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大学数学基礎解説
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六指数定理

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はじめに

 この記事では六指数定理という超越数論の定理とそのいくつかの系について紹介していきます。

六指数定理とその系

六指数定理

 β1,β2およびz1,z2,z3をそれぞれQ上線形独立な複素数とすると
eβ1z1,eβ1z2,eβ1z3
eβ2z1,eβ2z2,eβ2z3
のうち少なくとも一つは超越数である。

 乗法的独立(つまりその対数がQ上線形独立)な代数的数α1,α2,α3に対し、複素数βα1β,α2β,α3βQを満たすならばβQでなければならない。

 もしβが有理数ではない、つまりβ1=1,β2=βQ上線形独立ならば、仮定よりzk=logαk(k=1,2,3)Q上線形独立であることに注意すると六指数定理から
eβ1z1,eβ1z2,eβ1z3=α1,α2,α3eβ2z1,eβ2z2,eβ2z3=α1β,α2β,α3β
のうちどれか一つは超越数でなければならないが、仮定より全て代数的数なので矛盾。よってβは有理数でなければならないことが示された。

 次の定理は隣り合う 巨大過剰数 の比は素数か半素数であることを示すのに使われます(詳しくは この記事 の補題6下部を参照)。

 互いに異なる素数p,q,rについて、pε,qε,rεが有理数ならばεZが成り立つ。

 素因数分解の一意性からplqmrn=1となるような整数l,m,nl=m=n=0に限ることがわかるのでp,q,rは乗法的独立である。したがって上の系からεは有理数でなければならない。
 またεが整数ではない有理数とすると明らかにpε,qε,rεは無理数となるのでεは整数でなければならないことがわかる。

六指数定理の証明

eβ1z1,eβ1z2,eβ1z3
eβ2z1,eβ2z2,eβ2z3
が全て代数的数であるとして矛盾を導く。このときKeβizjをすべて含むような代数体、OKをその整数環、eβizjの高さの最大値をh、公分母をdとする(高さ、公分母については 前回の記事 参照)。
 平方数nを任意に取りr=(4n)3/2とおく。また簡単のため、自然数の組k=(k1,k2,k3)に対して
kz=k1z1+k2z2+k3z3
とする(以下の議論は厳密に書くと冗長になるのでところどころ雑に説明していますがご了承ください)。

 ある代数的整数ai,jOK(1i,jr)であって以下を満たすようなものが存在する。

  • 関数
    F(z)=1i,jrai,jeiβ1zejβ2z(ai,jOK)
    は任意の1kinに対しF(kz)=0を満たす。
  • ある定数c1>0が存在して
    H(ai,j)ec1n5/2
    が成り立つ。

 r2個の未知数ai,jについてのn3連方程式F(kz)=0を考えると、それぞれの方程式の係数
exp((iβ1+jβ2)(k1z1+k2z2+k3z3))K
の高さは高々h6rn、分母は高々d6rnであるので、 Siegelの補題 からある定数C>0が存在して
H(ai,j)C(Cr2(dh)6rn)r2/(r2n3)=Cn3/63ec0n5/2<ec1n5/2
を満たすような解が存在する。

 定理1のようなFに対しあるw=kz(kiZ>0)が存在してF(w)0が成り立つ。

 F(z)|z|Rにおける零点の(重複度込みの)個数をN(R)とおいたとき
|F(z)|i,j|ai,j|ei|β1z|ej|β2z|ec2|z|
と評価できることに注意すると この記事 の補題3から
(2RR)N(R)=2N(R)e2c2R|f(0)|
特に
N(R)=O(R)
が成り立つ。
 しかし
|kz|(k1+k2+k3)|Z|R
となるような組(k1,k2,k3)の個数を考えただけでも
k1+k2+k3R/|Z|1=(R/|Z|3)=O(R3)
程度あるのでFはこれらすべての点を零点に持つことはない。

 いまsZ>0を任意の1kisに対してF(kz)=0となるようなもので最大のものとする。またw=kwzF(w)0となるようなもので、1kis+1かつあるiに対してki=s+1となるようなものとする。
 このときh=max{h,1}とおくと
H(F(w))i,jH(ai,j)H(eiβ1kwzejβ2kwz)r2ec1n5/2(h)r(s+1)ec3s5/2
と評価でき、またd6r(s+1)F(w)は代数的整数であることからαKのノルムをNK/Q(α)と表すと
1NK/Q(d6r(s+1)F(w))d6r(s+1)H(F(w))[K:Q]1|F(w)||F(w)|ec4s5/2
つまり
c4s5/2log|F(w)|
と評価できる。
 しかしsnおよび次の主張が成り立つことからnを十分大きく取ることで矛盾を得る。

 log|F(w)|<c5s3logsが成り立つ。

g(z)=F(z)k(zkz)
(ただしk1kisなるもの全体を渡るものとする)とおくと、これは正則なので|w|RなるRに対し
|g(w)|max|z|R|g(z)|=max|z|=R|g(z)|
特に
log|F(w)|log(max|z|=R|F(z)|)+klog(max|z|=R|wkz||zkz|)
が成り立つ(最大絶対値の原理)。
 またR=s3/2とおくと
|wkz||zkz||(kwk)z||z||kz|s|Z|s3/2s|Z|c6s1/2
および
|F(z)|i,j|ai,j|ei|β1z|ej|β2z|r2ec1n5/2ec7rs3/2ec8s3
と評価できるので
log|F(w)|c8s3s3c62logsc5s3logs
を得る。

 以上より
eβ1z1,eβ1z2,eβ1z3
eβ2z1,eβ2z2,eβ2z3
のうち少なくとも一つは超越数でなくてはならないことが示された。

余談

 超越数論には六指数定理よりも強い四指数予想という主張が成り立つかどうかがまだ未解決問題として残っています。

四指数予想

 β1,β2およびz1,z2をそれぞれQ上線形独立な複素数とすると
eβ1z1,eβ1z2
eβ2z1,eβ2z2
のうち少なくとも一つは超越数である。

 もしこの予想が真であるとすると隣り合う巨大過剰数の比は必ず素数となることが言えたりします。

参考文献

[1]
M. Ram Murty, Purusottam Rath, Transcendental Numbers, Springer, 2014, pp. 27-29
[2]
Serge Lang, Introduction to Transcendental Numbers, Addison-Wesley Educational Publishers Inc, 1966, pp. 8-11
投稿日:20211121
更新日:2024511
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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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