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大学数学基礎解説
文献あり

六指数定理

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$$\newcommand{a}[0]{\alpha} \newcommand{b}[0]{\beta} \newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{d}[0]{\delta} \newcommand{dis}[0]{\displaystyle} \newcommand{e}[0]{\varepsilon} \newcommand{farc}[2]{\frac{#1}{#2}} \newcommand{G}[0]{\Gamma} \newcommand{g}[0]{\gamma} \newcommand{Gal}[0]{\operatorname{Gal}} \newcommand{id}[0]{\operatorname{id}} \newcommand{Im}[0]{\operatorname{Im}} \newcommand{k}[0]{\boldsymbol{k}} \newcommand{Ker}[0]{\operatorname{Ker}} \newcommand{kz}[0]{\boldsymbol{k}\cdot\boldsymbol{z}} \newcommand{l}[0]{\left} \newcommand{Li}[0]{\operatorname{Li}} \newcommand{li}[0]{\operatorname{li}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{O}[0]{\mathcal{O}} \newcommand{ol}[1]{\overline{#1}} \newcommand{ord}[0]{\operatorname{ord}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{r}[0]{\right} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Re}[0]{\operatorname{Re}} \newcommand{s}[0]{\sigma} \newcommand{ul}[1]{\underline{#1}} \newcommand{vt}[0]{\vartheta} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} \newcommand{z}[0]{\zeta} \newcommand{z}[0]{\boldsymbol{z}} \newcommand{ZZ}[1]{\mathbb{Z}/#1\mathbb{Z}} \newcommand{ZZt}[1]{(\mathbb{Z}/#1\mathbb{Z})^\times} $$

はじめに

 この記事では六指数定理という超越数論の定理とそのいくつかの系について紹介していきます。

六指数定理とその系

六指数定理

$\b_1,\b_2$および$z_1,z_2,z_3$をそれぞれ$\Q$上線形独立な複素数とすると
$e^{\b_1z_1},e^{\b_1z_2},e^{\b_1z_3}$
$e^{\b_2z_1},e^{\b_2z_2},e^{\b_2z_3}$
のうち少なくとも一つは超越数である。

乗法的独立(つまりその対数が$\Q$上線形独立)な代数的数$\a_1,\a_2,\a_3$について、
複素数$\b$$\a_1^\b,\a_2^\b,\a_3^\b\in\ol\Q$を満たすならば$\b\in\Q$でなければならない。

もし$\b$が有理数ではない、つまり$\b_1=1,\b_2=\b$$\Q$上線形独立ならば、仮定より$z_k=\log\a_k\;(k=1,2,3)$$\Q$上線形独立であることに注意すると六指数定理から
$e^{\b_1z_1},e^{\b_1z_2},e^{\b_1z_3}=\a_1,\a_2,\a_3$
$e^{\b_2z_1},e^{\b_2z_2},e^{\b_2z_3}=\a_1^\b,\a_2^\b,\a_3^\b$
のうちどれか一つは超越数でなければならないが、仮定より全て代数的数なので矛盾。よって主張を得る。

 次の定理は隣り合う 巨大過剰数 の比は素数か半素数であることを示すのに使われます(詳しくは この記事 の補題6下部を参照)。

互いに異なる素数$p,q,r$について、$p^\e,q^\e,r^\e$が有理数ならば$\e\in\Z$である。

素因数分解の一意性から$p^lq^mr^n=1$となるような整数$l,m,n$$l=m=n=0$に限ることがわかるので$p,q,r$は乗法的独立である。したがって上の系から$\e$は有理数でなければならない。また$\e$が整数ではない有理数とすると$p^\e,q^\e,r^\e$は有理数となりえないので主張を得る。

六指数定理の証明

$e^{\b_1z_1},e^{\b_1z_2},e^{\b_1z_3}$
$e^{\b_2z_1},e^{\b_2z_2},e^{\b_2z_3}$
が全て代数的数であるとして矛盾を導く。このとき$K$$e^{\b_iz_j}$をすべて含むような代数体、$\O_K$をその整数環、$e^{\b_iz_j}$の高さの最大値を$h$、公分母を$d$(高さ、公分母については 前回の記事 参照)とする。

 十分大きい平方数$n$を取り$r=(4n)^{3/2}$とおく。また簡単のため、自然数の組$\k=(k_1,k_2,k_3)$に対して
$\kz=k_1z_1+k_2z_2+k_3z_3$
とする。(以下の議論は厳密に書くと冗長になるのでところどころ雑に説明していますがご了承ください。)

 任意の$1\leq k_i\leq n$について$F(\kz)=0$となるような関数
$\dis F(z)=\sum_{1\leq i,j\leq r}a_{i,j}e^{i\b_1z}e^{j\b_2z}\quad(a_{i,j}\in\O_K)$
であって
$\dis H(a_{i,j})\leq e^{c_1n^{5/2}}\quad(\exists c_1>0,\;\forall i,j)$
となるようなものが存在する。

 $r^2$個の未知数$a_{i,j}$についての$n^3$連方程式$F(\kz)=0$を考えると、それぞれの方程式の係数
$\exp((i\b_1+j\b_2)(k_1z_1+k_2z_2+k_3z_3))\in K$
の高さは高々$h^{6rn}$、分母は高々$d^{6rn}$であるので、 Siegelの補題 からある定数$C>0$が存在して
$H(a_{i,j})\leq C(Cr^2(dh)^{6rn})^{r^2/(r^2-n^3)}=C'n^{3/63}e^{c_0n^{5/2}}< e^{c_1n^{5/2}}$
となるような解が存在する。

 定理1のような$F$について、ある$w=\kz\;(k_i\in\N)$が存在して$F(w)\neq0$が成り立つ。

 $F(z)$$|z|\leq R$における零点の(重複度込みの)個数を$N(R)$とおくと
$\dis|F(z)|\leq\sum_{i,j}|a_{i,j}|e^{i|\b_1z|}e^{j|\b_2z|}\leq e^{c_2|z|}$
と評価できることに注意すると この記事 の補題1から
$\dis\l(\frac{2R}{R}\r)^{N(R)}=2^{N(R)}\leq\farc{e^{2c_2R}}{|f(0)|}$
つまり
$\dis N(R)=O(R)$
であることがわかる。

 しかし$|\kz|\leq (k_1+k_2+k_3)|Z|\leq R$となるような組$(k_1,k_2,k_3)$の個数を考えただけでも
$\dis\sum_{k_1+k_2+k_3\leq r}1 =\binom r3=O(R^3)$
(ただし$r=\lfloor R/|Z|\rfloor$とした)程度あるので$F$はこれらすべての点を零点に持つことはない。

 いま$s\in\N$を任意の$1\leq k_i\leq s$に対して$F(\kz)=0$となるようなもので最大のものとする。このとき$s\geq n$が成り立つ。また$w=\k_w\cdot\z$$F(w)\neq0$となるようなもので、$1\leq k_i\leq s+1$かつある$i$に対して$k_i=s+1$となるようなものとする。このとき
$\dis H(F(w))\leq\sum_{i,j}H(a_{i,j})H(e^{i\b_1\k_w\cdot\z}e^{j\b_2\k_w\cdot\z}) \leq r^2e^{c_1n^{5/2}}(h')^{r(s+1)}\leq e^{c_3s^{5/2}}$
(ただし$h'=\max\{h,1\}$とした)と評価でき、また$d^{6r(s+1)}F(w)$は代数的整数であることから$\a\in K$のノルムを$N_{K/\Q}(\a)$と表すと
$1\leq N_{K/\Q}(d^{6r(s+1)}F(w))\leq d^{6r(s+1)}H(F(w))^{[K:\Q]-1}|F(w)| \leq |F(w)|e^{c_4s^{5/2}}$
つまり
$-c_4s^{5/2}\leq\log|F(w)|$
が成り立つ。しかし次の主張が成り立つので矛盾を得る。

$\log|F(w)|<-c_5s^3\log s$が成り立つ。

$\dis g(z)=\frac{F(z)}{\prod_{\k}(z-\kz)}$
(ただし$\k$$1\leq k_i\leq s$であるようなもの全体を渡るものとする)とおくと、これは正則なので$|w|\leq R$なる$R$を取ると
$\dis |g(w)|\leq\max_{|z|\leq R}|g(z)|=\max_{|z|=R}|g(z)|$
が成り立つ(最大絶対値の原理)。

 いま$|z|=s^{3/2}$において
$\dis\frac{|w-\kz|}{|z-\kz|}\leq\farc{|(\k_w-\k)\cdot\z|}{|z|-|\kz|} \leq\farc{s|Z|}{s^{3/2}-s|Z|}\leq\frac{c_6}{s^{1/2}}$
および
$\dis|F(z)|\leq\sum_{i,j}|a_{i,j}|e^{i|\b_1z|}e^{j|\b_2z|} \leq r^2e^{c_1n^{5/2}}e^{c_7rs^{3/2}}\leq e^{c_8s^3}$
と評価できるので
\begin{eqnarray} \log|F(w)| &\leq&\log\l(\max_{|z|=r}|F(z)|\r)+\sum_{\k}\log\l(\max_{|z|=r}\frac{|w-\kz|}{|z-\kz|}\r) \\&\leq&c_8s^3-s^3\cdot\frac{c_6}2\log s \\&\leq&-c_5s^3\log s \end{eqnarray}
を得る。

以上より
$e^{\b_1z_1},e^{\b_1z_2},e^{\b_1z_3}$
$e^{\b_2z_1},e^{\b_2z_2},e^{\b_2z_3}$
のうち少なくとも一つは超越数でなくてはならないことがわかる。

余談

 超越数論には六指数定理よりも強い四指数予想という主張が成り立つかどうかがまだ未解決問題として残っています。

四指数予想

$\b_1,\b_2$および$z_1,z_2$をそれぞれ$\Q$上線形独立な複素数とすると
$e^{\b_1z_1},e^{\b_1z_2}$
$e^{\b_2z_1},e^{\b_2z_2}$
のうち少なくとも一つは超越数である。

 もしこの予想が真であるとすると隣り合う巨大過剰数の比は必ず素数となることが言えたりします。

参考文献

[1]
M. Ram Murty, Purusottam Rath, Transcendental Numbers, Springer, 2014, pp. 27-29
[2]
Serge Lang, Introduction to Transcendental Numbers, Addison-Wesley Educational Publishers Inc, 1966, pp. 8-11
投稿日:20211121

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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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