このシリーズではある多項式$f(n),g(n)$によって
$$\K^\infty_{n=1}\frac{g(n)}{f(n)}=\frac{g(1)}{f(1)}\p\frac{g(2)}{f(2)}\p\cc\p\frac{g(n)}{f(n)}\p\cc$$
と表されるような連分数からApéryの連分数
\begin{align}
\z(3)
&=\frac65\p\K^\infty_{n=1}\frac{-n^6}{(2n+1)(17n^2+17n+5)}\\
&=\dfrac6{1\c5-\dfrac{1^6}{3\c39-\dfrac{2^6}{5\c107-\dfrac{3^6}{7\c209-\dfrac{4^6}{9\c345-{\atop\ddots}}}}}}
\end{align}
のように、より収束の速い連分数を作り出す手法ことApéryの加速法について解説していきます。
いま上の連分数公式は次のような主張に言い換えることができます。
数列$u_n,v_n$を漸化式
$$x_{n+1}=(2n+1)(17n^2+17n+5)x_n-n^6x_{n-1}$$
の解$x_n=u_n,v_n$であって
$$\begin{pmatrix}
u_0&u_1\\v_0&v_1
\end{pmatrix}
=\begin{pmatrix}
0&6\\1&5
\end{pmatrix}$$
を満たすようなものとして定めたとき
$$\z(3)=\lim_{n\to\infty}\frac{u_n}{v_n}$$
が成り立つ。
Apéryの加速法とはこのような三項間漸化式の二つの解の比、つまりApéry limitや連分数と呼ばれるものを対象とした、名前の通り連分数の加速を与えることを目的とした理論のことを言います。
そのため次回以降の記事では主に連分数を基本言語としてApéryの加速法の詳細について解説していきますが、今回の記事ではまず連分数を用いずに本質的にどのような操作によって上のような事実が得られるのかを紹介していこうと思います。
まずApéryの加速法の主題である「連分数の加速」とは次のように言い換えることができます。
与えられた級数(あるいは連分数)
$$S=\sum^\infty_{n=1}A_n$$
に対し、ある多項式係数の漸化式
$$x_n=f(n)x_{n-1}+g(n)x_{n-2}$$
を満たす数列$x_n=u_n,v_n$であって、その比$u_n/v_n$が急速に$S$に収束するようなもの、つまり
$$\l|S-\frac{u_n}{v_n}\r|\ll\l|S-\sum^n_{m=1}A(m)\r|$$
を満たすようなものを構成したい。
この問題の出発点としてまずオイラーの連分数公式というものにより
$$p_n=q_n\sum^n_{m=1}A_m$$
が整数列となるように適当な数列$q_n$を取ることで、ある多項式係数の漸化式
$$x_n=f(n)x_{n-1}+g(n)x_{n-2}$$
を満たすような数列$x_n=p_n,q_n$であって
$$S=\lim_{n\to\infty}\frac{p_n}{q_n}$$
を満たすものを一組得ることができます。
例えば多項式$f(n)$の逆数和
$$S=\sum^\infty_{n=1}\frac1{f(n)}$$
に対し
$$q_n=\prod^n_{k=1}f(k),\quad p_n=q_n\sum^n_{m=1}\frac1{f(m)}$$
とおくと、これらは$n\geq2$において
$$x_n=(f(n)+f(n-1))x_{n-1}-f(n-1)^2x_{n-2}$$
という漸化式を満たすことがわかる。
また例えば同様の交代和
$$S=\sum^\infty_{n=1}\frac{(-1)^{n-1}}{f(n)}$$
に対し
$$q_n=\prod^n_{k=1}f(k),\quad p_n=q_n\sum^n_{m=1}\frac{(-1)^{m-1}}{f(m)}$$
とおくと、これらは$n\geq2$において
$$x_n=(f(n)-f(n-1))x_{n-1}+f(n-1)^2x_{n-2}$$
という漸化式を満たすことがわかる。
そしてこうして得られた数列$p_n,q_n$に対し、適当な多項式$r_n$を取りBauer-Muir変換
\begin{align}
p'_n&=p_{n+1}+r_{n+1}p_n\\
q'_n&=q_{n+1}+r_{n+1}q_n
\end{align}
を考えると、これらも
\begin{align}
x_n
&=\l(f(n+1)+r_{n+1}-r_{n-1}\frac{d_n}{d_{n-1}}\r)x_{n-1}+g(n)\frac{d_n}{d_{n-1}}x_{n-2}\\
(d_n&=r_n(r_{n+1}+f(n+1))-g(n+1))
\end{align}
という有理関数係数の漸化式を満たし、特に適当な因子$T_n$、例えば
$$T_n=\prod^{n-1}_{k=0}d_k$$
などを掛けたもの$T_np'_n,T_nq'_n$を再び$p'_n,q'_n$とおくことでこれらが満たす漸化式を多項式係数に帰着させることができます。
また余程のことがなければ
$$S=\lim_{n\to\infty}\frac{p'_n}{q'_n}$$
も成り立ち、特にこの多項式$r_n$をいい感じに取ってくることで、ある正整数$d$が存在し
$$\l|S-\frac{p'_n}{q'_n}\r|\sim\frac1{n^d}\l|S-\frac{p_n}{q_n}\r|$$
程度の加速が得られることとなります。
さらにこうして得られた数列$p'_n,q'_n$に対し適当な多項式$r'_n$を取ってきて再びBauer-Muir変換
\begin{align}
p''_n&=p'_{n+1}+r'_{n+1}p'_n\\
q''_n&=q'_{n+1}+r'_{n+1}q'_n
\end{align}
を考え...、といった具合にBauer-Muir変換を反復していくことで
$$\l|S-\frac{p^{(k)}_n}{q^{(k)}_n}\r|\sim\frac1{n^{dk}}\l|S-\frac{p_n}{q_n}\r|$$
を満たすような二重数列$p_n^{(k)},q_n^{(k)}$を構成することができます。
そしてこの二重数列を対角線上に渡る数列
$$u_n=p_n^{(n)},\quad v_n=q_n^{(n)}$$
を考えると、これもある有理関数係数の漸化式
$$x_n=F(n)x_{n-1}+G(n)x_{n-2}$$
を満たし、更にある定数$C>1$が存在し
$$\l|S-\frac{u_n}{v_n}\r|\sim\frac1{C^n}\l|S-\frac{p_n}{q_n}\r|$$
という指数関数的な加速が得られることとなります。
このように与えられた数列$p_n,q_n$から指数関数的に加速された数列$u_n,v_n$を構成する手法のことをApéryの加速法と言います。
さてこれ以上の説明については次回以降の記事に任せることとして、とりあえず$$\z(3)=\sum^\infty_{n=1}\frac1{n^3}$$
を例に挙げて具体的にどのような操作が行われるのか、またそこからどういうことがわかるのかを見ていくこととしましょう。
いま
$$p_n^{(0)}=(n!)^3\sum^n_{m=1}\frac1{m^3},\quad q_n^{(0)}=(n!)^3$$
を起点として
\begin{align}
p_{n-1}^{(k)}&=p_n^{(k-1)}-(n-k)(n^2-kn+k^2)p_{n-1}^{(k-1)}\\
q_{n-1}^{(k)}&=q_n^{(k-1)}-(n-k)(n^2-kn+k^2)q_{n-1}^{(k-1)}
\end{align}
と変換していくことで、これらは$n\geq1$において
$$x_{n+1}^{(k)}=(2n+1)(n^2+n+2k^2+2k+1)x_n^{(k)}-n^6x_{n-1}^{(k)}$$
という漸化式を満たし、その収束速度は
$$\l|\z(3)-\frac{p_n^{(k)}}{q_n^{(k)}}\r|=O\l(\frac1{n^{4k+2}}\r)$$
と評価できることがわかる。
また
$$u_n=p_n^{(n)},\quad v_n=q_n^{(n)}$$
とおくとこれは
$$x_{n+1}=(n+1)^3(2n+1)(17n^2+17n+5)x_n-n^9(n+1)^3x_n$$
という漸化式を満たし、その収束速度は
$$\l|\z(3)-\frac{u_n}{v_n}\r|=O((\sqrt2+1)^{-8n})$$
と評価できることがわかる。
ちなみに$p_n,q_n$が同じ漸化式
\begin{align}
p_n&=a_np_{n-1}+b_np_{n-2}\\
q_n&=a_nq_{n-1}+b_nq_{n-2}
\end{align}
を満たすとき、この式にそれぞれ$q_{n-1},p_{n-1}$を掛けて差を取ることで
\begin{align}
p_nq_{n-1}-p_{n-1}q_n
&=-b_n(p_{n-1}q_{n-2}-p_{n-2}q_{n-1})\\
&=(p_1q_0-p_0q_1)\prod^n_{k=2}(-b_k)
\end{align}
が成り立つので、$p_n/q_n$は
\begin{align}
\frac{p_n}{q_n}
&=\frac{p_0}{q_0}+\sum^n_{m=1}\l(\frac{p_m}{q_m}-\frac{p_{m-1}}{q_{m-1}}\r)\\
&=\frac{p_0}{q_0}+\sum^n_{m=1}\frac{p_1q_0-p_0q_1}{q_mq_{m-1}}\prod^m_{k=2}(-b_k)
\end{align}
という級数に表すことができます。
例えば上のようにして得られた$p^{(k)}_n/q^{(k)}_n$の場合を考えると
\begin{align}
q_n^{(1)}&=(n!)^3\times(2n^2+2n+1)\\
q_n^{(2)}&=(n!)^3\times4(3n^4+6n^3+9n^2+6n+2)\\
q_n^{(3)}&=(n!)^3\times12(10n^6+30n^5+85n^4+120n^3+121n^2+66n+18)
\end{align}
と求まることと、ここでは示さないが実は
$$\frac{p^{(k)}_0}{q^{(k)}_0}=\sum^k_{l=1}\frac1{l^3},\quad
p^{(k)}_1q^{(k)}_0-p^{(k)}_0q^{(k)}_1=(k!)^6$$
が成り立つことから
\begin{align}
\z(3)
&=1+\sum^\infty_{n=1}\frac1{(4n^4+1)n^3}\\
&=1+\frac18+\sum^\infty_{n=1}\frac4{(9n^8+18n^6+21n^4+4)n^3}\\
&=1+\frac18+\frac1{27}+\sum^\infty_{n=1}\frac{324}{(100n^{12}+800n^{10}+2445n^8+2570n^6+1861n^4+324)n^3}
\end{align}
という加速級数が得られる。
また上の公式
$$\frac{p_n}{q_n}
=\frac{p_0}{q_0}+\sum^n_{m=1}\frac{p_1q_0-p_0q_1}{q_mq_{m-1}}\prod^m_{k=2}(-b_k)$$
の右辺を$\sum^n_{m=0}A_m$とおいたとき、このBauer-Muir変換$p'_n,q'_n$について
\begin{align}
\frac{p'_n}{q'_n}
&=\frac{p_{n+1}+r_{n+1}p_n}{q_{n+1}+r_{n+1}q_n}\\
&=\frac{p_n}{q_n}+\frac{p_{n+1}q_n-p_nq_{n+1}}{q_n(q_{n+1}+r_{n+1}q_n)}\\
&=\sum^n_{m=0}A_m+\frac{q_{n+1}}{q'_n}A_{n+1}
\end{align}
が成り立つので、次のような関係式が得られます。
\begin{align}
S_N^{(0)}&=\sum^N_{n=1}\frac1{n^3}\\
S_N^{(1)}&=1+\sum^N_{n=1}\frac1{(4n^4+1)n^3}\\
S_N^{(2)}&=1+\frac18+\sum^N_{n=1}\frac4{(9n^8+18n^6+21n^4+4)n^3}\\
S_N^{(3)}&=1+\frac18+\frac1{27}+\sum^N_{n=1}\frac{324}{(100n^{12}+800n^{10}+2445n^8+2570n^6+1861n^4+324)n^3}
\end{align}
ついて
\begin{align}
S^{(1)}_N&=S^{(0)}_N+\frac1{2N^2+2N+1}\\
S^{(2)}_N&=S^{(1)}_N+\frac1{4(2N^2+2N+1)(3N^4+6N^3+9N^2+6N+2)}\\
S^{(3)}_N&=S^{(2)}_N+\frac4{3(3N^4+6N^3+9N^2+6N+2)(10N^6+30N^5+85N^4+120N^3+121N^2+66N+18)}
\end{align}
が成り立つ。
特に$p^{(k)}_n/q^{(k)}_n$の加速性として
$$\l|S-\frac{p^{(k)}_n}{q^{(k)}_n}\r|\sim\frac1{n^{dk}}\l|S-\frac{p_n}{q_n}\r|$$
が成り立っていたことに注意すると、元の級数の誤差項について
$$\sum^\infty_{n=N+1}A_n
=\sum^{k-1}_{l=0}\frac{q_{n+1}^{(l)}}{q^{(l+1)}_n}A^{(l)}_k+O\l(\frac1{n^{dk}}\sum^\infty_{n=N+1}A_n\r)$$
という漸近展開が得られます。
\begin{align}
\sum^\infty_{n=N+1}\frac1{n^3}
&=\frac1{2N^2+2N+1}\\
&\qquad+\frac1{4(2N^2+2N+1)(3N^4+6N^3+9N^2+6N+2)}\\
&\qquad+\frac4{3(3N^4+6N^3+9N^2+6N+2)(10N^6+30N^5+85N^4+120N^3+121N^2+66N+18)}\\
&\qquad+O\l(\frac1{N^{14}}\r)
\end{align}
が成り立つ。
いま最終的に得られた数列$u_n=p^{(n)}_n,v_n=q^{(n)}_n$に対し
$$a_n=\frac{u_n}{(n!)^6},\quad b_n=\frac{v_n}{(n!)^6}$$
とおくと、これらは
$$(n+1)^3x_{n+1}-(2n+1)(17n^2+17n+5)x_n+n^3x_{n-1}=0$$
という漸化式を満たすことになるので、この$a_n,b_n$は
Apéryの定理
において用いられた数列
\begin{align}
a_n&=\sum^n_{j=0}\binom nj^2\binom{n+j}j^2c_{n,j}\\
b_n&=\sum^n_{j=0}\binom nj^2\binom{n+j}j^2\\
\bigg(c_{n,j}&=\sum^n_{m=1}\frac1{m^3}+\sum^j_{m=1}\frac{(-1)^{m-1}}{2m^3\binom nm\binom{n+m}m}\bigg)
\end{align}
に一致することがわかります(←ヤバ!!!)。
そして実はより一般に
$$a^{(k)}_n=\frac{p^{(k)}_n}{(n!k!)^3},\quad b^{(k)}_n=\frac{q^{(k)}_n}{(n!k!)^3}$$
とおいたとき、これは同じ$c_{n,j}$を用いて
\begin{align}
a_n^{(k)}&=\sum^k_{j=0}\binom kj\binom{k+j}j\binom nj\binom{n+j}jc_{n,j}\\
b_n^{(k)}&=\sum^k_{j=0}\binom kj\binom{k+j}j\binom nj\binom{n+j}j
\end{align}
と表すことができます(←ヤバ!!!!!!)。
$k=1,2,3$において
\begin{align}
b_n^{(1)}&=2n^2+2n+1\\
b_n^{(2)}&=\frac{3n^4+6n^3+9n^2+6n+2}2\\
b_n^{(3)}&=\frac{10n^6+30n^5+85n^4+120n^3+121n^2+66n+18}{18}
\end{align}
と表せたことを思い出すと、実際これは
\begin{align}
b^{(1)}_n&=1+2n(n+1)\\
b^{(2)}_n&=1+6n(n+1)+6\frac{(n-1)n(n+1)(n+2)}4\\
b^{(3)}_n&=1+12n(n+1)+30\frac{(n-1)n(n+1)(n+2)}4+20\frac{(n-2)(n-1)n(n+1)(n+2)(n+3)}{36}
\end{align}
と整理できることがわかる。
これは一体どういうことなのか、ということについては 第七回 および 第八回 の記事にて解説します。
以上がApéryの加速法についての概説となります。
そして次回以降の記事ではそれぞれ次のようなことについて解説していこうと思います。お楽しみに。
なお上で紹介した級数の加速や誤差項の推定に関する話は今回以外の記事ではほとんど触れませんのであしからず。