サークルの仲間に触発されて学部卒業の前にこの4年間で読んだ数学書を振り返ってみようと思いました.
目標:僕が学部生時代に読んだ本をコメント付きで時系列順に振り返る
本の紹介の際に自分の本気度(本の評価ではありません)
◎:ちゃんと読んだ
〇:一応は追った
△:一時期はまった程度
を割り振って区別しました.
ここに書いたからといって全部が全部わかっているなんていうことはありません.〇,△がふられている本をいきなり持ってきて「この本読んだって書きましたよね!じゃあこの本の問題解いてください」とか凸らないでください.言われたらそれなりに頑張るけどさ.
入学後最初に買った数学書です.当時初等幾何大好き少年だった私は大学でも漠然と幾何をやろうと思っていて,その中でも当時話題だったIUT理論はいいなと思っていたのですが,望月先生のホームページを見てIUTに必要な武器の一つとしてどうやら可換環論なるものを勉強した方がよさそうだぞという気持ちになり買いました.
当時代数の基礎のキの字もわかっていない状態ではとても難しく,YouTubeにあるアティマクを参考にした授業動画を頼りに全てノートに写してごりごりと読み進めていました.その調子で2章の頭までやっても全く問題が解けなくて一旦アティマクから離れました.
アティマクを放置した後に読んだ本です.ここで一度可換環論の言葉と顔見知りになったことが,2年後,代数の授業と作用素環で活きるとはつゆ知らず.
しがない数学徒さんが動画で言っていた「準素分解」の理解を目標に3章まで時たま問題を解きながら読んでいました.
〇
ルベグ積分入門
はじめて読んだルベーグ積分の本です.冬休み中にVI§6まで読みました.上極限・下極限の扱いを習得したり,反例をたくさん眺めたりできます.
B2の代数の授業に備えて一応読んだ本です.代数学の基本定理の証明が印象的で,あっという間にガロア理論を駆け抜けちゃえます.
休暇期間中に読んだ本.この時は上の本もそうですが2年生対策の本が多いですね.
この時まで専攻を幾何にしようと思っていたので,入学式前に買ってとりあえず読んでみました.ここまで基本的に数学書を写してページを力技で読み進めるというやり方でしたが,この本の問題を当時の助教の方に質問してから数学書の読み方が変わった気がします.個人的には付録にB1,2相当の数学のまとめがあったのが役に立ったと思います.
〇
Contemporary Abstract Algebra (7th edition)
これは群論パートをやりこみました.問題をトータルで50%くらい解き,証明を頭に叩き込みました.今すぐ使えるかはさておき・・・.自分にとって相性がぴったり合った数学書ですが,私は赤雪江がしっくりこなかった珍しい(?)人間なので皆さんにはまるかはわかりません.この本のおかげで平均点20点台の代数のテストで80点取れました.数学力に自信を持てたきっかけを与えてくれました.
〇
群論序説
Gallianと一緒に読みました.10章で雲行きが怪しくなるまでそこそこ読みました.
僕を解析に誘った犯人です.夏休み中コロナ明けからその遅れを取り戻すかのようにごりごり問題を解いたり一般向けに講演を打ったりしました.
夏休み中からやり始めました.俺イプシロンデルタやばくね?ということに気づかせてくれたのと共に理解を深めることができました.
一冊まるまる問題を解くという経験をはじめてした本です.
バ先の先輩とゼミで読んだ本.しょっぱなの選択公理で詰みましたが・・・詳細は Analysis Nowについての記事 を見てください.
B3になる前の休暇中に先輩に見てもらって1巻目を読みました.
セミナーで使った本.3章のはじめまで読みました.
良書of良書.薄いのになんでも書いてある.
〇
A Course in Functional Analysis
セミナーでやった話題をその日の内にConwayで確認して問題をたくさん考えようと思っていました.反射性のところで先輩に問題を聞いた際快刀乱麻に解かれてすごいなと思いました.
△
Lecture Notes on Elementary Topology and Geometry
幾何をやっている先輩とゼミした時にちょっと読んだものです.トポロジストのサインカーブが連結だが弧状連結でないことを示しました.このあたりから数学のやり方がおぼろげながら掴めてきたと思います.
〇
複素解析
ゼミサークルで最初に読んだ本.アールフォルスです.僕の担当ではなかったんですが楕円型とかのところでゼミが炎上して困って もう一つの函数論入門―複素数の行動分析の基礎 を見たらもっとわけわからなくなりました.偏角の原理の問題を解いたりリーマン面の事項を参考にしたりしました.杉浦解析IIの複素解析がアールフォルスと似通っていることに気づいてからは杉浦解析IIで複素解析を学ぶようになりました.
〇
多様体の基礎
通称「ラノベ」.実は1の分割のところを読んでいません(!)吉田ルベーグで証明を追ったからいいだろと思って見なかったことにしています.
◎
トゥー多様体
サークルの後輩と読んでいました.後輩の手前毎回事前に予習していい恰好を披露できるようちゃんと問題も解いてやっていました.微分形式までちゃんと読んでいたと思います.
これはわかりやすかったな.正則行列の多様体の次元が学べました.
授業で実質読んでいた本.TeXでノートを作ったり中島啓先生の講義資料の問題を解いたりして必死にやっていました.
基礎論の教科書.基礎論に自信があった当時はこの内容をわかりやすくまとめた基礎論カンペを作っていましたが,今は自信が無くなったので作っていません.
何度も頭に刷り込んだおかげで基礎論の試験で満点が取れました.その日はゲーデルが私に降りてきたようで帰りのエレベーターで入ってくる人に気づかず閉めるボタンを押してその人をドアで挟んでしまうという奇妙な体験をしました.
「可換環論のかんどころ」にあった加群論がわからず手を出した本.結局つまみぐいのまま放置してしまっています.
〇
宮寺関数解析
これをベースにした大先輩オリジナル資料を夏休み中に読む「げつもくゼミ」でやりました.楽しかったな.
〇
現代の古典解析
げつもくゼミの際たびたび見ました.$3\varepsilon$論法の説明はまさに一刀斎の刀がキラリと輝き,めちゃわかりやすい!と思いました.
△
ガロアの夢
オバQが描いてあるかわいい数学書.当時意中だった女の子と映画に行った際これを読んで待ち合わせしました.その後,その子に振られたことをきっかけに外部院進を決意することになります.
夏休み中一通り小説のように読んで(因みにこの時Baby Rudinも同様のやり方で読んで数学の英語に慣れ親しもうとしていました)対角化のところだけ問題をたくさん考えました.
〇
xのx乗のはなし
夏休み中に読んだ本.24時間テレビでランナーがゴールするまでに読み終わりました.コンパクトの使い方・気持ちについて学びが深まりました.
ジョルダン標準形までとテンソル積のところだけ見ました.有限群の表現論なりリー代数の表現論なりに触れた今読み返すとなんか味わいが深そうな気がしました.
〇
解析学序説 上巻
院試用に解析をチャント追える薄い本を探していた時に手写し&問題演習で読んでいた本です.下の梶原本に出会ってから読まなくなりました.大学の授業が終わってから理工横の図書館で閉館するまでこれを読み,その後レトロゲーセンでスプラッターハウスをやってから終電で帰宅するのが一時期のルーティンでした.
◎
独修微分積分学
個人的なおすすめ.この本を発掘できたのは本当にラッキーだと思っています.梶原本にはまったきっかけ.年始でも勉強できる図書館を見つけて1/2から千代田図書館でこれをやりこんでいたのは良い思い出です.B3の内にある程度解けるようになっていると強いと思います.
◎
解析入門I
B3の10月から先輩を巻き込んでゼミ形式で一通り読み切りました.読み終わったのは確かB4の5月だったはず.ここでちゃんとMテストとか広義積分とか追ったのはでかいと思っています.Tu多様体の事項と絡めて「df」という記号の深い理解ができました.
〇
C*-Algebras and Operator Theory
げつもく解析ゼミでTeXノートをGitHubで共有し合いながら読んでいました.2章までちゃんと追ったことになっています(?)この後げつもくゼミの枠が先輩方と杉浦解析を読むゼミに変貌します.
△
圏論の歩き方
Gelfand理論とか淡中 Krein双対性とかが書いてあります.
Tu多様体でのゼミ準備をきっかけに見つけた本.米田の補題まで僕の中にある圏論のイメージを作ってくれました.今でもたまに見返します.
△
圏論の地平線
これの出版記念イベントに参加して,圏論への興味を持った代償としてコロナにかかりました.
一個上の先輩方とゼミで読んだ本.自分が担当したリー微分,エーレスマン接続は, 接続の微分幾何とゲージ理論 などを参考にしながら頑張って準備したものの大体終盤で準備不足が露呈して理解しきっていないまま板書する「式坊主」タイムが生じがちでした.微分幾何の煩雑な途中計算を体験して,自分は幾何じゃなくて作用素環に進んでよかったのかもと思いました.
極分解の裏テク(有名?)が載っています.スペクトルの気持ちが線形代数を通してよくわかる本.池田岳本をやり込んでいる友人とジョルダン標準形の手法(代数的・解析的)の対比をしました.
◎
線型代数演習
指導教員から渡された本.演習問題をゼミ同期とゼミ形式で解いていました.数物セミナーに行ってから線型代数演習ゼミを何も見ないで発表しようと努め結果発表30分前に準備をはじめて何も見ないで説明できるようになりました,当時は.今もできると思う,というか今もできるよう「日々是線形代数」なわけですね.
ネットからはじめる位相空間論 の際参考にしていたもの.convergence classから定まる位相からKuratowskiの閉包作用素での位相の定め方の用途に興味を持ち,ルベーグ積分をネットみたいなもので解釈するとしたらどうなるか考えていたことがありました.
◎
関数論入門
B4に上がる前に一通り問題を解き終わるのを目指してやり込んでいました.最初は間違えた問題の解答を手写しして叩き込んでいましたが,院試対策友達のやり方を知ってからもっと肩の力を抜いて読めるようになりました.名大院試超直前に入り口勉強法(自室に入る前に一問解く,これを継続する)で積分の問題が解けた時は自分の実力を確信して感動したのを覚えています.
◎作用素環論入門(今はまだオリジナルテキスト)
セミナーで読んでいる本です.行間が程よく埋まっています.私が一番作用素環を勉強している本です.
〇
解析入門II
院試対策友達に影響されて複素解析の部分を何度も読んでいました.もうちょっと読みこんどきゃよかったのかねえ.
◎
集合と位相
内田集合位相.4月から時たま地元の図書館で夜解いていました.証明を自分で書いてから本を確認したり問題を考えたりしたおかげで東工大院試の集合と位相の問題が扱えるようになってきました.
△
集合・位相演習
先輩から勧められた本ですが,コンパクト性以外はあまり解かなかった気がします.可算公理周辺やるぞ.
線形代数のところだけ名大院試までにやり込んで実力を間に合わせました.他は気になる問題をいくつか.
△
John RoeのK theoryのlecture note
詳細は 前書いた記事 を見てください.
◎
Real Analysis: Modern Techniques and Their Applications
僕のお気に入りです.これのおかげで一般の関数の和の定義に出会えたり有向点族に詳しくなれたりしました.東大院試の前はルベーグ積分の問題を解きまくっていました.
〇
解析演習
名大院試1週間前くらいから定期的に解いていました.面白そうな問題に付けたマークのやつ,まだ残ったままになっているな.
勢いで買った本.随伴に詳しくなりたい.
東大院試対策で必要そうな章と単語の確認のために読んでいました.なるほど数学的に定まる対象にはa/anではなくtheが付くのか.
これで毎朝ジョルダン標準形の練習をしました.
読んでいてとても面白い本です.狭義優対角行列の事項やノルムの事項などは特に面白かったです.これのおかげで数値解析が専門の友人との仲が深まった気がします.今後も定期的に解いて行列マスターになりたいです.
東大院試2か月前くらいから書き方が良く思えて読んでいましたが指導を希望していた先生から「数学書は一冊を丁寧に読んだ方が良いよ」と言われてから読まなくなりました.
△
An Introduction to K-Theory for C*-Algebras
通称「Rørdam」.東大院試対策の合間にこれを読んで休憩していましたが,卒論のテーマで同期にK理論を譲ってから読まなくなりました.
院試1か月前から始めて入口勉強法で一通り読みましたが,かなりの力技だったので東大数理の院試には・・・察してください.
△
微分方程式の基礎
院試対策用に8月から前述の入り口勉強法で読んでいました.独修微分積分に書いてある事項の理屈がわかったのは良かったけど最後までごつい解法とはあまり仲良しになれなかったな.微分方程式は 森毅先生の「存在定理」 とか 新修解析学 とかから始めればよかったかもしれないなあ.
◎
Introduction to Lie Algebras and Representation Theory
量子群を見越して学部卒業までに終わればいいなと思って読んでいます.今は3章の手前まで来ました.
◎
Lectures on Riemann Surfaces
寺杣リーマン面を読み切れなかった後悔からサークルの皆さんと読んでいる本.ガロア被覆のあたりでガロアの夢を想起しました.
◎
数理論理学の基礎
授業と併用して実質読んでいます.基礎論むずいっす.
◎
Compact Quantum Groups and Their Representation Categories
卒論のネタ本です.最初はモチベがありませんでしたが昨年大阪で太陽の塔をじーっと眺めていたらふつふつとやる気が湧いてきてそこからは楽しく読むことができました.
確率の授業でせっかく頑張って勉強した統計の事項がすっかり頭から抜け落ちていることに気づいて昨日読み始めました.統計検定受けようかしら.
振り返ってみると色んな数学に触れられた4年間だったと思います.数学を通してお世話になった皆様に感謝しなければならないなと思いました.
大学院では勉強オンリーの数学から卒業して次のステップに進めればなと思いますが,どうなるんでしょうか.