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現代数学解説
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【超局所層理論第5回】μhom函手

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はじめに

こんにちは!超局所層理論の第5回です.今回はμhom函手を定義して,その性質を見ていきます.

前回までのおさらい

kを有限な大域次元を持つ環,Xd次元多様体とします.
第1回 X上のk加群の層の複体FDb(kX)に対して,そのコホモロジーが伝播しない余方向として層のマイクロ台SS(F)というXの余接束TXの錐状閉部分集合を定義しました.そして様々な層のマイクロ台がどうなっているのかを調べて,良い状況ではマイクロ台が層の形を強く制限することがあることも見ました.
第2回 :層に対する様々な演算を施した後のマイクロ台を評価する方法について説明しました.またそれらを使って超局所切り落としという操作を定義しました.
第3回 :マイクロ台は常に包合的であるという定理の主張を述べました.さらに,余接束TXの中のある部分集合上だけに注目する超局所的な見方を実現するために超局所圏を導入して,そこではマイクロ台が層の形を制限するという主張がより広く成り立つことも見ました.また超局所圏のHomを茎に持つような層μhomがあったらうれしそうだという気持ちを説明しました.
第4回 X上の層Fから法束TMX上の層νM(F)を作り出す特殊化という操作νM:Db(kX)DR>0b(kTMX)を法変形を使って定義して,切断がMの近傍で法方向に指定された開きがある開部分集合上のF切断の帰納極限だということを見ました.さらにベクトル束上の錐状層の圏とその双対ベクトル束上の錐状層の圏の圏同値を与えるFourier-Sato変換について説明して,特殊化のFourier-Sato変換として超局所化μM(F)という余法束TMX上の層を定義しました.これは超局所化函手μM:Db(kX)DR>0b(kTMX)を定めました.

今回もずっとπで余接束TXXをあらわして0Xまたは単にXでそのゼロ切断をあらわします.さらにT˚X:=TX0Xと定めてπ˚:=π|T˚X:T˚XXを制限とします.

μhom函手

ここでは超局所化函手の拡張となるμhom函手を導入して,その性質を調べます.μhomX上の層ふたつから余接束TX上の層を作る操作で,その台は二つの層のマイクロ台と関係しています.このことよりμhomは超局所圏からの函手を誘導することが分かり,さらに強くμhompTXでの茎が超局所圏Db(kX;p)のHomを回復することが示せます.超局所圏のHomは定義からは計算が難しいですが,μhomは具体的に構成されているので多くの場合に計算が可能であることが良い点のひとつです.

μhom函手の定義

ともかくμhom函手の定義を与えて,それから基本的な性質を見てみることにしましょう.δ:XX×X,x(x,x)を対角写像としてΔ:=δ(X)={(x,x)X×X}X×Xの対角集合とします.局所的にはTΔ(X×X)={(x,x;ξ,ξ)T(X×X)(x;ξ)TX}となるので,第1射影TΔ(X×X)TXによってTΔ(X×X)TXを同一視します.さらにq1,q2:X×XXをそれぞれ第1・第2射影とします.

μhom

F,GDb(kX)に対して,
μhom(F,G):=μΔ(RHom(q21F,q1!G))DR>0b(kTX)
と定める.これは函手
μhom:Db(kX)op×Db(kX)DR>0b(kTX)
を定める.

超局所化の性質から次のμhomに関する重要な性質が得られます.

μhomのゼロ切断への射影はRHom

F,GDb(kX)とする.このとき,同形
Rπμhom(F,G)μhom(F,G)|XRHom(F,G)
が成り立つ.

第4回 の定理5の(iv)より
Rπμhom(F,G)RπμΔRHom(q21F,q2!G)RΓΔ(RHom(q21F,q2!G))|Δ
が得られる.ここで同一視によりπは射影TΔ(X×X)Δの意味でも用いた.すると閉埋め込みの場合の上付きびっくりの計算よりδRΓΔδ!だから, 層理論第8回 の命題1(とその直後の注意)によって,これはさらに
δ!RHom(q21F,q2!G)RHom(F,G)
と同形である.

さらにμhomは次のように超局所化函手の一般化にもなっています.この証明は超局所化の函手的性質から示せますが,前回それをすっ飛ばしたので証明は述べません.

超局所化はμhomから回復可能

FDb(kX)MXの閉部分多様体とする.このとき,i:TMXTXを余法束の埋め込みとすると,同形
μhom(kM,F)iμM(F)
が成り立つ.

μhomの台とマイクロ台の関係は期待していた通り次のようになります.

μhomの台とマイクロ台

F,GDb(kX)とする.このとき,
Supp(μhom(F,G))SS(F)SS(G)
が成り立つ.

第2回 の補題4の(ii)の直積上のsheaf Homのマイクロ台の評価より,
SS(RHom(q21F,q1!G))SS(G)×(SS(F))
となる.ゆえに,第1射影TΔ(X×X)TXによって同一視していることに注意して 第4回 の命題6の超局所化の台の評価を使うと
Supp(μhom(F,G))TΔ(X×X)(SS(G)×(SS(F)))=SS(F)SS(G)
が得られる.

上の証明を見ると,第1射影TΔ(X×X)TXによる同一視で命題の主張が成り立つようにμhomの定義で一見不自然なRHom(q21F,q2!G))という射影の現れ方が理解できると思います.

次のようにμhomの茎も計算することができますが,結構面倒なので飛ばしても構いません.証明には超局所化の茎の計算公式( 第4回 の定理5の(ii))を使って頑張ります. 第2回 で有限次元ベクトル空間E内の閉凸錐γに対して,超局所切り落とし函手Pγ:Db(kE)DE×γb(kE)を定義したことを思い出しましょう.ここでγγの双対錐で,TXの部分集合Aに対してDAb(kX)SS(F)Aを満たす対象FからなるDb(kX)の充満部分圏でした.

μhomの茎

Eを有限次元実ベクトル空間,(x0;ξ0)TEとして,F,GDb(kE)とする.このとき,同形
Hn(μhom(F,G))(x0;ξ0)limU,γHn(U;RHom(Pγ(FU),G))
が成り立つ.ここでUx0の開近傍をわたり,γγ{vEv,ξ0>0}{0}を満たす閉凸固有錐をわたる.

超局所圏との関係

次にμhom 第3回 で導入した超局所圏Db(kX;Ω)の関係について調べていきましょう.

まず,μhomが超局所圏からの函手を誘導することを見ましょう.ΩTXの部分集合とします.もしF,GDb(kX)SS(F)Ω=またはSS(G)Ω=を満たしたとすると,上の命題3からμhom(F,G)|Ω0となることが分かります.特にμhomDb(kX;Ω)op×Db(kX;Ω)からDb(Ω)への函手を引き起こします.これも
μhom:Db(kX;Ω)op×Db(kX;Ω)Db(Ω)
と書いてしまいます.

さて上の命題1から
HomDb(kX)(F,G)H0RΓ(X;RHom(F,G))H0RΓ(X;Rπμhom(F,G))H0(TX;μhom(F,G))
が得られますが,これはTXの部分集合Ωに対して射
HomDb(kX;Ω)(F,G)H0(Ω;μhom(F,G))
を引き起こします.実際,Db(kX)の射ψ:GGΩ上同形,すなわちψの写像錐のマイクロ台がΩと交わらなければ完全三角を考えることによってμhom(F,G)|Ωμhom(F,G)|Ωが成り立つからです.この射は一般には同形ではないのですが,Ωが一点pの場合は次のように同形が成り立ちます.証明は超局所切り落としの考え方が活躍します.

μhomの茎は一点での超局所圏のHom

F,GDb(kX)pTXとする.このとき,同形
HomDb(kX;p)(F,G)H0(μhom(F,G))p
が成り立つ.

概略

p0Xのときは両辺ともHomDb(kU)(F,G)UX内のpの開近傍をわたる際の帰納極限だからよい.

p=(x0;ξ0)T˚Xとすると,上の命題4より
H0(μhom(F,G))(x0;ξ0)limU,γH0(U;RHom(Pγ(FU),G))limU,γHomDb(kX)(Pγ(FU)U,G)
が成り立つ.ここでU,γは命題4の条件を満たすようにわたる.
定理の射をΞとする.まずΞが単射であることを示す.Ξ(ϕ)=0であるとすると,あるU,γが存在して合成射Pγ(FU)UFϕG0となる.ここで超局所切り落としの性質( 第2回 の定理6)より,射Pγ(FU)UFDb(kX;p)における同形なので,Db(kX;p)においてϕ0となる.次にΞの全射性を示す.ψH0(μhom(F,G))pとすると,あるU,γαHomDb(kX)(Pγ(FU)U,G)が存在してψを代表する.再び超局所切り落としの性質から射Pγ(FU)UFDb(kX;p)における同形なので,αHomDb(kX;p)(F,G)の元を定め,この元のΞによる像がψである.

この定理で大事なことは,右辺のμhomは具体的な層による操作で構成されたのでしばしば計算可能になるということです.左辺は圏論的超局所化で構成されたHom集合なので一般には難しいものですが,これを具体的に構成されたμhomの茎で計算できるというのがうれしいことなのです!

この定理を用いるとμhomの台とマイクロ台との関係について命題3よりもさらに強いことが言えます.FDb(kX)に対して,HomDb(kX)(F,F)H0RΓ(TX;μhom(F,F))であったことを思い出しましょう.これによって射
HomDb(kX)(F,F)Γ(TX;H0(μhom(F,F)))
が得られます.この射によるidFHomDb(kX)(F,F)の像をsΓ(TX;H0(μhom(F,F)))と書きます.

マイクロ台はμhomから回復可能

上の状況で
supp(s)=Supp(μhom(F,F))=SS(F)
が成り立つ.特に
pSS(F)μhom(F,F)p0
が成り立つ.

supp(s)Supp(μhom(F,F))であり,上の命題3からSupp(μhom(F,F))SS(F)も分かる.
SS(F)supp(s)を示す.pTXpsupp(s)を満たしたとする.するとsp=0なので,上の定理5よりidFHomDb(kX;p)(F,F)0である.ゆえにDb(kX;p)においてF0となり,これはpSS(F)を意味する.

上の命題6はマイクロ台の包合性定理( 第3回 の定理1)を示す際にも用いられます.すなわち,SS(F)が包合的であることを示すのにμhom(F,F)の台を調べるのです.部分集合を台として持つ層を構成しておいて.その層について調べるというアイデアなのです.

まとめ

今回は

  • μhom函手の定義とその性質
  • μhomと超局所圏との関係

について説明しました.次回以降は構成可能層と特性サイクル・量子化接触変換などを適当な順に説明していきたいと思います.それではまた!

参考文献

投稿日:202154
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層理論が好きです.広い意味での代数解析についての記事を書いています.

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  1. はじめに
  2. 前回までのおさらい
  3. $\mu hom$函手
  4. $\mu hom$函手の定義
  5. 超局所圏との関係
  6. まとめ
  7. 参考文献