こんにちは。厳寒の候まで1ヶ月弱、既に寒さの厳しい日々をいかがお過ごしでしょうか。
さて、先日
MARTH
氏が記事『
OnlineMathContest で解ける母関数の問題を集めてみました。
』を投稿されましたね。皆様は既に閲覧済みと推察しますが、こちらを拝見した筆者(5ヶ月間記事投稿無し)はといえば、
「えっ有益……すご……」
と、大いに衝撃を受けた次第です。
なぜでしょうか。実は、筆者(5ヶ月間記事投稿無し!!)はこれまで、新規性や応用性を前面に出した内容でしか、有益な記事を生み出せないと思い込んでいたのです。
二重根号の記事
、
レムニスケートの記事
、
自身が主催したコンテストの解説記事
など、少なくない記事をしたためてきた筆者(5ヶ月間記事投稿無し!!!!)ですが、このプラットフォームがMathlogというブログであり、論文投稿サイトではない、という簡素な発想に至れませんでした。
上記の記事を開くと、母関数の問題が隅から隅までズラリと。初学者にとっては喉から千手観音を輩出しかねない有益さの奔流が、木枯らしの如き激烈さで双眸を焦がしました。まとめってこんなに有益なんだ……などと呟きつつ、眩く煌めく液晶に浄化されるのでした。
そのため、筆者(5ヶ月間以下略)は完全に感化され、
「私も、何かをまとめよう。」
という情動に駆られました。単純ですね。
まとめたい願望だけが先行し、何をまとめるかは後付けでした。時は2024年の師走。近い未来、具体的には翌月上旬に、
数学オリンピック財団
が日本数学オリンピック(JMO)・日本ジュニア数学オリンピック(JJMO)の予選を実施する頃です。すなわち、数オリに関するまとめを書けば、確実な有益さに直結するといえそうです。
ですが……ここまでのアイデアでは、言わずと知れた
Math Olympiad Hardness Scale (MOHS)
とほぼ同一になってしまいます。ゆえに、対象をJMO/JJMOの予選に、加えて幾何分野に絞り、差別化を図りました。どうして幾何を、と思われるかもしれませんが、これは筆者の得意分野が幾何であること、および数オリの幾何は概して過去問対策が有効であること、この2点が決め手です。
本選以降は
こちらの書籍
の領分と割り切り、本記事では財団HPで解答が公表されている第22回(2012年)以降のJMO幾何を列挙します。JJMO版は後日。
※難易度評価は筆者である
匿(Tock)
の主観によります。
※著作権云々でリンクは貼っていません。ご自身で検索し問題に辿り着いてください。
一応すべて解いたうえで掲載しています(最終更新:2024/12/22)。難易度は相対的に示しており、難易度$d$の問題は例年の予選$d$番レベルの難しさです。「$Y$年の予選第$P$問」を「$Y$-$P$」と表記しました。
問題 | 難易度 | コメント |
---|---|---|
2017-3 | 0.6 | 一説に代数分野の出題とも。 |
2023-3 | 0.7 | 掲載された図はかなり不正確。 |
2012-1 | 1.0 | 勘で答えても計算しても良し。 |
2021-2 | 1.2 | 正多角形に慣れるための問題。 |
2022-2 | 1.3 | 本問の解法が予選において重要。 |
2020-2 | 1.6 | 余弦定理に頼らず解きたい。 |
2015-2 | 1.7 | 簡単ながらオススメの一品。 |
2017-1 | 1.8 | ${30}^{\circ}$の扱い方を知っておこう。 |
2024-3 | 1.9 | 接線を用いた問題はJMO頻出。 |
2014-1 | 2.1 | 余計な補助線は却って逆効果。 |
2016-3 | 2.3 | 点や直線の量に怯むべからず。 |
2013-3 | 2.4 | 対称性を活かし楽な計算を。 |
ここに分類された問題はほぼ全員正解してきます。こんなところで差がつかないように、計算ミスには十分注意しましょう。易しくても難しくても貴重な1点です。
問題 | 難易度 | コメント |
---|---|---|
2022-7 | 2.5 | 三平方の利用は最低限に。 |
2012-2 | 2.7 | オススメ。脳を柔らかくしよう。 |
2016-5 | 2.9 | 算数っぽい発想でいざ尋常に。 |
2018-3 | 3.5 | アイデア不要の良い計算問題。 |
2013-5 | 3.8 | 答えの値だけは数学Ⅱ範囲。 |
2022-4 | 4.0 | まず図を描く、話はそれから。 |
2014-4 | 4.3 | 暗算で解ける人もいるはず。 |
2017-4 | 4.5 | 結構大切な構図を含んでいる。 |
2023-6 | 4.9 | 全作問者が嫉妬する絶品の幾何。 |
幾何が苦手であれば、この辺りから対策を始めましょう。序盤グループの問題は10分以内に解きたいです。
また、2022-7が好例ですが、セットの後ろにあるからといって必ずしも難問とは限りません。財団の慈悲を信じ、最後までじっくり吟味しましょう。
問題 | 難易度 | コメント |
---|---|---|
2021-3 | 5.0 | 3番全体でも2014-3に次ぐ難しさ。 |
2018-6 | 5.1 | 補助線を引かずに解き切りたい。 |
2020-6 | 5.7 | 正方形幾何の確認テストとして。 |
2015-8 | 6.0 | 終盤への入口らしさを感じる一作。 |
2019-4 | 6.1 | 厳しい。2019年の幾何は全部厳しい。 |
2023-10 | 6.5 | 難易度逆詐称。見た目で解こう。 |
2012-7 | 6.9 | 「線分は直線に」、これ大事です。 |
2013-8 | 7.4 | 座標計算を縛ると難易度9.5程度? |
差がつく難易度帯です。他に苦手分野が無ければ、ここの幾何を解き切ることでほぼ確実に予選通過できます。
ワンポイント。数オリ予選幾何の特徴として、補助線の少なさが挙げられます。つまり、補助線を大量に引く解法は、試す前から「うまくいかないかも」と予感できるのですね。年度にもよりますが概ね5本未満に収まります(座標計算でゴリ押しした場合を除く)。
問題 | 難易度 | コメント |
---|---|---|
2022-12 | 7.5 | 円弧と円周角に注目し○○を見つけよう。 |
2024-6 | 7.9 | 本選への架け橋。 |
2014-9 | 8.2 | 座標も効くが、 だま氏 様の解法は必読。 |
2019-8 | 8.3 | 内心の典型構図から$\angle A$を求めたい。 |
2017-10 | 8.6 | 周長は扱いづらい、どう調理するか。 |
2018-9 | 8.7 | あの相似を使わずとも解けてしまう。 |
2020-11 | 9.0 | 作図は不正確でよい。ただ手を動かす。 |
2024-9 | 9.4 | オススメ。見つけづらい○○○を探す。 |
2021-7 | 9.8 | 初見では1時間以上かかった記憶がある。 |
幾何以外が得点源の人には捨てられがち。これらの問題を試験時間内に解くことができれば、れっきとした幾何勢の仲間入りです。
特筆すべきは2022-12。最終問題としての威圧感から、挑むことさえ諦めた受験者も少なくないでしょう。しかしながらご覧の通り簡単です。2022-7や2023-10と同じ逆詐称枠ですね。最近の幾何作問担当者は気分屋なのかもしれません。
問題 | 難易度 | コメント |
---|---|---|
2015-11 | 10.3 | 構図を押さえていれば割とゴリゴリできる。 |
2017-8 | 10.4 | 本選への架け橋2。図の本質を見極めたい。 |
2016-8 | 11.2 | 辺の関係を書けるだけ書き出し連立しよう。 |
2021-10 | 11.9 | オススメ。中盤級を3問組み合わせた感じ。 |
2019-10 | 12.0 | 筆者が知る限り最難の補助線1本幾何。 |
2012-12 | 12.6 | 隠れ良問。立方体のサイズは任意でよい。 |
いよいよ最終盤の面々です。下3つは特に難問であり、国際数学オリンピック(IMO)の代表でさえも全員は解けないものと予測します。専ら自己満足を主目的に挑戦する難易度帯でしょう。
ちなみに、時間制限付きで解いた場合、筆者の幾何力も難易度11.0~11.5相当となります。本難易度表作成にあたり、2012-12を2時間で解けたことは比較的幸運でしたね……。
年度 | 合格点 | 難易度一覧 |
---|---|---|
第22回(2012年) | 8点 | 1番:1.0、2番:2.7、7番:6.9、12番:12.6 |
第23回(2013年) | 5点 | 3番:2.4、5番:3.8、8番:7.4 |
第24回(2014年) | 6点 | 1番:2.1、4番:4.3、9番:8.2 |
第25回(2015年) | 7点 | 2番:1.7、8番:6.0、11番:10.3 |
第26回(2016年) | 5点 | 3番:2.3、5番:2.9、8番:11.2 |
第27回(2017年) | 6点 | 1番:1.8、3番:0.6、4番:4.5、8番:10.4、10番:8.6 |
第28回(2018年) | 7点 | 3番:3.5、6番:5.1、9番:8.7 |
第29回(2019年) | 5点 | 4番:6.1、8番:8.3、10番:12.0 |
第30回(2020年) | 8点 | 2番:1.6、6番:5.7、11番:9.0 |
第31回(2021年) | 6点 | 2番:1.2、3番:5.0、7番:9.8、10番:11.9 |
第32回(2022年) | 7点 | 2番:1.3、4番:4.0、7番:2.5、12番:7.5 |
第33回(2023年) | 8点 | 3番:0.7、6番:4.9、10番:6.5 |
第34回(2024年) | 6点 | 3番:1.9、6番:7.9、9番:9.4 |
年度で分けると、ある程度の傾向も見えてきます。幾何は例年3~4問出題され(2017年は例外)、2019年・2021年といった難化年の直後は易化するようですね。
とはいえ、どの年度も幾何だけで予選ボーダーを超えることはできません。代数・組合せ・整数の基本を押さえつつ、余った時間で伸ばせるだけ幾何を伸ばす、という手段こそ、幾何ソルバー各位の採るべきストラテジーなのでしょう。
如何でしょうか。気軽に仕上げたTier表ですが、予選幾何対策の参考になっていれば幸いです。なお、本表作成に際し上記の44問を改めて解き直したのですが、しっかり10時間かかりました。かかりすぎでは?
ということで、筆者初のまとめ記事でした。いつも通り異論・指摘などはコメントに。
JJMO版を心待ちにしつつ、よい年末年始をお過ごしください。受験者各位は終盤級全完を目標に頑張りましょう。