※本記事は
インスタントンとトンネル効果 (1): 経路積分とWKB近似
インスタントンとトンネル効果 (2) : 二重井戸型ポテンシャルにおけるインスタントン
の続きです。
今回はWKB近似を用いて二重井戸型ポテンシャルの基底状態のエネルギーを計算します。以下に記す公式1を用いて公式2のを計算することが主な目標です。そのために以下を行います:
- インスタントン解における公式1の演算子からゼロモードを分離し、発散を正則化する
- Fredholm行列式を計算することでを求める
本記事もRef.[1]を基にしています。同様の問題を扱っているRef.[2][3]も参考文献として載せておきます。
ゼロモードの取り扱い
前々回・前回の結論のなかで、今回の記事に必要なものを記しておきます:
次の量子系
をEuclid化した理論におけるFeynman核は、WKB近似において以下で表される:
ここでは作用に古典解を代入したもの、はポテンシャルの二階微分に古典解を代入したもの、は虚時間積分の上限である。
二重井戸型ポテンシャルの基底状態のエネルギーは、でのWKB近似において希薄ガス近似によりインスタントンペアの効果を足し上げることで計算すると
となる。分子はインスタントンが1つあるときの分配関数、分母はインスタントンなしの分配関数(安定点に留まる解の分配関数)。
以下WKB近似により公式2のを計算することでを計算します。
を計算するのに公式1を用いるのですが、問題はインスタントン解におけるにはゼロ固有値が存在することです。行列式は行列の固有値の積なので、がゼロ固有値を持つ時はill definendです。これを処理しなければならないのですが、結論から言うと、Eq.のの中のとゼロ固有値の寄与が打ち消し合うことでwell definedになります。
まずはインスタントン解におけるがゼロ固有値を持つことを示します。これは簡単です。前回示したインスタントンのEoM
をで微分すると
を得ます。は公式1のです。ゆえにインスタントン解にはに関するゼロモードが存在します。
このゼロ固有値は、インスタントン解が系の時間並進不変性をもつことに起因します。以下ゼロモードの影響を、時間の並進不変性の反映であるインスタントンのパラメータの積分としてfactorizeします。
ゼロモードの分離
ここではインスタントン解のからゼロモードを分離します。
WKB法においてインスタントンのまわりの量子ゆらぎの効果を取り入れるには、経路積分の座標を
のように展開し、で汎関数積分を行えばよいです。このを、インスタントンに関するの完全系:
を用いて以下のように展開します:
そしての汎関数積分を、展開係数の積分で置き換えます。
こうすると経路積分に関するゼロモードの寄与が分離できて
と書けます。
Eq.のはインスタントン解に関するを対角化する基底です。これを用い、の分子に現れる経路積分を公式1を使ってWKB近似で表した式
を書き直すと以下のようになります:
こうすればゼロモードは分離できて
となります。
ととの関係
ここでは次の事実を示します:
WKB近似の下では、Eq.において
のように置き換えられる。は作用にインスタントン解を入れた値、はインスタントンがもつパラメータである。
はに比例する。規格化定数をとすると、より
である。ここでよりが成立するので
を得る。よって
ゆえに
以上からは
となる。
Eq.にの具体形を代入し、ゼロモード部分を分離すると以下のようになる:
ここではEq.よりなので、WKB近似すなわちの範囲では以下が成立する:
これはすなわち、この近似の範囲では、の変化はの変化で置き換えられることを意味する。よって
としてよい。
この事実を用いれば
が成立することがわかります。ここではゼロモードを除いた行列式、を表します。
行列式の比の評価
WKB近似&希薄ガス近似におけるの表式
に留まる解に関してはだから、の分母はWKB近似の下、公式1より
になります。以上よりはWKB近似で
となります。
ここでであり、の無限積は発散するのでill definedに思えます。しかし
であることから、十分高いエネルギー状態(の大きい状態)では、のエネルギーはのエネルギーとほぼ等しくなります。よってEq.のは、が大きいところでは固有値の比が1となり、結果適切に正則化されます。
Fredholm行列式の漸近形との評価
ここではRef.[1]に習い(いや他の場所もこの教科書に習っているのですが...)、Fredholm行列式を用いてEq.の行列式の比を計算します。
Fledholm行列式とはをパラメータとする以下の行列式です:
これを用いると、の行列式の比は以下のように求められます:
そこで以下を求めます。そのために改めて
の解に関して考察します。
ここでを、Eq.の解であり、かつ
という遠方での振る舞いを持つ解とします。さらに反対方向の漸近形を
とします。
まず次の公式を証明します:
次のロンスキアンを定義する:
ここでドットは微分を表す。Eq.を用いてを計算すると
よってとすれば。ゆえには-independentなので
の極限を考えると、Eq.,より
同様にの極限を考えると
これらはどちらもであるから
を得る。
以下ではと記します。
次に以下のGreen関数を導入します:
オペレータのGreen関数
は
と書け、このは
を満たす。ただしは以下:
およびのとき、Eq.が
を満たすことはすぐに示せる。
に関してをからまで積分しの極限をとる:
ここで
また
よっての極限で
を得る。は明らかになので、結局
以上より
が示された。
さて、実はFredholm行列式と波動関数の漸近形によって定まるは等しいことが示せます。
ここで前に示したように
である。また定理2より
であるから、
が成立する。または自由粒子のHamiltonianであり()、なので
である。以上から
以降、エネルギーに依存する量で、に依存する量にはチルダをつける。に依存する量には何もつけないことにする。例えばはそれぞれを表す。を計算すると
()
となる。を用いれば(のプライムはによる微分を表す)、Eq.は
となることがわかる。インスタントンのような束縛状態のエネルギーに対しは純虚数なのでより初項はゼロ。以上まとめると
は、はでのの係数であり、高エネルギー極限では自由場として振る舞うのでこれも1。よって係数は1であり、結局
である。よって、は、すなわちでの波動関数の振る舞いにより表されることがわかる。
最後に目的のを求めます。
は以下のように表せる:
ただしはの漸近形
で定義される(★脚注)。
今考察している系におけるを計算する。公式7の最後の式より
である。はの解でありEq.の境界条件を満たすので
である。ところで
はEoMを用いると
となる。
であるから
である。に関しからの範囲で積分する。計算すると左辺は
となる。よって
を用いれば
を得る。
以上から、は
公式7より基底状態のエネルギーを計算すれば
となります。
一連の記事のまとめ
前の2つの記事
および本記事において、以下の内容を説明しました:
- 経路積分形式におけるWKB近似
- 二重井戸型ポテンシャルにおけるインスタントン
- 希薄ガス近似におけるインスタントンペアの足し上げによる分配関数の計算、基底状態のエネルギーの表式
- インスタントン分配関数に現れるゼロモードの処理。Fredholm行列式を用いたの実際の計算
結論だけまとめると以下のようになります:
二重井戸型ポテンシャルの系
の基底状態のエネルギーを、に関するWKB近似及び希薄ガス近似におけるインスタントンペアの寄与の足し上げにより計算すると
となる。ここではインスタントン解
を作用に代入したもの、はの漸近形によって定義される以下の値である:
余談ですが、インスタントンは場の量子論にも現れ、非可換ゲージ理論において特に重要な役割を持ちます。
この記事
では、非可換ゲージ理論におけるカイラルアノマリーとインスタントンの関係を議論しています。
おしまい。
(★脚注) 一見に依存性が含まれるように思えますが、境界条件より
を満たさないといけないことからでありとなって依存性はなくなります(たぶん。Ref.[1]にそのような説明はないので、間違ってたらすみません)。