はじめのはじめに
この記事は元々タイトルを「ラマヌジャンの定理」としていたのですが、記事の実態はラマヌジャンの論文の全貌を紐解いていったものとなっており、主に一般のについての議論が展開され、結果としてについての主張であるラマヌジャンの定理に至る前に多くの遠回りをしています。それに加えてG. Robinの論文を読んでいたところ、における議論を介さないラマヌジャンの定理の証明が載っていたので、別途
最短経路でラマヌジャンの定理を証明する記事
を書き、この記事はラマヌジャンの論文の主題である「約数関数の漸近公式(おまけにラマヌジャンの定理)の紹介記事」という名目に替えることにしました(記事の内容は何も変えていませんが)。
はじめに
この記事ではリーマン予想と同値な不等式
について、その前身であるラマヌジャンの定理を証明していきます。
ラマヌジャンの定理
リーマン予想が真であるとき、
が成り立つ。特に、十分大きい任意のに対して
となる。
ここではそれぞれ約数関数、オイラー定数としました。
またこの記事で「巨大過剰数」と言ったときには通常の巨大過剰数、つまりについての一般化巨大過剰数(についての一般化高度合成数)のことを指すものとします(詳しくは
この記事
参照)。
の最良近似
任意のとに対して実数列を方程式
によって定め、をそれぞれについての関数とみなす(つまり)。このとき
前々回の記事
の定理8系を再掲する。
任意の自然数に対し
が成り立つ。特にのとき、等号が成り立つ。
ただしは前々回の記事で定めた通り
とした。
とおいたとき、の定義から
となることに注意すると
アーベルの総和公式
から
が成り立つ(ただしとした)。ここでと変数変換すると
なので
がわかる。
再びアーベルの総和公式から
であることに注意すると
を得る。
任意の自然数に対して、を以上の優高度合成数の中で最小のものとし、対応するの中で最大のものをとおく。このとき
はにおいて最小値を取る。
とおいたとき、はについて単調減少であることに注意すると
は単調増加であり、また
とおくとはが減少するにつれて全ての優高度合成数を小さい順に渡る(
前々回の記事
参照)ので
となるようなを考えるとであることがわかる。
すなわちはの前後で符号を変え、はにおいて最小値を取ることになり、主張を得る。
とおいたとき、任意の自然数に対して
が成り立ち、特にが優高度合成数であるとき、等号が成り立つ。
定理2,4よりに注意すると
が成り立ち、つの不等号は共に、つまりが優高度合成数であるときに等号が成り立つ。(また第の等号が成り立つのはその時に限る)
ちなみには約数関数のシグマを大文字にしているのであり、総和としてのシグマとは別物なので注意してください。
の漸近公式
つまりとおくと
が成り立つのでの単調性(
前々回の記事
の補題3参照)からがわかる。
またをについて解くと
がわかるのでとおくと
となる。この両辺の対数をとって整理していくと、
ここでこの左辺は未満であり、において発散しえないので、
としてよく(もわかるのでとした)、また右辺のもとすると
となるので
と評価できる。よって
を得る。
前々回の記事
より
についてならばが成り立っており、において
よりから
と評価できるので
を得る。
を連続する巨大過剰数とするとは素数か半素数であることが知られているので、未満で最大の優高度合成数を、の最大の素因数をとおくと
を得る(については
前々回の記事
の定理8参照)。
が素数か半素数であることは次のようにしてわかります。
の減少に伴って対応する巨大過剰数がからに変化する点では
前々回の記事
の定理7からある素数について
が成り立ち、そのような素数について、が成り立つ。ところで先の式は
と変形でき、特にとなるが、つの異なる素数が同時にを満たすことは
六指数定理の記事
よりあり得ないことがわかるので主張を得る。
の漸近公式
以下、
前回の記事
の結果を使用するため、リーマン予想が真であると仮定します。
のとき
が成り立ち、のときは
が成り立つ。(ただしとした。)
において
前回の記事
の定理7の式を
と評価したとき、において
つまり
と評価できる。
また
前回の記事
の定理4系の式を
と評価したとき、であるとすると
つまり
と評価できる。
以上よりならば
であり、ならば
であることがわかるので主張を得る。
前回の記事
の定理7の式
およびを使うと、のとき、
と評価でき、またのときも結局
と評価できる。
また
に注意すると
前回の記事
の定理4
から
が成り立つので補題7と合わせて主張を得る。
よりとは相互に交換可能であることに注意する。
の変形
に注意すると
と評価できる。
の変形
に注意すると
と評価できる。
の変形
と評価できる。
の変形
と評価できる。
以上の評価と定理8を合わせることで主張を得る。
まとめ
においては
においては
においては
が成り立つ。(ただしとした。)
のとき
より定理9からわかる。ただしのとき、
であり、のときであることに注意する。
のとき
と
前の記事
の結果から
であることとである(らしい)ことに注意すると定理9からわかる。
ラマヌジャンの定理の証明
前の記事
の結果から
であることに注意して定理10の式をとすると
となるので
を得る。
補題6から
に注意するとおよび定理4系と定理11から
を得る。ただしリーマン予想からであることに注意すると
と評価できることを用いた(最後の等号については
この記事
参照)。
おわりに
今回の記事では、リーマン予想が真ならばあるが存在して
が成り立つことを示しましたが、ラマヌジャンの議論を精密化することでは具体的にと取れることがわかります。また冒頭で言及したようにこの不等式が成り立てばリーマン予想が真となることも知られています。
Robinの定理
リーマン予想が真であることと
が成り立つことは同値である。
このことについてはまたいつか記事として書くつもりです。
とりあえず今回はこんなところで。では。
[1]
S. Ramanujan, Highly Composite Numbers, Proc. London Math. Soc., 1915, pp. 347–409
[2]
Jean-Louis Nicolas, Guy Robin, Highly Composite Numbers by Srinivasa Ramanujan, The Ramanujan Journal, 1997, pp. 119–153
[3]
L. Alaoglu, P. Erdős, On Highly Composite and Similar Numbers, Transactions of the American Mathematical Society, 1944, pp. 448-469
[4]
G. Robin, Grandes valeurs de la fonction somme des diviseurs et hypothèse de Riemann, Journal de Mathématiques Pures et Appliquées, 1984, pp. 187-213