^0-E)}
\end{align}
これを用いると、$A$の行列式の比は以下のように求められます:
\begin{align}
\left(
\frac{\det \hat H_0}{\det' \hat H}
\right)^{1/2}
=\lim_{E\to 0}
\left(
\frac{E}{-\Delta(E)}
\right)^{1/2}
=\left(
\frac{1}{-\Delta'(0)}
\right)^{1/2}
\end{align}
そこで以下$\Delta'(0)$を求めます。そのために改めて
\begin{align}
\left[-\partial_\tau^2+U''_I(\tau)\right]\psi(\tau)=E\psi(\tau)\tag{7}\label{SE}
\end{align}
の解に関して考察します。
ここで$f_\pm(\tau,E)$を、Eq.\eqref{SE}の解であり、かつ
\begin{align}
\lim_{\tau\to\pm}f_\pm(\tau,E)=e^{\pm ik\tau} \tag{8a}\label{asympa}
\end{align}
という遠方での振る舞いを持つ解とします。さらに反対方向の漸近形を
\begin{align}
\lim_{\tau\to\mp}f_\pm(\tau,E)=
e^{\mp ik\tau}A_\pm(E)+e^{\pm ik\tau}F_\pm(E)\tag{8b}\label{asympb}
\end{align}
とします。
まず次の公式を証明します:
\begin{align} F_+(E)=F_-(E) \end{align}
次のロンスキアンを定義する:
\begin{align}
W[f_+(\tau,E_+),f_-(\tau,E_-)]
:=f_+(\tau,E_+)\dot f_-(\tau,E_-)-f_-(\tau,E_-)\dot f_+(\tau,E_+)
\end{align}
ここでドットは$\tau$微分を表す。Eq.\eqref{SE}を用いて$\dot W$を計算すると
\begin{align}
\dot W&=\partial_\tau(f_+\dot f_--f_-\dot f_+)\\
&=f_+\ddot f_--f_-\ddot f_+\\
&=(U_I''-E_-)f_+f_--(U_I''-E_+)f_+f_-\\
&=(E_+-E_-)f_+f_-
\end{align}
よって$E_+=E_-=E$とすれば$\dot W(f_+(\tau,E),f_-(\tau,E))=0$。ゆえに$W(f_+(\tau,E),f_-(\tau,E))$は$\tau$-independentなので
\begin{align}
W[f_+(\tau,E),f_-(\tau,E)]
=\lim_{\tau\to\pm\infty}W[f_+(\tau,E),f_-(\tau,E)]
\end{align}
$\lim_{+\infty}$の極限を考えると、Eq.\eqref{asympa},\eqref{asympb}より
\begin{align}
\lim_{\tau\to +\infty} W&=\lim_{\tau\to +\infty}[f_+\dot f_--f_-\dot f_+]\\
&=e^{ik\tau}(ik e^{ik\tau}A_--ike^{-ik\tau}F_-)
-(e^{ik\tau}A_-+e^{-ik\tau}F_-)(ik)e^{ik\tau}\\
&=-2ikF_-(E)
\end{align}
同様に$\lim_{\tau\to-\infty}$の極限を考えると
\begin{align}
\lim_{\tau\to -} W&=-2ikF_+(E)
\end{align}
これらはどちらも$W$であるから
\begin{align}
F_+(E)=F_-(E)
\end{align}
を得る。${}_\blacksquare$
以下では$F_+(E)=F_-(E)=F(E)$と記します。
次に以下のGreen関数を導入します:
オペレータ$\hat H-E$のGreen関数
\begin{align}
G(\tau,\tau';E)=\left\langle \tau\left|\frac{1}{\hat H-E}\right|\tau'\right\rangle
\end{align}
は
\begin{align}
G(\tau,\tau';E)=\frac{if_+(\tau_>,E)f_-(\tau_<,E)}{2kF(E)} \tag{9}\label{Green}
\end{align}
と書け、この$G$は
\begin{align}
\left(-\partial^2_\tau+U''_I(\tau)-E\right)G(\tau,\tau';E)=\delta(\tau-\tau')
\end{align}
を満たす。ただし$\tau_>,\tau_<$は以下:
\begin{align}
\begin{cases}
\tau>\tau'\text{のとき}\ \tau_>=\tau, \tau_<=\tau'\\
\tau<\tau'\text{のとき}\ \tau_>=\tau', \tau_<=\tau
\end{cases}
\end{align}
$\tau>\tau'$および$\tau<\tau'$のとき、Eq.\eqref{Green}が
\begin{align}
(-\partial_\tau^2+U_I''(\tau)-E)G(\tau,\tau';E)=0
\end{align}
を満たすことはすぐに示せる。
$\tau$に関して$(-\partial_\tau^2+U''_I(\tau)-E)G(\tau,\tau';E)$を$\tau'-\epsilon$から$\tau'+\epsilon$まで積分し$\lim_{\epsilon\to +0}$の極限をとる:
\begin{align}
\int_{\tau'-\epsilon}^{\tau'+\epsilon}d\tau (-\partial_\tau^2+U''_I(\tau)-E)G(\tau,\tau';E)
=-\left[\partial_\tau G\right]_{\tau'-\epsilon}^{\tau'+\epsilon}
+\int_{\tau'-\epsilon}^{\tau'+\epsilon}d\tau(U''_I(\tau)-E)G
\end{align}
ここで
\begin{align}
\partial_\tau G(\tau,\tau';E)|_{\tau=\tau'+\epsilon}
&=\frac{if_-(\tau',E)}{2kF(E)}\partial_\tau f_+(\tau,E)|_{\tau=\tau'+\epsilon}\\
&=\frac{if_-(\tau',E)}{2kF(E)}\partial_\tau f_+(\tau,E)|_{\tau=\tau'}+{\cal O}(\epsilon)
\end{align}
また
\begin{align}
\partial_\tau G(\tau,\tau';E)|_{\tau=\tau'-\epsilon}
&=\frac{if_+(\tau',E)}{2kF(E)}\partial_\tau f_-(\tau,E)|_{\tau=\tau'-\epsilon}\\
&=\frac{if_+(\tau',E)}{2kF(E)}\partial_\tau f_-(\tau,E)|_{\tau=\tau'}+{\cal O}(\epsilon)
\end{align}
よって$\lim_{\epsilon\to 0}$の極限で
\begin{align}
-[\partial_\tau G]^{\tau'+\epsilon}_{\tau'-\epsilon}
&=-\frac{if_-(\tau',E)}{2kF(E)}\partial_\tau f_+(\tau,E)|_{\tau=\tau'}
+\frac{if_+(\tau',E)}{2kF(E)}\partial_\tau f_-(\tau,E)|_{\tau=\tau'}\\
&=\frac{i}{2kF(E)}(f_+(\tau',E)\dot f_-(\tau',E)-f_-(\tau',E)\dot f_+(\tau',E))\\
&=\frac{i}{2kF(E)}W[f_+(\tau',E),f_-(\tau',E)]\\
&=1 \ \ \ \ (\because \text{公式4の証明より}W[f_+(\tau',E),f_-(\tau',E)]=-2kiF(E))
\end{align}
を得る。$\int_{\tau'-\epsilon}^{\tau'+\epsilon}d\tau(U''_I(\tau)-E)G$は明らかに${\cal O}(\epsilon)$なので、結局
\begin{align}
\lim_{\epsilon\to+0}\int_{\tau'-\epsilon}^{\tau'+\epsilon}d\tau (-\partial_\tau^2+U''_I(\tau)-E)G(\tau,\tau';E)=1
\end{align}
以上より
\begin{align}
\left(-\partial^2_\tau+U''_I(\tau)-E\right)G(\tau,\tau';E)=\delta(\tau-\tau')
\end{align}
が示された。${}_\blacksquare$
さて、実はFredholm行列式と波動関数の漸近形によって定まる$F(E)$は等しいことが示せます。
\begin{align} \Delta(E)=F(E) \end{align}
\begin{align}
\frac{\partial}{\partial E}\ln \Delta(E)
&=\frac{\partial}{\partial E}({\rm tr}{\rm Ln}(E-\hat H)-{\rm tr}{\rm Ln}(E-\hat H_0))\\
&={\rm tr}\frac{1}{E-\hat H}-{\rm tr}\frac{1}{E-\hat H_0}\\
&= -\int d\tau\left[
\langle\tau|
\frac{1}{\hat H-E}
|\tau\rangle
-
\langle\tau|
\frac{1}{\hat H_0-E}
|\tau\rangle
\right]\\
&=-\int d\tau (G(\tau,\tau;E)-G_0(\tau,\tau;E))
\end{align}
ここで前に示したように
\begin{align}
\dot W[f_+(\tau,E_+),f_-(\tau,E_-)]=(E_+-E_-)f_+f_-
\end{align}
である。また定理2より
\begin{align}
G(\tau,\tau;E)=\frac{if_+(\tau,E)f_-(\tau,E)}{2kF(E)}
\end{align}
であるから、
\begin{align}
G(\tau,\tau;E)=\lim_{E'\to E}\frac{i}{E-E'}\frac{\dot W[f_+(\tau,E), f_-(\tau,E')]}{2kF(E)}
\end{align}
が成立する。また$\hat H_0$は自由粒子のHamiltonianであり($U''(x=a)=\omega^2$)、$F=1, f_+=e^{ik\tau}, f_-=e^{-ik\tau}$なので
\begin{align}
G_0(\tau,\tau;E)=\lim_{E'\to E}\frac{i}{E-E'}\frac{\dot W[e^{ik\tau},e^{-ik\tau}]}{2k}
\end{align}
である。以上から
\begin{align}
-\int d\tau(G(\tau,\tau;E)-G_0(\tau,\tau;E))
&=-\int d\tau\lim_{E'\to E}\frac{i}{E-E'}\frac{1}{2kF(E)}
\left\{
\dot W[f_+(\tau,E),f_-(\tau,E')]
-\dot W[e^{ik\tau},e^{-ik\tau}]F(E)
\right\}\\
&=-\lim_{E'\to E}\frac{i}{E-E'}\frac{1}{2kF(E)}
\left[
W[f_+(\tau,E),f_-(\tau,E')]
-W[e^{ik\tau},e^{-ik\tau}]F(E)
\right]^{\tau\to \infty}_{\tau\to -\infty}\tag{10}\label{Delta}
\end{align}
以降、エネルギーに依存する量で、$E'$に依存する量にはチルダをつける。$E$に依存する量には何もつけないことにする。例えば$f_-(\tau,E), \ f_-(\tau,E')$はそれぞれ$f_-, \tilde f_-$を表す。$W[f_+,\tilde f_-]=f_+\dot{\tilde f_-}-\tilde f_-\dot f_+$を計算すると
\begin{align}
&\cdot \tau\to+\infty: W[f_+,\tilde f_-]
\to -i(k-\tilde k)e^{i(k+\tilde k)\tau}\tilde A_-
-i(k+\tilde k)e^{ i(k-\tilde k)\tau}\tilde F\\
&\cdot \tau\to-\infty: W[f_+,\tilde f_-]
\to i(k-\tilde k)e^{-i(k+\tilde k)\tau}A_+
-i(k+\tilde k)e^{ i(k-\tilde k)\tau}F
\end{align}
($F_+=F_-=F$)
となる。$\tilde k=k-(E-E')k',\ \tilde F=F-(E-E')F'$を用いれば($k',F'$のプライムは$E$による微分を表す)、Eq.\eqref{Delta}は
\begin{align}
=-\frac{1}{4k^2 F}\lim_{\tau\to \infty} e^{2ik\tau}(A_-+A_+)+F'/F
\end{align}
となることがわかる。インスタントンのような束縛状態のエネルギーに対し$k$は純虚数なので$\lim_{\tau\to+\infty}e^{2ik\tau}\to 0$より初項はゼロ。以上まとめると
\begin{align}
(\ln\Delta(E))'=F'/F=(\ln F)'\\
\therefore \Delta=\alpha F \ \ \ (\alpha\text{は定数})
\end{align}
$\Delta(E)$は$\Delta(E\to \infty)=1$、$F$は$\tau\to\infty$での$e^{ik\tau}$の係数であり、高エネルギー極限では自由場として振る舞うのでこれも1。よって係数$\alpha$は1であり、結局
\begin{align}
\Delta(E)=F(E)
\end{align}
である。よって、$\Delta'(0)$は$F'(0)$、すなわち$\tau\to\infty$での波動関数の振る舞いにより表されることがわかる。${}_\blacksquare$
最後に目的の$(-\Delta'(0))^{-1/2}$を求めます。
$\Delta'(0)$は以下のように表せる:
\begin{align}
(-\Delta'(0))^{-1/2}=\sqrt{\frac{2\omega}{S_0}}K
\end{align}
ただし$K$は$q_I(\tau)=x_I(\tau)/g$の漸近形
\begin{align}
q_I(\tau)=\frac{1}{g}x_I(\tau)\xrightarrow{\tau\to \infty}\frac{a}{g}-\frac{K}{\omega}e^{-\omega\tau}
\end{align}
で定義される(★脚注)。
今考察している系における$F(E)$を計算する。公式7の最後の式より
\begin{align}
\dot q_I(\tau)/K\xrightarrow{\tau\to\infty}e^{-\omega \tau}
\end{align}
である。$\dot q_I(\tau)/K$は$E=0$の解でありEq.\eqref{asympa}\eqref{asympb}の境界条件を満たすので
\begin{align}
f_\pm(\tau,E=0)=\frac{\dot q_I}{K}
\end{align}
である。ところで
\begin{align}
\left.\frac{\partial^2}{\partial E\partial\tau}W(f_+(\tau,E),f_-(0))\right|_{E=0}
\end{align}
はEoMを用いると
\begin{align}
&=\left.\frac{\partial}{\partial E}\left\{Ef_+(E)f_-(0)\right\}\right|_{E=0}\\
&=f_+(0)f_-(0)
\end{align}
となる。
\begin{align}
f_+(\tau,0)f_-(\tau,0)=\frac{\dot q_I^2}{K^2}
\end{align}
であるから
\begin{align}
\left.\frac{\partial^2}{\partial E\partial\tau}W(f_+(\tau,E),f_-(0))\right|_{E=0}
=\frac{\dot q_I^2}{K^2}
\end{align}
である。$\tau$に関し$-\infty$から$\infty$の範囲で積分する。計算すると左辺は
\begin{align}
-2\omega\partial_EF(E)|_{E=0}
\end{align}
となる。よって
\begin{align}
-2\omega\partial_E F(E)|_{E=0}=\int_{-\infty}^\infty d\tau \frac{\dot q_I^2}{K^2}
\end{align}
$\int d\tau \dot q_I^2=S_0$を用いれば
\begin{align}
-\Delta'(0)&=\frac{S_0}{2\omega K^2}\\
\therefore (-\Delta'(0))^{-1/2}&=\sqrt{\frac{2\omega}{S_0}}K
\end{align}
を得る。${}_\blacksquare$
以上から、$A$は
\begin{align}
A&\sim \beta e^{-S_0}\sqrt{\frac{S_0}{2\pi}}\left[\frac{\det\hat H_0}{\det'\hat H}\right]\\
&=\beta e^{-S_0}\sqrt{\frac{\omega}{\pi}}K
\end{align}
公式7より基底状態のエネルギーを計算すれば
\begin{align}
E_0&=\frac{\omega}{2}-\lim_{\beta\to\infty}\frac{1}{\beta}\ln(\exp(A)+\exp(-A))\\
&=\frac{\omega}{2}-\lim_{\beta\to\infty}\frac{1}{\beta}\ln\exp(A)\\
&=\frac{\omega}{2}-K\sqrt{\frac{\omega}{\pi}}e^{-S_0}
\end{align}
となります。
前の2つの記事
および本記事において、以下の内容を説明しました:
結論だけまとめると以下のようになります:
二重井戸型ポテンシャルの系
\begin{align}
L&=\frac{1}{2}\dot q^2-V(q), \ \ \ V(q)=\frac{1}{g^2}U(gq)\\
U(x)&=\frac{\omega^2}{8a^2}(x^2-a^2)^2
\end{align}
の基底状態のエネルギー$E_0$を、$g$に関するWKB近似及び希薄ガス近似におけるインスタントンペアの寄与の足し上げにより計算すると
\begin{align}
E_0=\frac{\omega}{2}-K\sqrt{\frac{\omega}{\pi}}e^{-S_0}
\end{align}
となる。ここで$S_0$はインスタントン解
\begin{align}
q_I(\tau)=x_I(\tau)/g=\frac{a}{g}\tanh (\frac{\omega}{2}(\tau-\tau_0))
\end{align}
を作用に代入したもの、$K$は$q_I$の漸近形によって定義される以下の値である:
\begin{align}
q_I(\tau)\xrightarrow{\tau\to \infty}\frac{a}{g}-\frac{K}{\omega}e^{-\omega\tau}
\end{align}
余談ですが、インスタントンは場の量子論にも現れ、非可換ゲージ理論において特に重要な役割を持ちます。 この記事 では、非可換ゲージ理論におけるカイラルアノマリーとインスタントンの関係を議論しています。
おしまい。${}_\blacksquare$
(★脚注) 一見$K$に$\tau_0$依存性が含まれるように思えますが、境界条件より
\begin{align}
\frac{\dot q_I(\tau)}{K}\xrightarrow{\tau\to \pm\infty}\exp(-\omega|\tau|)
\end{align}
を満たさないといけないことから$\tau_0=0$であり$K=g/(2\omega a)$となって$\tau_0$依存性はなくなります(たぶん。Ref.Sakitaにそのような説明はないので、間違ってたらすみません)。