1
大学数学基礎解説
文献あり

平均曲率と閉超曲面の"半径"~Hasanis-Koutroufiotisの不等式~

46
0

以前 こちらの記事 で紹介させていただいた通り, 平均曲率の制限はしばしば曲面のサイズに制限を与えます. 今回は超曲面に対して成り立つ, 平均曲率と曲面のサイズの間の素朴な関係を示す幾何学的不等式であるHasanis-Koutroufiotisの不等式について紹介しようと思います.

Hasanis-Koutroufiotisの不等式

ΣnRn+1を閉超曲面(Rn+1にはめ込まれた境界のない向きづけられたコンパクト多様体)とし, HΣの平均曲率とする. もしΣが半径R>0のある球体BR(x)に含まれるならば, RmaxΣ|H|1でなければならない. また等号成立は, Σが半径R=1/maxΣ|H|n次元球面のときに限る.

今回は平均曲率Hを, シェイプ作用素をSとしたとき, H=trS/nで定義しています.

maxΣ|H|=0のときはどうなのかと気になった方がいるかもしれません. このときΣは境界を持たないコンパクトな極小超曲面となりますが, そのような極小超曲面は存在しない(詳しくは こちら を参照)ため, 今の設定では心配しているような状況は起こりません.

主張のイメージ

H0=maxΣ|H|>0とおいて不等式を変形すると
R1H0
となるので「Σを含むような球体の半径は少なくとも1/H0でなければならない」というのが定理の主張です.

これは次の図ような状況をイメージするとわかりやすいかと思います.
強く曲がった部分に接する球体 強く曲がった部分に接する球体
Σを含む最小の球体を考えると, その表面はΣ上のどこかで接します. 図で, 最も尖っている点pの平均曲率は, 半径1/H0の球面の平均曲率と同じです. そこで, 球体が点pで接するような状況を考えると, 球体がpの周りの点を包むためには半径が1/H0以上は必要そうです.

一方で上記の考察から, この半径の評価は非常にラフだということがわかります(冒頭ではこの意味で「素朴な関係」という紹介をしました). このことは次の図からもすぐにわかります. 角の生えた曲面とそれを包む球体 角の生えた曲面とそれを包む球体

Hsiung-Minkowskiの公式

HasanisとKoutroufiotisによるオリジナルの論文[1]では, 最大値原理という楕円型偏微分方程式論の道具を用いて不等式が示されています. これ自体も幾何解析において(息をするように)用いられる重要なテクニックのひとつですが, 今回は偏微分方程式論の知識を仮定せず, 最低限の幾何学と関数解析の知識で理解できるよう, Hsiung-Minkowskiの公式と呼ばれる関係式を用いた証明を紹介します.

Hsiung-Minkowskiの公式

X:ΣRn+1を閉超曲面とすると, 次の等式が成り立つ:
Σ(HN,X+1)=0.

第一変分公式 を用いて示す. はめ込みXの変分Xt(|t|<ε)
Xt=(1+t)X
で定義する(相似拡大). Σt=Xt(Σ)とおくと, 第一変分公式より
ddt|t=0Vol(Σt)=ddt|t=0ΣnHN,(1+t)X=nΣHN,X.
一方, Vol(Σt)=(1+t)nVol(Σ)より,
ddt|t=0Vol(Σt)=nVol(Σ).
以上より,
nΣHN,X=nVol(Σ).
Vol(Σ)=Σ1に注意すれば, 示したかった等式を得る.

超曲面の重心

証明に入る前に, 今回用いる記号の準備をします.

Lpノルム

p1に対し, 閉超曲面Σ上の関数fLpノルムfp
fp=(1Vol(Σ)|f|p)1p
で定義する.
また, 見やすさのため, Σに沿ったベクトル場Vに対し,
Vp=|V|p
とおく.

重心

はめ込みX:ΣRn+1に対し,
X0=1Vol(Σ)ΣX
で表される点X0Rn+1Σ重心と呼ぶ. ここで, ベクトル場Xの積分は, Xの第i成分(1in+1)Σ上の関数と思って成分ごとに積分し, その結果を並べたベクトルとして定義している.

重心をこのように定義するのには, これが剛体の重心の定義と同一なことに気づけば腑に落ちるかと思います.
超曲面の重心は, 超曲面Σの慣性モーメントを最小化するという意味で, Σの中心とでも呼ぶべき点になっています.

重心はΣの"中心"

閉超曲面Σの重心X0は次を満たす:
XX02=infxRn+1Xx2.

関数I:Rn+1RI(x)=Xx22で定める. 任意のベクトルvRn+1に対し,
dIx(v)=ddt|t=0I(x+tv)=1Vol(Σ)ddt|t=0Σ|(Xx)tv|2=2Vol(Σ)ΣXx,v=2Vol(Σ)Σ(Xx),v
となるので, I(x)=2Vol(Σ)Σ(Xx). とくに, 重心X0Iの臨界点である.
いま, 関数x|Xx|2の凸性からIも凸関数となるから, Iの臨界値はIの最小値となる.
以上より, XX022=I(X0)=infxRn+1Xx2.

定理の証明

前節で導いた重心の性質を使って, まずL2版の不等式を示します.

L2版Hasanis-Koutroufiotis不等式

X:ΣnRn+1を閉超曲面とすると, 任意のxRn+1に対し,
H2Xx21
が成り立つ.
等号成立は, xΣの重心X0であり, かつΣx=X0を中心とした半径1/H2n次元球面のときに限る.

Hsiung-Minkowskiの公式およびCauchy-Schwarzの不等式により
1=|1Vol(Σ)ΣHN,Xx|1Vol(Σ)Σ|H||Xx|H2Xx2
特に, Xu21/H2となる.
よって, 等号が成立するとき, xXx2を最小化するので, 重心の性質からx=X0である.
さらに, Cauchy-Schwarzの不等式の等号成立条件から, Σの各点でXX0Nと平行になる. このとき,
Σ|XX0|2=2XX0,(XX0)T=0
となるので, |XX0|=const.=r.
また, r=XX02=1/H2となるので, ΣX0を中心とした半径1/H2の球面である.

主定理の証明

ΣBR(x)となるとき,
Xx2maxΣ|Xx|R
となるので, 補題4より
1H2Xx2H2RRmaxΣ|H|
となる.
また, 補題4の等号成立条件から, 等号成立はΣが重心を中心とした半径R=1/maxΣ|H|の球面のときに限る.

参考文献

投稿日:20241117
更新日:20241117
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

Torte
Torte
25
2416
数理系博士課程在籍. 幾何学や解析学が好きです. 多分大学数学メイン?

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中
  1. 主張のイメージ
  2. Hsiung-Minkowskiの公式
  3. 超曲面の重心
  4. 定理の証明
  5. 参考文献