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現代数学解説
文献あり

【層理論第5回】層に対する様々な演算II

2019
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はじめに

こんにちは!層理論の第5回です.前回はGrothendieckの六演算のうちの四つを説明しました.今回も前回に引き続き層に対する演算について説明していきたいと思います.特に六演算の五つ目である固有順像についてお話しします.

前回のおさらいと補足

第4回 では層に対する演算,sheaf Hom・テンソル積・順像・逆像の四つを定義しました.前半二つはX上の層二つからまたX上の層を作り出す内部演算で,後半二つは連続写像f:XYX上の層をY上に押し出したりY上の層をX上に引き戻す外部演算でした.そしてテンソル積とsheaf Homは随伴で,逆像と順像も随伴の関係になっていたのでした.

さて,補足として層とその切断に関する用語を定義しておきましょう.今回も何も言わずにXと書いたら位相空間をあらわします.

切断および層の台

FSh(X)とする.このとき,Xの開部分集合Uとその上のFの切断sF(U)に対してs|V=0となるU内の最大の開部分集合VU内の補集合UVを切断sと呼び,supp(s)であらわす.また,F|V0となるX内の最大の開部分集合Vの補集合XVを層Fと呼び,Supp(F)であらわす.

台の記号・茎による表示

(i) 切断の台と層の台を同じ記号suppで書く文献が多いが,ここでは記号を別にした.
(ii) 最大の開部分集合Vの存在は貼り合わせ条件から分かる.
(iii) sF(U)に対してsupp(s)={xUsx0}であるが,Supp(F)={xXFx0}である.後者は閉包を取らないと正しくない.

例えばSupp(Hom(F,G)),Supp(FG)Supp(F)Supp(G)であって,連続写像f:XYFSh(X),GSh(Y)に対してSupp(fF)f(Supp(F)),Supp(f1G)f1(Supp(G))となります.

固有順像

ここでは順像とは少し異なるやり方で層を押し出す方法を定義します.そこでは固有写像の概念を扱う必要があるのですが,扱いを簡単にするために以下では断らない限り位相空間はすべて局所コンパクトハウスドルフ空間であると仮定します.このとき,連続写像f:XY固有であるとはYの任意のコンパクト部分集合Kに対して逆像f1(K)Xのコンパクト部分集合となることでした.連続写像f:XYに対して,あるYの開被覆{Ui}iIが存在して,任意のiIに対してf|f1(Ui):f1(Ui)Uiが固有ならばfは固有になることがチェックできます.

固有順像の定義

さて,f:XYを(固有とは限らない)連続写像とします.このとき,FSh(X)に対して,その順像は(fF)(V):=F(f1(V))=Γ(f1(V);F)と定義されたのでした.これを少し細工して,Yの開部分集合Vに対して
(f!F)(V):={sΓ(f1(V);F)f|supp(s):supp(s)Vは固有}
と定めると,f!FfFの部分前層としてY上の前層を定めます.上で説明したように固有写像であることは局所的な性質なので,f!Fは実際に層になることが分かります.

固有順像

f:XYを連続写像,FSh(X)とする.このとき,
(f!F)(V):={sΓ(f1(V);F)f|supp(s):supp(s)Vは固有}
により定まるY上の層f!FSh(Y)Ffによる固有順像と呼ぶ.また,函手f!:Sh(X)Sh(Y)固有順像函手と呼ぶ.特に,f=aX:Xptが一点への写像のとき,
Γc(X;F):=aX!F={sΓ(X;F)supp(s)はコンパクト}
とあらわし,コンパクト台切断とも呼ぶ.

この函手f!がGrothendieckの六演算の五つ目です.もしfSupp(F)上固有であればf!FfFであることに注意しましょう.固有順像が順像の部分であることを用いると,連続写像f:XYに対して,固有順像函手f!:Sh(X)Sh(Y)は左完全函手であることが分かります.また,連続写像f:XY,g:YZに対して,自然同値g!f!(gf)!:Sh(X)Sh(Z)が成り立ちます.特に,FSh(X)に対して自然な同形
Γc(Y;f!F)Γc(X;F)
が成り立ちます.f!は左完全函手なのでその導来函手である高次固有順像Rnf!が考えられます.特にf=aX:Xptを考えれば,コンパクト台コホモロジー函手Hcn(X;):Sh(X)Abが得られます.導来函手はδ函手なので層の短完全列に対してコホモロジー長完全列があることにも注意しましょう.普通のコホモロジーの長完全列とコンパクト台コホモロジーの長完全列をうまく使い分けることによって様々なコホモロジーを計算することができます(下の例3も参照).

固有順像の嬉しい性質の一つは茎が計算できることです.順像では茎が計算できないのに固有順像では茎が計算できるのは,切断の台に写像に対する固有性を課して暴れ具合を統制しているからと考えられます.

固有順像の茎は逆像のコンパクト台切断

f:XYを連続写像,FSh(X)とする.このとき,任意のyYに対して,自然な同形
α:(f!F)yΓc(f1(y);F|f1(y))
が存在する.

概略

写像αi:f1(y)XとしたときのFii1Fから定まるものである.
αが単射であることを示す.VY内のyの開近傍としてt(f!F)(V)とする.すると,tsΓ(f1(V);F)f|supp(s):supp(s)Vが固有であるもので定まる.α(t)=0とするとyf(supp(s))であり,固有写像は閉写像だから,あるyの近傍Vが存在してVf(supp(s))=となる.ゆえに,Vt=0である.
αが全射であることを示す.sΓc(f1(y);F|f1(y))として,K:=supp(s)f1(y)とする.実は,Kがコンパクトであることから,あるKUとなるXの開部分集合UtΓ(U;F)が存在してs|Uf1(y)=t|Uf1(y)となる.VKの相対コンパクトな開近傍でVUを満たすものとすると,yf(Vsupp(t)V)となる.よって,yの開近傍WであってWf(Vsupp(t)V)=となるものが存在する.ゆえに,sΓ(f1(W);F)
{s|f1(W)V=t|f1(W)Vs|f1(W)(supp(t)V)=0
と定めることが出来る.supp(s)f1(W)supp(t)Vより,f|supp(s):supp(s)Wは固有であり,作り方からs|f1(y)=sを満たす.

次のように固有順像を包含写像に用いることで茎が0でない部分を増やさないように全体に延ばすことができます.

ゼロ拡張

i:ZXを局所閉部分集合の包含写像とする.このとき,上の命題よりFSh(Z)に対して,同形
(j!F)x{Fx(xZ)0(xXZ)
が成り立つ.これはZが開集合であっても成立することに注意せよ({xX(i!F)x0}Supp(i!F)である).開集合の包含写像j:UXと普通の順像jFに対して一般にはこのような茎の同形は成り立たなかったことを思い出そう.i!FFゼロ拡張とも呼ぶ.Zが閉部分集合の場合は自然にi!FiFである.

上の茎の計算より次が得られます.

局所閉部分集合からのゼロ拡張は完全函手

i:ZXを局所閉部分集合の包含写像とする.このとき,ゼロ拡張の函手i!:Sh(Z)Sh(X)は完全函手である.

i:ZXを局所閉部分集合の包含写像とする.このとき,(1) i!が完全函手であること,(2) i!が入射的層をc-柔軟層 (c-soft sheaf) にうつすこと,(3) コンパクト台コホモロジーは柔軟分解で計算できることの三つから,FSh(Z)に対して
Hcn(X;i!F)Hcn(Z;F)
となることが分かる.一般にはf!が完全でないので上でiを一般の連続写像fに取り替えると成立しないが,前回も少し述べたように導来圏とその間の導来函手を考えると正しくなる.

開集合からのゼロ拡張については次の制限との随伴の関係が成り立ちます.

開集合からのゼロ拡張と制限は随伴

j:UXを開部分集合の包含写像とする.このとき,FSh(U),GSh(X)に対して自然な同形
HomSh(X)(j!F,G)HomSh(U)(F,G|U)
が成り立つ.また,これらに対して自然な同形
HomX(j!F,G)jHomU(F,j1G)
が成り立つ.

後半は各開集合で考えれば良いので,前半だけ示す.
VUなる開部分集合Vに対して(j!F)(V)=F(V)なので,層の射φ:j!FGに対して{φV}VUは層の射FG|Uを定める.
逆に,層の射ψ:FG|Uが与えられたとする.このとき,Xの開部分集合Vに対して
(j!F)(V)={sF(UV)supp(s)Vの閉部分集合}
である(雑にいうとsの台はUの境界からちゃんと離れている).上のように見たときs(j!F)(V)に対してψUV(s)G(UV)の台はsupp(s)に含まれているので,Vの開部分集合Vsupp(s)上で0として貼り合わせてG(V)の切断が作れる.この対応で定まる写像をφV:(j!F)(V)G(V)とすると,φ={φV}Vは層の射j!FGを定める.
上記の対応は互いに逆なので同形が示せた.

上の随伴を使うと入射的層の開部分集合への制限が入射的であることが次のように分かります.これも随伴がえらい証明です.

入射的層の開集合への制限は入射的

ISh(X)X上の入射的層,UXの開部分集合とする.このとき,I|USh(U)U上の入射的層である.特に,Hom(,I):Sh(X)Sh(X)は完全函手である.

j:UXを包含写像とする.任意のU上の層FSh(U)に対して,上の随伴から
HomSh(U)(F,I|U)HomSh(X)(j!F,I)
である.右辺はFに対する函手としてみれば,完全函手j!と完全函手HomSh(X)(,I)の合成として完全函手である.したがって,左辺もそうであり,I|Uは入射的である.後半は各開集合について考えればよい.

上の補題を使って次も得られます.これは入射的層は脆弱ということの脆弱層への埋め込みを使わない証明にもなっています.

後ろに入射的層を入れたsheaf Homは脆弱

ISh(X)X上の入射的層,FSh(X)X上の層とする.このとき,Hom(F,I)は脆弱層である.特に,Iは脆弱層である.

j:UXを開部分集合の包含写像とすると,随伴から自然な層の射j!F|UFが得られる.茎を考えるとこの射は単射であるので,完全函手Hom(,I)を施すとHom(F,I)Hom(j!F|U,I)Hom(F|U,I|U)は全射である.これがHom(F,I)の制限写像と一致するので,Hom(F,I)は脆弱である.後半はF=ZXとすればHom(ZX,I)Iであることから従う.

次は命題1の相対版で固有基底変換 (proper base change) と呼ばれることもあります.証明は逆像と順像の随伴を使って射を作って,命題1で茎の同形をチェックすることでできます.

固有基底変換

位相空間のファイバー積の図式
XfgYgXfY
すなわち,X=X×YY={(x,y)X×Yf(x)=g(y)}となるものに対して,自然同値
g1f!f!g1:Sh(X)Sh(Y)
が成り立つ.

固有順像・逆像・テンソル積に関する同形f!(Ff1G)f!FG(射影公式と呼ばれます)もある条件のもとで成立するのですが,これは導来圏で述べたほうがすっきりするので後回しにします.

固有順像の右随伴函手?

さて,少し天下り的ですが次の問いを立ててみましょう.

:一般の連続写像f:XYに対して,固有順像函手f!:Sh(X)Sh(Y)の右随伴函手は存在するか?すなわち,函手f!:Sh(Y)Sh(X)(随伴にしたいのでf!と書いた)であって,FSh(X),GSh(Y)に対して自然な同形
HomSh(Y)(f!F,G)HomSh(X)(F,f!G)
が成り立つものは存在するか?

これを期待する理由は少なくとも二つあります.
一つ目は開部分集合の包含写像j:UXに対しては右随伴が制限として存在するので,一般にも随伴の存在を期待したいという安直なものです.しかし,もしこれができると一つずつ随伴で解きほぐしてやることでテンソル積・逆像・固有順像の組合せで定義された層に対する演算の右随伴を作ることができます.これは嬉しいことです.
二つ目は積分のようなことをしたいというものです.コンパクトな台を持つ函数があったら積分をしたくなるのが人情というものではないでしょうか?より一般にはファイバー方向にコンパクトな切断をファイバーに沿って積分したくなります.もし上のような右随伴函手が存在すれば,自然な写像f!f!GGfのファイバーに沿った積分と思えそうです.特に一点への写像f=aX:XptG=Rを考えれば,Γc(X;aX!R)Rとなって積分のような写像ができます.

さて,この問いに対する答えは残念ながら一般にはNoです.Noである理由はやってみると分かるのですが,f!:Sh(X)Sh(Y)が完全ではないことに起因します.実際,局所閉部分集合の包含写像i:ZXに対してはi!は完全でi!:Sh(X)Sh(Z)を作ることができます(開部分集合の包含写像は特殊な場合).これは非常に残念ですが,枠組みを広げることで回避できるというのが上付きびっくりと呼ばれているf!の構成のアイデアです.ある意味でf!が完全に振る舞うような層のクラスに「同形」で取り替えるという操作ができれば議論がうまく進むのですが,これは層のアーベル圏のレベルでは不可能です.しかし,導来圏ではそこでの「同形」で良い層に取り替えることができてf!が作れるのです!こうしてできたものがGrothendieckの六演算の最後の上付きびっくりと呼ばれるものです.これが導来圏の二つ目の良さなのです.詳細についてはまたの機会に説明します.

その他の層に対する操作

Grothendieckの六演算には含まれていないものの便利な二つの演算について説明しておきましょう.

台の切り落とし操作

局所閉部分集合の包含写像の固有順像を考えることで,茎が全く染み出さないように全体に広げるゼロ拡張が考えられたのでした.これを制限と合成することで次を定義します.

台の切り落とし

i:ZXを局所閉部分集合の包含写像とする.このとき,X上の層FSh(X)に対して
FZ:=i!i1FSh(X)
と定める.また,X上の定数層MXSh(X)に対して,(MX)Zを単にMZと書く.

(i) 「台の切り落とし函手」という用語は一般的ではないここだけの呼び方である.(プロ向けの釈明:超局所切り落とし (microlocal cut-off) という操作が別にあるが,こちらは底空間方向の切り落としなので単に切り落としと呼んだ.)
(ii) 完全函手の合成として函手()Z:Sh(X)Sh(X)は完全函手である.
(iii) MZの記号は文脈によりZ上の層をあらわすこともX上の層をあらわすこともあるので注意が必要である.例えばZ[0,1][0,1]上の層かもしれないしR上の層かもしれない.しかし,この記号は非常に便利なのでKashiwara-Schapiraにならって用いる.
(iv) 局所閉部分集合ZFSh(X)に対して,ZZFFZである.

特異空間Sがあったとき,これを多様体Xi:SXと閉に埋め込んでZS=iZSSh(X)を考えれば,Hn(X;ZS)Hn(S;ZS)なのでX上の層のコホモロジーとしてSのコホモロジーを取り出すことができます.実際,0ZSISh(S)における入射分解(または脆弱分解)とすると,0ZSiISh(X)における入射分解(または脆弱分解)だから上の同形が成り立ちます.

例えば固有基底変換を使うことで,二つのXの局所閉部分集合Z,Zに対して(FZ)ZFZZとなることが分かります.閉部分集合の包含写像i:ZXに対してはFZii1Fなので,随伴から定まる自然な層の射FFZが存在します.この射はZ上の茎では恒等写像を誘導するものです.一方で開部分集合の包含写像j:UXに対しては,ゼロ拡張と制限の随伴から定まる自然な層の射FUFが存在します.これもU上の茎では恒等写像を誘導します.つまり,閉の場合は大きい方から小さい方に射があり,開の場合は小さい方から大きい方に射があります.これらの閉・開と射の向きはプロもときどき間違えるものですが,どちらかの随伴を思い出してやることですぐにどっち向きか判断できます(ちなみに筆者は閉の場合の随伴を思い出して開は逆だとやっています).これらの誘導された射について次の完全列たちが存在します.一つ目は切除・二つ目と三つ目はMayer-Vietorisの層理論版だと思うことができます.

台の切り落としに付随する完全列

FSh(X)とする.
(i) ZXの閉部分集合とすると,層の列
0FXZFFZ0
は完全である.
(ii) Z1,Z2Xの二つの閉部分集合とすると,層の列
0FZ1Z2FZ1FZ2FZ1Z20
は完全である.ここで,一つ目の射は自然な射FZ1Z2FZ1,FZ1Z2FZ2の直和で,二つ目の射は自然な射FZ1FZ1Z2,FZ2FZ1Z2の差で定まるものである.
(iii) U1,U2Xの二つの開部分集合とすると,層の列
0FU1U2FU1FU2FU1U20
は完全である.射は(ii)と類似のものである.

こうして,層のレベルで切除やMayer-Vietorisを考えることで,ある意味で「仮想的に」空間を切ったり貼ったりというような操作ができることが層理論の良いところの一つだと思います.

開集合上の切断の空間もHomで回復可能

j:UXを開部分集合の包含写像としてFSh(X)とすると,HomX(ZU,F)jHomU(ZU,F)jF|Uである.特にHom(ZU,F)Γ(U;F)となる.

コホモロジーの計算例

(i) Snn次元球面とすると,
Hk(Sn;ZSn)={Z(k=0,n)0(k0,n)
である(上の層のMayer-Vietorisを使うか特異コホモロジーと同形であることを使えば良い).Sn上の層の完全列0ZSnptZSnZpt0のコンパクト台コホモロジーの長完全列を考えて,ゼロ拡張のところで述べた注意の同形を用いると
0Hc0(Snpt;ZSnpt)Hc0(Sn;ZSn)Hc0(pt;Zpt)Hc1(Snpt;ZSnpt)Hc1(Sn;ZSn)Hck1(pt;Zpt)Hck(Snpt;ZSnpt)Hck(Sn;ZSn)Hck(pt;Zpt)Hck+1(Snpt;ZSnpt)
が得られる.Sn,ptはコンパクトなので,これらについては普通のコホモロジーと等しく,SnptRnと同相なのでHck(Snpt;ZSnpt)Hck(Rn;ZRn)であることに注意する.Hk(pt;Zpt)=0 (k1)であることと,Z=H0(Sn;ZSn)Hc0(pt;Zpt)=Zは恒等写像であることを用いると
Hck(Rn;ZRn)={Z(k=n)0(kn)
が得られる.
(ii) X=i=1μSnとしてptでウエッジ和の基点をあらわす.X上の層の完全列0ZXptZXZpt0のコンパクト台コホモロジーの長完全列を考えて,Xpti=1μRnと同相であること及び(i)の計算結果を用いると
Hk(X;ZX)={Z(k=0)Zμ(k=n)0(k0,n)
が得られる.
(iii) Z(0,)Sh(R)を考える(これはR上の層の意味).ゼロ拡張のところで述べた注意からHck(R;Z(0,))Hck((0,);Z(0,))(右辺の層は(0,)上の意味)で(0,)R同相だから
Hck(R;Z(0,))={Z(k=1)0(k1)
である.一方で,R上の層の完全列0Z(0,)ZRZ(,0]0のコホモロジー長完全列を考えると,Hk(R;ZR)Hk(R;Z(,0])Hk((,0];Z(,0])k=0id:ZZk0で両者とも0で常に同形であることから,Hk(R;Z(0,))=0 (kZ0)である.コンパクト台の場合と通常の場合で異なることに注意する.

相対(局所)コホモロジー

ここでは位相空間の対のコホモロジーの層バージョンである相対コホモロジーというものについて説明します.まずモチベーションについて話します.

Xの開部分集合UFSh(X)X上の層とします.このとき,制限写像Γ(X;F)Γ(U;F)に興味があるとしましょう.例えば,U上の切断をX上に延ばせるか?・延ばせる際にそれは一意か?などに興味があることがあります.もっと一般に任意のnZ0に対して,コホモロジーの間に写像Hn(X;F)Hn(U;F)が誘導されています.実際,Fの入射分解0FIを取れば,補題4より0F|UI|UF|Uの入射分解で,制限写像Γ(X;I)Γ(U;I|U)がコホモロジーにも制限写像を引き起こします.U上のコホモロジー類をX上に延ばせるか?・それは一意か?を調べるためにこれらの写像に興味があるとします.これは写像に関する問いですが,この問いを調べることができる対象があったら嬉しいと思いませんか?これを可能にするのが相対コホモロジーというものです.結論からいうとZ=XUとしてHZn(X;F)というアーベル群を定めて,長完全列
0HZ0(X;F)Γ(X;F)Γ(U;F)δ0HZ1(X;F)H1(X;F)Hn1(U;F)δn1HZn(X;F)Hn(X;F)Hn(U;F)δnHZn+1(X;F)
が得られます.すると,HZn(X;F)たちを見ることでコホモロジーに誘導される制限写像が単射・全射・同形かが分かるという仕組みになります.このように射に関する情報をエンコードする対象があると嬉しいわけです.

より一般にZXの局所閉部分集合,FSh(X)として,HZn(X;F)を定義しましょう.まず0次についてΓZ(X;F)を定めて,その右導来函手としてHZn(X;F)を定めます.Zを閉部分集合として含むXの開部分集合Uを取って,
ΓZ(U;F):=Ker(ρUZ,U:Γ(U;F)Γ(UZ;F))
と定めます.すなわち,U上のFの切断sであってsupp(s)Zとなるものです.上で見た長完全列の最初の部分がほしいので,このように定義しました.Zを閉部分集合として含むVUを取ってくると,制限写像から誘導される自然な写像ΓZ(U;F)ΓZ(V;F)は同形になります.実際,単射は切断の台がZに含まれていることから,全射はUZ0として貼り合わせれば良いからです.したがって,ΓZ(U;F)Zを閉部分集合として含むXの開部分集合Uの取り方によらないので,これをΓZ(X;F)と書きます.ΓZ(X;F)Γ(U;F)の部分加群であることから,函手ΓZ(X;):Sh(X)Abは左完全函手です.また,UΓZU(U;F)という対応はX上の層を定めることがチェックできます.

相対(局所)コホモロジー

ZX局所閉部分集合,FSh(X)X上の層とする.
(i) 上で定めた左完全函手ΓZ(X;):Sh(X)Abの右導来函手RnΓZ(X;):Sh(X)Abを考える.HZn(X;F):=RnΓZ(X;F)と書き,n次のZに台を持つ相対コホモロジーまたは局所コホモロジーと呼ぶ.
(ii) UΓZU(U;F)なる対応で定まる層をΓZ(F)と書き,Zに台を持つ切断の層とも呼ぶ.

相対・局所コホモロジーの名称について

佐藤幹夫の系列はHZn(X;F)のことを相対コホモロジーと呼ぶことが多く,Grothendieckの系列は局所コホモロジーと呼ぶことが多いようである.以下では相対コホモロジーと呼称する.

定義からΓ(X;ΓZ(F))ΓZ(X;F)となります.函手ΓZ:Sh(X)Sh(X),FΓZ(F)も左完全函手となることが分かるので,その右導来函手RnΓZも考えることができHZn:=RnΓZと書きます.これらの函手について基本的な性質をまとめておきましょう.

局所閉部分集合に台を持つ切断の層の性質

ZXの局所閉部分集合とする.
(i) Z=UXの開部分集合でj:UXを包含写像とすると,同形ΓU(F)jj1Fが成り立つ.
(ii) Zを別のXの局所閉部分集合とすると,自然同値ΓZZΓZΓZが成り立つ.
(iii) Zを別のZの閉部分集合とすると,層の列0ΓZ(F)ΓZ(F)ΓZZ(F)は完全である.
(iv) FSh(X)に対して,同形Hom(ZZ,F)ΓZ(F)が成り立つ.
(v) F,GSh(X)に対して,自然な同形Hom(FZ,G)Hom(F,ΓZ(G))が成り立つ.

概略

(i) Uを閉部分集合として含むXの開部分集合としてU自身が取れるのでΓU(X;F)=Γ(U;F)となるから良い.
(ii), (iii) やれば出来るので省略.
(iv) Zが開部分集合の場合はHomX(ZZ,F)jHomU(ZZ,j1F)jj1Fj:ZXは包含写像)であるから良い.Zが閉部分集合の場合は層の完全列0ZXZZXZZ0に左完全函手Hom(,F)を施すと,層の完全列
0Hom(ZZ,F)Hom(ZX,F)Hom(ZXZ,F)FΓXZ(F)
が得られる.層の完全列0ΓZ(F)FΓXZ(F)と比較するとほしい同形が得られる.一般の局所閉部分集合の場合は(ii)を使えば良い.
(v) FZFZZであったので,
Hom(FZ,G)Hom(FZZ,G)Hom(F,Hom(ZZ,G))Hom(F,ΓZ(G))
が得られる.

脆弱層に対しては次もすぐにチェックできます.

脆弱層に対する相対コホモロジーの完全列

FSh(X)X上の脆弱層とする.
(i) ZXの局所閉部分集合とすると,ΓZ(F)も脆弱層である.
(ii) ZXの局所閉部分集合,ZZの閉部分集合とすると層の列
0ΓZ(F)ΓZ(F)ΓZZ(F)0
は完全である.
(iii) Z1,Z2Xの二つの閉部分集合とすると,層の列
0ΓZ1Z2(F)ΓZ1(F)ΓZ2(F)ΓZ1Z2(F)0
は完全である.ここで一つ目の射は自然な射の直和で二つ目の射は自然な射の差である.
(iv) U1,U2Xの二つの開部分集合とすると,層の列
0ΓU1U2(F)ΓU1(F)ΓU2(F)ΓU1U2(F)0
は完全である.射は(iii)と類似のものである.

上の補題の(i)を使えば,(ii)-(iv)の大域切断を取ったものも完全列となることに注意しましょう.台の切り落としのときとは逆で,閉の場合は小さい方から大きい方に射があり,開の場合は大きい方から小さい方に射があることにも注意します.

さて,左完全函手の右導来函手は入射分解を取って,そこに函手を施してコホモロジーを取るのでした.入射的層は脆弱なので,FSh(X)に対して入射分解0FIを取り,例えば上の補題の(ii)を使うと
0ΓZ(X;I)ΓZ(X;I)ΓZZ(X;I)0
は複体の完全列になります.ここから,相対コホモロジーの長完全列
0ΓZ(X;F)ΓZ(X;F)ΓZZ(X;F)δ0HZ1(X;F)HZ1(X;F)HZZn1(X;F)δn1HZn(X;F)HZn(X;F)HZZn(X;F)δnHZn+1(X;F)
が得られます.Z=Xの場合が最初にほしいと言った長完全列でした.(iii), (iv)を使えばMayer-Vietoris長完全列の類似が得られます.

相対コホモロジーと佐藤超函数

C上の正則函数の層OCRCに関する相対コホモロジーを考えると,完全列
0ΓR(C;OC)Γ(C;OC)Γ(CR;OC)HR1(C;OC)H1(C;OC)
が得られる.解析接続の一意性からΓR(C;OC)=0であり, 第3回 の定理7の証明中で示したように,H1(C;OC)=0である.ゆえに,HR1(C;OC)Γ(CR;OC)/Γ(C;OC)である.これをR上の佐藤超函数の空間BR(R)と呼ぶのであった( この記事 の定義2).相対コホモロジーの層バージョンを使えば,BR:=HR1(OC)としてR上の佐藤超函数の層BRも定義できる.高次元でもBRn:=HRnn(OCn)と定めて,Rn上の佐藤超函数の層と呼ぶ.余談だが高次元でもHRnk(OCn)=0 (kn)という消滅定理が成り立ち,消えていない相対コホモロジーの層を佐藤超函数の層と定義するのである.

さて,相対コホモロジーの層を使うことで上で得た切断の長完全列を局所的に見ることもできます.例えばX=R2,Z={(x,y)R2y0},U:=XZFSh(X)としてみます.もし,相対コホモロジーの層HZn(F)0=(0,0)Xでの茎がHZn(F)0=0 (nZ0)を満たしたとしましょう.すると,長完全列で帰納極限を取ることで
0=lim0BHZn(B;F)lim0BHn(B;F)lim0BHn(UB;F)lim0BHZn+1(B;F)=0
という同形が得られます.これは何を言っているかというとU={(x,y)R2y<0}上の任意のコホモロジー類は0の近傍に一意に拡張できるということです.これは0において(0,1)の方向に一意に拡張できると思うことができます((0,1)の方向に「解析接続できる」という気持ち).それならZを他の半空間にすれば色々な方向への一意拡張可能性を調べられると思いませんか?これが超局所層理論で重要な道具であるマイクロ台の考え方そのものなのです!詳しくはまた今度説明します.

まとめ

今回は

  • 固有順像の定義と性質・開部分集合からのゼロ拡張と制限との随伴
  • 固有順像の右随伴函手があったら嬉しいこと
  • 台の切り落とし函手と相対コホモロジー函手・それらの随伴

について説明しました.これで(筆者の好みにより非常に偏っていますが)層のアーベル圏で出来ることは一通り説明したと思います.次回はまたホモロジー代数(線形代数)の話で導来圏について,次次回は上付きびっくりについて説明したいと思います.それではまた!

参考文献

投稿日:2021124
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microsupport
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層理論が好きです.広い意味での代数解析についての記事を書いています.

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  1. はじめに
  2. 前回のおさらいと補足
  3. 固有順像
  4. 固有順像の定義
  5. 固有順像の右随伴函手?
  6. その他の層に対する操作
  7. 台の切り落とし操作
  8. 相対(局所)コホモロジー
  9. まとめ
  10. 参考文献