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現代数学解説
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【超局所層理論第5回】μhom函手

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$$\newcommand{bbC}[0]{\mathbb C} \newcommand{bbN}[0]{\mathbb N} \newcommand{bbR}[0]{\mathbb R} \newcommand{bbZ}[0]{\mathbb Z} \newcommand{bfk}[0]{\mathbb{k}} \newcommand{C}[0]{\mathsf{C}} \newcommand{cA}[0]{\mathcal{A}} \newcommand{cB}[0]{\mathcal{B}} \newcommand{Cb}[0]{\mathsf{C}^\mathrm{b}} \newcommand{cC}[0]{\mathcal{C}} \newcommand{cD}[0]{\mathcal{D}} \newcommand{cHom}[0]{\mathcal{H}om} \newcommand{cI}[0]{\mathcal{I}} \newcommand{cJ}[0]{\mathcal{J}} \newcommand{cM}[0]{\mathcal{M}} \newcommand{Cm}[0]{\mathsf{C}^-} \newcommand{cO}[0]{\mathcal O} \newcommand{Coker}[0]{\operatorname{Coker}} \newcommand{Cp}[0]{\mathsf{C}^+} \newcommand{cRHom}[0]{R\mathcal{H}om} \newcommand{cT}[0]{\mathcal{T}} \newcommand{D}[0]{\mathsf{D}} \newcommand{Db}[0]{\mathsf{D}^\mathrm{b}} \newcommand{dim}[0]{\operatorname{dim}} \newcommand{Dm}[0]{\mathsf{D}^-} \newcommand{Dp}[0]{\mathsf{D}^+} \newcommand{End}[0]{\operatorname{End}} \newcommand{Ext}[0]{\operatorname{Ext}} \newcommand{Hom}[0]{\operatorname{Hom}} \newcommand{id}[0]{\mathrm{id}} \newcommand{Image}[0]{\operatorname{Im}} \newcommand{Int}[0]{\mathrm{Int}} \newcommand{K}[0]{\mathsf{K}} \newcommand{Kb}[0]{\mathsf{K}^\mathrm{b}} \newcommand{Ker}[0]{\operatorname{Ker}} \newcommand{Km}[0]{\mathsf{K}^-} \newcommand{Kp}[0]{\mathsf{K}^+} \newcommand{lten}[0]{\overset{L}{\otimes}} \newcommand{lto}[0]{\longrightarrow} \newcommand{Mc}[0]{\mathrm{Mc}} \newcommand{Mod}[0]{\operatorname{Mod}} \newcommand{MS}[0]{\operatorname{SS}} \newcommand{MS}[0]{\mathrm{SS}} \newcommand{op}[0]{\mathrm{op}} \newcommand{or}[0]{\mathrm{or}} \newcommand{PSh}[0]{\mathrm{PSh}} \newcommand{pt}[0]{\mathrm{pt}} \newcommand{RG}[0]{R\Gamma} \newcommand{RHom}[0]{R\mathrm{Hom}} \newcommand{Sh}[0]{\mathrm{Sh}} \newcommand{simto}[0]{\overset{\sim}{\to}} \newcommand{supp}[0]{\operatorname{supp}} \newcommand{Supp}[0]{\operatorname{Supp}} \newcommand{tl}[0]{\widetilde} \newcommand{toone}[0]{\overset{+1}{\to}} $$

はじめに

こんにちは!超局所層理論の第5回です.今回は$\mu hom$函手を定義して,その性質を見ていきます.

前回までのおさらい

$\bfk$を有限な大域次元を持つ環,$X$$d$次元多様体とします.
第1回 $X$上の$\bfk$加群の層の複体$F \in \Db(\bfk_X)$に対して,そのコホモロジーが伝播しない余方向として層のマイクロ台$\MS(F)$という$X$の余接束$T^*X$の錐状閉部分集合を定義しました.そして様々な層のマイクロ台がどうなっているのかを調べて,良い状況ではマイクロ台が層の形を強く制限することがあることも見ました.
第2回 :層に対する様々な演算を施した後のマイクロ台を評価する方法について説明しました.またそれらを使って超局所切り落としという操作を定義しました.
第3回 :マイクロ台は常に包合的であるという定理の主張を述べました.さらに,余接束$T^*X$の中のある部分集合上だけに注目する超局所的な見方を実現するために超局所圏を導入して,そこではマイクロ台が層の形を制限するという主張がより広く成り立つことも見ました.また超局所圏のHomを茎に持つような層$\mu hom$があったらうれしそうだという気持ちを説明しました.
第4回 $X$上の層$F$から法束$T_MX$上の層$\nu_M(F)$を作り出す特殊化という操作$\nu_M \colon \Db(\bfk_X) \to \Db_{\bbR_{>0}}(\bfk_{T_MX})$を法変形を使って定義して,切断が$M$の近傍で法方向に指定された開きがある開部分集合上の$F$切断の帰納極限だということを見ました.さらにベクトル束上の錐状層の圏とその双対ベクトル束上の錐状層の圏の圏同値を与えるFourier-Sato変換について説明して,特殊化のFourier-Sato変換として超局所化$\mu_M(F)$という余法束$T^*_MX$上の層を定義しました.これは超局所化函手$\mu_M \colon \Db(\bfk_X) \to \Db_{\bbR_{>0}}(\bfk_{T^*_MX})$を定めました.

今回もずっと$\pi$で余接束$T^*X \to X$をあらわして$0_X$または単に$X$でそのゼロ切断をあらわします.さらに$\mathring{T}^*X:=T^*X \setminus 0_X$と定めて$\mathring{\pi}:=\pi|_{\mathring{T}^*X} \colon \mathring{T}^*X \to X$を制限とします.

$\mu hom$函手

ここでは超局所化函手の拡張となる$\mu hom$函手を導入して,その性質を調べます.$\mu hom$$X$上の層ふたつから余接束$T^*X$上の層を作る操作で,その台は二つの層のマイクロ台と関係しています.このことより$\mu hom$は超局所圏からの函手を誘導することが分かり,さらに強く$\mu hom$$p \in T^*X$での茎が超局所圏$\Db(\bfk_X;p)$のHomを回復することが示せます.超局所圏のHomは定義からは計算が難しいですが,$\mu hom$は具体的に構成されているので多くの場合に計算が可能であることが良い点のひとつです.

$\mu hom$函手の定義

ともかく$\mu hom$函手の定義を与えて,それから基本的な性質を見てみることにしましょう.$\delta \colon X \to X \times X, x \mapsto (x,x)$を対角写像として$\Delta:=\delta(X)=\{(x,x) \in X \times X\}$$X \times X$の対角集合とします.局所的には$T^*_{\Delta}(X \times X)=\{ (x,x;\xi,-\xi) \in T^*(X \times X) \mid (x;\xi) \in T^*X \}$となるので,第1射影$T^*_{\Delta}(X \times X) \to T^*X$によって$T^*_{\Delta}(X \times X)$$T^*X$を同一視します.さらに$q_1, q_2 \colon X \times X \to X$をそれぞれ第1・第2射影とします.

$\mu hom$

$F, G \in \Db(\bfk_X)$に対して,
$$ \mu hom(F,G):=\mu_\Delta(\cRHom(q_2^{-1}F,q_1^!G)) \in \Db_{\bbR_{>0}}(\bfk_{T^*X}) $$
と定める.これは函手
$$ \mu hom \colon \Db(\bfk_X)^{\op} \times \Db(\bfk_X) \to \Db_{\bbR_{>0}}(\bfk_{T^*X}) $$
を定める.

超局所化の性質から次の$\mu hom$に関する重要な性質が得られます.

$\mu hom$のゼロ切断への射影は$\cRHom$

$F,G \in \Db(\bfk_X)$とする.このとき,同形
$$ R\pi_* \mu hom(F,G) \simeq \mu hom(F,G)|_{X} \simeq \cRHom(F,G) $$
が成り立つ.

第4回 の定理5の(iv)より
\begin{align} R\pi_* \mu hom(F,G) & \simeq R\pi_* \mu_\Delta \cRHom(q_2^{-1}F,q_2^!G) \\ & \simeq \RG_\Delta(\cRHom(q_2^{-1}F,q_2^!G))|_\Delta \end{align}
が得られる.ここで同一視により$\pi$は射影$T^*_\Delta(X \times X) \to \Delta$の意味でも用いた.すると閉埋め込みの場合の上付きびっくりの計算より$\delta \circ \RG_\Delta \simeq \delta^!$だから, 層理論第8回 の命題1(とその直後の注意)によって,これはさらに
$$ \delta^! \cRHom(q_2^{-1}F,q_2^!G) \simeq \cRHom(F,G) $$
と同形である.

さらに$\mu hom$は次のように超局所化函手の一般化にもなっています.この証明は超局所化の函手的性質から示せますが,前回それをすっ飛ばしたので証明は述べません.

超局所化は$\mu hom$から回復可能

$F \in \Db(\bfk_X)$$M$$X$の閉部分多様体とする.このとき,$i \colon T^*_MX \hookrightarrow T^*X$を余法束の埋め込みとすると,同形
$$ \mu hom(\bfk_M,F) \simeq i_* \mu_M(F) $$
が成り立つ.

$\mu hom$の台とマイクロ台の関係は期待していた通り次のようになります.

$\mu hom$の台とマイクロ台

$F,G \in \Db(\bfk_X)$とする.このとき,
$$ \Supp(\mu hom(F,G)) \subset \MS(F) \cap \MS(G) $$
が成り立つ.

第2回 の補題4の(ii)の直積上のsheaf Homのマイクロ台の評価より,
$$ \MS(\cRHom(q_2^{-1}F,q_1^!G)) \subset \MS(G) \times (-\MS(F)) $$
となる.ゆえに,第1射影$T^*_{\Delta}(X \times X) \simto T^*X$によって同一視していることに注意して 第4回 の命題6の超局所化の台の評価を使うと
$$ \Supp(\mu hom(F,G)) \subset T^*_\Delta(X \times X) \cap (\MS(G) \times (-\MS(F))) = \MS(F) \cap \MS(G) $$
が得られる.

上の証明を見ると,第1射影$T^*_{\Delta}(X \times X) \simto T^*X$による同一視で命題の主張が成り立つように$\mu hom$の定義で一見不自然な$\cRHom(q_2^{-1}F,q_2^!G))$という射影の現れ方が理解できると思います.

次のように$\mu hom$の茎も計算することができますが,結構面倒なので飛ばしても構いません.証明には超局所化の茎の計算公式( 第4回 の定理5の(ii))を使って頑張ります. 第2回 で有限次元ベクトル空間$E$内の閉凸錐$\gamma$に対して,超局所切り落とし函手$P_\gamma \colon \Db(\bfk_E) \to \Db_{E \times \gamma^\circ}(\bfk_E)$を定義したことを思い出しましょう.ここで$\gamma^\circ$$\gamma$の双対錐で,$T^*X$の部分集合$A$に対して$\Db_A(\bfk_X)$$\MS(F) \subset A$を満たす対象$F$からなる$\Db(\bfk_X)$の充満部分圏でした.

$\mu hom$の茎

$E$を有限次元実ベクトル空間,$(x_0;\xi_0) \in T^*E$として,$F,G \in \Db(\bfk_E)$とする.このとき,同形
$$ H^n(\mu hom(F,G))_{(x_0;\xi_0)} \simeq \varinjlim_{U,\gamma} H^n(U; \cRHom(P_\gamma(F_U),G)) $$
が成り立つ.ここで$U$$x_0$の開近傍をわたり,$\gamma$$\gamma \subset \{v \in E \mid \langle v, \xi_0 \rangle >0 \} \cup \{0\}$を満たす閉凸固有錐をわたる.

超局所圏との関係

次に$\mu hom$ 第3回 で導入した超局所圏$\Db(\bfk_X;\Omega)$の関係について調べていきましょう.

まず,$\mu hom$が超局所圏からの函手を誘導することを見ましょう.$\Omega$$T^*X$の部分集合とします.もし$F, G \in \Db(\bfk_X)$$\MS(F) \cap \Omega=\emptyset$または$\MS(G) \cap \Omega=\emptyset$を満たしたとすると,上の命題3から$\mu hom(F,G)|_{\Omega} \simeq 0$となることが分かります.特に$\mu hom$$\Db(\bfk_X;\Omega)^{\op} \times \Db(\bfk_X;\Omega)$から$\Db(\Omega)$への函手を引き起こします.これも
$$ \mu hom \colon \Db(\bfk_X;\Omega)^{\op} \times \Db(\bfk_X;\Omega) \to \Db(\Omega) $$
と書いてしまいます.

さて上の命題1から
\begin{align} \Hom_{\Db(\bfk_X)}(F,G) & \simeq H^0 \RG(X;\cRHom(F,G)) \\ & \simeq H^0 \RG(X; R\pi_* \mu hom(F,G)) \\ & \simeq H^0(T^*X; \mu hom(F,G)) \end{align}
が得られますが,これは$T^*X$の部分集合$\Omega$に対して射
$$ \Hom_{\Db(\bfk_X;\Omega)}(F,G) \to H^0(\Omega;\mu hom(F,G)) $$
を引き起こします.実際,$\Db(\bfk_X)$の射$\psi \colon G \to G'$$\Omega$上同形,すなわち$\psi$の写像錐のマイクロ台が$\Omega$と交わらなければ完全三角を考えることによって$\mu hom(F,G)|_\Omega \simto \mu hom(F,G')|_\Omega$が成り立つからです.この射は一般には同形ではないのですが,$\Omega$が一点$p$の場合は次のように同形が成り立ちます.証明は超局所切り落としの考え方が活躍します.

$\mu hom$の茎は一点での超局所圏のHom

$F,G \in \Db(\bfk_X)$$p \in T^*X$とする.このとき,同形
$$ \Hom_{\Db(\bfk_X;p)}(F,G) \simto H^0(\mu hom(F,G))_p $$
が成り立つ.

概略

$p \in 0_X$のときは両辺とも$\Hom_{\Db(\bfk_U)}(F,G)$$U$$X$内の$p$の開近傍をわたる際の帰納極限だからよい.

$p=(x_0;\xi_0) \in \mathring{T}^*X$とすると,上の命題4より
\begin{align} H^0(\mu hom(F,G))_{(x_0;\xi_0)} & \simeq \varinjlim_{U,\gamma} H^0(U; \cRHom(P_\gamma(F_U),G)) \\ & \simeq \varinjlim_{U,\gamma} \Hom_{\Db(\bfk_X)}(P_\gamma(F_U)_U,G) \end{align}
が成り立つ.ここで$U,\gamma$は命題4の条件を満たすようにわたる.
定理の射を$\Xi$とする.まず$\Xi$が単射であることを示す.$\Xi(\phi)=0$であるとすると,ある$U,\gamma$が存在して合成射$P_\gamma(F_U)_U \to F \xrightarrow{\phi} G$$0$となる.ここで超局所切り落としの性質( 第2回 の定理6)より,射$P_\gamma(F_U)_U \to F$$\Db(\bfk_X;p)$における同形なので,$\Db(\bfk_X;p)$において$\phi$$0$となる.次に$\Xi$の全射性を示す.$\psi \in H^0(\mu hom(F,G))_{p}$とすると,ある$U,\gamma$$\alpha \in \Hom_{\Db(\bfk_X)}(P_\gamma(F_U)_U,G)$が存在して$\psi$を代表する.再び超局所切り落としの性質から射$P_\gamma(F_U)_U \to F$$\Db(\bfk_X;p)$における同形なので,$\alpha$$\Hom_{\Db(\bfk_X;p)}(F,G)$の元を定め,この元の$\Xi$による像が$\psi$である.

この定理で大事なことは,右辺の$\mu hom$は具体的な層による操作で構成されたのでしばしば計算可能になるということです.左辺は圏論的超局所化で構成されたHom集合なので一般には難しいものですが,これを具体的に構成された$\mu hom$の茎で計算できるというのがうれしいことなのです!

この定理を用いると$\mu hom$の台とマイクロ台との関係について命題3よりもさらに強いことが言えます.$F \in \Db(\bfk_X)$に対して,$\Hom_{\Db(\bfk_X)}(F,F) \simeq H^0 \RG(T^*X;\mu hom(F,F))$であったことを思い出しましょう.これによって射
$$ \Hom_{\Db(\bfk_X)}(F,F) \to \Gamma(T^*X;H^0(\mu hom(F,F))) $$
が得られます.この射による$\id_F \in \Hom_{\Db(\bfk_X)}(F,F)$の像を$s \in \Gamma(T^*X;H^0(\mu hom(F,F)))$と書きます.

マイクロ台は$\mu hom$から回復可能

上の状況で
$$ \supp(s) = \Supp(\mu hom(F,F))=\MS(F) $$
が成り立つ.特に
$$ p \not\in \MS(F) \iff \mu hom(F,F)_p \simeq 0 $$
が成り立つ.

$\supp(s) \subset \Supp(\mu hom(F,F))$であり,上の命題3から$\Supp(\mu hom(F,F)) \subset \MS(F)$も分かる.
$\MS(F) \subset \supp(s)$を示す.$p \in T^*X$$p \not\in \supp(s)$を満たしたとする.すると$s_p=0$なので,上の定理5より$\id_F \in \Hom_{\Db(\bfk_X;p)}(F,F)$$0$である.ゆえに$\Db(\bfk_X;p)$において$F \simeq 0$となり,これは$p \not\in \MS(F)$を意味する.

上の命題6はマイクロ台の包合性定理( 第3回 の定理1)を示す際にも用いられます.すなわち,$\MS(F)$が包合的であることを示すのに$\mu hom(F,F)$の台を調べるのです.部分集合を台として持つ層を構成しておいて.その層について調べるというアイデアなのです.

まとめ

今回は

  • $\mu hom$函手の定義とその性質
  • $\mu hom$と超局所圏との関係

について説明しました.次回以降は構成可能層と特性サイクル・量子化接触変換などを適当な順に説明していきたいと思います.それではまた!

参考文献

投稿日:202154

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層理論が好きです.広い意味での代数解析についての記事を書いています.

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