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大学数学基礎解説
文献あり

リーマン予想と同値な不等式:ラマヌジャンの定理

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はじめに

 この記事ではリーマン予想と同値な不等式
σ(n)<eγnloglogn(n>5040)
について、その前身であるラマヌジャンの定理を証明していきます(と言っても この記事 でのラマヌジャンの定理の証明の過程をs=1に焦点を絞ってアレンジしただけですが)。

ラマヌジャンの定理

 リーマン予想が真であるとき、十分大きい任意のnに対して
σ(n)<eγnloglogn
が成り立つ。

 ここでσ(n),γはそれぞれ約数関数、オイラー定数としました。
σ(n)=d|nd=d|nnd,γ=limn(k=1n1klogn)
またこの記事で「巨大過剰数」と言ったときには通常の巨大過剰数、つまりσ1についての一般化巨大過剰数(σ1についての一般化高度合成数)のことを指すものとします(詳しくは この記事 参照)。

証明のあらすじ

 まず自然数nについて考えるの代わりに巨大過剰数Nについて考えればよいことを示す。そして4つの式
σ(N)Npx11p12x<px(1p2)logloglogN=loglogϑ(x)+2xlogx+O(1xlog2x)log2x<px(1p2)=2xlogx+O(1xlog2x)logpx(1p1)γloglogϑ(x)4+γlog4πxlogx+O(1xlog2x)
を組み合わせることでxが十分大きいとき、すなわちNが十分大きいとき
logσ(N)NloglogN<γ
が成り立つことがわかり、主張を得る。といった具合です。

問題の帰結

 N<nNをそれぞれn以上(resp.未満)で最小(resp.最大)の巨大過剰数とすると
σ(n)nloglognmax{σ(N)NloglogN,σ(N)NloglogN}
が成り立つ。

 巨大過剰数の定義からNに対応するε>εnに対して
σ(N)(N)1+ε>σ(N)N1+ε
Nに対応するεεnに対して
σ(N)(N)1+εσ(N)N1+ε
が成り立つのでε=εnにおいてこの等号が成り立つことになる。よって
σ(n)n1+εnσ(N)(N)1+εn=σ(N)N1+εn
を得る。
 また
f(x)=xεnloglogxg(x)=logf(ex)=εnxloglogx
とおくと
g(x)=(εn1xlogx)=logx+1(xlogx)2>0
すなわちg(x)は下に凸なので
logn=tlogN+(1t)logN(t[0,1))
とおくと
g(logn)tg(logN)+(1t)g(logN)max{g(logN),g(logN)}
を得る。よって
nεnloglognmax{(N)εnloglogN,NεnloglogN}
となるので先の不等式にこれを掛け合わせることで主張を得る。

 この補題より、あるn0が存在して
σ(n)<eγnloglogn(n>n0)
が成り立つことを示すためにはあるN0が存在して
σ(N)<eγNloglogN(N>N0)
(ただしNは巨大過剰数)が成り立つことを示せばよいことがわかります。

xrの評価

 任意の0<εlog(1+21)/log2に対して実数列{xr}を方程式
xrε=1xr(r+1)1xr
によって定める。またx1ε=1+x11より
ε=log(1+x11)logx1
なのでεおよびx2,x3,x=x12の関数とみなす。このとき以下の評価が成り立つ。

 x2<2xが成り立つ。

x2ε=x231x2(x221)=1+1x22+x2
より
ε=log(1+1/(x22+x2))logx2
であって、この右辺がx2について単調減少であることに注意すると
ε=log(1+1/x)logx>log(1+1/(2x+2x))log2x
が成り立つことを示せばよい。実際、より強い不等式
log(1+1/x)logx>log(1+1/(2x+2x))logx
すなわち
1+1x>(1+12x+2x)2
が次のように示される。
(1+12x+2x)2=1+1x(2x2x+2x+x(2x+2x)2)=1+1x((112x+1)+12(2x+1)2)<1+1x((112x+1)+12x+1)=1+1x

 以下、リーマン予想が真であるものとします。

 N=exp(r=1ϑ(xr))とおくと
logloglogN=loglogϑ(x)+2xlogx+O(1xlog2x)
が成り立つ。

  この記事 の補題5系から
logN=ϑ(x)+x2+O(x13)loglogN=logϑ(x)+x2ϑ(x)+O(x23)logloglogN=loglogϑ(x)+x2ϑ(x)logϑ(x)+O(x23)
と評価でき、また同記事の補題5から
x2=2x(1+O(1logx))
と評価できることとリーマン予想と同値な漸近公式
ϑ(x)=x+O(xlog2x)
からわかる。

ラマヌジャンの定理の証明

 任意の高度合成数Nと対応するε>0に対して
σ(N)Npx11p12x<px(1p2)
が成り立つ。

  この記事 の定理8より
σ(N)N=σ1(N)=r=1pxr1p(r+1)1pr=r=1xr+1<pxrk=1r1p(k+1)1pk=r=1xr+1<pxr1p(r+1)1p1=px111p1x2<px1(1p2)r=2xr+1<pxr(1p(r+1))px11p12x<px(1p2)
とわかる。

log2x<px(1p2)=2xlogx+O(1xlog2x)
が成り立つ。

  この記事 の定理7
logpx(1ps)=log|ζ(s)|Li(x1s)+O(x1slog2x)
から
logpx(1p2)=log|ζ(s)|Li(x1)+O(x1log2x)=log|ζ(s)|+x1logx+O(x1log2x)log2x<px(1p2)=1xlogx12xlog2x+O(1xlog2x)=2xlogx+O(1xlog2x)
とわかる(Li(x1)の評価については この記事 参照)。

logpx(1p1)γloglogϑ(x)4+γlog4πxlogx+O(1xlog2x)
が成り立つ。

 リーマン予想が真であればρ=1ρであることから
xS1(x)=ρxρ12ρ(ρ1)=ρxIm(ρ)|ρ|2ρ1|ρ|2=2+γlog4π
(最後の等号については この記事 参照)に注意すると、 この記事 の定理4系
logpx(1p1)=γloglogϑ(x)2xlogxS1(x)logx+O(1xlog2x)
からわかる。

ラマヌジャンの定理の証明

 補題4,5,6,7から
logσ(N)NloglogNγ+4+γlog4π22xlogx+O(1xlog2x)
を得る。そして
4+γlog4π22=0.782<0
であることに注意するとxが十分大きいとき、すなわち巨大過剰数Nが十分大きいとき
logσ(N)NloglogN<γ
つまり
σ(N)<eγNloglogN
が成り立つことがわかる。あとは補題2からわかる。

おわりに

 今回の記事では、リーマン予想が真ならばあるn0が存在して
σ(n)<eγnloglogn(n>n0)
が成り立つことを示しましたが、ラマヌジャンの議論を精密化することでn0は具体的にn0=5040と取れることがわかります。また逆にこの不等式が成り立てばリーマン予想が真となることも知られています。

Robinの定理

 リーマン予想が真であることと
σ(n)<eγnloglogn(n>5040)
が成り立つことは同値である。

 このことについては近々記事として書くつもりです。
 とりあえず今回はこんなところで。では。

参考文献

[1]
G. Robin, Grandes valeurs de la fonction somme des diviseurs et hypothèse de Riemann, Journal de Mathématiques Pures et Appliquées, 1984, pp. 187-213
投稿日:20211129
更新日:2024125
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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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  3. 問題の帰結
  4. xrの評価
  5. ラマヌジャンの定理の証明
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